急性毒性
経口
ラットのLD50値、15800、28700、32400 mg/kg〔以上、EHC 122 (1991)〕に基づき、区分外とした。
経皮
5mL/kg(換算値3297mg/kg)でウサギに死亡がみられた〔PATTY (5th, 2001〕との記述があるが、詳細な情報はなく、データ不足のため分類できないとした。
吸入
吸入(ミスト): データなし
吸入(蒸気): ラットのLC50値、48000ppm/4h〔環境省リスク評価第1巻(2002)〕、 74000ppm/4h〔EHC 122 (1991)〕に基づき、区分外とした。なお、1 bar=750 mmHgとして、蒸気圧160 mbar (20℃)〔ホンメル(1996) 〕より飽和蒸気圧濃度は157895 ppmV、したがって気体の基準値により分類した。
吸入(ガス): GHSの定義における液体である。
皮膚腐食性・刺激性
ウサギの皮膚に半閉塞適用24時間後に軽度の刺激性(slight irritation)が認められた〔DFGOT vol.14 (2000) 〕。ヒトでは閉塞適用1~5時間後に紅斑、5時間後に水疱形成も見られ、1.5 mLを前腕部皮膚に適用後ヒリヒリ感と灼熱感および一過性の紅斑を認めた〔DFGOT vol.14 (2000) 〕。さらに、EU分類でXi、R38に分類されている(EU-Annex I (Access on July 2005))ことを考慮に入れ区分2とした。
眼に対する重篤な損傷・刺激性
ウサギの試験で、本物質を0.1mL点眼した結果、軽度の刺激性(Slight irritation)がみられた〔DFGOT vol.14 (2000) 〕ことから区分2とした。
呼吸器感作性又は皮膚感作性
皮膚感作性:ボランティア25例を対象とした皮膚感作性試験(Maximization test)で感作性が認められなかったとする陰性結果(DFGOT vol.14 (2000) :WHO (World Health Organization) (1991) n-Hexane. IPCS - Environmental health criteria 122, WHO, Genf.)はあるが、本報告のみでは感作性がないことの確かな証拠とするには不充分であると判断し、分類できないとした。
呼吸器感作性:データなし
生殖細胞変異原性
マウスの吸入ばく露による優性致死試験(生殖細胞in vivo経世代変異原性試験)で陰性〔DFGOT vol.14 (2000) 、ATSDR (1999)〕、マウスに吸入ばく露による赤血球を用いる小核試験〔ATSDR (1999)〕、マウスおよびラットに吸入ばく露による骨髄細胞を用いる染色体異常試験(体細胞in vivo変異原性試験)〔DFGOT vol.4 (1992)〕でいずれも陰性結果に基づき、区分外とした。なお、ラットの生殖細胞および骨髄細胞を用いたin vivo染色体異常試験で陽性の報告もされているが、試験に方法論的欠陥があり染色体異常誘発の証拠とは見なせないと述べられている(DFGOT vol.14 (2000))。また、in vitro変異原性試験として、Ames試験〔EHC 122 (1993)、ATSDR (1999)〕、5178Y細胞を用いたリンフォーマアッセイ〔EHC 122 (1991)〕、CHO細胞を用いた染色体異常試験〔DFGOT vol.4 (1992)〕などで陰性の報告がある。
発がん性
ラットおよびマウスに2年間吸入ばく露による発がん性試験(GLP準拠)において、ラットでは雌雄どの部位にも腫瘍発生頻度の増加は見られなかった(DFGOT vol.14 (2000) )が、マウスの雌で肝細胞腫瘍(主に腺腫)の発生頻度の有意な増加が認められた(DFGOT vol.14 (2000) )。しかし、このデータのみでは分類に不十分であり、他の評価機関による既存分類もなく「分類できない」とした。
生殖毒性
ラットを用いた吸入ばく露による二世代生殖試験において、2世代とも親動物(F0およびF1)の性機能および生殖能に障害を起こさなかった(DFGOT vol.14 (2000) )が、ラットに500~1500 ppmを妊娠期間中の吸入ばく露により吸収胚率の増加(EHC 122 (1991))、ラットに5000 ppmを妊娠6~17日に吸入ばく露により同腹生存仔数の用量依存的に有意な減少(ATSDR (1999))がそれぞれ母動物の体重増加抑制とともに認められたとの試験結果がある。また、EUフレーズはR62、MACはCに区分している。以上のことから区分2とした。なお、一方でラットに1000 ppmを妊娠8~16日の吸入ばく露が吸収胚率の増加にはつながらなかったとする報告(EHC 122 (1991))もある。
特定標的臓器・全身毒性(単回ばく露)
ヒトのボランティアを用いた吸入試験でめまい、職業ばく露において傾眠が見られた報告(EHC 122 (1991))があり、また、ラットまたはマウスを用いた吸入ばく露試験で認められた症状として、運動失調、協調欠如、鎮静、麻酔の記載がある(EHC 122 (1991)、PATTY (5th, 2001) )ことから区分3(麻酔作用)とした。一方、ヒトで吸入ばく露後、咽喉または上気道の刺激を起こした、あるいは起こし得るとの記述(ACGIH (7th, 2001)、PATTY (5th, 2001) )、かつ、マウスに吸入ばく露により気道刺激が観察されたとの報告(PATTY (5th, 2001) )に基づき区分3(気道刺激性)とした。
特定標的臓器・全身毒性(反復ばく露)
本物質の職業ばく露により多発性神経障害、末梢性神経障害、多発性神経炎の発症を示す数多くの報告がある(環境省リスク評価第1巻(2002)、EHC 122 (1991)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol.14 (2000)、PATTY (4th, 1994)、ATSDR (1999))。また、本物質のばく露を受けたヒトを対象とした疫学研究も繰り返し実施され、その多くがばく露とこれらの有害影響との関連を認める結果となっている(環境省リスク評価第1巻(2002)、産衛学会勧告(1993)、DFGOT vol.14 (2000)、ATSDR (1999))。以上のヒトの症例報告と疫学研究の結果に基づき区分1(神経系)とした。なお、動物試験ではラットに反復吸入または経口ばく露による所見として、末梢神経障害、神経行動学的影響、脛骨神経の軸索変性、後肢脱力、神経伝達速度低下などが記録され(PATTY (5th, 2001) 、EHC 122 (1991)、DFGOT vol.14 (2000) )、その多くがヒトの症状と共通している。
吸引性呼吸器有害性
炭化水素であって、かつ40℃での動粘性率が20.5mm2/s以下であることから、区分1とした。DFGOT vol.4 (1992) にはラットでAspirationにより化学性肺炎が認められたとの記述もある。