急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)より、区分3とした。
【根拠データ】 (1)ラットのLD50値:188 mg/kg(ACGIH(7th, 2001)、PATTY(6th, 2012)、NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018)、厚労省初期リスク評価書(2013))
経皮
【分類根拠】 (1)より、区分2とした。
【根拠データ】 (1)ウサギのLD50値:90 mg/kg(PATTY(6th, 2012)、厚労省初期リスク評価書(2013))
吸入:ガス
【分類根拠】 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入:粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、(1)、(2)は飽和蒸気圧(98.7 ppm)を超えるためミスト状態と考えられるが、いずれもばく露時間の記載がないため分類に利用できない。
【参考データ等】 (1)ラットのLC50値:2.745 mg/L(610 ppm)(CICAD 19(2000)) (2)マウスのLC50値:2.093 mg/L(465 ppm)(CICAD 19(2000))
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)~(4)より、多くの所見は刺激性を示しており、区分2とした。
【根拠データ】 (1)フェニルヒドラジン塩酸塩粉末に偶発的にばく露した労働者の接触部位(腕)において、表面紅斑と水泡性の皮膚隆起が見られたとの報告がある(CICAD 19(2000)、NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018))。 (2)フェニルヒドラジン塩酸塩粉末に偶発的にばく露した労働者の接触部位(手袋や靴を介しての手や足)において、複数の火傷や小さな水疱が見られたとの報告がある(CICAD 19(2000)、NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018))。 (3)ヒトへの刺激性が複数報告されているとの情報がある(DFGOT vol.11(1995))。 (4)ウサギ、ラット、モルモットを用いた動物試験データにおいて、高い頻度で皮膚刺激(紅斑)を生じており、一部に壊死と脱落(sloughing)が観察されたとの報告がある(Fundam Appl Toxicol. 1987, 8(4), 583-94)。
【参考データ等】 (5)厚生労働省は、本物質に対して刺激性/腐食性があると結論づけている(厚労省初期リスク評価書(2013))。 (6)EU CLPでは本物質をSkin Irrit. 2に分類している。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分2とした。なお、細区分可能な情報は得られていないため、旧分類から区分を変更した。
【根拠データ】 (1)ウサギを用いた眼刺激性試験で本物質を適用したところ、重度の化膿性結膜炎が認められたとの報告がある(CICAD 19(2000))。 (2)フェニルヒドラジン及び特にその塩酸塩は眼刺激性を示すとの情報がある(DFGOT vol.11(1995))。
【参考データ等】 (3)厚生労働省は本物質の眼に対する重篤な損傷性/刺激性について、「なし」と結論している(厚労省初期リスク評価書(2013))。 (4)EU CLPでは本物質をEye Irrit. 2に分類している。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、呼吸器感作性を示唆する情報(1)もあるが、詳細不明のため分類判断には用いなかった。
【参考データ等】 (1)本物質を使用中の部屋に入った途端に呼吸器誘発によるアレルギー症状の再発がみられたとの報告がある(DFGOT vol. 11(1995))。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)~(5)より、区分1とした。
【根拠データ】 (1)本物質の皮膚感作性は、化学工業の労働者、実験技師、学生、化学者に対する臨床症状と疾患の経過によって実証されているとの報告がある(DFGOT vol.11(1995))。 (2)被験者(1名)の腕にフェニルヒドラジン結晶を適用するパッチテストを実施したところ、適用部位において18時間後に顕著な紅斑と浮腫が発生し、30時間後に水疱が形成され、54時間後には痂皮が形成されたとの報告がある(CICAD 19(2000))。 (3)フェニルヒドラジン及びその塩の固体又は水性溶液への皮膚適用後に、過敏症の反応がみられたとの報告がある(CICAD 19(2000))。 (4)既知の皮膚感作物質であるヒドラジンに既に感作されている被験者は、本物質を含むヒドラジン誘導体にも感作される、いわゆる交差感作に係る報告がある(CICAD 19(2000))。 (5)モルモットを用いた皮膚感作性試験では、7/8匹に感作を生じさせ、2/7匹は中~強程度の反応、5/7匹は弱~中等度の反応がみられたとの報告がある(DFGOT vol. 11(1995)、Br J Ind Med. 1967, 24(3), 189-202)。
【参考データ等】 (6)厚生労働省は本物質を皮膚感作性ありと結論している(厚労省初期リスク評価書(2013))。 (7)EU CLPでは本物質をSkin Sens. 1に分類している。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分2とした。
【根拠データ】 (1)In vivoでは、マウス骨髄を用いた染色体異常試験及び小核試験で陽性、マウス末梢血赤血球を用いた小核試験で陽性、マウスの肝臓及び肺のアルカリ溶出試験で陽性、ラット肝臓のDNA付加体試験で陽性の報告がある(ACGIH(7th, 2001)、PATTY(6th, 2012)、DFGOT vol. 11(1998)、CICAD 19(2000)、厚労省初期リスク評価書(2013)、NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018))。 (2)In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞を用いた染色体異常試験、同小核試験、同遺伝子突然変異試験、げっ歯類の初代肝細胞を用いた不定期DNA合成試験で陽性の報告がある(ACGIH(7th, 2001)、PATTY(6th, 2012)、DFGOT vol. 11(1998)、CICAD 19(2000)、厚労省初期リスク評価書(2013))
【参考データ等】 (3)本物質は国による変異原性試験(細菌を用いた復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞を用いた染色体異常試験)の結果、強い変異原性が認められ(安衛法既存化学物質変異原性試験結果(Accessed Jun. 2018))、「変異原性が認められた化学物質による健康障害を防止するための指針」の対象物質に指定されている(厚労省 職場のあんぜんサイト(Accessed Jun. 2018))。
発がん性
【分類根拠】 発がん性に関して、利用可能なヒトを対象とした報告はない。 (1)、(2)より本物質の発がん性の証拠は動物種1種に限られているが、複数の試験で悪性腫瘍を含む腫瘍性病変が認められ、かつ1試験で雌雄に影響が認められていること、及びEUの分類結果も踏まえて、区分1Bが妥当と判断した。なお、厚生労働省も本物質は「ヒトに対しおそらく発がん性がある」と結論している(厚労省初期リスク評価書(2013))。
【根拠データ】 (1)マウスに1 mg/匹/day(50 mg/kg/day相当)を42週間経口投与後に肺に悪性腫瘍及び総腫瘍の発生頻度増加がみられた(CICAD 19(2000)、ACGIH(7th, 2001)、DFGOT vol. 11(1989)、PATTY(6th, 2012)、厚労省初期リスク評価書(2013))。 (2)マウスに本物質塩酸塩を100 ppmの濃度で生涯飲水投与した試験で、雌雄ともに血管腫瘍(血管腫、血管肉腫)の発生頻度増加がみられた(ACGIH(7th, 2001)、DFGOT vol. 11(1989)、PATTY(6th, 2012)、厚労省初期リスク評価書(2013))。 (3)国内外の分類機関による既存分類では、ACGIH がA3(ACGIH(7th, 2001))、EU CLPではCarc. 1Bに分類している。
【参考データ等】 (4)マウスに最初5週間は0.5 mg、その後0.25 mgで全体では40週間経口投与(5日/週)した試験では、有意な腫瘍性影響はみられていない。本試験では顕著な貧血が生じたため、高用量投与で試験を実施できなかった(ACGIH(7th, 2001)、PATTY(6th, 2012)、DFGOTvol.11(1995))。
生殖毒性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
【参考データ等】 (1)妊娠17~19日のラットを用いた腹腔内投与による試験では、7.5 mg/kg/dayの投与により胎児の死亡率が増加したが、親動物への影響は不明であった(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018))。 (2)妊娠18~19日のラットを用いた腹腔内投与による試験では、15 mg/kg/dayの投与により胎児の死亡率が増加したが、親動物への影響は不明であった(NICNAS IMAP(Accessed Jun. 2018))。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分1(血液系)とした。(4)より、単回ばく露ではないが、イヌの急性影響から想定される標的臓器毒性のうち、肝臓、腎臓、脾臓への影響は溶血性貧血による二次的影響と考えられる。また、精巣への影響は重篤な毒性に起因した全身状態の悪化を反映した非特異的な所見の可能性が考えられ、いずれも標的臓器としなかった。
【根拠データ】 (1)本物質のヒトにおける急性中毒症の主な影響はメトヘモグロビン血症である(DFGOT vol. 11(1998))。 (2)ヒトで液化フェニルヒドラジンに経皮ばく露後に皮膚を洗浄したにも関わらず、赤血球破壊による溶血性黄疸など全身症状がみられたとの症例報告がある(厚労省初期リスク評価書(2013))。
【参考データ等】 (3)動物種、用量は不明であるが、本物質の急性影響は神経毒性、チアノーゼ、低体温、血尿、嘔吐、痙攣、肝臓及び腎臓の変性様変化であるとの記述がある(ACGIH(7th, 2001))。 (4)イヌに20~40 mg/kgを2日間経口投与した結果、溶血性貧血、赤血球中にハインツ小体、血尿、メトヘモグロビン血症、脾腫、肝肥大、曲尿細管におけるヘモグロビンの充満を伴う腎肥大、さらに精子形成低下が認められたとの報告がある(ACGIH(7th, 2001)、PATTY(6th, 2012)、厚労省初期リスク評価書(2013))。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
【分類根拠】 (1)~(3)より、区分1(血液系)とした。なお、(4)、(5)はばく露時間やばく露期間が不明のため、分類に利用できない。
【根拠データ】 (1)経皮及び吸入経路を介した職業ばく露により、溶血性貧血がみられたとの複数の事例がある(ACGIH(7th, 2001)、PATTY(6th, 2012))。 (2)ボランティアに本物質の塩酸塩を30 mg/day(0.4 mg/kg)の用量で8日間経口投与後に輸血赤血球の溶血が0~10%のレベルで生じたとの報告がある(DFGOT vol. 11(1998))。 (3)赤血球増多症の治療に本物質を100 mg/dayの用量で経口投与中に黄疸、貧血及び浮腫が副作用としてみられたとの報告がある(DFGOT vol. 11(1998))。
【参考データ等】 (4)ラットに1.5 mg/m3の濃度で3~4ヵ月間吸入ばく露後に血液パラメータの軽度な変化を認めたとの報告がある(DFGOT vol. 11(1998))。 (5)ラットに21 mg/m3を6ヵ月間吸入ばく露後に血液毒性を認めたとの報告、及び210 mg/m3の短期ばく露(ばく露期間不明)では死亡例が生じ、血液毒性に加えて、肝臓、脾臓、及び脳に変性様変化を認めたとの報告がある(DFGOT vol. 11(1998))。
吸引性呼吸器有害性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。