急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分4とした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50:約 320 mg/kg (雄: 315 mg/kg、雌: 327 mg/kg) (SIDS (2004)) (2) ラットのLD50:425~1,460 mg/kg (PATTY (6th, 2012)) (3) ラットのLD50:485 mg/kg (環境省リスク評価第3巻:暫定的有害性評価シート (2004))
経皮
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1) ウサギのLD50:> 2,000 mg/kg (SIDS (2004)) (2) ラットのLD50:5,000 mg/kg (SIDS (2004))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、ガイダンスの分類対象外に相当し、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) ラットのLC50 (4時間、粉じん) : 0.0405~0.108 mg/L (PATTY (6th, 2012)) (2) ラットのLC50 (4時間、蒸気・吸入性粉じん) : 0.170 mg/L、0.0185~0.18 mg/L (SIDS (2004))
【参考データ等】 (3) マウスのLC50 (2時間) : 0.01 mg/L (4時間換算値 : 0.00707 mg/L) (PATTY (6th, 2012)、環境省リスク評価第3巻:暫定的有害性評価シート (2004)、SIDS (2004))
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) OECD TG 404に準拠したウサギを用いた皮膚刺激性試験 (4時間半閉塞適用) で24/48/72時間の平均スコアは0.67-1.67であり、平均スコアが1.5を上回ったのは1/6例のみであった (SIDS (2004))。 (2) OECD TG 404に準拠したウサギを用いた皮膚刺激性試験 (4時間半閉塞適用) で刺激性を認めなかった (SIDS (2004))。 (3) 本物質はウサギの皮膚に重度の刺激性を示す (PATTY (6th, 2012))。
【参考データ等】 (4) OECD TG 404に準拠したウサギを用いた皮膚刺激性試験 (24時間半閉塞適用) で刺激性を示した (SIDS (2004))。 (5) ヒトにおいて本物質は皮膚、眼、気道に強い腐食性を有する (SIDS (2004))。 (6) EU-CLP分類でSkin Corr. 1B (H314) に分類されている (EU CLP分類 (Access on July 2019))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)~(4) より、区分1とした。
【根拠データ】 (1) ウサギを用いた眼刺激性試験で24/48/72時間の平均スコアは角膜混濁:3、虹彩:2、結膜発赤:3、結膜浮腫:3であった (SIDS (2004))。 (2) 本物質は皮膚、眼、気道に強い刺激性を有する (SIDS (2004))。 (3) 2系統のウサギを用いた眼刺激性試験で角膜、虹彩、結膜に影響を与え、重度の刺激性を示した (SIDS (2004))。 (4) 本物質はウサギの眼に重度の刺激性を示す (PATTY (6th, 2012))。
【参考データ等】 (5) OECD TG 405に準拠したウサギを用いた眼刺激性試験で刺激性 (Irritating) と報告されている (SIDS (2004))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 (1) より、区分1とした。なお、新たな情報が得られたことにより区分を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質は感作性を有し、ヒトにおいて喘息及び接触性皮膚炎の報告がある (SIAP (2001))。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分1Aとした。
【根拠データ】 (1) 本物質は感作性を有し、ヒトにおいて喘息及び接触性皮膚炎の報告がある (SIAP (2001))。 (2) OECD TG 406に準拠したモルモットを用いた皮膚感作性試験 (皮内感作 : 0.01%、貼付感作 : 2%、惹起 : 1%)において陽性率100%を示した (SIDS (2004)) 。 (3) OECD TG 429に準拠したマウス局所リンパ節試験 (LLNA ) において2.5%以上で陽性反応を認めた (SIDS (2004))。
【参考データ等】 (4) モルモットを用いた皮膚感作性試験では陽性と陰性の結果がある (PATTY (6th, 2012))。 (5) EU-CLP分類でSkin Sens. 1 (H317) に分類されている (EU CLP分類 (Access on July 2019))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) よりin vivo、in vitro試験ともに陰性知見がみとめられたことから、ガイダンスにおける分類できないに相当し、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1) in vivoでは、マウス骨髄の小核試験で陰性の報告がある (SIDS (2004)、PATTY (6th, 2012))。 (2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性の報告がある (SIDS (2004)、PATTY (6th, 2012))。
発がん性
【分類根拠】 国際機関による既存分類もなく、データ不足のため分類できない。
【参考データ等】 (1) ラットに本物質10 mgを餌に混ぜて2年間投与した結果、乳腺の線維腺腫5例、子宮の横紋筋肉腫1例、腸組織のリンパ肉腫1例、前立腺がん1例など腫瘍発生がみられたが、いずれも自然発生的な腫瘍で投与に関連した腫瘍発生ではないとされた (SIDS (2004))。 (2) ラット (25匹/性/群) に本物質を3.5ヵ月間皮下投与し、20.5ヵ月間後に屠殺した結果、9例の局所壊死部位に肉腫が認められ、原著者により刺激性影響によると考察された (SIDS (2004))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1) より、母動物毒性がみられる用量において催奇形性はみられていないが、着床後胚吸収の増加、生存胎児数の減少がみられていることから区分2とした。
【根拠データ】 (1) 雌ラットの妊娠6~19日に強制経口投与した発生毒性試験において、母動物毒性 (被毛粗剛、流涎、呼吸の異常音、体重増加の抑制等) がみられた用量で、胚/胎児毒性 (着床後胚吸収の増加、生存胎児数の減少) がみられている (環境省リスク評価第3巻:暫定的有害性評価シート (2004)、SIDS (2004)、PATTY (6th, 2012))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 ヒトでは (1)~(3)、実験動物では (5) で吸入ばく露により、呼吸器への影響がみられている。また、実験動物では (4) の経口ばく露で、区分1上限の用量で麻酔作用を示す中枢神経系への影響がみられている。以上より、区分1 (呼吸器)、区分3 (麻酔作用) とした。旧分類は神経系も標的臓器としていたが、根拠とされた影響は麻酔作用に包含されていると考えられるため、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) ヒトでは本物質の急性ばく露の影響は、皮膚、眼粘膜、鼻腔、咽頭、気道の刺激である。本物質の粉じん又は蒸気の吸入により、下部気道にまで達する刺激が生じる (SIDS (2004)、環境省リスク評価第3巻:暫定的有害性評価シート (2004)、BUA 125 (1993))。 (2) 工場での事故により本物質の紛末のばく露を受けた54歳男性1名が、皮膚、眼、咽頭に刺激を生じ、その後に肺胞毛細血管でのガス交換の不全を伴う重篤な閉塞性肺症候群を発症したが、心機能には影響はみられず、20日後までには回復した (SIDS (2004)、BUA 125 (1993))。 (3) 事故で本物質の粉じんのばく露を受けた2名の労働者が、皮膚に表在性の化学熱傷を生じ、1名は閉塞を伴う化膿性の気管支炎、もう1名は眼の熱傷も生じたが、肺機能への影響はみられなかった (環境省リスク評価第3巻:暫定的有害性評価シート (2004)、BUA 125 (1993))。
(4) ラットの単回経口投与試験において、300 mg/kg (区分1上限) 及びそれ以上の用量で、運動機能減退、嗜眠、筋緊張低下、反射喪失、立毛、速迫呼吸、体温低下が認められた。死亡例は325 mg/kgからみられた (SIDS (2004)、SIDS Dossier (2004))。 (5) ラットの4時間単回吸入ばく露試験において、本物質の粉じん (蒸気を含む) 0.15 mg/L及びそれ以上の濃度で、立毛、あえぎ、鼻の出血と痂皮、眼窩周囲の痂皮、チアノーゼと悪液質、反射減弱が認められた。0.15 mg/L ばく露群での死亡は10例中4例であった。生存例及び死亡例の剖検結果では、肺水腫が認められた ((SIDS (2004)、SIDS Dossier (2004))。0.15 mg/Lは、ガイダンスの粉じん/ミスト又は蒸気のいずれにおいても区分1に相当する。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
(4) ラットに4~100 mg/kg/dayを28日間経口投与した試験において、4 mg/kg/day (90日換算: 4 mg/kg/day、区分1の範囲) 以上で死亡がみられ、死亡動物で脾臓のリンパ濾胞の萎縮、胃炎、生存例で、胃粘膜のびらん、潰瘍、前胃粘膜の限局性乳頭腫増殖及び角質増殖、20 mg/kg/day (90日換算: 6 mg/kg/day、区分1の範囲) 以上で小腸におけるリンパ結節の活発な胚中心、100 mg/kg/day (90日換算: 31 mg/kg/day、区分2の範囲) で肝細胞の空胞化、肝細胞核の多型化、体重及び摂餌量の減少、肝臓及び副腎重量増加、赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値の低下、ALP活性の増加が報告されている (SIDS (2004))。
【参考データ等】 (5) ウサギに50~500 mg/kgの用量で21日間経皮適用した試験において、皮膚の局所影響 (皮膚刺激及び炎症) が対照群を含む全ての投与群でみられ、50 mg/kg以上の雄で好中球の増加、150 mg/kg以上の雄で体重減少 (処置及び皮膚の傷害によるストレスによる影響を排除できない)、白血球数の増加、500 mg/kgの雌で体重減少が報告されている (SIDS (2004))。
【分類根拠】 (1) より、ヒトにおいて吸入ばく露により呼吸器への影響、(2)、(3) より、ラットへの吸入ばく露により区分1の範囲で呼吸器及び血液系への影響、(4) より、ラットへの経口投与により区分2の範囲で肝臓及び血液系への影響がみられていることから、区分1 (呼吸器、血液系)、区分2 (肝臓) とした。なお、情報源を見直して検討した結果、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質のガス及び粉じんを吸入した労働者で下気道に達する刺激が現れて強い咳が出たとの報告がある。また、気管支炎及び気管支肺炎の発症も報告されている (環境省リスク評価第3巻:暫定的有害性評価シート (2004))。 (2) ラットに0.01~0.25 mg/m3 (SIDSには蒸気と記載) を13週間 (6時間/日、5日/週) 吸入ばく露した試験において、0.25 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0002 mg/L、区分1の範囲) で気道の炎症、鼻腔における好中球を含む黄色滲出液、内腔への多形核好中球の出現、気管炎の増加、雄で泡沫マクロファージ及びリンパ球浸潤を伴う肺のうっ血の増加がみられている。病因は局所刺激によるというより感染症起源であると原著者は考察している。しかし、SIDS (2004) では、鼻及び肺の変化は最高濃度で最も激しいため、ばく露による併発感染の悪化は排除できないとしている (SIDS (2004))。 (3) ラットに1.88 mg/m3 (蒸気と推定) (ガイダンス値換算: 0.001 mg/L、区分1の範囲) を75日間 (4時間/日、5日/週) 吸入ばく露した試験において、眼及び上部気道粘膜の刺激、不活発、赤血球数減少、ヘモグロビン減少、体重増加抑制、死亡 (3/10例)、肝臓、腎臓及び心筋の顆粒状の形態変化が報告されている (SIDS (2004)、環境省リスク評価第3巻:暫定的有害性評価シート (2004))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。