急性毒性
経口
ラットを用いた経口投与試験のLD50は、4200 mg/kg(環境省リスク評価(第2巻, 2003))、5170 mg/kg(CERI・NITE有害性評価書(2006))、5170 mg/kg(DFGOT vol.20(2005))、5200 mg/kg(IARC11(1976))、5345 mg/kg(EU-RAR No.21(2002))、5400 mg/kg(ACGIH(7th, 2001))、6300 mg/kg(DFGOT vol.20(2005))、6370 mg/kg(EU-RAR No.21(2002))、6500 mg/kg(EU-RAR No.21(2002))、7300 mg/kg(CERI・NITE有害性評価書(2006))、7339 mg/kg(EU-RAR No.21(2002))であり、4200 mg/kg(環境省リスク評価(第2巻, 2003))のみ国連GHS分類の区分5に該当するが、他の全てが区分外に該当するため区分外とした。
経皮
ラットを用いた経皮投与試験のLD502100 mg/kg(CERI・NITE有害性評価書(2006))から、区分外(国連GHS分類の区分5)とした。
吸入:ガス
GHSの定義による液体である。
吸入:蒸気
ラットを用いた吸入暴露試験(蒸気)のLC5046 mg/L(2時間)(CERI・NITE有害性評価書(2006))(環境省リスク評価(第2巻, 2003))、51.3 mg/L(4時間)(EU-RAR No.21(2002))(ACGIH(7th, 2001))により、4時間の吸入暴露試験のLC50値として換算すると、それぞれ9158ppm及び14236ppmが得られた。飽和蒸気圧38.1mmHg(25℃)[換算値5079Pa(25℃)](HSDB(2005))における飽和蒸気圧濃度は50132ppmである。今回得られたLC50は、飽和蒸気圧濃度の90%より低い濃度であるため、「ミストがほとんど混在しない蒸気」として、ppm濃度基準値で区分4とした。区分の変更はガイダンスの変更による。
吸入:粉じん及びミスト
データなし。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギを用いた皮膚刺激性試験(開放ドレイズ試験)で「中等度の刺激」(CERI・NITE有害性評価書(2006))、ウサギ、ラット及びマウスを用いた皮膚刺激性試験でわずかな刺激(EU-RAR No.21(2002))との記述から、区分2とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ヒトへの健康影響のデータ(CERI・NITE有害性評価書(2006))(EU-RAR No.21(2002))から、明確な陽性反応がみられるが、程度が腐食性との記載はない。また、ウサギを用いた眼刺激性試験では「強度の結膜浮腫、わずかな角膜混濁、結膜発赤(8日後に結膜発赤が一部残存)」(EU-RAR No.21(2002))との記述から、区分2Aとした。なお、EU分類ではR36/37である。
呼吸器感作性
データなし。
皮膚感作性
モルモットを用いた皮膚感作性試験(Directive84/449/EEC, B.6)(GLP)において感作性なしとの結果(EU-RAR No.21(2002)元文献BASF(1993))が得られているが、ヒトのパッチテストで陽性との結果(EU-RAR No.21(2002))(NICNASPECNo.7(1998))も得られており、明確な分類はできない。
生殖細胞変異原性
マウスの強制経口投与小核試験で陽性、陰性の結果がある(ATSDR(2007)、CERI・NITE有害性評価書(2006)、NICNASNo.7(1998))が、試験の信頼性についての専門家判断により区分外とした。なお、ラット肝のDNA損傷試験、DNA合成試験、DNA修復試験で陽性(CERI・NITE有害性評価書(2006)、NICNASNo.7(1998)、PATTY5th(2001))、エームス試験、マウスリンフォーマ試験、染色体異常試験では、陰性(CERI・NITE有害性評価書(2006))である。
発がん性
【分類根拠】 発がんに関して、ヒトを対象として発がん性を示す十分な報告はない。 経口経路では適切な試験ガイドラインとGLP基準に準拠して実施された(1)及び(2)において、実験動物2種の複数の部位に複数の試験で悪性腫瘍を含む腫瘍発生の増加が認められ、かつラットでは(3)で吸入経路でも経口経路と同様の腫瘍発生が認められたこと、及び(4)のとおりEPAも同様の根拠でLに分類していることを踏まえて、区分1Bとした。 なお、旧分類と同じ試験結果に基づき分類したが、厚労省のがん原性試験結果報告で動物で発がん性ありとされ、有害性評価小検討会の審議を経てヒトにおける懸念から同省が指針を出したことを重視し、区分を変更した。
【根拠データ】 (1)ラットを用いたがん原性試験(2年間飲水投与)において、雌雄の投与群には鼻腔の悪性腫瘍(主として扁平上皮癌)、肝細胞腺腫及び肝細胞がんの発生増加が認められ、雄投与群には加えて腹膜の中皮腫の発生増加も認められた(厚労省委託がん原性試験結果(1990))。 (2)マウスを用いたがん原性試験(2年間飲水投与)において、雌雄の投与群に肝細胞がんの増加が認められた(厚労省委託がん原性試験結果(1990))。 (3)雄F344ラットに本物質蒸気を2年間吸入ばく露した試験では鼻腔の扁平上皮がん、肝細胞腺腫、腹膜の中皮腫、の発生増加がみられた(産衛学会許容濃度の提案理由書(2015)、IRIS(2013); 環境省委託試験:Kasai et al.(2009))。 (4)国内外の分類機関による既存分類では、IARCがグループ2B(IARC 71(1999)、EU CLPではCarc. 2、NTPがR(NTP RoC(14th, 2016))、EPAがL(Likely to be carcinogenic to humans)(IRIS(2013))、ACGIHがA3(ACGIH(7th, 2001))、日本産業衛生学会が2B(産衛学会許容濃度の提案理由書(2015))に、それぞれ分類している。
【参考データ等】 (5)ラット及びマウスを用いたNTPによる発がん性試験(飲水投与)においても、ラットで鼻腔腫瘍及び肝細胞腺腫の発生増加、マウスで肝細胞がんの発生増加が報告されている(NTP TR80(1979))。 (6)本物質は労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき、厚生労働大臣が定める化学物質による労働者の健康障害を防止するための改正指針の対象物質である(平成24年10月10日付け健康障害を防止するための指針公示第23号)。
生殖毒性
ラットの器官形成期に経口(CERI・NITE有害性評価書(2006))あるいは吸入(環境省リスク評価(第2巻、2003))投与した試験において、一部で胎仔の重量減少と化骨遅延が認められたのみで仔の発生に対し悪影響は報告されていない。しかし、親動物の性機能および生殖能に及ぼす影響についてはデータ不足のため、「分類できない」とした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
ヒトで吸入により、めまい、眠気、意識喪失などの症状(環境省リスク評価第2巻(2003))に基づき区分1(中枢神経系)とし、かつ、ラットに155 mg/Lを吸入ばく露(EU-RAR21(2002))、またはウサギに6600 mg/kgを経口投与(ATSDR(2007))後の症状として麻酔の記載があることから、区分3(麻酔作用)とした。一方、ヒトのばく露で鼻および咽喉に対し刺激性を示す報告が複数(EU-RAR21(2002)、ATSDR(2007))あり、また、ラットに吸入ばく露した試験でも気道粘膜に対する刺激が観察されている(EU-RAR21(2002))ことから、区分3(気道刺激性)とした。なお、中枢神経系については、根拠となるデータはヒトおよび動物の毒性症状のデータであったが、いずれも軽度で一時的と考えられたため、麻酔作用に含まれるものとみなし、中枢神経系には分類しなかった。また、肝臓と腎臓については、実際の試験データに基づく記載が確認できず、証拠として不十分なため採用しなかった。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
本物質を使用した作業者で死亡した5人について、腎臓の出血と壊死ならびに肝臓の壊死が報告されている(CERI・NITE有害性評価書(2006))こと、さらに、換気設備のない密室で1週間本物質にばく露された1人の作業者が筋緊張亢進、神経症状、腎不全、腎臓皮質の壊死、重度の肝臓の小葉中心性壊死、脳に脱髄と神経線維の部分的欠損を示したとの報告(EU-RAR No.21(2002))があることに基づき、区分1(腎臓、肝臓、中枢神経系)とした。一方、ラットを用いた2年間の経口投与試験で気道上皮の変性が16 mg/kg/day(区分2相当)で認められた(環境省リスク評価第2巻(2003))との記述があることから、区分2(呼吸器)とした。
吸引性呼吸器有害性
データなし。