急性毒性
経口
ラットのLD50値として、940 mg/kg、3,615 mg/kg (ACGIH (7th, 2001))、5,050 mg/kg (HPVIS (2008))、5,560 mg/kg (SIDS (2006))、> 11,000 mg/kg (PATTY (6th, 2012)) の5件の報告がある。ガイダンスの改訂に基づき、最も多くのデータが該当する区分外 (3件) とした。なお、1件が区分4、1件が区分外 (国連分類基準の区分5) に該当する。
経皮
コーン油 (本物質40%濃度) を用いたウサギのLD50値として、> 7,940 mg/kg (純品換算値:> 3,176 mg/kg) との報告 (SIDS (2006)、HPVIS (2008)) に基づき、区分外とした。 新たな情報源 (SIDS (2006)、HPVIS (2008)) を追加し、分類を見直した。
吸入:ガス
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
データ不足のため分類できない。
吸入:粉じん及びミスト
ラットのLC0値 (4時間) として、7.7 mg/L (SIDS (2006)、HPVIS (2008)) との報告に基づき、区分外とした。なお、LC0値が飽和蒸気圧濃度 (0.57 mg/L) より高いため、粉じんの基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギを用いた皮膚刺激性試験において回復性の発赤や浮腫がみられ、刺激性スコア2.21であった (SIDS (2006))。その他にもウサギやモルモットを用いた皮膚刺激性試験において軽度の刺激性が認められた (SIDS (2006)、BUA 68 (1991))。また、ヒトにおいて皮膚を乾燥させ皮膚炎を起こすことがあるとの報告がある (ACGIH (7th, 2001))。以上の結果から区分外 (国連分類基準の区分3) とした。ガイダンスの変更に従い区分を見直した。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギを用いた眼刺激性試験 (OECD TG 405) において、角膜混濁 (スコア1~3) が認められている (SIDS (2006))。また別の眼刺激性試験において、角膜反応、虹彩炎、結膜炎、結膜浮腫の平均スコアはそれぞれ1.33、0.83、2、2と報告されている (SIDS (2006))。以上の結果から区分2Aとした。なお、本物質はEU DSD分類において「Xi; R36」、EU CLP分類において「Eye Irrit. 2 H319」に分類されている。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。なお、詳細不明であるがアジピン酸を扱う2人の作業者が気管支喘息を起こした (PATTY (6th, 2012)、ACGIH (7th, 2001)) との記載がある。
皮膚感作性
データ不足のため分類できない。なお、モルモットを用いた試験で皮膚感作性なしとの報告があるが (SIDS (2006)、PATTY (6th, 2012))、陽性対照群がない、アジュバントを使用していない等の理由から、分類に用いるには不十分な情報と判断した。
生殖細胞変異原性
ガイダンスの改訂により「区分外」が選択できなくなったため、「分類できない」とした。すなわち、in vivoでは、ラットの優性致死試験で陰性、ラットの骨髄細胞の染色体異常試験で陰性結果が報告されている (SIDS (2006)、ACGIH (7th, 2001)、HPVIS (2008)、JECFA FAS 12 (1977)、PATTY (6th, 2012))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験、染色体異常試験でいずれも陰性である (SIDS (2006)、ACGIH (7th, 2001)、HPVIS (2008)、JECFA 12 (1977)、PATTY (6th, 2012))。
発がん性
国際機関等による発がん性分類はない。SIDS (2006) では、ラットの2年間混餌試験 (雄:5 % (3,750 mg/kg bw/day) 以下の用量、雌:1 % (750 mg/kg bw/day) の用量) で発がん性がみられないとの報告があるが、この試験については非GLPであるほか、動物数、検査対象とした器官が少なく組織病理学的検査に使用した動物数が不明であるなど限定的な情報と報告されている。また、PATTY (6th, 2012) でもラットの2年間試験から発がん性の証拠なしと報告されているが十分な情報はない。さらに、BUA (1991) でもラットの2年間試験の記載があるが、文献情報がない。以上、総じて本物質についてはデータ不足のため、「分類できない」とした。
生殖毒性
ラット、マウス、ウサギを用いた経口経路での催奇形性試験において催奇形性は認められていない (SIDS (2006)、JECFA FAS12 (1977)、ACGIH (2001)、PATTY (6th, 2012)) が、生殖能に関する情報が得られていないため分類できないとした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
ヒトでは、本物質のダストの作業者への吸入ばく露で自律神経系、胃腸管、上部気道粘膜の機能障害、鼻粘膜の刺激、本物質の溶液の吸入ばく露でぜんそく反応悪化、呼吸器の軽いしゃく熱感が報告されている (ACGIH (7th, 2001)、SIDS (2006)、PATTY (6th, 2012))。 ラットでは、経口経路のガイダンス値を上回る用量で、死亡動物の急性心拡張、腺胃の急性うっ血・充血、潰瘍 (腐食性胃炎) など、本物質による刺激と出血の影響がみられているが、吸入経路及び閉塞経皮適用では毒性兆候がみられなかった (SIDS (2006)、HPVIS (2008))。以上より、区分3 (気道刺激性) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
経口経路ではヒトボランティアが100 mg/kg/dayの用量を10日間内服しても毒性症状がみられなかったこと、ラットに混餌投与で2年間投与した試験で、区分外の高用量 (SIDS (2006) では2,250 mg/kg/日、HPVIS (2008) では809 mg/kg/日と算出) で体重増加抑制がみられたに過ぎない (SIDS (2006)、ACGIH (7th, 2001)、JECFA FAS 12 (1977)、HPVIS (2008)) ことから、区分外相当と判断される。吸入経路ではラットに本物質のダストを0.126 mg/Lの濃度で、6時間/日、5日/週で3週間ばく露 (ガイダンス値換算濃度: 0.021 mg/L) したが、異常は認められなかった (ACGIH (7th, 2001)) との記述があるが、本試験を含め、区分2までの範囲をカバーした吸入ばく露試験が行われておらず、分類に利用可能なデータがない。よって、本物質は経口経路では区分外相当であるが、吸入及び経皮経路での分類に適したデータがなく、データ不足のため分類できないとした。なお、旧分類では本物質ダストを吸入した作業者で自律神経系への影響がみられたとの記述から、区分1 (自律神経系) と分類したが、ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012) に該当する記述は単回ばく露による影響で、かつ眼刺激性を生じる濃度での影響であることを確認したため、今回の分類では除外した。
吸引性呼吸器有害性
データ不足のため分類できない。