急性毒性
経口
GHS分類: 区分外 ラットのLD50値として、3,493 mg/kg、4,500 mg/kg、4,980 mg/kg、5,660 mg/kg、6,080 mg/kg (EHC 204 (1998))、4,500~6,000 mg/kg (ECETOC TR63 (1995)、PATTY (6th, 2012)) との報告があり、3件が区分外 (国連分類基準の区分5)、3件が区分外に該当する。有害性の高い区分を採用し、区分外 (国連分類基準の区分5) とした。
経皮
GHS分類: 区分外 ウサギのLD50値として、> 10,000 mg/kg (HSDB (Access on August 2017)) との報告に基づき、区分外とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない ラットの4時間吸入ばく露試験のLC50値として、> 2 mg/L (PATTY (6th, 2012)) との報告があり、区分4又は区分外に該当するが、このデータのみでは区分を特定できないため、分類できないとした。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分2 鉱業の生産部門や粉砕設備において本物質 (ホウ砂塵) をばく露された労働者に皮膚炎がみられたとの記載 (ACGIH (7th, 2001)) や、ウサギ及びモルモットを用いた皮膚刺激性試験で皮膚刺激性を示すとの結果 (ECETOC TR63 (1995)、NITE初期リスク評価書 (2008)) から、区分2とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2 ホウ砂加工施設の労働者が、0.44~3.1mg ホウ素/m3 (5.7~14.6 mg粒子/m3、6時間加重平均) のばく露で眼に刺激がみられたとの記載 (ATSDR (2010)) や、ホウ砂粉砕及び精製施設における労働者の12.4%に眼刺激性がみられたが、低ばく露区域の労働者では2.8%と眼刺激性の頻度に有意差を認めたとの記載 (EHC 204 (1998)) がある。また、ウサギを用いた眼刺激性試験で強度の刺激性がみられたとの記載 (PATTY (6th, 2012)) や、別のウサギを用いた試験で結膜の変色、水疱形成、肥厚が生じ、角膜への刺激は8~21日で回復したとの記載 (ECETOC TR63 (1995)) がある。よって、区分2とした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。すなわち、in vivoデータはなく、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験で陰性である (NITE初期リスク評価書 (2008)、EHC 204 (1998))。
発がん性
GHS分類: 分類できない 本物質を含むホウ酸塩化合物はACGIHでA4に分類されている (ACGIH (7th, 2005))。よって、分類できないとした。
生殖毒性
GHS分類: 区分1B 雄ラットに本物質を1,000又は2,000 ppm で最長60日間混餌投与後に無処置雌と交配させ雄の授精能を検討した試験において、1,000 ppm (50 mgホウ素/kg/day) では回復性のある授精能力の低下がみられたが、2,000 ppm (100 mgホウ素/kg/day) では授精能力は12週間の観察期間を通して完全消失した (NITE初期リスク評価書 (2008)、ATSDR (2010))。また、雌雄ラットに本物質を最大1,170 ppm (58.5 mgホウ素/kg/day) で混餌投与した生殖毒性試験において、1,170 ppm群では精巣萎縮及び排卵数の減少、及び完全不妊が認められた。さらに、1,170 ppm投与群の雌を対照群の雄と交配した場合にも不妊であった (NITE初期リスク評価書 (2008)、ATSDR (2010))。以上、実験動物では本物質は一般毒性が明確に示されない用量で雌雄の生殖能力を低下させる。よって、区分1Bとした。なお、EUも本物質をRepr. 1Bに分類している (ECHA CL Inventory (Accesss on August 2017))。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分1 (中枢神経系、消化管)、区分3 (気道刺激性) 本物質を含むホウ酸ナトリウム塩は、生理的pHでは水に溶けてホウ酸 (CAS番号 10043-35-3) を生成する (PATTY (6th, 2012))。ホウ酸及びホウ酸ナトリウム塩の主な有害性情報としては以下の報告がある。 ヒトでは、ホウ酸30 gを水と共に一度に経口摂取した77歳男性が、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、紅斑、四肢チアノーゼ、急性腎不全、心肺性低血圧を生じ、心不全により死亡した例が報告されている (ATSDR (2010)、NITE初期リスク評価書 (2008))。また、4.5~14 gのホウ酸混入ミルクを摂取した新生児11名が嘔吐、下痢に加えて頭痛、振戦、不穏、痙攣、衰弱、昏睡など中枢神経系の症状を示し、うち5名は3日以内に死亡したとの報告がある (ATSDR (2010)、NITE初期リスク評価書 (2008))。更にボランティアによるホウ酸又は七酸化二ナトリウム四ホウ素五水和物 (Na2B4O7・5H2O、CAS番号 12179-04-3) の単回吸入ばく露試験で、鼻汁分泌の増加がみられたとの報告がある (ACGIH (7th, 2005)、ATSDR (2010)、DFGOT (2013) (Access on May 2017))。 実験動物では、ホウ酸又は本物質の実験動物への経口急性影響は中枢神経系抑制、痙攣、死亡であり、その用量は、区分2のガイダンス値を超える用量 (ラット、マウス: 2,403~6,080 mg/kg) であったと報告されている (ACGIH (7th, 2005)、ECETOC TR63 (1995))。 以上の本物質に関する情報と、ホウ酸及び七酸化二ナトリウム四ホウ素五水和物に関する情報を総合して、区分1 (中枢神経系、消化管)、区分3 (気道刺激性) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (呼吸器、神経系) ヒトについては、アメリカの大規模ホウ砂採鉱・精錬プラントで5年以上働く労働者629人 (うち女性26人) を対象とした横断研究では、非喫煙労働者で咳、粘液分泌過多、慢性気管支炎、喫煙歴ありの労働者で息切れの訴えに有意な増加傾向がみられた。肺機能検査及び胸部X線検査の結果とばく露濃度に関係がなかったとの報告がある (環境省リスク評価第14巻 (2016)、EHC 204 (1998))。また、ホウ砂と蜂蜜を混ぜたものを塗布したおしゃぶりを4~10週間使用した乳幼児 (6~16週齢) 7例で痙攣、易刺激性、消化管障害 (下痢、嘔吐) がみられ、使用の中止に伴い症状は消失したとの報告がある (EHC 204 (1998)、NITE初期リスク評価書 (2008)、ATSDR (2010))。 実験動物については、ラットを用いた混餌投与による複数の試験があり、精巣の萎縮がみられている (NITE初期リスク評価書 (2008)、ATSDR (2010)) 。しかし、いずれも区分2のガイダンス値の範囲外であった。 以上、ヒトにおいて呼吸器、神経系に影響がみられたことから、区分1 (呼吸器、神経系) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。