急性毒性
経口
ラットのLD50 = 1200 mg/kg(NTP TR276(1985))に基づいて区分4とした。
経皮
マウスLD50 = 6 mg/animal(200-300 mg/kg ;体重20-30gとして換算)(IARC 13(1977))は区分3に該当する。
吸入: ガス
GHSの定義における固体である。
吸入: 蒸気
データなし。
吸入: 粉じん及びミスト
データ不足で分類できない。なお、> 1210 mg/m3/6h(> 1800 mg/m3/4h)のデータがあるが(RTECS(2008); Journal of the American College of Toxicology.)複数の区分にまたがっているので分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギを用いたドレイズ試験において500mg、24時間適用で軽度(mild)と報告されている(RTECS(2008); Journal of the American College of Toxicology.)ことに基づき区分に該当しないとした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)より、区分1とした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更したEU CLPでGHS区分1に分類されたため、旧分類から本項目を見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)ウサギ(n = 3)を用いた眼刺激性試験(OECD TG 405、GLP、20日観察)において、2例では角膜影響がみられなかったが、1例で20日後まで持続する角膜影響がみられた(角膜混濁スコア:1/0/0、虹彩炎スコア:0/0/0、結膜発赤スコア:1/1.3/1.3、結膜浮腫スコア:0.3/0.3/0.7)との報告がある(ECHA RAC Opinion (2015)、CLH Report (2014)、AICIS IMAP (2019)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。
【参考データ等】 (2)ウサギ(n = 8)を用いた眼刺激性試験において、眼刺激性はみられなかった(角膜混濁スコア:0/0/0/0/0/0/0/0、虹彩炎スコア:0/0/0/0/0/0/0/0、結膜発赤スコア:0/0/0/0/0/0/0/0、結膜浮腫スコア:0/0/0/0/0/0/0/0)との報告がある(CLH Report (2014)、AICIS IMAP (2019))。 (3)ウサギ(n = 6)を用いた眼刺激性試験において、5例に眼刺激性変化が生じ、うち4例に角膜混濁がみられたとの報告がある(AICIS IMAP (2019))。 (4)ウサギを用いた眼刺激性試験において、4日以内に回復する軽度の刺激がみられ、一次眼刺激指数は15.3(フルスケール:110)であったとの報告がある(AICIS IMAP (2019))。 (5)ECHAではEye Dam. 1に分類されている。
呼吸器感作性
データなし。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)~(3)より、区分1とした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。EU CLPでGHS区分1に分類されたため、旧分類から皮膚感作性項目を見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)ヒトを対象とした、本物質を用いて実施された3つのパッチテストにおいて、陽性反応率は4.7%、8%及び6%であったとの報告がある(ECHA RAC Opinion (2015)、CLH Report (2014)、AICIS IMAP (2019))。 (2)薬物誘発性の接触性湿疹を確定するため実施した一連の皮膚パッチテストにおいて、本物質に対する過敏性は450例中3例にみられただけであった。この報告では本物質は弱い接触性アレルゲンであると考えられたとの報告がある(ECHA RAC Opinion (2015)、CLH Report (2014)、AICIS IMAP (2019))。 (3)(1)のヒトにおける皮膚感作性試験3試験において、すべてが高頻度(一般人で≧ 0.2%、選別のない皮膚炎患者集団で≧ 1%、選別した皮膚炎患者集団で≧ 2%)と考えられたが、ばく露の程度、試験期間及び適用方法に関して情報不足のため、細区分は難しいと考えられたとの報告がある(ECHA RAC Opinion (2015))。
【参考データ等】 (4)ECHAではSkin Sens. 1に分類している。
生殖細胞変異原性
マウスに腹腔内投与による骨髄を用いた小核試験および染色体異常試験(体細胞in vivo 変異原性試験)でいずれも陰性の結果(NTP DB(access on Aug. 2009))に基づき、区分に該当しないとした。なお、マウスに腹腔内投与による骨髄を用いた姉妹染色分体交換試験(体細胞in vivo遺伝毒性試験)で陰性(NTP DB(access on Aug. 2009))であり、in vitro では、エームズ試験、マウスリンフォーマ試験、及びCHO細胞を用いた染色体異常試験で陽性結果(NTP DB(access on Aug. 2009))が報告されている。また、当該物質は労働安全衛生法第57条の3に基づき変異原性が認められた既存化学物質である。
発がん性
IARCによりグループ3に分類されている(IARC suppl. 7(1987))ことに基づいて区分に該当しないとした。なお、ラットおよびマウスに2年間混餌投与した試験において、両動物種とも発がん性の証拠は認められなかったとの報告(NTP TR276(1985))がある。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)より、親動物に一般毒性影響が発現するより高用量で、性機能・生殖器官及び生殖能への有害影響が認められた。(2)からは母動物に投与後初期の一過性症状が発現する用量で胎児に奇形(臍ヘルニア)発生頻度の増加がみられた。ガイダンスに基づき分類区分を判定すると区分2となるが、(2)のデータでは重篤な発生影響がみられた用量(15 mg/kg/day)で母動物に生じていた毒性は症状(興奮、嗜眠)のみで軽微であったことから、区分1Bが妥当と考えられる。なお、新しい情報源の利用により分類区分を変更した。
【根拠データ】 (1)ラットを用いた混餌投与による2世代生殖毒性試験(OECD TG 416, GLP)において、F0、F1親動物には3,000 ppm(F0交配前:291 mg/kg/day)以上で一般毒性影響(体重増加抑制、摂餌量減少、肝臓の色素沈着等)がみられ、最高用量の8,000 ppm(F0交配前:855 mg/kg/day)で生殖影響として、性周期の回数の減少及び長さの延長、生殖器官(精巣・精嚢・前立腺・卵巣)器官重量の減少、腹当たりの生存児数の減少が認められた。児動物ではF1、F2とも3,000 ppmでは離乳時に、8,000 ppmでは生後7~21日に体重の低値が、F1では性成熟遅延(包皮分離(雄)・膣開口(雌)の遅延)がみられた(Background Document to ECHA RAC Opinion(2015))。 (2)妊娠ウサギに最大60 mg/kg/dayを妊娠6~28日に強制経口投与した発生毒性試験(OECD TG 414, GLP)において、15 mg/kg/day の投与により母動物に興奮、嗜眠の症状が見られ、それ以上の投与量では胎児に奇形の臍ヘルニア発現頻度の増加が認められた。この他、胎児に眼窩周囲の出血の頻度増加、網膜ひだの頻度増加が各々15及び60 mg/kg/dayの胎児に認められたが、これらは内臓変異の範囲の所見とされた(Background Document to ECHA RAC Opinion(2015))。
【参考データ等】 (3)妊娠ラットに最大600 mg/kg/dayを妊娠6~19日に強制経口投与した発生毒性試験(OECD TG 414, GLP)において、母動物には300 mg/kg/day以上で明確な毒性として症状発現(神経興奮、嗜眠)、体重増加抑制、摂餌量減少がみられたが、胎児には最高用量の600 mg/kg/dayまで胎児体重の低値、内臓変異(鼻腔拡張、片側性水腎症)及び骨格変異(過剰肋骨、骨化遅延)がみられただけで、発生影響としては分類根拠としない軽微な影響の範囲内の所見であった(Background Document to ECHA RAC Opinion(2015))。 (4)EU CLPではRepr. 1Bに分類されている。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
データなし。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
ラットおよびマウスの13週間混餌投与試験の報告(NTP TR276(1985))があり、ラットでの最高用量12000 ppm(660 mg/kg/day)およびマウスでの最高用量6000 ppm(774~888 mg/kg/day)において両動物種とも体重増加抑制と摂餌量の低下を除き、病理組織学的検査を含めその他の検査項目に試験物質ばく露の影響が認められていない。これらの用量はガイダンス値範囲を超えていることから、経口投与では区分に該当しないに相当するが、他経路のデータがないので「分類できない」とした。
誤えん有害性*
データなし。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。