急性毒性
経口
GHS分類: 区分外 ラットのLD50値として、2,963 mg/kg (IARC 73 (1999)、ACGIH (7th, 2002))、3,800 mg/kg (EHC 206 (1998)、EU-RAR (2002)、DFGOT vol. 17 (2002))、3,866 mg/kg (ATSDR (1996)、EHC 206 (1998)、EU-RAR (2002)、PATTY (6th, 2012))、4,000 mg/kg (EU-RAR (2002)、DFGOT vol. 17 (2002))、> 2,000 mg/kg (EU-RAR (2002)) との5件の報告があり、4件が区分外 (国連分類基準の区分5)、1件が区分外 (国連分類基準の区分5)又は区分外に該当する。件数の多い区分を採用し、区分外 (国連分類基準の区分5) とした。
経皮
GHS分類: 区分外 ウサギのLD50値として、10,000 mg/kg (EHC 206 (1998)、DFGOT vol. 17 (2002))、> 7,400 mg/kg (IARC 73 (1999))、> 10,000 mg/kg (ATSDR (1996)、EHC 206 (1998))、> 10,200 mg/kg (EHC 206 (1998)、DFGOT vol. 17 (2002)、EU-RAR (2002))、及びラットのLD50値として、> 2,000 mg/kg (EU-RAR (2002))、> 6,800 mg/kg (DFGOT vol. 17 (2002)) との報告に基づき、区分外とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 区分外 ラットの4時間吸入ばく露試験のLC50値として、23,576 ppm (ACGIH (7th, 2002))、85 mg/L (23,800 ppm) (EU-RAR (2002))、86 mg/L (24,080 ppm) (IARC 73 (1999))、33,370 ppm (ATSDR (1996)、EU-RAR (2002)、PATTY (6th, 2012))、39,395 ppm (PATTY (6th, 2012)、EU-RAR (2002))、85~142 mg/L (23,800~39,760 ppm) (DFGOT vol. 17 (2002)) との報告に基づき、区分外とした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (267,327 ppm) の90%よりも低いため、ミストがほとんど混在しないものとして、ppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分2 ウサギを用いた皮膚刺激性試験 (OECD TG 404準拠) において、本物質の4時間の適用で中等度から重度の浮腫及び中等度の紅斑が認められたとの報告 (EU-RAR (2002)) から、区分2とした。なお、EU CLP分類において本物質はSkin Irrit. 2 に分類されている(ECHA CL Inventory (Access on June 2017))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2B ウサギを用いた眼刺激性試験 (OECD TG 405準拠) において、本物質の適用により発赤、肥厚、結膜浮腫、分泌亢進等の眼刺激性を示す症状がみられたが、7日以内に回復したとの報告 (DFGOT vol. 17 (2002)) から、区分2Bとした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 区分外 モルモットを用いた皮膚感作性試験において、複数の試験で本物質は陰性であるとの報告 (EHC 206 (1998)、DFGOT vol. 17 (2002)、EU-RAR (2002)、ATSDR (1996)) から、区分外とした。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない ガイダンスの改訂により区分外が選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、マウスの末梢血を用いた小核試験、ラット、マウスの骨髄細胞を用いた染色体異常試験、マウスの脾臓リンパ球を用いた遺伝子突然変異試験、マウスの肝臓細胞を用いた不定期DNA合成試験でいずれも陰性、ラットのリンパ球を用いたコメットアッセイで陽性である (EU-RAR (2002)、IARC 73 (1999)、環境省リスク評価第4巻 (2005)、ACGIH (7th, 2002)、ATSDR (1996)、EHC 206 (1998)、DFGOT vol. 17 (2002)、ECETOC TR72 (1997))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験、小核試験、染色体異常試験で陰性、マウスリンフォーマ試験で陽性、姉妹染色分体交換試験で不明確な結果である (EU-RAR (2002)、IARC 73 (1999)、環境省リスク評価第4巻 (2005)、ACGIH (7th, 2002)、DFGOT vol. 17 (2002)、EHC 206 (1998)、PATTY (6th, 2012)、ECETOC TR72 (1997))。
発がん性
GHS分類: 分類できない ラットに2年間、マウスに18ヵ月間吸入ばく露した発がん性試験において、ラットでは雄に3,000 ppm で腎臓腫瘍 (尿細管腺腫及びがんの合計頻度) と精巣間細胞腺腫の有意な増加が、マウスの試験では雌の8,000 ppm群で肝臓腫瘍 (肝細胞腺腫及びがんの合計頻度) の増加がみられた (ACGIH (7th, 2002)、IARC 73 (1999)、EU-RAR (2002))。また、ラットに2年間強制経口投与した発がん性試験では1,000 mg/kg/day で雄に精巣間細胞の腫瘍、雌にリンパ腫及び白血病の増加がみられた (ACGIH (7th, 2002)、IARC 73 (1999)、EU-RAR (2002))。これらの腫瘍のうち、腎臓腫瘍はα2uグロブリン増加に関連した雄ラット特異的な所見で (EU-RAR (2002))、精巣間細胞の腫瘍は加齢による寄与が大きい (ACGIH (7th, 2002)) など、いずれもヒトには当てはまらないと結論された (EU-RAR (2002))。既存分類としては、IARCが実験動物での発がん性の証拠は限定的としてグループ3に分類した (IARC 73 (1999)) のに対し、ACGIHはα2uグロブリンによる雄ラットの腎臓腫瘍と雌マウスの肝臓腫瘍は実験動物での発がん性を示す所見と判断し、A3に分類した (ACGIH (7th, 2002))。一方、EUリスク評価ではマウスの肝臓腫瘍も、ラットのリンパ血液系のがんもヒトへの外挿性を考える上で不確実性があり、本物質の発がん性分類は分類区分なし (non-classification) とカテゴリー3 (旧DSD分類で現行CLP分類のカテゴリー2に相当) との境界域に該当すると結論しており (EU-RAR (2002))、EUは本物質の発がん性に関し分類区分を付していない (ECHA CL Inventory (Access on June 2017))。以上、IARCの結論とEUの見解を踏まえて、区分2とするには根拠が不十分と考え、分類できないとした。
生殖毒性
GHS分類: 分類できない ラットを用いた吸入ばく露による1世代試験では、親動物では250 ppm 以上で2回目の妊娠時に妊娠率の低下傾向 (有意差なし)、児動物には1,000 ppm以上で出生時及び生後4日での生存率低下がみられたが、2腹目の児動物には生存率の低下はみられなかった (EU-RAR (2002))。また、ラットを用いた吸入ばく露による2世代試験において、親動物ではF0の3,000 ppm以上で活動性低下及び眼瞼痙攣、8,000 ppm以上で体重増加抑制、F1の3,000 ppm以上で体重増加抑制が、児動物ではF1の8,000 ppmで死亡児数の増加がみられた (一腹で全児16匹の死亡がみられたことによる死亡児数増加で、全体の生存率には変化がなく、本物質投与による影響とは考えられなかった) だけで、生殖能への影響は示されなかった (EU-RAR (2002)、ACGIH (7th, 2002))。一方、妊娠ラット又は妊娠マウスの器官形成期に吸入ばく露した発生毒性試験では、ラット、マウスとも250 ppmから母動物に摂餌量減少がみられたが、胎児には2,500 ppmまでラットでは影響なし、マウスでは2,500 ppmで胸骨分節癒合がみられた (EU-RAR (2002)、ACGIH (7th, 2002)) が、肋骨、脊椎骨に異常がないことから投与による影響ではないと考えられた (EU-RAR (2002))。また、妊娠マウス及び妊娠ウサギを用いたより高濃度 (最高8,000 ppm) の発生毒性試験においても、ウサギの試験では発生影響はみられず、マウスの試験では8,000 ppmで胎児に口蓋裂の頻度増加がみられた (EU-RAR (2002)、ACGIH (7th, 2002)) が、顕著な母動物毒性 (4,000 ppm以上で運動失調、衰弱、努力呼吸などの症状、8,000 ppmで体重増加抑制、着床後胚損失など) による二次的影響と考えられた (EU-RAR (2002))。
一方、ACGIHでは妊娠マウスを用いた発生毒性試験において、4,000 ppm以上でみられた骨格変異頻度の増加、及び8,000 ppmでの口蓋裂はともに本物質投与による影響と判断し、母動物毒性、発生毒性に対するNOELはともに1,000 ppmであると記述されている (ACGIH (7th, 2002))。 以上、吸入経路によるラットを用いた1世代及び2世代試験、及び複数の発生毒性試験からは生殖発生毒性の証拠は示されなかった。しかしながら、妊娠マウスを用いた発生毒性試験の最高用量でみられた口蓋裂の頻度増加が母動物毒性による二次的影響かどうかの判断は難しく、本項は分類ガイダンスに従い、分類できないとした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分3 (気道刺激性、麻酔作用) マウスの単回吸入ばく露試験において、300 mg/m3以上で、ばく露開始直後から呼吸数の低下が認められ、気道刺激性を示すものであると報告されている (EHC 206 (1998)、ACGIH (7th, 2002)、EU-RAR (2002))。また、ラットの4時間単回吸入ばく露試験において、区分2超の20 mg/L以上で運動失調、歩行異常、振戦が認められたとの報告がある (EHC 206 (1998)、ACGIH (7th, 2002)、EU-RAR (2002)、DFGOT vol. 17 (2002)、IARC 73 (1999))。更にラットの単回経口投与試験において、区分2超の2,000 mg/kg以上で、自発運動低下、筋力低下、過呼吸、運動失調、振戦、立ち直り反射の消失がみられたとの報告がある (EHC 206 (1998)、EU-RAR (2002))。これらの症状は、報告者らにより、一過性の中枢神経系の抑制を示すものであると考察されている (EHC 206 (1998)、EU-RAR (2002)、DFGOT vol. 17 (2002))。以上より区分3 (気道刺激性、麻酔作用) とした。なお、ヒトでは、ボランティアによる吸入ばく露試験で、75 ppm、3時間の吸入ばく露で、問診の結果、被験者の一部がごく軽微な頭重感を訴えたとの報告がある (EU-RAR (2002)、EHC 206 (1998)、DFGOT vol. 17 (2002))。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 分類できない ヒトについては、本物質を含むガソリンにばく露された労働者のうち血中濃度が高いヒトで、ばく露と関連した症状 (頭痛、眼刺激、鼻や喉の灼熱感) を1 つ以上訴えた人達のオッズ比は8.9 (95%信頼区間1.2~75.6) と有意に高いことが報告されている (環境省リスク評価第4巻 (2005)、ACGIH (7th, 2002))。 実験動物については、ラットあるいはマウスを用いた複数の経口あるいは吸入毒性試験が実施されており、区分2のガイダンス値の範囲内では分類根拠となる影響はみられていない。なお、区分2のガイダンス値の範囲を超える用量において主に神経系への影響がみられたほか、雄ラット特有の腎障害がみられている (環境省リスク評価第4巻 (2005)、ACGIH (7th, 2002)、EHC 206 (1998)、DFGOT vol. 17 (2002)、EU-RAR (2002))。 以上、分類根拠となる所見はみられないものの、ヒトにおいて刺激性のほか頭痛がみられていること、実験動物においても高用量で神経系への影響がみられることから区分外とはせず分類できないとした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。