急性毒性
経口
ラットのLD50値として、2,050 mg/kg (HSDB (Access on May 2016))、2,260 mg/kg (ACGIH (7th, 2001、2014)、PATTY (6th, 2012)、NTP (2004)、HSDB (Access on May 2016)) の報告に基づき、区分に該当しない (国連分類基準の区分5) とした。ガイダンスの改訂に伴い、区分を変更した。
経皮
ウサギのLD50値として、788 mg/kg (NTP (2004)、PATTY (6th, 2012)、HSDB (Access on May 2016)) 、4,930 mg/kg (NTP (2004)、PATTY (6th, 2012)、ACGIH (7th, 2014)) との報告があり、1件が区分3、1件が区分に該当しないに該当する。有害性の高い区分を採用し、区分3とした。
吸入: ガス
GHSの定義における液体である。
吸入: 蒸気
ラットのLC50値として、670 ppm (8時間) (4時間換算値: 948 ppm) (ACGIH (7th, 2001、2014))、1,030 ppm (8時間) (4時間換算値: 1,457 ppm) (NTP (2004)、PATTY (6th, 2012)) の報告に基づき、区分3とした。なお、この値は飽和蒸気圧濃度 (4,245 ppm) の90%より低いことからミストを含まないと判断し、ガスの基準値を適用した。
吸入: 粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ヒトへの影響として皮膚を刺激するとの記載 (ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol.4 (1992)、PATTY (6th, 2012)) から、区分2とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ヒトへの影響として眼を刺激するとの記載 (ACGIH (7th, 2001、2014)、DFGOT vol.4 (1992)、PATTY (6th, 2012)) から、区分2Bとした。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
ヒトを対象とした2つの皮膚感作性試験で感作が認められたとの記載 (DFGOT vol.4 (1992)) とヒトで皮膚感作性が報告されているとの記載 (PATTY (6th, 2012)) に、ACGIH (7th, 2014) は、ヒトと動物に対して皮膚感作性が認められたとする報告が多数あることから、本物質をDermal Sensitizer (DSEN) としている。以上より、区分1とした。
生殖細胞変異原性
In vivoでは、マウスの小核試験で陽性、陰性の報告、ラット骨髄細胞の染色体異常試験で陽性 (ACGIH (7th, 2014)、PATTY (6th, 2012)、Health Canada and Environment Canada (2010)、NTP (2004))、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験で陽性である (ACGIH (7th, 2014)、PATTY (6th, 2012)、NTP (2004)、Health Canada and Environment Canada (2010)、NTP DB (Access on June 2016))。以上より、ガイダンスに基づき区分2とした。なお、in vivoでマウスを用いる優性致死試験の報告が複数ある (Environment Canada/Health Canada (2010)、ACGIH (7th, 2014)、NTP (2004)) が、データの再現性に乏しく試験条件等における問題や矛盾があり、信頼性の高い評価結果が得られていない。
発がん性
【分類根拠】 (1)より、動物種1種であるが悪性腫瘍の明らかな発がん性の証拠が認められたこと及び(4)より健康障害防止指針(がん原性指針)の対象物質であることを重視し、区分1Bとした。なお、(2)、(3)でもがん原性を示す証拠が確認されている。旧分類からIARCの分類が変更されたため、発がん性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)ラットを用いた2年間吸入ばく露(6時間/日、5日/週)による発がん性試験(OECD TG451、GLP)において、雌雄とも鼻腔腫瘍(腺腫・扁平上皮がん)の発生増加がみられた。また、雄に扁平上皮乳頭腫、鼻腔神経上皮腫、雌に腺扁平上皮がん、鼻腔神経上皮腫及び肉腫の発生もみられた。雌雄とも、鼻腔の扁平上皮がんの発生増加がみられ、ラットに対するがん原性を示す明らかな証拠とされた(厚生労働省委託がん原性試験結果 (2005)、IARC 125 (2020))。 (2)マウスを用いた2年間吸入ばく露(6時間/日、5日/週)による発がん性試験(OECD TG451、GLP)において、雌雄とも鼻腔に血管腫の発生増加がみられた。雌雄とも、鼻腔に血管腫の発生がみられ、マウスに対するがん原性を示す証拠とされた(厚生労働省委託がん原性試験結果 (2005)、IARC 125 (2020))。 (3)本物質は実験動物2種で悪性腫瘍を誘発させる。また、発がん物質として、機序的に鍵となる性質を有する強い証拠(細胞増殖・細胞死の増強、遺伝毒性(示唆的証拠))も得られている(IARC 125 (2020))。 (4)本物質は厚生労働省化学物質による健康障害防止指針(がん原性指針)の対象物質である(令和2年2月7日付け健康障害を防止するための指針公示第 27号)。 (5)国内外の評価機関による既存分類結果として、IARCではグループ2Bに(IARC 125 (2020))、日本産業衛生学会では第2群Bに(産衛誌58巻 (2016))、EUではCarc. 2に(CLP分類結果 (Accessed Sep. 2021))、DFGではCategory3に(List of MAK and BAT values 2020 (Accessed Sep. 2021))それぞれ分類している。
【参考データ等】 (6)本物質の発がん性の評価に関して、利用可能なヒトのデータはない(IARC 125 (2020))。
生殖毒性
雄ラットに10週間吸入ばく露した試験で400 mg/m3 (75 ppm) 以上で精巣の萎縮がみられたとの記述 (NTP Review of Toxicological Literature (2004)、Environment Canada/Health Canada (2010)、ACGIH (7th, 2014)、産衛誌, 58巻 (2016))、雄マウスに1,500 mg/kgを週3回3週間経皮ばく露した後、非ばく露の雌マウスと交配させた試験で、妊娠率及び着床数の減少、胎児死亡率の増加がみられたとの記述 (Environment Canada/Health Canada (2010)、ACGIH (7th, 2014)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2016))、また妊娠ラットの妊娠0~19日に最大250 mg/kg/day を強制経口投与した試験で、胎児に発育不全と胎児数及び着床率の減少がみられた (産衛学会許容濃度の提案理由書 (2016)) との記述があり、日本産業衛生学会は動物実験における限定的な証拠から生殖毒性物質第3群に分類している (産衛学会許容濃度の提案理由書 (2016))。よって、本項は区分2とした。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
本物質の吸引によりヒトに対して気道刺激性を示すとの報告がある (DFGOT vol. 4 (1992))。したがって区分3 (気道刺激性) とした。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
ヒトに関する情報はない。 実験動物では、ラットを用いた28日間反復吸入毒性試験において、区分1の範囲である92.5 ppm (ガイダンス値換算:0.15 mg/L) で鼻粘膜の変性、気道の線毛上皮における増殖性-化生性病変の報告があり (DFGOT vol.4 (1992)、PATTY (6th, 2012))、ラットを用いた10週間反復吸入毒性試験において、区分2の範囲である75 ppm (ガイダンス値換算: 0.25 mg/L) で精巣の萎縮 (軽度の斑状萎縮) の報告がある (DFGOT vol.4 (1992)、PATTY (6th, 2012)、ACGIH (7th, 2014))。 したがって、区分1 (呼吸器)、区分2 (生殖器(男性))とした。
誤えん有害性*
データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。