急性毒性
経口
【分類根拠】 (1) がガイダンスの区分4、(2)、(3) が区分外 (国連分類基準の区分5) に相当することから、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 1,580 mg/kg (PATTY (6th, 2012)、JECFA FAS42 (1999)) (2) ラット(雄) のLD50: 3,400 mg/kg (PATTY (6th, 2012)、JECFA FAS42 (1999)、NTP TR593 (2018)) (3) ラット(雌) のLD50: 3,000 mg/kg (PATTY (6th, 2012)、JECFA FAS42 (1999)、NTP TR593 (2018))
経皮
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ウサギのLD50: > 5,000 mg/kg (PATTY (6th, 2012))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における液体であり、ガイダンスにおける分類対象外に相当し、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 (1) ではLC50値が2,250 ppmと5,200 ppmの間と推定されていることと、(2)では本物質に吸入ばく露した作業者に気道への損傷がみられたことから、区分3とした。なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 (74,742.7 ppm) の90%よりも低いため、ミストがほとんど混在しないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。情報の更新により、区分を変更した。
【根拠データ】 (1) 2,250、5,200、23,900 ppmの本物質の蒸気を4時間吸入ばく露した試験で、5,200 ppm以上の群で全ての動物が死亡しており、LC50値は2,250 ppmと5,200 ppmの間にあると推定されている (EU SCOEL SUM 149 (2014))。 (2) 本物質に吸入ばく露した作業者が気道を損傷することが判明したため、本物質は無視できない毒性の可能性がある有害物質として登録された (GESTIS (Access on May 2019))。
【参考データ等】 (3) ラットに99.3 ppmを6時間ばく露 (4時間換算値: 122 ppm) した結果、無影響であった (PATTY (6th, 2012))。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1) のヒトでの症例から区分2とした。
【根拠データ】 (1) ポップコーン工場で本物質を主成分とするバター風味香料の蒸気にばく露された労働者が眼、皮膚、鼻に刺激を示したとの記載がある (EU SCOEL SUM 149 (2014))。
【参考データ等】 (2) 本物質をウサギの皮膚に適⽤した試験で、中等度~強度の刺激性を示すとの記載がある (PATTY (6th, 2012))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分1とした。
【根拠データ】 (1) 本物質をウサギの眼に適用した試験で、刺激性を示し、21日以内に回復しなかったとの記載がある (PATTY (6th, 2012))。 (2) 本物質の原液0.1 mLをウサギの眼に適用した試験で、粘膜及び角膜に強度の刺激を示し、腐食性物質と判断された (GESTIS (Access on May 2019))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1) に細区分に使用されるEC3の値が報告されているが、前者はOECD TG 429の使用推奨系統のマウスが使用されておらず、後者はOECD TG 429承認以前の報告のため、細区分は行わず、区分1とした。
【根拠データ】 (1) マウス局所リンパ節試験 (LLNA) で陽性を示し、EC3値が1.9% (Anderson et al., Toxicol. Sci., 97, 355, 2007)、又は11.3% (Roberts et al., Contact Dermat., 41, 14, 1999) と報告されている (PATTY (6th, 2012)) 。
【参考データ等】 (2) ワセリン中に本物質を2%含有する軟膏を使用して、各回2日間×5回適用し10~14日後に同じ軟膏で誘発したヒトマキシマイゼーション試験で全て陰性であった。 また、本物質にばく露されていない被験者に対するパッチテストで接触性皮膚炎患者102人中2人は陽性反応を示した (GESTIS (Access on May 2019))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) より、in vivoのラットを用いた不定期DNA合成試験の陽性結果は腺胃粘膜炎症が生じた用量での知見であり、明確に陽性と判断できないため、分類できないとした。
【根拠データ】 (1) In vivoでは、ラットの胃における不定期DNA合成試験で陽性の報告が1件あった (PATTY (6th, 2012)) が、EU SCOEL SUM 149 (2014) によると、これは腺胃粘膜炎症が生じた用量での知見である。また、腹腔内投与によるマウス骨髄小核試験や吸入ばく露によるマウス、ラットの末梢血小核試験を含め、小核試験陰性の報告が4件あった (NTP TR593 (2018)、PATTY (6th, 2012))。 (2) In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陽性、陰性の結果、マウスリンフォーマ試験及び哺乳動物細胞の姉妹染色分体交換試験で陽性の結果であった (NTP TR593 (2018)、ACGIH (7th, 2012)、JECFA FAS42 (1999)、PATTY (6th, 2012))。
発がん性
【分類根拠】 (1)、(2) より、実験動物2種で、低頻度ではあるが標的臓器の鼻腔に腫瘍発生がみられたことから、区分2とした。なお、新たな情報源の使用により、旧分類から区分を変更した。
【根拠データ】 (1) ラットを用いた2年間吸入ばく露による発がん性試験 (12.5、25、50 ppm) において、50 ppmの雄で鼻腔の扁平上皮がん (3/50) 及び扁平上皮乳頭腫 (1/50)、雌で鼻腔の扁平上皮がん (3/50) がみられた。これより、雌雄ラットともに本物質の発がん性に関してある程度の証拠 (some evidence) があると結論した (NTP TR593 (2018))。 (2) マウスを用いた2年間吸入ばく露による発がん性試験 (12.5、25、50 ppm) において、雄では腫瘍の発生は認められず、雌の50 ppmで鼻腔腺がん (2/50) が認められた。これより、雄マウスには発がん性の証拠なし、雌マウスには発がん性の曖昧な証拠 (equivocal evidence) があると結論された (NTP TR593 (2018))。
【参考データ等】 (3) 国内外の分類機関による既存分類では、ACGIHがA4と分類している (ACGIH (7th, 2012))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1) より催奇形性は認められていないが、性機能、生殖能に関する情報がなく、データ不足のため分類できないとした。
【根拠データ】 (1) 雌ラットの妊娠6~15日、雌マウスの妊娠6~15日、雌ハムスターの妊娠6~10日に本物質の90%溶液を強制経口投与した催奇形性試験において、いずれの種でも母動物毒性は認められず、胎児の奇形もみられなかった (PATTY (6th, 2012)、JECFA FAS42 (1999)、HSDB (Access on May 2019)) 。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 (1) より、区分1 (呼吸器) とした。(2) のヒトのばく露例で呼吸器への影響を示す報告があるが、症例1例のみで、本物質の含量が不明な混合物へのばく露であるため、分類根拠としなかった。
【根拠データ】 (1) ラットを用いた6時間単回吸入ばく露試験において、99 ppm (0.35 mg/L、4時間換算値: 0.43 mg/L) でわずかな壊死性化膿性鼻炎、198 ppm (0.70 mg/L、4時間換算値: 0.86 mg/L) で、鼻腔の好中球性炎症を伴う中程度の壊死性化膿性鼻炎、295 ppm (1.04 mg/L、4時間換算値:1.27 mg/L) で、鼻腔上皮細胞及び気管支上皮細胞の好中球性炎症を伴う壊死 (壊死性化膿性気管支炎及び鼻炎を含む) との報告がある (PATTY (6th, 2012)、EU SCOEL SUM 149 (2014))。これらの影響がみられた濃度は区分1に相当する。
【参考データ等】 (2) 香料生産のために、本物質を含む高温の混合物を数時間取り扱った36才男性が、眼の痛みと発赤、結膜分泌物を生じ、9ヵ月後にも気道疾病を示唆する努力呼気流量の低下を示した (EU SCOEL SUM 149 (2014))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
(4) マウスに25~100 ppmを12週間吸入ばく露 (6時間/日、5日/週) した結果、25 ppm以上 (ガイダンス値換算: 0.06 mg/L、区分1の範囲) で気管支周囲のリンパ球性炎症、鼻及び嗅上皮の萎縮・化生が、50 ppm (ガイダンス値換算: 0.12 mg/L、区分1の範囲) 以上でLDH活性増加が、100 ppm (ガイダンス値換算: 0.23 mg/L、区分2の範囲) で体重減少、呼吸数減少及び分時呼吸量の減少、中等度の化膿性鼻炎、鼻及び嗅上皮の慢性活動性炎症、上皮の潰瘍、壊死、萎縮、化生、小気道及び細気管支に及ぶ気管支の萎縮、剥離、変性、気管支周囲のリンパ球性炎症がみられた (ACGIH (7th, 2012)、PATTY (6th, 2012))。
【分類根拠】 (1) より、ヒトで呼吸器に対する影響がみられ、(2)~(4) より、実験動物において区分1の範囲で呼吸器への影響がみられていることから、区分1 (呼吸器) とした。
【根拠データ】 (1) 本物質を香料として使用した電子レンジ用ポップコーンの調理作業者で細気管支閉塞症に似た症例が報告され、ポップコーン製造工場で混合作業を行う作業者でも同様の症例が報告されている。また、ポップコーン製造に使用されるバター香料にばく露された食品製造作業者で喘息がみられたとの報告がある (ACGIH (7th, 2012)、PATTY (6th, 2012))。 (2) ラットに6.25~100 ppmを14週間吸入ばく露 (6時間/日、5日/週) した試験において、25 ppm (ガイダンス値換算: 0.07 mg/L、区分1の範囲) 以上で鼻における呼吸上皮の扁平上皮化生、嗅上皮の変性、50 ppm (ガイダンス値換算: 0.14 mg/L、区分1の範囲) で鼻における化膿性炎症、呼吸上皮の過形成、嗅上皮の呼吸上皮化生、リンパ組織の過形成等、喉頭における呼吸上皮の扁平上皮化生、100 ppm (ガイダンス値換算: 0.27 mg/L、区分2の範囲) で好中球数増加、鼻における呼吸上皮壊死、嗅上皮壊死等、喉頭における扁平上皮過形成等、気管における上皮壊死等、肺における気管支上皮過形成等がみられた (NTP TR593 (2018))。 (3) マウスに6.25~100 ppmを14週間吸入ばく露 (6時間/日、5日/週) した試験において、25 ppm (ガイダンス値換算: 0.07 mg/L、区分1の範囲) 以上の各投与群で上記 (3) のラットの試験と同様に呼吸器の非腫瘍性病変がみられたほか、50 ppm (ガイダンス値換算: 0.14 mg/L、区分1の範囲) で好中球数増加がみられた (NTP TR593 (2018))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。