急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 3,771 mg/kg (Patty (6th, 2012)、NTP TR515 (2004)、IARC 88 (2006)) (2) ラットのLD50: 4,599 mg/kg (ECETOC TR95 vol.ll (2005))
経皮
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ウサギに2,000 mg/kg、24時間適用した試験で死亡例はなかった (Patty (6th, 2012)、NTP TR515 (2004)、IARC 88 (2006))。
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における液体であり、区分に該当しないとした。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。(1) の情報があるが、このデータのみでは区分を特定できないため分類できないとした。なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 (6,185 ppm) の90%よりも低いため、ミストがほとんど混在しないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
【参考データ等】 (1) ラットのLC50 (4時間): > 500 ppm (Patty (6th, 2012)、NTP TR515 (2004)、IARC 88 (2006)) (2) 本物質の蒸気圧: 4.7 mmHg (20℃) (HSDB (Access on April 2020)) (飽和蒸気圧濃度換算値: 6,185 ppm)
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) 本物質のウサギを用いた24時間閉塞適用による皮膚刺激性試験 (適用量 2g/kg) において落屑、紅斑、亀裂、変色などがみられている。また、同様の別試験において軽度の紅斑及び落屑が7日間にわたって観察され、一次刺激性インデックス (PII) は0.6と報告されている。 (NTP TR515 (2004)、Patty (6th, 2012)、GESTIS (Access on April 2020)、HSDB (Access on April 2020))。
【参考データ等】 (2) 本物質のウサギを用いた24時間閉塞適用による皮膚刺激性試験において中等度の刺激性を示す (ECETOC TR 95 vol.II (2005))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1) より、区分2Aとした。
【根拠データ】 (1) 本物質のウサギを用いた眼刺激性試験において、可逆性の角膜混濁、一過性の結膜発赤及び浮腫、分泌物がみられ、重度の刺激性物質と結論されている (NTP TR515 (2004)、ECETOC TR 95 vol.II (2005)、Patty (6th, 2012)、GESTIS (Access on April 2020)、HSDB (Access on April 2020))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため、分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) OECD TG 406に準拠したモルモットを用いた皮膚感作性試験で陰性であった (GESTIS (Access on April 2020)、Patty (6th, 2012))。 (2) モルモットを用いた皮膚感作性試験 (マキシマイゼーション法) で感作性は認められなかった (ECETOC TR 95 vol.II (2005))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) より、専門家判断に基づき、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) in vivoでは、3ヵ月間吸入ばく露したマウスの末梢血を用いた小核試験で弱陽性の報告がある (IARC 119 (2019)、IARC 88 (2006)、NTP TR515 (2004))。本試験の陽性結果は非常に弱く、雄では観察されなかった (IARC 88 (2006))。 (2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性、陽性 (TA97で弱陽性) の報告、ほ乳類培養細胞を用いた染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験で陰性 (IARC 119 (2019)、IARC 88 (2006)、NTP TR515 (2004))、ヒト末梢血リンパ球を用いた染色体異常試験、L5178Yマウスリンパ腫を用いた遺伝子突然変異試験で陰性 (ECETOC TR 95 vol.II (2005)) の報告がある。
発がん性
【分類根拠】 (1)、(2) より区分2とした。
【根拠データ】 (1) 国内外の分類機関による既存分類では、IARCでグループ2B (IARC 119 (2019))、産衛学会で第2群B (産業衛生学会誌許容濃度の勧告 (2018年提案)) に分類されている。 (2) 雌雄のラット及びマウスに本物質を104週間吸入ばく露した発がん性試験において、ラットの雄で腎尿細管及び肝臓の腫瘍発生率が僅かに増加したことから、雄ラットには発がん性の曖昧な証拠 (equivocal evidence) があると結論された。雌ラットでは発がん性の証拠は得られなかった。また、マウスでは雌雄とも肝臓腫瘍の発生率の有意な増加がみられ、雌雄マウスには本物質の発がん性に関して明らかな証拠 (clear evidence) があると結論された (NTP TR 515 (2004))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ラットを用いた経口投与による1世代生殖毒性試験において、母動物に対する影響として投与後に流涎がみられる用量で、児動物にわずかな出生時体重の低値、わずかな生後4日生存率低下がみられているがいずれも有意差はみられていない (ECETOC TR 95 vol.II (2005))。 (2) 雌ラットの妊娠6~15日に吸入ばく露した試験において、母動物毒性 (蒼白、肝臓重量増加) がみられる用量においても胎児に影響はみられていない (IARC 88 (2006)、ECETOC TR 95 vol.II (2005))。 (3) 雌ウサギの妊娠7~19日に吸入ばく露した試験において、母動物毒性、胎児毒性ともにみられていない (IARC 88 (2006)、ECETOC TR 95 vol.II (2005))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 本物質のヒトでの単回ばく露に関する報告はない。実験動物では (1) の結果が得られていることから、区分3 (麻酔作用) とした。
【根拠データ】 (1) 本物質のラット経口投与試験では、2,239 mg/kg (区分2超の範囲) 以上で嗜眠、運動失調、虚脱及び不規則呼吸がみられた (NTP TR515 (2004)、Patty (6th, 2012))。
【参考データ等】 (2) 本物質のラット吸入ばく露試験では、2.68 mg/L (区分1の範囲) で肝臓での髄外造血がみられたとの報告があるが、それ以上の詳細は不明であることから分類の根拠としなかった。 (NTP TR515 (2004))。 (3) 本物質のウサギ経皮ばく露試験では、2,000 mg/kg (区分2の範囲) でばく露後14日間の観察期間に有害影響がみられなかったとの報告がある (NTP TR515 (2004))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 本物質のヒトでの反復ばく露に関する報告はない。(1)、(2) より、実験動物において区分2の用量で呼吸器、肝臓、腎臓への影響がみられたことから、区分2 (呼吸器、肝臓、腎臓) とした。情報の再検討により、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) マウスの104週間吸入ばく露試験 (蒸気、6時間/日、5日/週ばく露) では、600 ppm (90日換算2.52 mg/L相当、区分2超の範囲) で肝臓の小葉中心性肝細胞肥大、1,200 ppm (90日換算5.05 mg/L相当、区分2超の範囲) で鼻腔の呼吸上皮の扁平上皮化生がみられた (NTP TR515 (2004))。 (2) ラットの104週間吸入ばく露試験 (蒸気、6時間/日、5日/週ばく露) では、75 ppm (0.406 mg/L相当、区分2の範囲) で嗅上皮の硝子変性、さらに雄では肝臓の好塩基性細胞巣と慢性腎症がみられた。ラットでは雄に特有のα2u-グロブリン腎症が知られているが、慢性腎症の所見は雌においても1,200 ppm (6.49 mg/L相当、区分2超の範囲) 以上でみられていることから、α2u-グロブリン腎症とは無関係であることが示唆された (NTP TR515 (2004))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、(1)より、動粘性率は25℃で3.8 mm2/secと算出され、40℃の動粘性率が14 mm2/s以下であるが、その他の情報は得られなかった。
【参考データ】 (1)動粘性率が25℃で3.8 mm2/s(25℃での粘性率3.3 mPa・s(HSDB (Access on April 2020)) と密度0.872 g/cm3 (HSDB (Access on April 2020)) から算出)である。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。本有害性項目の内容に変更はない。