急性毒性
経口
雌雄ラットを用いた急性毒性試験(OECD TG 401, GLP)で、LD50値は693 mg/kg(雄)および856 mg/kg(雌)(厚労省報告(Access on Apr. 2012))に基づき、区分4とした。
経皮
データ不足。なお、List 3のデータとして、ラットのLD50値は1000 mg/kg(CERIハザードデータ集(2001))と記載されているが、詳細不明である。
吸入: ガス
GHSの定義における固体である。
吸入: 蒸気
データなし。
吸入: 粉じん及びミスト
ラットLC50値は1162 mg/m3(環境省リスク評価第5巻(2006))と報告されているが、ばく露時間が不明なため分類できない。なお、LC50値(1.162 mg/L)が飽和蒸気圧濃度(0.01 mg/L)より高いので、粉塵による試験とみなした。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギの背部皮膚に当該物質の3%溶液0.5 mLを適用し24時間後に皮膚反応を判定、この手順を4日間に3回繰り返し試験期間中に紅斑及び浮腫は観察されなかった(HSDB(2011))。また、ウサギを用いた別の試験で72時間後の皮膚一次刺激指数は0.2で軽度の刺激性(mildly irritating)と評価され(HSDB(2011))、また、当該物質はウサギの皮膚に軽度の刺激性(mild irritant)との記述(HSDB(2011))もあり、JIS分類基準の区分に該当しない(国連分類基準の区分3に相当)とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
データ不足。なお、List 3の情報として、ウサギの眼に100 mgを適用した試験で刺激性は中等度(moderate)(RTECS(2010))と報告され、また、ウサギの眼に2.5%の本物質(適用量不明)を適用した実験で刺激性を示す(CERIハザードデータ集(2001))と記載されている。
呼吸器感作性
データなし。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分1Aとした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。DFG MAK (2013)にて感作性知見が公表されたため、旧分類から皮膚感作性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)マウス(n = 4/群)を用いた局所リンパ節試験(LLNA)(OECD TG 429、GLP)において、1回目の刺激指数(SI値)は7.62(1%)、12.57(2.5%)、10.38(5%)、7.19(10%)、6.00(25%)、2回目のSI値は1.04(0.05%)、1.41(0.1%)、5.88(0.5%)、9.00(1%)であり、EC3値は0.24%と算出されたとの報告がある(DFG MAK (2013)、AICIS IMAP (2016)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。 (2)モルモットを用いたMaximisation試験(皮内投与:1%溶液)において、全例で感作性反応がみられたとの報告がある(DFG MAK (2013)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。
【参考データ等】 (3)マウス(n = 4/群)を用いた局所リンパ節試験(LLNA)(OECD TG 429)が4試験実施され、刺激指数(SI値)は濃度2.5%でそれぞれ2.8、3.1、2.8、3.3、濃度5%で3.5、7.6、6.1、7.1、濃度10%で5.7、9.7、8.1、6.7であったとの報告がある(DFG MAK (2013)、AICIS IMAP (2016)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。 (4)98名及び99名を対象とした二つの半閉塞反復侵襲パッチテストにおいて、98名を対象とした1つ目の試験では、惹起パッチに対する反応はみられなかった。99名を対象とした2つ目の試験では、身体の別の部位に追加のパッチ投与を行ったところ、2名の被験者が惹起パッチ適用後に反応を示した(AICIS IMAP (2016))。 (5)12の皮膚科を受診した2,939人の持続性湿疹患者を対象に本物質に対するパッチテストが実施された結果、被験者の1%が陽性反応を生じ、本物質は患者の皮膚に感作性を示すと考えられた(REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。 (6)DFGではShに分類している。
生殖細胞変異原性
雄ラットに交配前の19週間混餌投与した優性致死試験(生殖細胞 in vivo 経世代変異原性試験)において、陰性の結果(HSDB(2011))に基づき区分に該当しないとした。さらに、in vivo試験ではチャイニーズハムスターに腹腔内投与による骨髄細胞を用いた姉妹染色分体交換試験(体細胞in vivo遺伝毒性試験)で陰性(HSDB(2011))の報告がある。なお、in vitro試験として、エームス試験で概ね陰性(厚労省報告(2000))、チャイニーズハムスターの培養細胞(CHL細胞)を用いた染色体異常試験では陽性(厚労省報告(2000))の結果が報告されている。
発がん性
データ不足。なお、ラットおよびマウスの飲水による2年間の発がん性試験で、ラットでは雌で腫瘍の発生増加は認められず、雄で甲状腺における濾胞状腺癌および濾胞状腺腫と濾胞状腺癌を合わせた発生は増加傾向を示したが、がん原性を示す証拠としては不十分であった。マウスでは雌雄ともに腫瘍の発生増加は認められなかった(厚労省報告(2012))との報告がある。
生殖毒性
雌ラットに交配90日前から妊娠20日目まで混餌投与した試験で、生殖能および仔の生存または発生に悪影響は認められず(HSDB(2011))、さらに、ラットに本物質を0.7%含む毛染剤を三世代にわたり経皮投与した試験では、親動物の一般状態、受胎、妊娠、生存および出生の指標、仔の発生に各世代とも試験物質投与の影響は認められなかった(HSDB(2011))。一方、ウサギに本物質を0.7%含む毛染剤を交配4週間前から交配期間を通じて妊娠30日目まで経皮投与した試験で、投与群の胎児生存率がやや低く、胎児吸収率が対照群の2倍以上であり、異常に低い性比(雄/雌 = 0.7)を示した(HSDB(2011))との報告があるが、この報告は本物質を含む毛染剤での試験結果であり、影響が本物質によるものと断定できないためデータ不足で分類できない。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
ラットを用いた急性経口投与毒性試験(OECD TG401、GLP)において、700 mg/kg以上の投与群で死亡が発生し、500 mg/kg以上の投与群で投与日に振戦、流涎、褐色尿、腹臥、横臥、手足・耳介の蒼白等が認められた。剖検により死亡例でうっ血による脾臓の腫大、生存例では雌の700および1000 mg/kg群で脾臓の暗赤色化、腎臓の暗褐色化などが認められ、病理組織学的検査では、死亡例で脾臓のうっ血、雄で肝臓の限局性壊死、肝臓のクッパー細胞および腎臓の近位尿細管上皮への軽度な褐色色素の沈着、生存例でも、雌で肝臓のクッパー細胞、腎臓の近位尿細管上皮および脾臓への褐色色素の沈着が認められた(厚労省報告(Access on Apr. 2012))。以上の結果から、脾臓の腫大は赤血球系の障害による処理機能の亢進による変化とみられ、一般状態での手足・耳介の蒼白および尾の先端部暗紫色も溶血による貧血状態を反映した変化の可能性がある。また、肝臓および腎臓に沈着した褐色色素はヘモジデリンを含む赤血球系由来の色素であり、本物質投与により溶血が惹起されたと考えられる(厚労省報告(Access on Apr. 2012))と述べられている。試験用量は全てガイダンス値区分2の範囲にあることから、区分2(血液系)とした。なお、上記の肝臓の所見は、用量依存性がなく、死亡例で多く見られ、また500 mg/kg以上で見られた振戦などの神経系への影響は、LD50値に近い高用量であるため、肝臓、神経系共に非特異的な所見と判断し分類の根拠としなかった。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
雌ラットに90日間混餌投与(濃度0、0.1、0.25、1%)した結果、1%(約500 mg/kg/日)群で赤血球数およびヘモグロビン濃度の減少と平均赤血球容積の増加と共にヘモジデリン沈着が脾臓、肝臓、腎臓で見られ、溶血性影響が示された(環境省リスク評価 第5巻(2008))。また、ラットの28日間反復経口投与毒性試験(化審法ガイドライン、GLP)において、720 mg/kg/day(90日換算:224 mg/kg/day)投与群で、振戦および流延の症状、貧血、剖検での肝臓の暗褐色化、脾臓の暗赤色化、腎臓の暗褐色化、病理組織学的検査による腎臓に近位尿細管上皮の褐色色素沈着、脾臓にヘモジデリン沈着、肝臓にクッパー細胞の褐色色素の沈着および甲状腺に濾胞細胞の肥大が認められた(厚労省報告(Access on Apr. 2012))。以上の試験結果から、いずれも区分2のガイダンス値を超えた高用量で血液への影響が認められているが、本物質の急性ばく露および異性体でも血液への悪影響は示されおり、ヒトで大量の吸入によりメトヘモグロビン血症をおこすことがあるとの記載(環境省リスク評価 第5巻(2008))もあることから区分2(血液系)とした。
誤えん有害性*
データなし。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。