急性毒性
経口
GHS分類: 区分4 ラットのLD50値として、1,750 mg/kg (BUA 179 (1995)) との報告に基づき、区分4とした。
経皮
GHS分類: 区分外 ウサギのLD50値として、> 2,800 mg/kg (CICAD 49 (2003)) との情報に基づき、区分外とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない ラットの4時間吸入ばく露試験で、本物質の粉じんのLC50値として、> 0.17 mg/L (BUA 179 (1995)) との報告があるが、この値だけでは区分を特定できないので、分類できないとした。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分外 ウサギを用いた皮膚刺激性試験において、本物質に刺激性はみられなかったとの報告 (CICAD 49 (2003)、NITE初期リスク評価書 (2005)) から、区分外とした。なお、24時間適用において中等度から重度の発赤と軽度の浮腫を生じたとの報告 (CICAD 49 (2003)、NITE初期リスク評価書 (2005)) があるが、長時間適用の結果のため採用しなかった。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2B ウサギを用いた眼刺激性試験において、軽度の発赤と浮腫がみられたとの報告 (CICAD 49 (2003)、NITE初期リスク評価書 (2005)) から、区分2Bとした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 区分1 ヒトにおいて、本物質を主成分とする甲状腺抑制剤投与により生じた皮膚反応の事例、又本物質を用いた銀製品磨き作業で指頭や爪の下に痒みを伴う水疱が反復して生じた後に湿疹が顔面、額、鼻、口に広がった事例など、感作性を示す複数の事例報告 (環境省リスク評価第13巻 (2015)、CICAD 49 (2003)) があり、区分1とした。なお、モルモットを用いた皮膚感作性試験において陰性であるとの報告 (CICAD 49 (2003)、DFGOT vol. 14 (2000)) がある。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない ガイダンスの改訂により区分外が選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、ラットの骨髄細胞を用いた小核試験で陰性 (NITE初期リスク評価書 (2005)、CICAD 49 (2003))、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験で陽性、マウスリンフォーマ試験で陽性、陰性の結果、小核試験で陽性、姉妹染色分体交換試験で陰性である (NITE初期リスク評価書 (2005)、IARC 79 (2001)、CICAD 49 (2003))。
発がん性
GHS分類: 区分2 ラットに最長23.5ヵ月間飲水投与した試験では甲状腺濾胞細胞腺腫及びがんがみられたとの報告に対して、ラットに2年間混餌投与した試験、及びマウスに最長81週間投与した試験では甲状腺に過形成がみられただけで、腫瘍はみられなかったとの報告がある (IARC 79 (2001))。一方、ラットに最長26ヵ月間飲水投与した試験で外耳管及びマイボーム腺の類表皮がんがみられたとの報告、及びラットに14~23ヵ月間飲水投与した試験でジンバル腺やマイボーム腺に扁平上皮がんがみられたとの報告がある。いずれの報告も使用動物数が少なく、現在のプロトコール基準を満たす試験ではないとされた (IARC 79 (2001))。したがって、IARCは実験動物での発がん性の証拠は限定的として、グループ3に分類した (IARC 79 (2001))。これに対し、NTPは実験動物では発がん性の十分な証拠があるとして、Rに分類した (NTP RoC (14th, 2016))。その他、EUがCarc. 2に (ECHA CL Inventory (Access on June 2017))、日本産業衛生学会が第2群Bに (許容濃度の勧告 (2016): 1995年提案) 分類している。以上、試験結果及び既存分類結果を総合的に考慮して、区分2が妥当と判断した。
生殖毒性
GHS分類: 区分2 妊娠ラット又は妊娠マウスに母動物毒性を生じる1,000 mg/kgを単回強制経口投与 (妊娠12又は13日) した試験で、ラット、マウスともに胎児吸収率の増加がみられたとの報告、妊娠ラットに2,000 ppm を飲水投与 (妊娠1~14日) した試験で、胎児に成長遅延、中枢及び末梢神経系への影響、骨格への影響及び眼への影響がみられたとの報告、妊娠ラットに100及び250 mg/day (約350及び900 mg/kg/day) で妊娠18日~分娩後10日まで強制経口投与した試験で、児動物には100 mg/day以上で体重増加抑制、250 mg/dayで甲状腺機能低下と聴覚性驚愕反射の発達遅延がみられたとの報告がある (NITE初期リスク評価書 (2005)、環境省リスク評価第13巻 (2015))。以上、母動物毒性発現量、又は母動物毒性が不明な用量で、胎児毒性や胎児・新生児への発生・発達影響がみられており、区分2が妥当と判断した。なお、EUも本物質を Repr. 2 に分類している (ECHA CL Inventory (Access on June 2017))。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分3 (気道刺激性) ラットの単回経口投与試験において、区分2範囲の1,750 mg/kg付近で、動作緩慢、円背位、眼の淡色化が認められたとの報告がある (NITE初期リスク評価書 (2005)、BUA 179 (1995))。また、本物質の粉じんを用いたラットの4時間単回吸入ばく露試験で、区分1範囲の0.17 mg/Lで、不穏状態に続く動作緩慢、気道の刺激が認められたとの報告がある (NITE初期リスク評価書 (2005)、BUA 179 (1995))。気道刺激がみられたことから区分3 (気道刺激性) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (甲状腺)、区分2 (肝臓) ヒトについては、職業ばく露の例としてロシアの工場で機械の保守管理や包装などの作業中に本物質にばく露された労働者にみられた症状は、典型的な甲状腺機能低下症である顔面浮腫、低血圧、徐脈、基礎代謝量の低下を伴う心電図の変化、便秘、腹部膨満、多尿、リンパ球・単球の増加を伴った顆粒球減少であったとの報告がある (環境省リスク評価第13巻 (2015)、NITE初期リスク評価書 (2005))。本物質及びレゾルシノールを仕上げ部門で使用していた織物工場の男性労働者で甲状腺機能低下がみらればく露との関連性が示唆されたとの報告がある (環境省リスク評価第13巻 (2015))。また、本物質を甲状腺抑制剤として用いた場合の毒性影響の報告として、発熱24人、胃腸障害17人、発疹9人、白血球減少4人、関節痛及び筋肉痛4人、顆粒球減少1人、じん麻疹1人、リンパ節腫脹1人、浮腫1人、その他20人との報告があり、別の報告では、じん麻疹、吐き気、嘔吐、発熱等の感作を示す報告がある (環境省リスク評価第13巻 (2015))。
実験動物については、ラットを用いた混餌投与による2年間反復経口投与毒性試験において、区分2のガイダンス値の範囲内である0.05% (ガイダンス値換算: 25 mg/kg/day) 以上で甲状腺濾胞の過形成、0.1% (ガイダンス値換算: 50 mg/kg/day) 以上で甲状腺重量増加、肝細胞の肥大・構造の不規則化・胆管増生・肝細胞の空胞化や硝子様変性がみられたと報告がある (環境省リスク評価第13巻 (2015))。 以上から、ヒトでは主に甲状腺機能低下がみられ、実験動物では区分2のガイダンス値の範囲で甲状腺、肝臓に影響が認められている。したがって、区分1 (甲状腺)、区分2 (肝臓) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。