急性毒性
経口
GHS分類: 区分外
ラットのLD50値として、3,300 mg/kg、> 5,000 mg/kg、6,200 mg/kg、> 15,000 mg/kgとの報告 (EU-RAR (2008)) に基づき、区分外とした。
経皮
GHS分類: 区分外
ラットのLD50値として、> 400 mg/kg及び> 5,000 mg/kgとの2件の報告 (EU-RAR (2008)) がある。1件が分類できなく、1件が区分外であるので、区分外とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外
GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。なお、EU-RAR (2008) では、動物及びヒトに対して、揮発性コールタールピッチのばく露 (光との同時ばく露を含む) において、皮膚症状が生じるが、これらが皮膚刺激性に起因するものかを特定できないとしている (EU-RAR (2008))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。なお、コールタールピッチ (ヒューム、揮発物) の職業ばく露において、眼刺激性を有するものとして、眼に重篤な損傷のリスクがある (Xi, R41) と結論付けているEU-RAR (2008))。また、ウサギの眼に対してコールタールピッチ蒸留物を10μL適用した試験において、瞼の充血 (血管拡張)、流涙、僅かな粘液分泌が24時間後にみられたが回復したとの報告 (EU-RAR (2008)、IARC 35 (1985)) があるが、詳細不明である。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない
データ不足のため分類できない。なお、EU-RAR (2008) は、コールタールピッチ (揮発物) について、単独もしくは光との同時ばく露によって、ヒト及び動物に対して皮膚症状を生じさせるが、原因は皮膚刺激性、皮膚感作性、光感作性のいずれであるかを特定できないとしている。しかしながら、本物質はベンゾ[a] ピレン (皮膚感作性物質) を1.5%含有するので、EU-CLP規則に従い、皮膚感作性物質とみなすことを推奨している (EU-RAR (2008))。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 区分1B
本物質のIn vivoデータはなく、in vitroでは細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験、姉妹染色分体交換試験で陽性、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験で陰性である (ECHA RAC (2011)、EU-RAR (2008)、IARC 35 (1985)、IARC 100F (2012))。本物質は1.5%のベンゾ[a]ピレン (Muta Cat. 1B) を含有することから、混合物 (ベンゾ[a]ピレン 0.1%以上含有) による分類として区分1Bとした。
発がん性
実験動物ではマウスにコールタールピッチを経皮適用した6件の試験、及びコールタールピッチの抽出物を経皮適用した3件の試験全てにおいて、皮膚がんを含む皮膚腫瘍の発生が認められた (IARC 35 (1985)、IARC 100F (2012))。以上、IARCは舗装作業、屋根塗装作業に伴うコールピッチばく露によるヒトでの発がん性には十分な証拠があり、作業中の本物質は肺がんの原因物質となること、実験動物における本物質の発がん性も十分な証拠があるとして、グループ1に分類した (IARC 100F (2012))。その他、本物質 (揮発物含む) に対して、EUがピッチ、コールタール、高温 (Pitch, coal tar, high-temp) に対し、「Carc. 1A」 に (ECHA Termination of Evaluation (2014))、日本産業衛生学会がコールタール、コールタールピッチ揮発物に対し、「第1群」に (許容濃度の勧告 (2015)) 分類している。以上より、本項は区分1Aとした。
GHS分類: 区分1A
IARCは2010年にコールタールピッチ にばく露 (一部ビチューメン (アスファルト) と同時ばく露例を含む) された可能性がある舗装工事作業者、屋根職人では発がんリスクの増加が示唆されたとの疫学研究結果に基づき、道路舗装や屋根の作業中の本物質への職業ばく露はヒト発がん性の十分な証拠があると結論された (IARC 100F (2012))。特に、肺がんの過剰リスクが米国、英国の屋根職人又は舗装工事作業者を対象とした疫学研究の結果、明らかにされ、フィンランドとオランダの舗装作業者を対象とした発がん頻度の追跡研究においても確認された (IARC 100F (2012))。また、フランスでは1970年以前、ノルウェー及びスウェーデンでは1965年以前にコールタールを含むアスファルト混合物に初期にばく露された作業者の間で肺がんによる高い死亡率、発生率が報告されたが、アスファルトの品質改良により、2003年の報告では死亡率、発生率ともに有意な増加は示されなかった (IARC 100F (2012))。さらに、フィンランドの道路舗装作業者を対象とした研究ではコ-ルタールのばく露レベルを半定量的にランク付け (スコア-年数積) 解析された結果、肺がんの相対リスクが非ばく露群1に対し、低レベルばく露群で1.49、中レベルばく露群で10.7に上昇したとの記述もある (IARC 100F (2012))。
生殖毒性
GHS分類: 区分1B
本物質自体 (Coal-tar, Pitch, High Temperature (CTPHT)) のデータはない。EUはCTPHTの生殖影響を評価するのに利用可能でないデータとして、高温煮沸コール液 (high-boiling coal liquid)、コールタール派生産物及びクレオソートの試験データがあり、妊娠ラットを用いた発生毒性試験で母動物毒性発現量で胎児毒性がみられたが、分類には利用できないとした。しかし、本物質が1.5%以下のベンゾ[a]ピレン (Repr. 1B) を含んでおり、これを0.5%以上含む混合物として本物質の生殖毒性は Repr. 1B に分類提案された。EUのリスク評価委員会はこれを了承した (ECHA RAC Opinion (2011))。よって、本項の分類もEUに倣い、ベンゾ[a]ピレン (CAS番号: 50-32-8) の本項分類結果 (区分1B (H23年度)) に基づき、混合物 (ベンゾ[a]ピレン 0.3%以上含有) による分類として区分1Bとした。