急性毒性
経口
ラットLD50値は89 mg/kg bw(ACGIH (2001), SIDS(2006)), 220 mg/kg bw(SIDS(2006))及び120 - 300 mg/kg bw(SIDS(2006))。(GHS分類:区分3)
経皮
ウサギLD50値は735 mg/kg bw(ACGIH (2001), SIDS(2006))。(GHS分類:区分3)
吸入
吸入(粉じん・ミスト): データなし。(GHS分類:分類できない)
吸入(蒸気): ラットLC50値は0.45 mg/L/4h(86 ppm/4h)(SIDS(2006), ACGIH(2001)) 及び1.35 mg/L/4h(264 ppm/4h)(SIDS(2006))。なお、試験濃度(86 ppm)は飽和蒸気圧濃度(3950 ppm)の90%より低いので「ミストがほとんど混在しない蒸気」として気体の基準値を適用した。(GHS分類:区分1)
吸入(ガス): GHSの定義における液体である。(GHS分類:分類対象外)
皮膚腐食性・刺激性
ヒトボランティアの試験で、前腕部に無希釈液体を0.5-1時間接触させたところ強度の紅斑、浮腫、水泡の発生が認められた(SIDS(2006))との報告、及び本物質の液体及び蒸気はヒトに対して強度の皮膚腐食性を示す(SIDS(2006))。(GHS分類:区分1)
眼に対する重篤な損傷・刺激性
ウサギの眼に1滴の適用により、重度の角膜熱傷と永続的損傷を引き起こし、重度の眼刺激物であるとの報告(ACGIH (2001))。なお、本物質の液体および蒸気はヒトに対して強度の眼刺激性を示すと記載されている(SIDS(2006))。(GHS分類:区分1)
呼吸器感作性又は皮膚感作性
皮膚感作性:データなし。(GHS分類:分類できない)
呼吸器感作性:データなし。(GHS分類:分類できない)
生殖細胞変異原性
ラットの吸入ばく露による骨髄を用いた染色体異常試験(体細胞in vivo変異原性試験)で、陽性(SIDS(2006))。一方、ラットに2.5ヶ月間経口投与または吸入投与した優性致死試験(生殖細胞in vivo変異原性試験)でも陽性結果(SIDS(2006))の報告があるが、試験法や結果の詳細が不明である。従って体細胞への影響は明確であるが、生殖細胞に対する評価可能な知見が他にない。なお、ラットに2週間吸入投与した小核試験(OECD TG474、GLP準拠)(体細胞in vivo変異原性試験)は陰性と報告されている(SIDS(2006))。in vitro試験では、エームス試験及びCHO細胞を用いた遺伝子突然変異試験はいずれも陽性と報告されている(SIDS(2006), NTP DB(Access on Jan. 2011))。(GHS分類:区分2)
発がん性
発がん性分類はACGIHでA2(ACGIH-TLV (2006))、EUでCategory 2(EUAnnex 1(2006))。なおIARCではGroup 3(IARC 71(1994))に分類されている。(GHS分類:区分1B)
生殖毒性
ラットの器官形成期に吸入ばく露した発生毒性試験において、母動物が有意な体重増加抑制を示した高濃度群でも妊娠指標および仔の発生に悪影響はみられず、本物質は胎仔毒性も催奇形性もないと判断されている(SIDS (2006))。一方、雄ラットに2.5ヶ月間経口または吸入投与した試験において、精子形成上皮細胞の異常や壊死等に加え、無処置雌との交配後に着床前胚死亡の増加が報告されている(SIDS (2006))が、試験方法や結果の詳細について記述がなく、評価のための証拠資料として不十分であると記載されている(SIDS (2006))。したがって、性機能・生殖能に及ぼす影響についてデータ不十分であり、また、雌動物のばく露データもない。なお、ラットの妊娠期間中に吸入ばく露した別の試験で着床後死亡の増加が報告されている(SIDS (2006))。(GHS分類:データ不十分であり分類できない)
特定標的臓器・全身毒性(単回ばく露)
ラットの急性経口毒性試験において、119および297 mg/kgの用量で死亡の発生に加え、毒性症状として全例に攣縮、食欲不振及び脱力、また、ラットの急性吸入(蒸気)ばく露試験では、47 mg/Lの濃度で喘ぎを伴う痙縮、弛緩性麻痺の症状が観察され(SIDS (2006))、ばく露量がいずれもガイダンス値区分1に相当している。さらに、ラットの急性吸入(蒸気)ばく露試験で、0.364 mg/L以上の濃度で死亡例の発生、不規則呼吸、流涎、流涙が観察され、病理組織学的所見として肺の病変と出血、気管炎の記載(SIDS (2006))があり、別のラット吸入(蒸気)ばく露試験では0.15 mg/L以上で呼吸数の顕著な低下、2.13 mg/L/30min (0.75 mg/L/4h)以上で気管支上皮の損傷が観察され(SIDS (2006))、用量はいずれもガイダンス値範囲区分1に相当している。さらに、上記の吸入ばく露試験において、同時に、肝臓、脾臓、胸腺、リンパ節の細胞変性、腎臓障害などが観察され(SIDS (2006))、投与による影響が複数の臓器にわたり全身に及んでいる可能性もある。さらに、ヒトで経口および低濃度の吸入ばく露で中枢神経抑制、高濃度の吸入ばく露では急速に昏睡に至るおそれがある(HSDB (2009))。(GHS分類:区分1(呼吸器系、神経系、全身毒性)、区分3(麻酔作用))
特定標的臓器・全身毒性(反復ばく露)
ラットの4週間の蒸気による吸入ばく露試験で、気道上皮への影響が用量依存的に見られ、8および12 ppm/6h(90日換算:0.014および0.021 mg/L/6h)の投与群で鼻腔や気道、気管支粘膜に炎症および巣状性の潰瘍が認められた(SIDS(2006)、ACGIH(2001) )。また別のラットの19ヶ月を最長期間とした蒸気による吸入ばく露試験でも、1 ppm/6h(0.0052 mg/L/6h)投与群で、投与開始3ヶ月後に鼻腔の基底細胞過形成や鼻腔粘膜の巣状性の萎縮が見られた(SIDS(2006))。いずれも用量は区分1のガイダンス値内である。なお、ラットの26週間の経口投与で肝臓への影響の記載があるがリスト3(RTECS (2009))の情報であると共に詳細も不明であるため分類の根拠に採用しなかった。(GHS分類:区分1(呼吸器系))
吸引性呼吸器有害性
データなし。(GHS分類:分類できない)