急性毒性
経口
GHS分類: 区分3 ラットのLD50値として、50~100 mg/kg (産衛学会許容濃度の提案理由書 (1989))、50~149 mg/kg (EU-RAR (2008))、125 mg/kg (DFGOT vol. 9 (1998))、122~158 mg/kg (CICAD 21 (2000)) との報告に基づき、区分3とした。
経皮
GHS分類: 区分3 ウサギのLD50値として、> 310 mg/kgとの報告がある (EU-RAR (2008))。また、ウサギの経皮ばく露試験で致死量が620 mg/kgであったとの報告及び500 mg/kgでは死亡例はなかったが、1,000 mg/kgでは全例が死亡したとの報告がある (いずれもEU-RAR (2008))。これらの情報からLD50値は310~1,000 mg/kgの範囲に存在すると考えられ、区分3に該当する。したがって区分3とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 区分2 ラットの1時間吸入ばく露試験のLC50値として、189 ppm (4時間換算値: 95 ppm) (CICAD 21 (2000)、DFGOT vol. 9 (1998))、1,037 ppm (4時間換算値: 519 ppm) (CICAD 21 (2000)、EU-RAR (2008))、4時間吸入ばく露試験のLC50値として、0.6 mg/L (153 ppm) (EU-RAR (2008))、235 ppm (CICAD 21 (2000)、DFGOT vol. 9 (1998)、EU-RAR (2008))、6時間吸入ばく露試験のLC50値として、175 ppm (4時間換算値: 214 ppm) (CICAD 21 (2000)、DFGOT vol. 9 (1998)、EU-RAR (2008)) との計5件の報告がある。うち1件が区分1、3件が区分2、1件が区分3に該当する。件数の多い区分を採用して、区分2とした。なお、ばく露濃度が、飽和蒸気圧濃度 (2,917 ppm) の90%よりも低いため、ミストがほとんど混在しないものとして、ppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分2 ウサギを用いた2件の皮膚刺激性試験で、本物質500 mgを24時間適用した場合に刺激性ありとの記載及び本物質45~500 mg/kgを48時間適用した場合に軽度の刺激性との記載 (いずれもEU-RAR (2008)) や、ヒトの皮膚に対して刺激性を有するとの記載 (産衛学会許容濃度の提案理由書 (1989)、IARC 63 (1995)、CICAD 21 (2000)) から、区分2とした。なお、EU CLP分類において本物質はSkin Irrit. 2, H315 に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on August 2017))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2A ウサギを用いた眼刺激性試験で、0.09~1 mLの本物質の適用で角膜の混濁などの刺激性を認めたが9日後には回復したとの記述 (EU-RAR (2008))、本物質の10%水溶液の点眼で眼瞼と結膜に発赤と腫脹がみられたが、24時間後には回復したとの記載 (ACGIH (7th, 2001)) から、区分2Aとした。なお、EU CLP分類において本物質はEye Irrit. 2, H319 に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on August 2017))。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない モルモットを用いた2件の皮膚感作性試験 (ビューラー法及びマキシマイゼーション試験、いずれもOECD TG 406準拠) で、いずれの試験においても感作性は認められず、本物質はこの試験法での皮膚感作性はないと結論づけている (EU-RAR (2008))。 ヒトにおいては、長期のばく露により皮膚の感作を生じるとの記載 (産衛学会許容濃度の提案理由書 (1989)) がある。相反する情報があることから、分類できないとした。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない ガイダンスの改訂により区分外が選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、トランスジェニックマウスの肝臓を用いた遺伝子突然変異試験、マウスの骨髄細胞を用いた染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験、ラット及びマウスの肝臓細胞を用いた不定期DNA合成試験でいずれも陰性である(EU-RAR (2008)、IARC 63 (1995)、DFGOT vol. 9 (1998)、JECFA FAS 46 (Access on September 2017)、NTP DB (Access on August 2017))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性の結果が多いが陽性結果もあり、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験、染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験でいずれも陽性である(EU-RAR (2008)、IARC 63 (1995)、DFGOT vol. 9 (1998)、JECFA FAS 46 (2000)、NTP DB (Access on August 2017))。
発がん性
GHS分類: 区分2 ヒトでの発がんに関する情報はない。実験動物ではラット、マウスに2年間強制経口投与による発がん性試験において、ラットでは高用量 (60 mg/kg/day) で雄2/50例に胆管がんがみられ、背景データの発生率 (3/2,145 (0.1%)) より高く本物質投与による影響と判断された (NTP TR362 (1990)、IARC 63 (1995)、DFGOT vol. 9 (1998)、EU-RAR (2008))。マウスの試験では高用量 (175 mg/kg/day) で肝細胞腺腫、及び肝細胞がんの頻度増加が雄に、肝細胞腺腫の頻度増加が雌に認められ、同群の雌には加えて前胃乳頭腫の頻度増加がみられた (NTP TR362 (1990)、IARC 63 (1995)、DFGOT vol. 9 (1998)、EU-RAR (2008))。NTPでは発がん性は雄ラットである程度の証拠、雌ラットで証拠なし、雄マウスで明らかな証拠、雌マウスである程度の証拠と結論している (NTP TR362 (1990))。IARCはNTP以外の試験データも含めて、実験動物での発がん性の証拠は限定的としてグループ3に分類した (IARC 63 (1995))。これに対し、EUではCMRワーキンググループが本物質はカテゴリー3 (現行CLP分類ではCarc. 2に該当) に分類されると結論した (EU-RAR (2008))。また、ACGIHは本物質のNTP試験結果に加えて、本物質を主代謝物として産生するフルフリルアルコール (CAS番号 90-00-0) を用いた2年間吸入ばく露試験 (NTP TR482) において、雄ラットに鼻腔の腫瘍 (腺腫・がん・扁平上皮細胞がん) の増加がみられたことを根拠にA3に分類した (ACGIH (7th, 2017))。以上、IARCの分類より新しいEU及びACGIHの分類結果を採用し、本項は区分2とした。
生殖毒性
GHS分類: 分類できない 妊娠ラットに強制経口投与した発生毒性試験において、母動物では中用量 (100 mg/kg/day) で3/25例、高用量 (150 mg/kg/day) で16/25例の死亡が認められたが、胎児には150 mg/kg/dayでも胎児体重の低値がみられただけであった (EU-RAR (2008)、SIAP (2008))。この結果とNTPの2年間経口投与による発がん性試験で生殖器官への有害影響がみられていないことから、EUのCMRワーキンググループは本物質を生殖毒性物質として分類すべきでないと結論し (EU-RAR (2008))、SIAPにも同様に本物質は生殖毒性物質ではないと考えられるとの記述がある (SIAP (2008))。この他、ラットに最大300 mg/kg/dayを混餌投与した発生毒性試験で、母動物のLOAELである300 mg/kg/dayにおいても、胎児への影響は体重の低値のみであったとの記述がある (ACGIH (7th, 2017))。以上、発生毒性試験結果より本物質は重大な発生毒性を示さないと考えられるが、生殖能・性機能への影響を調べた試験成績がなく、データ不足のため分類できないとした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分1 (呼吸器、肝臓) ヒトでは本物質の単回吸入ばく露により、鼻と喉の刺激を生じるとの報告がある (DFGOT vol. 9 (1998)、CICAD 21 (2000)、ACGIH (7th, 2017)、EU-RAR (2008)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1989))。実験動物では、ラットにおいて区分1相当の50 mg/kgの単回経口投与で肝臓に散在性の好酸性滴状物と分裂期肝細胞数の有意な増加が認められ、投与6時間後に最も顕著であったが、その後は減少し、肝臓の壊死も死亡例もなかったとの報告がある (DFGOT vol. 9 (1998)、EU-RAR (2008))。また、ラットの単回吸入ばく露試験で、0.37 mg/L、1時間のばく露で肺に中程度のうっ血と血管周囲の水腫が認められたとの報告がある (IARC 63 (1995)、CICAD 21 (2000)、ACGIH (7th, 2017))。この試験の用量の4時間換算値は0.185 mg/Lであり、区分1に該当する。以上より、区分1 (呼吸器、肝臓) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (呼吸器、肝臓) ヒトについては、米国労働安全衛生研究所 (NIOSH) の調査で、グラファイト製造工場で本物質結合剤を使用した作業者に鼻出血、眼の灼熱感、鼻・喉の刺激、息切れ、胸の圧迫感、発疹、皮膚の灼熱感、日光過敏症がみられたと報告されている (高濃度で本物質に暴露された作業者の個人ばく露濃度は2~4.2 ppm)。また、本物質を含む樹脂を扱う別の工場の作業者では1.6~2.1 ppmの本物質にばく露され、頭痛、喉の刺激、眼の充血が報告されている (ACGIH (7th, 2017))。なお、換気の不適切なフルフラール工場の作業者に舌と口腔粘膜の知覚鈍麻、味覚の喪失、呼吸困難などの症状が認められたが、職場の環境濃度は不明であったとの報告がある (産衛学会許容濃度の提案理由書 (1989)、ACGIH (7th, 2001))。なお、この舌と口腔粘膜の知覚鈍麻、味覚の喪失等の報告についてはACGIH (7th, 2001) に記載があるが、その後に出されたACGIH (7th, 2017) には記載されていない。 実験動物については、ラットを用いた28日間吸入毒性試験 (6時間/日、5日/週) において、区分1のガイダンス値の範囲内 (蒸気) である20 mg/m3 (90日換算: 0.004 mg/L) 以上で鼻腔の呼吸上皮の扁平上皮化生、過形成がみられている (EU-RAR (2008))。また、ラットを用いた13週間経口投与毒性試験において、区分1のガイダンス値の範囲内である11 mg/kg/day (90日換算: 7.9 mg/kg/day) 以上で小葉中心性肝細胞空胞化がみられている (EU-RAR (2008)、NTP TR382 (1990))。 以上、ヒトで皮膚、粘膜、呼吸器に対する刺激性の影響のほか、舌と口腔粘膜の知覚鈍麻、味覚の喪失、呼吸困難等がみられているがこれについては、他に神経系に対する影響がみられないことから神経系に対する影響というよりは刺激性によるものと考えられる。また、実験動物で呼吸器、肝臓への影響が区分1のガイダンス値の範囲内でみられたことから、区分1 (呼吸器、肝臓) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、HSDB (Access on August 2017) に収載された数値データ (粘性率: 1.587 mPa・s (25℃)、密度: 1.1594 g/cm3 (20℃)) より、動粘性率は1.37 mm2/sec (25/20℃) と算出される。