急性毒性
経口
GHS分類: 区分4 ラットのLD50値として、800~1,600 mg/kg (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002))、1,410 mg/kg (SIDS (2007))、2,000 ㎎/㎏ (雄)、1,700 mg/kg (雌) (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002)) との報告に基づき、区分4とした。
経皮
GHS分類: 区分外 ウサギのLD50値として、2,000 mg/kg (雄)、2,500 mg/kg (雌) (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002))、5.0 mL/kg (4,036 mg/kg) (SIDS (2007))、5.0 mL/kg (4,036 mg/kg) (ACGIH (7th, 2002)) との4件の報告がある。最も多くのデータ (3件) が該当する区分外 (国連分類基準の区分5) とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 区分4 ラットのLC50値 (30分) として、26,000 ppm (4時間換算値: 9,200 ppm) との報告 (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002)) に基づき、区分4とした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (420,000 ppm) の90%より低いため、ミストを含まないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分2 ウサギを用いた2件の皮膚刺激性試験 (OECD TG 404、GLP準拠又はEPA TSCA ガイドライン、GLP適合) において、本物質の原液0.5 mLを適用した結果、前者の試験では軽度の紅斑がみられたが24時間以内に回復し (BUA 195 (1996))、後者の試験では壊死を伴う中等度から強度の刺激性がみられ4/6匹は14日後まで持続した (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002))。また、ウサギを用いた別の皮膚刺激性試験において、未希釈の本物質0.01 mLを適用した結果1/5匹に顕著な紅斑がみられたとの報告や (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002))、未希釈の本物質を24時間閉塞適用した結果、軽度から強度の刺激性がみられPII (一次刺激指数) は3.9だったとの報告がある (ACGIH (7th, 2002))。さらにモルモットを用いた刺激性試験の結果、強度の刺激性がみられたとの報告があるが回復性について記載はない (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002))。さらにヒトの報告では、アジアのボランティア12人に対して本物質の5分間のパッチテストを行った結果、5人に強度の紅斑、7人に弱い紅斑が見られたとの報告がある (ACGIH (7th, 2002))。以上の結果から区分2と判断した。なお、本物質は、EU CLP分類において「Skin. Irrit. 2 H315」に分類されている (ECHA CL Inventory (2015))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2 未希釈の本物質0.02 mL又は0.005 mLをウサギの結膜嚢に適用した結果、0.02 mL適用群で強度の眼傷害がみられ、0.005 mL適用群で中等度の刺激性がみられたとの報告があるが回復性については記載がない (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002))。また、別の報告ではウサギの結膜嚢に本物質0.01 mLを適用した結果、軽度の角膜外傷、中等度から強度の結膜刺激を伴う虹彩炎がみられたが10日以内に回復した (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002))。以上の結果から区分2とした。なお、未希釈本物質を一滴ウサギの角膜嚢に適用した結果、角膜混濁がみられ観察期間中に回復しなかったとの報告があるが (ACGIH (7th, 2002))、観察期間が不明であるため区分に用いなかった。本物質は、EU CLP分類において「Eye. Irrit. 2 H319」に分類されている (ECHA CL Inventory (2015))。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない ガイダンスの改訂により区分外が選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、マウス骨髄細胞の小核試験で陰性 (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002)、食品安全委員会_添加物評価書 (2010))、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験で陰性及び陽性の結果、染色体異常試験及び姉妹染色分体交換試験、不定期DNA合成試験で陽性の結果が報告されている (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2002)、食品安全委員会添加物評価書 (2010)、IRIS Summary (2008)、IRIS Tox. Review (2008)、NTP DB (2015))。
発がん性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
生殖毒性
GHS分類: 分類できない ヒトでの生殖毒性に関する情報はない。実験動物では、ラットの吸入経路での反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験 (OECD TG 422) において、親動物に毒性影響 (体重増加抑制 (雌のみ)、鼻腔嗅上皮の空胞化、萎縮 (雌雄)) がみられる用量 (最大1,500 ppm) で、生殖能への有害性影響はなく、F1児動物に生後0及び4日における生存率、及び体重には影響はみられなかった (IRIS Tox. Rev. (2008)、ACGIH (7th, 2002)、SIDS (2007))。また、妊娠ラット (7匹/群) に妊娠期間中 (妊娠0~20日)、吸入ばく露した発生毒性試験において、母動物に体重増加抑制がみられる用量 (1,000 ppm) を超える用量 (2,500 ppm) で、胎児重量の低値がみられたと報告されている (IRIS Tox. Rev. (2008)、ACGIH (7th, 2002)、SIDS (2007))。以上より、実験動物を用いた試験では明らかな生殖発生毒性影響は検出されていないが、前者はスクリーニング試験結果のため、この結果のみでは区分外にはできない。また、後者は母動物毒性が生じる用量で、発生毒性影響としては胎児重量の低値のみの最小限の影響と考えられ、分類ガイダンス上で分類の根拠とすべき所見ではないと判断された。以上、既知見からは分類可能な所見はないが、区分外とするにはデータ不足と判断し、本項は分類できないとした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分2 (呼吸器)、区分3 (麻酔作用) 本物質は気道刺激性及び麻酔作用がある (ACGIH (7th, 2002))。実験動物では、ラットの吸入ばく露で、気管支炎、気管支肺炎、肝臓及び腎臓の充血の報告があり (ACGIH (7th, 2002))、その症状は区分2相当でみられた。この肝臓、腎臓の充血について詳細な情報は記載がなかった。 以上より、区分の対象となる情報は、呼吸器への影響と麻酔作用であり、区分2 (呼吸器)、区分3 (麻酔作用) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分2 (呼吸器) ヒトに関する情報はない。 実験動物では、ラットを用いた吸入経路での反復投与・生殖発生毒性併合試験において、区分2に該当する150 ppmの52日間吸入ばく露 (ガイダンス値換算: 88.3 ppm = 0.21 mg/L (蒸気)) で鼻腔の嗅上皮細胞の空胞化がみられ、回復性がみられた (ACGIH (7th, 2002)、IRIS Tox. Review (2008)、SIDS (2007))。 経口経路では、ラットを用いた90日間強制経口投与毒性試験において、区分2を超える範囲である1,000 mg/kg/dayで、体重増加抑制、食道~空腸の壊死あるいは潰瘍・細胞浸潤・出血等、精巣の精細胞減少、精母細胞の変性、尿pHの低値、尿細管上皮細胞の変性・壊死・好塩基性化がみられた (食品安全委員会添加物評価書 (2010))。 なお、旧分類では吸入経路での反復投与・生殖発生毒性併合試験が生殖毒性試験のスクリーニング試験であること、他の試験では90 ppmで毒性影響がみられていないことを根拠として、データ不足により分類できないとしていた。しかし、この反復投与・生殖発生毒性併合試験は単なる生殖毒性のスクリーニング試験ではなく、反復投与毒性の検出も目的とした試験であること、また、毒性のみられなかった試験のばく露条件は90 ppmを20回ばく露した結果であり、ばく露条件からの換算値は0.048 mg/Lとなり、併合試験で影響の出た用量に比べて低いことから併合試験の結果を否定する根拠とはならない。 以上のように吸入経路では区分2に該当する濃度で鼻腔の嗅上皮細胞の空胞化がみられたことから、区分2 (呼吸器) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、HSDB (2015) に収載の数値データより、動粘性率計算値は0.37 mm2/sec (26.7/25℃) (粘性率: 0.3167 mPa・s; 密度: 0.8657 g/cm3) と算出される。