急性毒性
経口
ラットの経口LD50値として、300 mg/kg (ECETOC TR33 (1989))、275 mg/kg (雌)、325 mg/kg (雄) (NITE初期リスク評価書 (2008)) の3件の報告がある。うち、2件が該当する区分3とした。なお、硫酸ニッケル・無水物 (CAS番号 7786-81-4) のラットのLD50値は46 mg/kg (雄)、39 mg/kg (雌 ) (区分2に該当) (ATSDR (2005))、500 mg/kg (区分4に該当) (ECETOC TR33 (1989))、 275 mg/kg (区分3に該当) (ECETOC TR33 (1989))、 325mg/kg (区分4に該当) (ECETOC TR33 (1989)) の報告がある。
経皮
データ不足のため分類できない。
吸入:ガス
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
データ不足のため分類できない。なお、NITE初期リスク評価書 (2008) にはウサギを用いた試験で皮膚刺激性は認められなかったとの記述がある。しかしガイドラインに準拠した試験であるか不明で、その他に情報が無いことから、分類できないとした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
データ不足のため分類できない。NITE初期リスク評価書 (2008) には1件の試験結果が報告されており、刺激性はみられなかったとの記述があるが、ガイドラインに準拠した試験であるか不明で、その他に情報が無いことから、分類できないとした。
呼吸器感作性
呼吸器感作性:NITE初期リスク評価書 (2008) には、数は少ないが硫酸ニッケルについて喘息発症の例が報告されている。ニッケル及びニッケル無機化合物として、産衛学会勧告 (2013年度) で気道感作性物質 (第2群) に分類され、EU DSD分類において「R42」、EU CLP分類において「Resp. Sens. 1 H334」に分類されている。以上のことから、区分1とした。
皮膚感作性
皮膚感作性:NITE初期リスク評価書 (2008) には、モルモットを用いたマキシマイゼーション試験などの結果が複数記載されているが、結果はいずれも感作性を示し陽性結果が得られている。ヒトの疫学調査あるいは症例報告においても複数の陽性結果の記載がある。ニッケル及びニッケル無機化合物として、産衛学会勧告 (2013年度) で皮膚感作性物質 (第1群) に分類され、EU DSD分類において「R43」、EU CLP分類において「Skin Sens. 1 H317」に分類されている。以上のことから、区分1とした。
生殖細胞変異原性
分類ガイダンスの改訂により「区分外」が選択できなくなったため、「分類できない」とした。すなわち、硫酸ニッケル・6水和物は、マウス骨髄MNでの陰性知見がある (Mutat. Res., 1997)。当該論文では、硫酸ニッケル・6水和物、塩化ニッケル・6水和物、酸化ニッケル (Ⅲ) いずれもMN陰性であった。硫酸ニッケル (無水物か6水和物か不明) に関するin vivoの試験データでは、ラット精原細胞の染色体異常試験、ラット及びマウス骨髄細胞の小核試験、ラット骨髄細胞の染色体異常試験で陰性と報告されている (NITE初期リスク評価書 (2008)、ATSDR (2005))。一方、マウスの小核試験、マウス及びラットのDNA損傷試験で陽性結果がある (NITE初期リスク評価書 (2008)) が、ATSDR (2005) ではこれについて評価されていない。in vitro試験では、本物質と特定できるデータが細菌の復帰突然変異試験の陰性結果と哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験の陽性結果のみである (NTP DB (Access on August 2013))。硫酸ニッケル (無水物か6水和物か不明) では、細菌の復帰突然変異試験は陰性、哺乳類培養細胞の染色体異常試験、遺伝子突然変異試験は陽性の結果である (NITE初期リスク評価書 (2008)、ECETOC TR 33 (1989)、ATSDR (2005))。以上より、in vitroの試験データからは陽性と判断されるが、in vivo試験で陰性結果が示唆されていることから分類できないとした。なお、硫酸ニッケル (CAS番号 7786-81-4) は区分外に分類されている。
発がん性
本物質の無水物である硫酸ニッケルは、IARCでニッケル化合物としてグループ1 (IARC (2012))、EU DSD分類は「Carc. Cat. 1; R45」、EU CLP分類は「Carc.1A H350i」、日本産業衛生学会では第2群B (産衛学会勧告 (2013))、NTPではK (NTP (2002)) 、ACGIHは水溶性ニッケル化合物としてA4 (ACGIH (1996)) に分類している。また、NTP TR454 (1996) では、2年間吸入試験でラット、マウスとも腫瘍の増加なしとしている。以上の情報より、年号重視によりIARC (2012) の分類を採用し、区分1Aとした。
生殖毒性
データ不足のため分類できない。なお、ラットを用いた経口経路 (強制) での2世代生殖毒性試験、3世代生殖毒性試験において、生殖、発生毒性に関する影響はみられていない (NITE初期リスク評価書 (2008))。しかし、催奇形性についての十分なデータは得られていないことから、データ不足のため分類できないとした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
データ不足のため分類できない。なお、二才半の少女が硫酸ニッケル無水物5 gを誤飲した事例では、4時間後心不全となり8時間後死亡した。病理検査では、胃腸管に刺激性変化がみられた (NITE初期リスク評価書 (2008)、ECETOC TR 33 (1989))。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
ラットに90日間飲水又は強制経口投与、並びにラットに2年間強制経口投与した各試験において、区分2のガイダンス値の範囲内の用量 (15-30 mg/kg/day) で、体重増加抑制、死亡率増加がみられたが、腎臓など一部の臓器に重量変化が示されたものの、病理組織学的変化を示した臓器はなかった (NITE初期リスク評価書 (2008))。また、ラット又はマウスに90日間又は2年間吸入ばく露した試験では、区分1の範囲内の濃度 (ガイダンス値換算濃度:0.0002 mg/L 以下) から、肺や気管支に炎症性変化、嗅上皮の萎縮などがみられた (NITE初期リスク評価書 (2008)、NTP TR454 (1996)、ACGIH (7th, 2001)) との記述があり、区分1 (呼吸器) とした。さらに、ラットに30日間経皮ばく露した試験において、区分2に該当する用量 (ガイダンス値換算:20-30 mg/kg/day) で、適用部位の皮膚以外に肝臓 (肝細胞腫張、肝臓の部分的壊死、類洞の膨張とうっ血)、精巣 (精細管の水腫、変性) に毒性変化が認められた (NITE初期リスク評価書 (2008))。以上より、区分1 (呼吸器)、区分2 (肝臓、精巣) に分類した。
吸引性呼吸器有害性
データ不足のため分類できない。