急性毒性
経口
ラットLD50値:2830mg/kg(ACGIH 7th, 2001、DFGOT vol.1, 1992)および2130mg/kg(NTP TR 362, 1989)に基づき、区分5とした。
経皮
ウサギLD50値:680mg/kg(ACGIH 7th, 2001、DFGOT vol.1, 1992、NTP TR 362, 1989)に基づき、区分3とした。
吸入: ガス
GHSの定義による液体。
吸入: 蒸気
【分類根拠】
データ不足のため分類できない。なお、旧分類で分類に使用したデータはミストによる試験と判断し、急性毒性(吸入:粉じん、ミスト)の項目で分類を実施した。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】
(1)より、区分4とした。なお、ばく露濃度は飽和蒸気圧濃度(0.76 mg/L)より高いため、ミストと判断した。新たな知見に基づき分類結果を変更した。旧分類からEUで急性毒性(吸入)のGHS区分が変更されたことに伴い、急性毒性項目を見直した(2022年度)。
【根拠データ】
(1) ラットのLC50(4時間):800 ppm(4.6 mg/L)(CLH Report (2019)、AICIS IMAP (2018)、ACGIH (7th, 2001)、NTP TR362 (1987))
【参考データ等】
(2)ラットのLC50(8時間):> 128 ppm(4時間換算値:> 256 ppm (>1.47 mg/L))(CLH Report (2019)、AICIS IMAP (2018)、ACGIH (7th, 2001)
(3)EUでは区分4に分類されている(CLP分類結果 (Accessed July 2022))。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ACGIH(7th, 2001)およびNTP TR 362(1989)のウサギの皮膚に適用した試験において浮腫および紅斑が認められたとの記述、ならびにPATTY(4th, 1994)のウサギを用いたDraize testにおいて重度の刺激性が認められたとの記述から、区分2とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ACGIH(7th, 2001)のウサギの眼に適用した試験において重度の刺激性(highly irritating)が認められたとの記述から、区分2Aとした。
呼吸器感作性
データなし。
皮膚感作性
ACGIH(7th, 2001)、PATTY(4th, 1994)およびIARC 60(1994)にアレルギー性接触皮膚炎の1症例についての記述があるが、いずれも同一症例の記述であり、判定基準に適合しないことから、データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
in vivo試験の結果はなく、ほ乳類培養細胞を用いた染色体異常試験および遺伝子突然変異試験、ならびに細菌を用いた復帰突然変異試験で陽性の結果がある(ACGIH 7th, 2001、DFGOT vol.1, 1992、IARC 60, 1994、NTP DB, 2005)が、元文献を調査した結果、in vitroの変異原性試験は複数の指標で強い陽性であるとは断定できないことから、分類できないとした。
発がん性
【分類根拠】
(1)、(2)より、動物種2種において発がん性の証拠があることから区分1Bとした。新たな知見に基づき分類結果を変更した。旧分類からEU、DFGで新たな分類がされたため、発がん性項目を見直した(2022年度)。
【根拠データ】
(1)ラットを用いた経皮投与(5日/週、105週間)による2年間発がん性試験において、雌雄ともに低及び高用量群で皮膚の扁平上皮癌及び基底細胞腺腫とがんを組合せた発生率の増加がみられ、発がん性を示す明らかな証拠と報告されている。なお、投与群の数例の動物では皮膚悪性腫瘍の肺や他臓器への転移がみられた(NTP TR362 (1989)、IARC 60 (1994)、ACGIH (7th, 2001))、AICIS IMAP (2016))。
(2)マウスを用いた経皮投与(5日/週、103週間)による2年間発がん性試験において、雌雄ともに低用量以上で皮膚の扁平上皮癌の用量依存的な増加、雌では中用量以上で卵巣腫瘍(顆粒膜細胞腫瘍/良性の混合腫瘍/黄体腫)を組合せた発生率の増加、細気管支-肺胞上皮の腺腫とがんを組合せた発生率の増加がみられ、発がん性を示す明らかな証拠と報告されている。なお、高度の退形成性細胞を含む皮膚悪性腫瘍がみられる動物ではリンパ節や内臓への転移がみられた(NTP TR362 (1989)、IARC 60 (1994)、ACGIH (7th, 2001))、AICIS IMAP (2016))。
(3)国内外の評価機関による既存分類結果として、EUでは(1)、(2)より2種の雌雄ともに適用部位皮膚に良性及び悪性腫瘍がみられたこと、適用部位から離れた遠隔部位(マウスの卵巣)に腫瘍発生がみられたこと、腫瘍発生までの潜伏期間と投与量に逆相関がみられること、全身毒性や皮膚に非腫瘍性病変が重篤でない用量から腫瘍がみられたことから、Carc. 1B(CLP分類結果 (Accessed July 2022))、DFGでカテゴリー2(List of MAK and BAT values 2020 (Accessed July 2022))にそれぞれ分類されている。その他、IARCでグループ2B(IARC 60 (1994))、日本産業衛生学会で第2群B(2021)、ACGIHでA3(ACGIH (7th, 2001))、NTPでR(NTP RoC 15th. (2021))に分類されている。
生殖毒性
【分類根拠】
(1)~(6)より、動物実験で生殖毒性が認められており、区分1Bとした。(1)~(4)より、本物質をヒトに妥当ではないばく露経路で投与したラット、サルで卵巣への有害影響が認められており、(5)より、ラット、マウスを用いた経口及び経皮経路による反復ばく露試験では、主に全身毒性がみられる高用量で雌雄生殖器に有害性影響がみられる。また(6)より、想定される作用機序から実験動物での知見はヒトにも当てはまる可能性は排除できないとされている。
【根拠データ】
(1)雌サル4頭(1頭/用量)に本物質、80~250 mg/kg/dayを15日間筋肉注射した結果、原始卵胞~二次卵母細胞までの卵胞細胞が160 mg/kg/dayで50%減少、250 mg/kg/dayでほぼ完全に消失したとの報告がある(CLH Report (2018))。
(2)雌サル8頭の片側卵巣を切除し、反対側の卵巣の隣接部位に本物質200 mgを含む生分解性繊維を移植留置した。30日後に剖検した結果、処置群では原始卵胞の約70%減少及び抗ミューラー管ホルモン(AMH:卵胞数の血清マーカー)の83%低下がみられた。次に雌サル29頭の両側卵巣の周囲に本物質200 mgを含む生分解性繊維を移植留置した(卵巣は非切除)。外科処置4ヵ月後に、AMHは処置前のベースライン値(14.1 ng/mL)と比べ56%低下(6.24 ng/L)し、うち3例では3 ng/mL以下に低下していたとの報告がある(CLH Report (2018))。
(3)雌ラットに本物質80 mg/kg/dayを30日間腹腔内投与した結果、卵巣の原始卵胞の大半が破壊された。卵胞や原始卵胞は胎児の発生過程で形成され、原始卵胞・一次卵胞の破壊は卵巣機能の喪失を生じる(早期閉経状態)との報告がある((CLH Repot (2018))、AICIS IMAP (2016))。
(4)別の雌ラットに最大80 mg/kgを反復腹腔内投与した結果、卵胞数と着床胚数の減少、着床率の低下を生じた(AICIS IMAP (2016)、CLH Repot (2018))。
(5)ラット及びマウスを用いた13週間経口投与試験、13週間及び2年間経皮投与試験において、雌雄生殖器官に有害影響(精巣の変性、卵巣・子宮の萎縮等)がみられた。これらの影響は全身毒性がある用量でみられたが、全身毒性による二次的影響ではないと考えられ、(6)において提唱されている作用機序はヒトにも当てはまると考えられるとの報告がある(ECHA RAC Opinion (2019))。
(6)サル、ラットでみられた本物質の卵巣への有害影響は間接的な作用機序(視床下部-下垂体系を介する等)ではなく、直接的な作用でアポトーシス誘導による自然な退縮を促進する機序、酸化的傷害が提唱されており、他にも本物質が卵細胞のKIT受容体を阻害し、卵細胞を自然消滅させるように働く機序も指摘されている(EU CLP CLH (2019)、AICIS IMAP (2016))。KITシグナルパスウェイはヒトの卵細胞の成熟にも関与している可能性のあることから、実験動物での知見はヒトにも当てはまる可能性は排除できない(EU CLP CLH (2019))。
【参考データ等】
(7)EUではRepr. 1Bに分類されている(CLP分類結果 (Accessed July 2022))。