急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(4) より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 2,920 mg/kg (ACGIH (7th, 2018)、ATSDR (1992)、PATTY (6th,2012)、HSDB (Access on September 2019)) (2) ラットのLD50: 3,470 mg/kg (ACGIH (7th, 2018)、ATSDR (1992)、DFGOT vol.21 (2005)、EU-RAR (2008)) (3) ラットのLD50: 2,900 mg/kg (環境省リスク評価第2巻 (2003)) (4) ラットのLD50: 1,600 ~3,480 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2005))
経皮
【分類根拠】 (1)~(4) より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1) ウサギのLD50: 8.0 mL/kg (7,440 mg/kg) (ACGIH (7th, 2018)、ATSDR (1992)、DFGOT vol.21 (2005)、EU-RAR (2008)) (2) ウサギのLD50: 2,335 mg/kg (PATTY (6th, 2012)、HSDB (Access on September 2019)) (3) ウサギのLD50: 2.5 mL/kg (2,325 mg/kg) (ACGIH (7th, 2018)、ATSDR (1992)) (4) ウサギのLD50: 2,335~7,470 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2005))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における液体であり、ガイダンスの分類対象外に相当し、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 (1)~(5) より、区分4とした。 なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (118,693 ppm) の90%より低いため、ミストがほとんど混在しないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
【根拠データ】 (1) ラットのLC50 (4時間): 3,680 ppm (ACGIH (7th, 2018)、ATSDR (1992)、PATTY (6th,2012)、HSDB (Access on September 2019)) (2) ラットのLC50 (4時間): 4,490 ppm (ACGIH (7th, 2018)、ATSDR (1992)) (3) ラットのLC50 (4時間): 15.8 mg/L (4,487.3 ppm)、14.1 mg/L (4,004.5 ppm) (EU-RAR (2008)) (4) ラットのLC50 (4時間): 3,200~4,490 ppm (NITE初期リスク評価書 (2005)) (5) ラットのLC50 (4時間): 11,400 mg/m3 (3,237.7 ppm) (環境省リスク評価第2巻 (2003))
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)~(4) より、ヒトの事例を優先し、区分2とした。
【根拠データ】 (1) 作業者の事例では本物質へのばく露による刺激性がみられてお入り、長期のばく露では水疱を生じる (ATSDR (1992)、HSDB (Access on September 2019))。 (2) 本物質 (0.5 mL) をウサギの適用により軽度の浮腫が観察された (ATSDR (1992))。 (3) ウサギを用いた皮膚刺激性試験で軽度の刺激性が認められた (EU-RAR (2008)、NITE初期リスク評価書 (2005)、PATTY (6th, 2012))。 (4) 本物質は粘膜・皮膚を刺激し、高濃度では皮膚脱脂作用がある (環境省リスク評価第2巻 (2003))。
【参考データ等】 (5) OECD TG 404に準拠したウサギを用いた皮膚刺激性試験で24/48/72hの平均スコアは全て<0.67 であり、72時間後には全ての反応は消失した (REACH登録情報 (Access on October 2019))。 (6) ウサギに本物質 (適用量不明) を5~15分適用した皮膚刺激性試験で軽度の紅斑、20時間適用では1日後に軽度の紅斑と浮腫がみられている (DFGOT vol.21 (2005))。 (7) Draize法に従い、ウサギに本物質0.5 mLを24時間適用した皮膚刺激性試験で浮腫 (スコア4)、皮下出血が適用除去 4/24/72 hにみられている (DFGOT vol.21 (2005))。 (8) ウサギに本物質を 8 mL/kgを24時間 適用した実験では動物は 2日以内に死亡し、適用部位は壊死していた (DFGOT vol.21 (2005))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)~(5) より、ヒトの事例を優先し、区分2とした。
【根拠データ】 (1) 本物質はヒトにおいて21.6 ppmで眼と喉への刺激が報告されている (ACGIH (7th, 2018)、HSDB (Access on September 2019))。 (2) ウサギを用いた眼刺激性試験で軽度の刺激性が認められた (EU-RAR (2008)、PATTY (6th, 2012))。 (3) 本物質は高濃度で結膜に刺激性を有する (DFGOT vol.5 (1993))。 (4) 気化した本物質及び直接のばく露は眼に刺激性を示す (ATSDR (1992))。 (5) 本物質 (1~2滴) をウサギの眼に適用した眼刺激性試験で角膜混濁、結膜発赤、重度の結膜浮腫が24時間後にみられたが、8日以内に回復した (DFGOT vol.21 (2005))。
【参考データ等】 (6) OECD TG 405に準拠したウサギを用いた眼刺激性試験で24/48/72hの角膜、虹彩、結膜発赤、結膜浮腫の平均スコアは結膜発赤のみ0.33であったが、他は全て0であった (REACH登録情報 (Access on October 2019))。 (7) 本物質 (0.5 mL) のウサギの眼への適用は重度の刺激性を示す (ACGIH (7th, 2001)、NITE初期リスク評価書 (2005))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) OECD TG 429に準拠したマウス局所リンパ節試験 (LLNA) において、SI値は3未満であり、陰性と判定された (REACH登録情報 (Access on November 2019) 、ACGIH (7th, 2018)、EU-RAR (2008))。
【参考データ等】 (2) 本物質はモルモットの感作性試験 (ビューラー法) において中等度の感作性を示す (ACGIH (7th, 2018)、DFGOT vol.21 (2005)、(EU-RAR (2008))、NITE初期リスク評価書 (2005))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) in vivoでは、腹腔内投与又は吸入ばく露による多くのマウス、ラットの骨髄及びマウス精原細胞の小核試験で陰性の報告があるが、腹腔内投与のラット骨髄小核試験は証拠の重み付けにより、総合的に陽性と評価される。また、ラット骨髄の染色体異常試験及び姉妹染色分体交換試験では陽性の報告がある (ATSDR (1992)、DFGOT vol.5 (1993)、IARC 63 (1995)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol.21 (2005)、NITE初期リスク評価書 (2005)、EU-RAR (2008))。 (2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性、哺乳類培養細胞の染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験及びマウスリンフォーマ試験で陽性の報告がある (ATSDR (1992)、DFGOT vol.5 (1993)、IARC 63 (1995)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol.21 (2005)、NITE初期リスク評価書 (2005)、EU-RAR (2008)、PATTY (6th, 2012))。
【参考データ等】 (3) EU-RAR (2008) では、in vivo試験の結果について、大部分が信頼性が低い試験であり、最も重要なマウス骨髄小核試験の陽性結果は高毒性の腹腔内投与の場合に限定されていることから、本物質の遺伝毒性がヒト生殖細胞で発現することは考えにくいと結論づけられている (EU-RAR (2008))。 (4) NITE初期リスク評価書 (2005) では、in vivo、in vitroの試験結果より、本物質は遺伝毒性を有すると判断されている (NITE有害性評価書 (2005))。
発がん性
【分類根拠】 ヒトでの発がん性の情報は、(6) に限られている。 適切な試験ガイドラインとGLP基準に準拠して実施された (1) 及び (2) において、動物種2種に悪性腫瘍を含む明らかな発がん性の証拠が認められたことから、区分1Bとした。 既存分類は、(4) のとおり分類されているものの、適切な試験ガイドラインとGLP基準に準拠して実施された厚労省のがん原性試験 (1) 及び (2) において、動物種2種に悪性腫瘍を含む明らかな発がん性の証拠が認められ、有害性評価小検討会の審議を経てヒトにおける懸念から同省が指針を出したことを重視した。
【根拠データ】 (1) ラットを用いたがん原性試験 (2年間飲水投与) で、雄投与群に口腔の扁平上皮がんと扁平上皮乳頭腫、雌投与群に口腔と食道の扁平上皮がんの発生増加がみられた (厚労省委託がん原性試験結果 (Access on September 2019))。 (2) マウスを用いたがん原性試験 (2年間飲水投与) で、雌雄の投与群に口腔と胃の扁平上皮がん、扁平上皮乳頭腫、食道と喉頭の扁平上皮がんの発生増加が認められた (厚労省委託がん原性試験結果 (Access on September 2019))。 (3) ラットに2年間吸入ばく露した試験で、鼻腔の扁平上皮がん、扁平上皮乳頭腫、上皮内がんの発生が認められた (IARC 63 (1995)、EU-RAR (2008)、ACGIH (7th, 2018)、厚労省初期リスク評価書 (2010)、環境省リスク評価第2巻 (2003)、NITE初期リスク評価書 (2005))。 (4) 国内外の分類機関による既存分類としては、IARCがグループ2B (IARC 65 (1995))、EU CLPでCarc. 2、日本産業衛生学会が2B (1998年提案)、ACGIHがA3 (ACGIH (7th, 2018)) にそれぞれ分類している。なお、IARCの評価には (1) 及び (2) の結果は含まれていない。
(5) 本物質は労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき、厚生労働大臣が定める化学物質による労働者の健康障害を防止するための改正指針の対象物質である (平成24年10月10日付け健康障害を防止するための指針公示第23号)。
【参考データ等】 (6) ヒトの発がん性に関して、本物質を含む19種類の物質に1942~1973年にばく露された男性作業者のコホート調査で未分化大細胞肺がんが本物質への累積ばく露がわずかに高いことに関連するという報告 (IARC 63 (1995)、EU-RAR (2008)、ACGIH (7th, 2018))、2化学品製造施設の従業員の非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、リンパ性・非リンパ性白血病による1940~1978年の死亡と本物質ばく露との関連性を示唆した米国のコホート内症例対照研究の報告がある (IARC 63 (1995)、EU-RAR (2008)、ACGIH (7th, 2018)、環境省リスク評価第2巻 (2003))。 (7) マウスの雌雄とそのF1に78週間飲水経口投与した継代試験で、食道、前胃に上皮性悪性腫瘍の増加がみられた (ACGIH (7th, 2018))。 (8) 3系統の雌雄ラットとそのF1に104週間飲水経口投与した継代試験で、F1に口腔、食道、前胃などのがんが増加した。F344ラットは死亡が多くばく露期間は100週までだが、新生物の増加がみられた (ACGIH (7th, 2018))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)~(3) より、生殖毒性について評価書での評価に差がみられるが総合的に判断して分類できないとした。データを見直したことから旧分類から分類結果が変更となった。
【根拠データ】 (1) ラットを用いた飲水投与による2世代生殖毒性試験において、親動物に嗜好性による飲水量の低下とそれに起因した体重増加抑制がみられる用量で、わずかな妊娠率低下と児動物の体重増加抑制がみられている。なお、妊娠率の低下は交叉交配の結果、雄動物の生殖能に関係し、受胎の障害ではなく雄動物の交尾能が劣っていることが原因と考えられるが、精巣の病理組織学的検査では正常であることが報告されている (EU-RAR (2008))。なお、ATSDR (1992) では、同じ試験と思われる試験結果について、妊娠率低下は有意差がなく背景データの範囲内であるとしている。また、児動物の体重増加抑制は母動物の成長遅延に起因した可能性があり、胎児に対する直接的な毒性影響ではない可能性が高いとしている。 (2) 雌ラットの妊娠6~15日に飲水投与した発生毒性試験において、影響はみられていない (EU-RAR (2008))。 (3) 雌ラットの妊娠6~15日に吸入ばく露した発生毒性試験において、1,000 ppmで母動物に体重増加抑制がみられ、胎児に体重減少、頭臀長短縮、骨化遅延がみられている (EU-RAR (2008))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分3 (麻酔作用、気道刺激性) とした。
【根拠データ】 (1) ボランティアによる試験で、本物質72 ppm、30分の吸入ばく露で4人の被験者全員が喉粘膜の刺激を訴えたとの報告がある (ATSDR (1992)、ACGIH (7th, 2018))。 (2) 本物質は粘膜・皮膚を刺激し、高濃度では皮膚脱脂、麻酔作用があるとの記載がある (環境省リスク評価第2巻 (2003))。
【参考データ等】 (3) ラットの単回経口投与試験において、LD50値は約3,500 mg/kg (区分2超) であり、局所刺激と中枢神経系障害の症状 (下痢、息切れ、振戦、無反応 (apathy)) がみられたとの報告がある (EU-RAR (2008)、GESTIS (Access on September 2019))。 (4) ウサギに本物質7~142 ppm を40分間、単回吸入ばく露した試験で、71 ppm 群に中枢神経系の抑制、142 ppm 群に中枢神経系の亢進がみられたとの報告がある (NITE初期リスク評価書 (2005)、ACGIH (7th, 2018))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1)、(2) より、実験動物への吸入ばく露において区分2の用量で呼吸器への影響がみられていることから、区分2 (呼吸器) とした。 (1) マウスを用いた2年間の吸入毒性試験の結果、200 ppm以上 (ガイダンス値換算: 0.7 mg/L、区分2の範囲) で鼻腔の嗅上皮の萎縮、粘液分泌腺の萎縮、600 ppm (ガイダンス値換算: 2.1 mg/L、区分2超) で気管支上皮の剥離又は扁平化、肺に色素貪食マクロファージの集簇等がみられた (ACGIH (7th, 2018)、EU-RAR (2008)、NITE初期リスク評価書 (2005))。 (2) ラットを用いた2年間の吸入毒性試験の結果、200 ppm以上 (ガイダンス値換算: 0.7 mg/L、区分2の範囲) で鼻腔嗅上皮の扁平上皮化生と萎縮、基底細胞の過形成、600 ppm (ガイダンス値換算: 2.1 mg/L、区分2超) で気管支上皮の剥離又は扁平化、肺に色素貪食マクロファージの集簇等がみられた (同上)。
【参考データ等】 (3) 本物質にばく露された工場作業者で、進行性心筋症、不整脈、心電図の振幅の減少、心筋ジストロフィー、失神、胸痛、死にそうな感覚 (sensation of dying) がみられた (PATTY (6th, 2012)) との報告があるが、この報告については、複数の物質への職業ばく露であり、酢酸ビニルの濃度の記載がない情報とされている (Acute exposure guideline levels for selected airborne chemicals, vol 14 (National Research Council, 2013)。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。