急性毒性
経口
ラットのLD50値として6件のデータ(11、590、610、156、237、278 mg/kg(全てDFGMAK-Doc. 22 (2006))を分類対象とし、1件が区分2、3件が区分3、2件が区分4に該当することから、最も該当数の多い区分3とした。GHS分類:区分3
経皮
ウサギのLD50値は277 mg/kg(DFGMAK-Doc. 22 (2006))に基づき、区分3とした。GHS分類:区分3
吸入:ガス
GHS定義による液体である。GHS分類:分類対象外
吸入:蒸気
ラットに7時間ばく露のLC50値は7500 mg/m3(= 1850 ppm)[4時間換算値:2447 ppm]との報告(PATTY (5th, 2001))があり、さらにラットに6時間ばく露したところ、1000 ppmで3匹中死亡はなく、1200 ppmでは3匹中3匹死亡との結果(DFGMAK-Doc. 22 (2006))から、LC50値は1000~1200 ppm(4時間換算値;1225~1470 ppm)と推定される。これらのLC50値はいずれも区分3に相当する。なお、試験濃度は飽和蒸気圧濃度(13289 ppm)の90%より低いので、気体の基準値(ppm)を適用した。GHS分類:区分3
吸入:粉じん及びミスト
データなし。GHS分類:分類できない
皮膚腐食性及び刺激性
ウサギの皮膚に開放適用後24時間以内に、損傷の程度が10段階評価(最大10)での7となり壊死がみられた(DFGMAK-Doc. 22 (2006))との結果、また、ウサギの皮膚に本物質0.5 mLを4または24時間の半閉塞適用により腐食性が認められた(DFGMAK-Doc. 22 (2006))との報告、さらにモルモットの皮膚に本物質原液を24時間の閉塞適用により浮腫、壊死、持続性焼痂がみられ、強い刺激性を示した所見(ACGIH (2001))に基づき、区分1とした。なお、pHは11.5 (100 g/L)である。GHS分類:区分1
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギの眼に適用して壊死(程度は10段階評価で最も強い10)を引き起こした(DFGMAK-Doc. 22 (2006))との報告、さらに、ウサギの眼に50%溶液を1滴投与により眼の完全な破壊をもたらし(DFGMAK-Doc. 22 (2006))、ウサギの眼に0.1 mLを適用し腐食性が認められた(DFGMAK-Doc. 22 (2006))との報告もあり、区分1とした。なお、pHは11.5 (100 g/L)である。GHS分類:区分1
呼吸器感作性
データなし。GHS分類:分類できない
皮膚感作性
モルモットを用い本物質の1%溶液で感作を試みた試験において、感作性は認められなかったとの記述(ACGIH (2001))、また、ボランティア に本物質の25%溶液を背部皮膚に適用し、2週間後に惹起したところ、被験者の13%に感作反応が認められたとの報告(化学物質の初期リスク評価書 Ver. 1.0, 135 (2008))があるが、いずれも試験法について記載がなく試験結果の詳細も不明であり、データ不足により「分類できない」とした。GHS分類:分類できない
生殖細胞変異原性
マウスに腹腔内投与による優性致死試験(生殖細胞in vivo経世代変異原性試験)の陽性結果(化学物質の初期リスク評価書 Ver. 1.0, 135 (2008))、およびラットに腹腔内投与による精原細胞を用いた染色体異常試験(生殖細胞in vivo変異原性試験)の陽性結果(化学物質の初期リスク評価書 Ver. 1.0, 135 (2008))が得られていることから、区分1Bとした。なお、以上の試験とは別に、優性致死試験ではマウスの腹腔内投与およびラットの経口投与による試験の陰性結果(化学物質の初期リスク評価書 Ver. 1.0, 135 (2008))、精原細胞を用いた染色体異常試験ではマウスおよびチャイニーズハムスターの腹腔内投与による陰性結果(化学物質の初期リスク評価書 Ver. 1.0, 135 (2008))も報告されている。また、体細胞(骨髄)を用いたin vivo染色体異常試験でも陰性および陽性の両方の報告がある。in vitro試験ではエームス試験は陰性であるが、培養細胞を用いた染色体異常試験では陰性または陽性の結果が共に報告されている(化学物質の初期リスク評価書 Ver. 1.0, 135 (2008)、NTP DB (1982))。GHS分類:区分1B
発がん性
ACGIHの発がん性評価でA4に分類されていることから「分類できない」とした。なお、現行ガイドラインに準拠した試験ではないが、本物質または本物質の塩酸塩をラットまたはマウスに長期間混餌投与した試験において、投与に関連した腫瘍の発生はみられなかった(DFGMAK-Doc 22 (2006)、化学物質の初期リスク評価書 Ver. 1.0, 135 (2008))と報告されている。GHS分類:分類できない
生殖毒性
生殖毒性の発現に関して、ラットに経口投与した一世代生殖試験において3回の交配の初回に雄の受胎能の低下(DFGMAK-Doc 22 (2006))、マウスに混餌投与した四世代生殖試験において生後死亡率の増加(DFGMAK-Doc 22 (2006))、妊娠マウスの妊娠6~11日目に経口投与した発生毒性試験において胎仔死亡の増加(化学物質の初期リスク評価書 Ver. 1.0, 135 (2008))、妊娠マウスの妊娠11日目に腹腔内投与した発生毒性試験において吸収胚の増加(DFGMAK-Doc 22 (2006))がそれぞれ報告されているが、いずれも親動物の一般毒性の記載がないため区分2とした。なお、本物質硫酸塩をマウスの6世代に混餌投与した生殖試験においても、生存仔数の減少、出生後死亡の増加、着床数の減少などの生殖に対する影響が報告されている(DFGMAK-Doc 22 (2006))。GHS分類:区分2
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
作業環境中の事故により本物質の蒸気にばく露された3人の労働者のうち、1人は約1時間のばく露で情緒不安、心悸亢進、不眠を訴え、2人目は強いアルカリ溶液と共に本物質が顔にはねかかかり、嘔気、繰り返しの嘔吐、支離滅裂な話し方、散瞳が認められたが、3人目は嘔気の症状のみであった(DFGMAK-Doc. 22 (2006))。本物質は神経毒と考えられており、中枢神経系の抑制を起こすとの記載(PATTY (5th, 2001))、また、脊髄の運動神経中枢および髄質に作用し、投与後数時間で遅発性の痙攣をもたらすとの記載(JECFA 202 (1970))もあることから、区分1(神経系)とした。一方、健常男子ボランティアに5または10 mg/kgを単回経口投与後1時間で、収縮期と拡張期の平均血圧が用量依存的に有意な増加を示し、この血管収縮作用は心拍数の僅かな減少も伴った(DFGMAK-Doc. 22 (2006))と報告されていること、本物質の作用として交感神経のみならず、心血管にも言及がある(DFGMAK-Doc. 22 (2006))ことから、区分1(心血管系)とした。さらに、本物質の主な急性影響には気道刺激性が含まれている(ACGIH (2001))ことから、区分3(気道刺激性)とした。GHS分類:区分1(神経系、心血管系)、区分3(気道刺激性)
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
ラットおよびマウスに13週間混餌投与による複数の試験(ラットとマウス各2件)において、ガイダンス値範囲内の用量では体重増加抑制と摂餌量の減少が観察されているのみで、投与による悪影響はラットの場合にガイダンス値上限を超えた用量で認められた精巣萎縮、輸精管の変性、セルトリ細胞の空胞化などの精巣の所見(DFGMAK-Doc. 22 (2006))であることから、経口経路では区分外となる。一方、ラットに700 mg/m3を2ヵ月間吸入ばく露した結果、ヘモグロビンと赤血球数の低下、網状赤血球の増加が記録され、剖検で甲状腺の扁平上皮で覆われた濾胞形成に加え、肝臓、脾臓および肺のヘモジデリン沈着が見出されたと報告されている(DFGMAK-Doc. 22 (2006))が、この試験では得られた結果が他の試験で再現出来なかったため、評価に有用ではないと記述されている(DFGMAK-Doc. 22 (2006))ことから、分類に使用しなかった。以上より、他の経路においては、吸入はデータ不足、経皮はデータがないため、特定標的臓器毒性(反復ばく露)の分類としては「分類できない」とした。GHS分類:分類できない
吸引性呼吸器有害性
データなし。GHS分類:分類できない