急性毒性
経口
ラットのLD50値として、404 mg/kg (DFGOT vol. 5 (1993)) との報告に基づき、区分4とした。なお、旧分類が使用したCERIハザードデータ集 (2002) は、現在はList 3の情報源であるので使用しなかった。
経皮
データ不足のため分類できない。
吸入:ガス
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
本物質の職業性のばく露による皮膚刺激性はみられなかったとの記載 (ACGIH (7th, 2001)) から、区分外とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
データ不足のため分類できない。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
In vivoでは、ラットの骨髄細胞を用いた小核試験で陽性、マウスの骨髄細胞を用いた姉妹染色分体交換試験で陽性 (ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 5 (1993))、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞を用いたマウスリンフォーマ試験、染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験でいずれも陽性である (DFGOT vol. 5 (1993)、ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012)、NTP DB (Access on August 2017))。以上より、ガイダンスに従い区分2とした。
発がん性
ヒトでは本物質への特異的なばく露と発がんとの関連性を評価した疫学研究はないが、本物質を含むアリールアミン製品混合物への職業ばく露と膀胱がんの発生頻度増加との間に相関が示されたとの1報告がある (NTP RoC (14th, 2016))。実験動物では本物質の二塩酸塩 (CAS番号 612-82-8) をラットに14ヵ月間飲水投与 (30~150 ppm) した発がん性試験において、雌雄ともに皮膚の基底細胞腫、同扁平上皮がん、ジンバル腺の腫瘍、口腔、肝臓、小腸、大腸、肺の腫瘍、雄に包皮腺の腫瘍、雌に陰核腺の腫瘍の用量依存的な発生頻度の増加が認められた (NTP TR390 (1991)、NTP RoC (14th, 2016)、PATTY (6th, 2012)、ACGIH (7th, 2001))。NTPはラットの雌雄ともに明らかな発がん性の証拠があると結論した (NTP TR390 (1991))。この他、マウスに2年間飲水投与 (5~140 ppm) した試験において、78週以降に140 ppm の雄では肺腫瘍 (細気管支肺胞上皮腺腫、又は細気管支肺胞上皮がん、及びそれらの合計) の発生頻度の有意な増加がみられた (ACGIH (7th, 2001)、HSDB (Access on August 2017)) との報告、ラットに長期間皮下投与した複数の試験で、ジンバル腺及び外耳道における腫瘍の発生増加がみられた (IARC 1 (1972)、ACGIH (7th, 2001)、NTP RoC (14th, 2016)) との報告がある。既存分類ではIARCがグループ2Bに (IARC Suppl. 7 (1987))、ACGIHがA3に (ACGIH (7th, 2001))、NTPがRに (NTP RoC (14th, 2016))、EUがCarc. 1Bに (ECHA CL Inventory (Access on August 2017))、日本産業衛生学会が2Bに (許容濃度の勧告 (2017): 1991年提案) それぞれ分類している。 以上、EU以外の国際機関による分類結果からは区分2が支持されるが、試験報告において実験動物2種で悪性腫瘍を含む腫瘍の発生増加が認められたこと、及びEUの分類結果に基づき、本項は区分1Bが妥当と判断した。なお、旧分類の区分2からは分類区分を変更した。
生殖毒性
ヒトの生殖影響に関する情報はない。実験動物では、妊娠ラットに対し本物質の1%溶液、1 mLを妊娠7~9日に飲水投与 (総投与量: 30 mg) した結果、胎児に催奇形性はみられなかったとの報告、及び妊娠ラットに対し本物質0.26 mmole/kg (約 55.2 mg/kg) を妊娠7日に皮下投与したが胎児毒性は生じなかったとの報告がある (DFGOT vol. 9 (1993))。以上、実験動物では本物質投与による発生影響を否定する報告があるが、生殖能への影響を評価した試験報告がなく、よってデータ不足のため分類できない。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
データ不足のため分類できない。なお、本物質の塩酸塩である3,3'-ジメチルベンジジン二塩酸塩 (CAS番号 612-82-8) を少量吸入した場合に、くしゃみに引き続いて上気道の刺激が生じたとの報告がある (DFGOT vol. 5 (1993)、環境省リスク評価第4巻:暫定的有害性評価シート (2005))。この情報に基づき、3,3'-ジメチルベンジジン二塩酸塩は、平成19年度分類で、区分3 (気道刺激性) と分類されている。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
【分類根拠】 (1)より、区分1の範囲から肝臓、腎臓への影響、(2)より区分2の範囲で血液系への影響がみられていることから、区分1(肝臓、腎臓)、区分2(血液系)とした。なお、(1)のジンバル腺の所見は前腫瘍病変と考えられるが、ジンバル腺はヒトにないことから標的臓器とせず、(2)の胸腺、精巣および甲状腺関連所見はいずれも病理組織変化を伴う所見でないことから、標的臓器の分類根拠としなかった。今回の見直しで、被験物質の用量を確認した結果、旧分類結果から一部臓器の区分を変更した。
【根拠データ】 (1)本物質の塩酸塩である3,3'-ジメチルベンジジン二塩酸塩(CAS:612-82-8)について、ラットを用いた14ヵ月間飲水投与試験において、30 ppm(0.003%)(雄1.8 mg/kg/day、雌3.0 mg/kg/day:本物質換算、約1.3~2.2 mg/kg/day、区分1の範囲)以上で肝臓の変異細胞巣、肝臓の嚢胞性変性の発生率増加、腎症の増加、及びジンバル腺の限局性過形成・び漫性の腫脹がみられたとの報告がある(NTP TR390(1991)、環境省リスク評価第4巻:暫定的有害性評価シート(2005))。 (2)本物質の塩酸塩である3,3'-ジメチルベンジジン二塩酸塩(CAS:612-82-8)について、ラットを用いた13週間飲水投与試験において、300 ppm(0.03%)(ガイダンス値換算:37.5 mg/kg/day、本物質換算:28 mg/kg/day、区分2の範囲)以上で、胸腺重量減少、甲状腺ホルモン(T3、T4)濃度の低下、精巣相対重量増加、50 ppm(0.05%)(ガイダンス値換算:62.5 mg/kg/day、本物質換算:47 mg/kg/day、区分2の範囲)以上で、赤血球数及びヘマトクリット値の減少、肝細胞壊死の増加、腎症の増加がみられたとの報告がある(NTP TR390(1991)、環境省リスク評価第4巻:暫定的有害性評価シート(2005))。
吸引性呼吸器有害性
データ不足のため分類できない。