急性毒性
経口
ラットのLD50値として7件のデータ[390 mg/kg、302 mg/kg、323 mg/kg、298 mg/kg (以上4件 SIDS (Access on Apr. 2012))、320 mg/kg、743 mg/kg、627 mg/kg (以上3件 EHC 157 (1994))]が報告されており、うち6件が区分4、1件が区分3に該当することから、該当数の多い区分4とした。なお、通常は試験に絶食動物が用いられるため、非絶食動物の試験データは採用しなかった。GHS分類:区分4
経皮
ラットおよびマウスの14日間反復経皮投与試験において、両動物種とも最高用量(ラット 3840 mg/kg/day、マウス 4800 mg/kg/day)で死亡が認められず(SIDS (Access on Apr. 2012))、1回分の投与量がガイダンス値範囲を超えることから、JIS分類基準の区分外とした。 GHS分類:区分外
吸入:ガス
吸入 (ガス):GHSの定義における固体である。GHS分類:分類対象外
吸入:蒸気
吸入 (蒸気):データなし。GHS分類:分類できない
吸入:粉じん及びミスト
吸入 (粉塵・ミスト):データなし。GHS分類:分類できない
皮膚腐食性及び刺激性
モルモットに10%水溶液を適用した試験で、軽度の刺激性との結果(EHC 157 (1994))、また、モルモットに0.25~1.0 g/kgを適用24時間後に軽度~中等度の浮腫および中等度の紅斑が観察されたが、それ以降は皮膚反応を認めなかったこと(SIDS (Access on Apr. 2012))、さらにウサギに閉塞適用した試験では、刺激性の平均スコアは1.22(1~4)で刺激性なしとの結果(IUCLID (2001))がそれぞれ報告されている。以上の結果に基づき、JIS分類基準の区分外(国連分類基準の区分3に相当)とした。なお、ヒトでは、皮膚の脱色剤として調合使用されている本物質の5%剤の使用はしばしば皮膚症、紅斑、灼熱感を伴う(DFGMAK-Doc. 10 (1998))との記載、また、2%脱色クリームを使用した事例で、白斑が4例みられたが、炎症性のものではなく、1%剤のパッチテストでは72時間後に陽性結果は得られなかった(化学物質の初期リスク評価書 114 (2008))との報告などがある。GHS分類:区分外
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギの結膜嚢に100 mgを適用し、腐食性の傷害(corrosive damage)に至ったと(DFGMAK-Doc. 10 (1998))の報告に基づき、区分1とした。なお、ウサギの眼に本物質の結晶粉末を適用した試験で、眼瞼、瞬膜に発赤が現われ、眼瞼、眼窩、瞬膜の発赤は適用後48時間まで持続したが、14日後には認められなかった(SIDS (Access on Apr. 2012))との報告もあるが、一方、ヒトでは本物質の粉塵ばく露により、眼の刺激、角膜上皮などの傷害及び角膜潰瘍が現れ、長期間のばく露では角膜及び結膜の着色、角膜の混濁から、視力の喪失、乱視を生じる事例もみられた(環境省リスク評価第3巻 (2004))と報告されている。 GHS分類:区分1
呼吸器感作性
データなし。GHS分類:分類できない
皮膚感作性
モルモットのマキシマイゼーション試験(OECD TG 406)で陽性率は70%(7/10)を示し、強い感作性(strong sensitizer)との評価結果(EHC 157 (1994))に基づき区分1とした。なお、その他にもモルモットのマキシマイゼーション試験は実施され、陽性率50%(5/10)との結果(EHC 157 (1994))、あるいは強い感作性(strong sensitizer)との結果(EHC 157 (1994))が得られている。さらに、本物質は接触アレルギー物質としてContact Dermatitis (5th, 2011)に記載がある。 GHS分類:区分1
生殖細胞変異原性
ラットの経口投与による優性致死試験 (生殖細胞 vivo経世代変異原性試験)で陰性(EHC 157 (1994))であったが、マウスの腹腔内投与による精母細胞を用いた染色体異常試験(生殖細胞 in vivo変異原性試験)での陽性結果(EHC 157 (1994))に基づき、区分1Bとした。また、マウスの腹腔内投与による骨髄細胞を用いた染色体異常試験、及びマウスの経口投与による骨髄細胞を用いた小核試験で陽性(化学物質の初期リスク評価書 114 (2008))、マウスの腹腔内投与によるスポット試験で陽性(EHC 157 (1994))(いずれも体細胞 in vivo変異原性試験)が報告されている。なお、、in vitro試験としては、エームス試験で陰性 (NTP DB (1979))であったが、V79細胞を用いた小核試験で陽性(IARC 71 (1991))、ヒトリンパ球を用いた小核試験で陽性(IARC 71 (1999))の結果が報告されている。 GHS分類:区分1B
発がん性
発がん性評価として、ACGIHではA3に分類され(ACGIH (2008))、区分2に該当し、また、IARCではグループ3に分類され(IARC 71 (1999))、「分類できない」となる。両者で区分が異なるが、年度の新しいACGIHの評価を採用し区分2とした。なお、ラットおよびマウスの2年間経口投与による発がん性試験において、ラットについては雄で腎臓の尿細管細胞腺腫の著しい増加により、また、雌で単核球性白血病の増加により、雌雄共に発がん性の限定的な証拠が得られた(NTP TR 366 (1989))と報告されている。一方、マウスについては雄では発がん性の証拠は認められず、雌で肝細胞腫瘍の主に腺腫の増加により、発がん性の限定的な証拠が得られた(NTP TR 366 (1989))と報告されている。EU分類ではCat. 3; R40 (EC-JRC (ESIS) (Access on Apr. 2012)) である。 GHS分類:区分2
生殖毒性
ラットの経口投与による2世代生殖試験(OECD TG 416)において、50mg/kg/日以上で親動物に振戦および体重増加抑制がみられたが、受精率、受胎率等の生殖能に異常は認められず、また、新生児の出産生児の数及び性比、離乳時までの体重等に異常はみられなかった(化学物質の初期リスク評価書 114 (2008))。一方、妊娠ラットおよび妊娠ウサギの器官形成期に経口投与した試験(OECD TG 414)において、ラットでは300 mg/kg/日群の母動物が投与期間中に体重増加抑制を示したが、妊娠黄体数、着床数、吸収胚数、生存胎児数、胎児性比等に異常はみられず、同用量で胎児に外表、内臓及び骨格奇形も観察されなかった(化学物質の初期リスク評価書 114 (2008))。ウサギの場合も150 mg/kg/日で母動物に体重の増加抑制がみられたが、胎児検査により、150 mg/kg/日で、外表系、内臓系、骨格系の奇形発生率に統計学的に有意な変化はみられなかった(化学物質の初期リスク評価書 114 (2008))。以上の2世代生殖試験および発生毒性試験により、性機能・生殖能に対し、また、仔の発生に対しいずれも悪影響を見出されなかったことから、区分外とした。 GHS分類:区分外
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
ヒトでの主な中毒症状として、振戦、痙攣、反射喪失、昏睡などの神経症状が報告されている(EHC 157 (1994)、DFGMAK-Doc. 10 (1998))。一方、ラットの急性経口毒性試験(LD50値:627~743 mg/kg)では、緊張性痙攣の発現の間に死亡の発生が認められ(EHC 157 (1994))、また、イヌの急性経口毒性試験(LD50値:200 mg/kg)では、過剰興奮、振戦、痙攣、後肢の協調不能などが報告されている(EHC 157 (1994))。以上のヒトでばく露による神経症状に加え、動物試験で中枢神経系への影響を示す症状が認められ、特にイヌでは症状発現がガイダンス値区分1に相当する用量であることから、区分1(中枢神経系)とした。なお、F344系ラットでは単回経口投与が腎毒性を引き起こしたが、SD系ラットや B6C3F1系マウスでは腎臓に対する毒性影響は見られなかった(DFGMAK-Doc. 10 (1998))との知見もあり、ラットでの腎臓病変は分類の根拠としなかった。 GHS分類:区分1(中枢神経系)
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
ラットに15ヵ月間経口投与した試験において、25 mg/kg/day以上で雄のみに腎症の程度の増強がみられた(NTP TR 366 (1989))が、ラットに13週間経口投与した試験においては、雄は200 mg/kg/day、雌は100 mg/kg/day以上の用量で腎皮質に尿細管上皮細胞の変性を伴う中毒性の腎症が見られた(NTP TR 366 (1989))。以上より、25および100 mg/kg/dayはガイダンス値区分2に相当することから、区分2(腎臓)とした。また、マウスに15ヵ月間および2年間経口投与した試験において、ガイダンス値区分2に相当する100 mg/kg/dayの用量で核の大小不同、合胞体形成、好塩基性病巣の発生率増加が認められた(NTP TR 366 (1989))ことから、区分2(肝臓)とした。GHS分類:区分2(腎臓、肝臓)
吸引性呼吸器有害性
データなし。GHS分類:分類できない