急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50 : > 10,000 mg/kg (REACH登録情報 (Access on July 2019)) (2) ラットのLD50 : > 15,000 mg/kg (HSDB (Access on June 2019))
経皮
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50 : > 10,000 mg/kg (REACH登録情報 (Access on July 2019))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、ガイダンスの分類対象外に相当し、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1) から区分1は否定される、その他本物質の詳細なデータが確認できず、データ不足のため分類できないとした。
【参考データ等】 (1) in vitroで人工皮膚モデル (EpiSkin) を用いた皮膚腐食性試験 (OECD draft guideline) において、15分間培養後の相対細胞生存率は100.5%で、腐食性なしと判定された (REACH登録情報 (Access on July 2019))。 (2) 無機ヒ素の皮膚への直接接触は刺激や接触皮膚炎を引き起こす可能性がある。通常、作用は軽微 (紅斑と浮腫) だが極端な場合には丘疹、小疱、又は壊死性病変を示す場合がある (ATSDR (1997))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ウサギ (n= 3,、雄) を用いた眼刺激性試験 (OECD TG 405、GLP) において、適用24、48、72時間後の角膜、虹彩、結膜の平均スコアは全て0 (ゼロ) であった (REACH登録情報 (Access on July 2019))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) よりin vivo、in vitroを含む標準的組合せ試験でいずれも陰性であったことから、ガイダンスにおける分類できないに相当し、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1) in vivoでは、マウス末梢血赤血球の小核試験で陰性の報告がある (NTP TR492 (2000)、ACGIH (7th, 2005)、IARC 86 (2006)、IARC 100C (2012)、PATTY (6th, 2012)、NTP DB (Access on June 2019))。 (2) in vitroでは、哺乳類培養細胞の小核試験及び細菌の復帰突然変異試験で陰性の報告がある (同上)。
発がん性
(4) マウスに本物質 (0.1、0.5、1.0 mg/m3) を2年間吸入ばく露した発がん性試験において、雌雄いずれにおいてもばく露に関連した腫瘍の発生は認められなかったことから、雌雄マウスにおいて発がん性の証拠なし (no evidence) と結論された (NTP TR492 (2000)、IARC 86 (2006))。
【分類根拠】 (1) より、ガイダンスの複数データが存在する場合の優先順位に従い、IARCの既存分類を分類根拠として区分1Aとした。
【根拠データ】 (1) 国内外の分類機関による既存分類では、IARCでグループ1 (carcinogenic to humans) (IARC 86 (2006))、EU CLPでCarc.1B (EU CLP分類 (Access on June 2019)) に分類されている。
【参考データ等】 (2) IARCの評価では、本物質自体はヒトで発がん性の証拠はなく、実験動物での証拠も限定的であると結論されたが、以下の論理的根拠に基づき、本物質はグループ1に分類された。本物質は、体内で少量のヒ素を遊離させ、無機ヒ素として機能する (ヒ素及びヒ素化合物はIARCでグループ1;ヒトに対する発がん性物質と評価されている)。同時に遊離するガリウム部分は、雌ラットで観察された肺がんに関与している可能性があると指摘されている (IARC 86 (2006))。 (3) ラットに本物質 (0.01、0.1、1.0 mg/m3) を2年間吸入ばく露した発がん性試験において、雄ではばく露に関連した腫瘍の発生は認められなかった。雌では、1.0 mg/m3で細気管支肺胞上皮腺腫及び細気管支肺胞上皮腺腫と同がんの合計の発生率の増加、副腎髄質での良性褐色細胞腫の発生率の増加及び単核細胞白血病の増加が認められた。これより、雄ラットには発がん性の証拠なし (no evidence)、雌ラットには明確な証拠 (clear evidence) があると結論された (NTP TR492 (2000))。
生殖毒性
【参考データ等】 (7) 米国のヒ素系殺虫剤の製造工場と死産との関係を調査した結果、高濃度群では有意なリスク増加が認められたとの報告がある (産衛学会許容濃度の提案理由書 (2013))。 (8) ヒ素汚染飲料水の経口ばく露による生殖毒性の報告が複数あり、妊娠期間中の摂取による流産、死産等の発生率増加が報告されている (産衛学会許容濃度の提案理由書 (2013))。 (9) EU CLPではRepr. 1B に分類されている (EU CLP分類 (Access on June 2019))。
【分類根拠】 (1)、(2) より体内で遊離生成するヒ素の影響によりヒトでの生殖影響があると考えられることから区分1Aとした。なお、(3)~(6) に示すように本物質については、実験動物に対する吸入経路のデータのみが得られており、精子形成に対する影響、母動物毒性がみられる用量で胎児への影響がみられている。
【根拠データ】 (1) 本物質は哺乳類の肺と消化管でガリウムとヒ素に解離し、後者は代謝的には無機ヒ素化合物として振舞う (NTP TR492 (2000))。 (2) ヒ素及びヒ素化合物は日本産業衛生学会の許容濃度の提案理由書 (2013) において、生殖毒性物質第1群 ( ヒトに対して生殖毒性を示すことが知られている物質) に分類されている。 (3) 雌ラットの妊娠4~19日に吸入ばく露した試験において、母動物毒性 (肺毒性の徴候) がみられる濃度で、胎児重量減少、骨格変異の増加がみられた (NTP TER8914&TER90043 Abst (Access on June 2019)、ACGIH (7th, 2005))。 (4) 雌マウスの妊娠4~17日に吸入ばく露した試験において、母動物に死亡 (死亡率50%)、肺毒性がみられる濃度で胎児死亡率、胎児発育遅延、胎児変異の発生率の有意な増加及び胎児奇形の発生率の増加傾向がみられた (NTP TER8914&TER90043 Abst (Access on June 2019)、ACGIH (7th, 2005))。 (5) ラット、マウスに14週間吸入ばく露した試験において精巣萎縮、精子数減少等がみられてる (NTP TR492 (2000)、ACGIH (7th, 2005))。 (6) 雄ラットに8週間、2回/週の頻度で気管内投与して精巣毒性を調べた試験において、後期精子形成期の精子細胞頭部の形質転換の妨害による精子形成不全が報告されている (ACGIH (7th, 2005))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 本物質の単回ばく露に関するヒトでの報告はない。実験動物での (1)~(4) の情報より、区分1 (血液系、免疫系) とした。
【根拠データ】 (1) ラットの単回経口投与試験において、100 mg/kg (区分1相当) 以上で、ヘム合成酵素であるδ-アミノレブリン酸脱水素酵素 (ALAD) の血中での活性阻害及び尿中のδ-アミノレブリン酸 (ALA) 濃度増加が認められた (CLH Report (2009))。 (2) 血液又は肝臓組織あるいは腎臓組織を用いたin vitro試験では、硝酸ガリウム (CAS番号 13494-90-1) は、亜ヒ酸ナトリウム (CAS番号 7784-46-5) と比較して40~200倍低い濃度でALAD活性の50%阻害を生じた。また、硫酸ガリウム (CAS番号 13494-91-2) を用いたラットの単回腹腔内投与試験では、最大200 mg/kgまで用量依存的に肝臓、腎臓、赤血球のALAD阻害が認められた。以上の結果から、生体内での本物質投与によるALAD活性阻害は主にガリウムによるものであろうと考察されている (NTP TR492 (2000))。 (3) ラットの単回経口投与試験 ((1) と同じ試験) において、100 mg/kg (区分1相当) 以上で、脾臓相対重量、脾臓細胞数、液性免疫反応、細胞性免疫反能の有意な低下が認められた (PATTY (6th, 2012)、CLH Report (2009)、ATSDR (2007))。 (4) ガリウム化合物 (主に硝酸ガリウムと硫酸ガリウム) は、in vitro及びin vivoの多くの試験において、免疫抑制作用を示すことが報告されている (NTP TR492 (2000)、原典: Bernstein, L.R., Am. Soc. Pharmacol. Exp. Ther. 50, 665-682 (1998))。
【参考データ等】 (5) ラットの単回経口投与試験 ((1)、(2) と同じ試験) において、100 mg/kg以上で血中AST活性増加、200 mg/kg以上で、肝臓でのマロンアルデヒド量の増加とグルタチオン量の減少、及び尿中蛋白量増加が認められた (PATTY (6th, 2012)、ATSDR (2007))。また、別のラットの単回経口投与試験において、2,000 mg/kgで血圧及び心拍数の上昇と呼吸数の低下が認められた (CLH Report (2009)、ATSDR (2007))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1) 及び (2) より、実験動物への吸入ばく露において区分1の範囲で呼吸器、血液系、精巣への影響がみられていることから、区分1 (呼吸器、血液系、生殖器 (男性)) とした。
【根拠データ】 (1) ラットに本物質の粒子エアロゾル0.1~75 mg/m3を14週間吸入ばく露 (6時間/日、5日間/週) した試験で、0.1mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0001 mg/L、区分1の範囲) 以上で赤血球増加症を伴う小球性貧血、血小板、白血球数の減少、肺胞蛋白症等が、10 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0078 mg/L、区分1の範囲) 以上でヘマトクリット値減少、網状赤血球数増加、亜鉛プロトポルフィリン/ヘム比の増加、精子の運動性低下が、37 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.029 mg/L、区分2の範囲) 以上でヘモグロビン減少、喉頭における扁平上皮化生、骨髄の過形成 (雄)、精巣上体における精子減少症等が、75 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.058 mg/L、区分2の範囲) 以上で精子数の減少等がみられた (NTP TR492 (2000)、ACGIH (7th, 2005))。 (2) マウスに本物質の粒子エアロゾル0.1~75 mg/m3を14週間吸入ばく露 (6時間/日、5日間/週) した試験で、0.1 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0001 mg/L、区分1の範囲) 以上で赤血球増加症を伴う小球性貧血、1mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0008 mg/L、区分1の範囲) 以上で肺胞蛋白症等が、10 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0078 mg/L、区分1の範囲) 以上で血小板、白血球数、亜鉛プロトポルフィリン/ヘム比の増加、肺の化膿性炎症、喉頭における扁平上皮化生、気道リンパ節における過形成、精巣上体における精子減少症等が、37 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.029 mg/L、区分2の範囲) 以上でヘモグロビン、ヘマトクリット値減少、網状赤血球数増加、精子数の減少等が、75 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.058 mg/L、区分2の範囲) で死亡 (雌1例)、精子濃度の減少がみられた (同上)。
【参考データ等】 (3) ラット、マウスに本物質の粒子エアロゾル1~150 mg/m3を16日間吸入ばく露 (6時間/日、5日間/週) した試験で、1又は10 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0002又は0.002 mg/L、区分1の範囲) 以上で肺胞蛋白症、喉頭における扁平上皮化生等がみられた (同上)。 (4) ラット、マウスに本物質の粒子エアロゾルをラットでは0.01~1 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.00001~0.001 mg/L、区分1の範囲)、マウスでは0.1~1 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0001~0.001 mg/L、区分1の範囲) の濃度で2年間吸入ばく露 (6時間/日、5日間/週) した試験で、ラットでは鼻、喉頭、肺、マウスでは気管支リンパ節、肺に非腫瘍性病変がみられた (NTP TR492 (2000))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。