急性毒性
経口
ラットを用いた試験でLD50 = 656 (雌)、 891(雄)、 896 mg/kg (SIDS (2005)) 及び970 mg/kg (DFGOT vol.9 (1998)) のデータから区分4とした。
経皮
ウサギにおけるLD50=3,300 mg/kg (SIDS (2005))、3,800-3,900mg/kg (DFGOT vol.9 (1998)) からJIS分類基準の区分外 (国連分類基準の区分5) とした。
吸入:ガス
GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
データ不足のため分類できない。
吸入:粉じん及びミスト
ラットにおけるLC50=4.47 mg/L (SIDS (2005)) 及びLC50値8.3 mg/L (1h、換算値:2.1 mg/L/4h) (SIDS (2005)) (飽和蒸気圧濃度0.002 mg/L (ICSC (2006)) より高い濃度であるため、「粉塵・ミスト」としてmg/L濃度基準値で分類) に基づき、区分4とした。旧分類の区分3はその根拠から区分4の誤りであると考えられる。今回の分類でSIDSの4h「粉塵・ミスト」吸入ばく露試験を追加した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
SIDS (2005) には、3件の試験結果が報告されている。信頼性1の、ウサギを用いた皮膚刺激性試験 (GLP及び16 CFR 1500.41準拠) では、背部に本物質を0.5mL、24時間閉鎖適用した結果、皮膚一次刺激指数は0.5であり、「軽度の刺激性」であった。また、信頼性2の、ウサギを用いた皮膚刺激性試験 (DOT 49 CFR 173.1200準拠) では、本物質を0.5mL、4時間閉鎖適用した結果、皮膚一次刺激指数は0であり、「無刺激」であった。さらに、PATTY, 6th (2012) においても、試験の詳細は不明であるが、「ウサギを用いた皮膚刺激性試験では、本物質を4時間閉鎖適用した結果は「無刺激」であった」と記載されている。以上の情報に基づき区分外とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
SIDS (2005) には、3件の試験結果が報告されており、1件は信頼性2、2件は信頼性4である。信頼性2の、ウサギを用いた眼刺激性/腐食性試験 (GLP及びFSHA 16 CFR 1500準拠) では、全例6匹について、いずれも刺激性はみられなかった (SIDS (2005))。SIDS (2005) では、この試験結果を元に「本物質は眼刺激性はないと考えられる」と結論している。PATTY (6th, 2012) においても、unpublished reportのため試験の詳細は不明であるが、「ウサギの眼に対して刺激性なし」と記載されている。以上の情報に基づき区分外とした。
呼吸器感作性
呼吸器感作性:データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
皮膚感作性:マウスを用いた局所リンパ節試験 (LLNA法:GLP及びOECD guideline 429準拠) では、SI値が本物質の5%溶液で3.23、50%溶液で10.74であった (SIDS (2005))。SIDS (2005) では、この信頼性1のデータを元に「本物質は皮膚感作性物質であると考えられる」と結論している。以上の情報に基づき区分1とした。
生殖細胞変異原性
データ不足のため分類できない。すなわち、マウスを用いた骨髄染色体異常試験の陽性知見は、試験内再現性ならびに用量依存性が不明確であり、マウスを用いた骨髄小核試験が陰性であることから、in vivoでの染色体損傷性は示さないと判断されている (SIDS (2005) 、Patty (6th, 2012))。なお、In vitro試験では、細菌を用いる復帰突然変異試験で弱陽性、in vitro染色体異常試験、小核試験およびマウスリンフォーマ試験で陽性と報告されている (SIDS (2005) 、Patty (6th, 2012)、DFGOT vol.9 (1998))。復帰突然変異試験での弱陽性知見は本物質のDNA反応性を示唆しており、本物質の生殖細胞変異原性分類評価には、更なる知見が必要と考えられる。
発がん性
マウスの経口投与の発がん性試験では雄にリンパ腫の頻度増加が見られたが、投与物質に起因する明確な影響とは考えられなかった。マウスの試験では投与量は最大耐用量を満たしていない可能性が高いが、発がん性は認められなかったと結論されている (NTP TR242 (1983))。ラットの経口投与の発がん性試験では、雌の100 mg/kg投与群で単核細胞白血病の頻度増加がみられたが、この腫瘍は加齢により発生率が変動すること、及び確定診断が難しいことから、発がん性の根拠は不明確とされている。また、雄ラットには発がん性の証拠は見られていない (NTP TR284 (1985))。以上、発がん性に関する情報が不足しているため「分類できない」とした。
生殖毒性
ラットの生殖発生毒性スクリーニング試験において、高用量群の雌で分娩困難が3/10例に見られた (SIDS (2005)) が、これらはいずれも死亡前に見られた分娩障害であり、生殖能に対する毒性によるものではなく、顕著な母動物毒性による二次的影響と考えられた。一方、ラットを用いた発生毒性試験で母動物に死亡 (2/10例)、体重増加抑制など顕著な一般毒性が発現する用量で、胎児に最小限の発生毒性 (体重低値、骨化遅延) がみられたのみであった (環境省初期リスク評価第7巻 (2009))。以上、雌では生殖能に対する毒性はみられないが、雄の生殖能についての情報がないこと、また、胎児の体重低値、骨化遅延は生殖毒性有りと判断するには不十分であるため、ガイダンスに従い、「分類できない」とした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
ラットの吸入試験で呼吸器に病変がみられたが、死亡例での剖検所見であった (SIDS (2005))。経口投与では肝障害を示唆する血清酵素 (AST、ALT、アルカリホスファターゼ (イヌ)、ALT (ラット)) の活性上昇が、イヌでは800 mg/kg (SIDS (2005)、DFGOT vol.9 (1998)) で、ラットでは400 mg/kg (DFGOT vol.9 (1998)) でみられ、ラットでは肝臓に病理組織変化 (門脈周囲肝細胞壊死、用量不明) が認められたと NTP TR 284 (1985) に報告されている。以上より、本物質は区分2のガイダンス値の範囲内の用量での単回ばく露で実験動物に肝障害を生じるものと判断し、区分2 (肝臓) と分類した。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
NTPのラット13週間経口投与試験において、雄では50 mg/kg以下の用量から肝臓に病理組織変化が発現しているが、マウスでは400 mg/kgまで投与しても肝臓に変化はみられなかった (SIDS (2005))。しかし、ラットを用いた生殖発生毒性スクリーニング試験でも雌雄とも高用量群で肝臓に病理組織所見が認められており (SIDS (2005))、種差があるものと考えられる。以上の情報に基づき、区分2 (肝臓) とした。
吸引性呼吸器有害性
データ不足のため分類できない。