急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(7) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 5,000 mg/kg (MAK (DFG) vol.6 (1994)) (2) ラットのLD50: 10,000 mg/kg (MOE初期評価第4巻:暫定的有害性評価シート (2005)、GESTIS (Access on June 2020)) (3) ラットのLD50: 15,000 mg/kg (MAK (DFG) vol.6 (1994)、農薬工業会「食品衛生研究」第51巻第11号 (2001)) (4) ラットのLD50: > 5,000 mg/kg (食安委 農薬評価書 (2018)) (5) ラットのLD50: 雄: > 10,000 mg/kg (食安委 農薬評価書 (2018)) (6) ラットのLD50: > 10,000 mg/kg (Canada Pesticides (2011)、EHC 183 (1996)、EPA Pesticides RED (1999)、食安委 農薬評価書 (2018)、HSDB (Access on June 2020)) (7) ラットのLD50: > 15,000 mg/kg (食安委 農薬評価書 (2018))
経皮
【分類根拠】 (1)~(4) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: > 2,500 mg/kg (MAK (DFG) vol.6 (1994)、HSDB (Access on June 2020)) (2) ラットのLD50: > 5,000 mg/kg (食安委 農薬評価書 (2018)) (3) ラットのLD50: > 10,000 mg/kg (食安委 農薬評価書 (2018)) (4) ウサギのLD50: > 10,000 mg/kg (EHC 183 (1996)、MAK(DFG) vol.6 (1994)、食安委 農薬評価書 (2018)、GESTIS (Access on June 2020))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 (1)~(4) より、区分2とした。 なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 (8.2E-006 mg/L) よりも高いため、粉じんとしてmg/Lを単位とする基準値を適用した。
【根拠データ】 (1) ラットのLC50 (4時間): 0.09 mg/L (MAK (DFG) vol.6 (1994)) (2) ラットのLC50 (4時間): 雌: 0.0925 mg/L、雄: 0.094 mg/L (食安委 農薬評価書 (2018)) (3) ラットのLC50 (4時間): 0.10 mg/L (EHC 183 (1996)、HSDB (Access on June 2020)) (4) ラットのLC50 (4時間): 0.110 mg/L (MAK (DFG) vol.6 (1994)) (5) 本物質の蒸気圧: 5.7E-007 mmHg (25℃) (HSDB (Access on May 2020)) (飽和蒸気圧濃度換算値: 8.2E-006 mg/L)
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)~(4) より、区分に該当しないとした。新しいデータが得られたことから分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質のウサギを用いた4時間半閉塞適用による皮膚刺激性試験で、皮膚反応は観察されず、非刺激物と結論されている (JMPR Addendum (2019))。 (2) 短期間のばく露で眼、皮膚、気道を刺激し、急性症状として、眼の痛み、発赤、かすみ眼、皮膚の発赤が現れる (MOE初期評価第4巻:暫定的有害性評価シート (2005))。 (3) 皮膚刺激性試験において、適用72時間後に軽度の紅斑を示すが、適用4日目までに消失した (EPA Pesticides RED (1999))。 (4) 本物質ウサギにおいて皮膚刺激性は軽度だが、眼に対しては重度の刺激性を示し、角膜混濁は2週間後まで持続する (MAK (DFG) vol.6 (1994)、食安委 農薬評価書 (2018))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)~(4) より、区分2Aとした。
【根拠データ】 (1) 短期間のばく露で眼、皮膚、気道を刺激し、急性症状として、眼の痛み、発赤、かすみ眼、皮膚の発赤が現れる (MOE初期評価第4巻:暫定的有害性評価シート (2005))。 (2) 本物質のウサギを用いた眼刺激性試験 (改変ドレイズ法) で、眼刺激性を示し、角膜混濁は適用14日目まで持続した (EHC 183 (1996))。 (3) 本物質 (純度 96%) のウサギを用いた眼刺激性試験で、重度の刺激性を示し、持続性の角膜混濁、虹彩への影響、結膜刺激を示す。また、他の試験では刺激性、角膜混濁を示し、腐食性物質とされている (EPA Pesticides RED (1999))。 (4) 本物質はウサギにおいて皮膚刺激性は軽度だが、眼に対しては重度の刺激性を示し、角膜混濁は2週間後まで持続する (MAK (DFG) vol.6 (1994)、食安委 農薬評価書 (2018))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 (1) より、区分1Aとした。産衛学会 感作性分類 気道第2 群に分類されていることから分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質は産衛学会 感作性分類 気道第2 群、皮膚第1 群に分類されている (産衛学会感作性物質提案理由書 (2012))。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分1Aとした。産衛学会 感作性分類 皮膚第1 群に分類されていることから分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質は産衛学会 感作性分類 気道第2 群、皮膚第1 群に分類されている (産衛学会感作性物質提案理由書 (2012))。 (2) 本物質の製造工場で労働者103人のうち19人で接触性皮膚炎が現れ、何らかの皮膚の異常を訴える割合が本物質を扱わない労働者では18.5%であるのに対して、本物質を扱う労働者では60%であったが、工場の衛生環境を改善した結果、20%程度に低下した。また、本物質0.5%を含んだ木材の防腐剤を使用する木製の窓枠生産工場の労働者20人中14人で、まぶたと顔の他の部位で痒み、紅斑、浮腫、腕や手で発疹を含む皮膚炎がみられ、皮膚炎を起こした14人に本物質0.01%のアセトン溶液を塗布してパッチテストした結果、7人で陽性反応がみられた (MOE初期評価第4巻:暫定的有害性評価シート (2005))。
【参考データ等】 (3) 本物質の長期間または反復ばく露では皮膚炎、皮膚の感作を起こす可能性がある (MOE初期評価第4巻:暫定的有害性評価シート (2005))。 (4) 本物質のモルモットを用いた皮膚感作性試験 (マキシマイゼーション法) で強い感作性との報告、明白な結論が得られていない報告がある (EHC 183 (1996))。 (5) 本物質 (純度 96%)は感作性を示さない (EPA Pesticides RED (1999))。 (6) 本物質のモルモットを用いた皮膚感作性試験 (ビューラー法) で陰性と報告されている (食安委 農薬評価書 (2018) )。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) in vivoでは、経口投与によるマウスの優性致死試験、ラット又はハムスターの末梢血を用いた小核試験において陰性の報告がある。マウス又はラットの骨髄細胞を用いた複数の染色体異常試験において陰性の報告があるが、ハムスターの骨髄細胞を用いた染色体異常試験では弱い陽性、equivocal (あいまいな結果)、陰性の報告がある。また、ラットの肝臓を用いたDNA傷害試験において陽性の報告がある (EHC 183 (1996)、食安委 農薬評価書 (2018)、IARC 73 (1999))。 (2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性の報告が複数ある。一方、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験、姉妹染色分体交換試験、染色体異常試験で陽性及び陰性の報告がある(EHC 183 (1996)、食安委 農薬評価書 (2018)、IARC 73 (1999)、CEBS (Access on June 2020))。 (3) 本物質は生体において問題となる遺伝毒性はないものと考えられるとの報告がある (食安委 農薬評価書 (2018))。
発がん性
【分類根拠】 (1)~(4) より区分2とした。
【根拠データ】 (1) 国内外の分類機関による既存分類では、IARCでグループ2B (IARC 73 (1999))、産衛学会で第2群B (産業衛生学雑誌許容濃度等の勧告 (2001年提案))、EPAでL (Likely to be Carcinogenic to Humans) (EPA Annual Cancer Report 2019 (Access on September 2020):1997年分類)、EU CLP分類でCarc.2 (EU CLP分類 (Access on May 2020)) に分類されている。 (2) 雌雄のラットに本物質を2年間混餌投与した2つの慢性毒性/発がん性併合試験において、一方の試験では雌雄で前胃の乳頭腫又は扁平上皮がんが、もう一方の試験では、雌雄で尿細管腺腫及び腺がん、前胃の乳頭腫、雌で前胃の扁平上皮がんの発生頻度の増加が認められた (食安委 農薬評価書 (2018))。 (3) 雌雄のラットに本物質を2年間混餌投与した発がん性試験において、雌雄でいずれも1例の前胃扁平上皮がんが認められ、雌雄で前胃乳頭腫並びに尿細管腺腫及び腺がんの発生頻度の増加が認められた (食安委 農薬評価書 (2018))。 (4) マウスに本物質を2年間混餌投与した2つの発がん性試験において、一方の試験では雌で前胃乳頭腫及び扁平上皮がんの合計が、雄で前胃扁平上皮がん並びに尿細管腺腫及び腺がんの発生頻度の増加が認められたが、もう一方の試験では投与により発生頻度の増加した腫瘍性病変は認められなかった (食安委 農薬評価書 (2018))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1) より、概して親動物の一般毒性用量において、母乳を介した児動物毒性が示唆されることから、「追加区分:授乳に対する又は授乳を介した影響」とした。なお、旧分類の分類根拠であるラット催奇形性試験での初期胚死亡の増加は、(3) のデータと考えられる。この試験は母動物の死亡が多いため参考データとしたことから、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) ラットを用いた混餌投与による3世代繁殖試験において、15,000 ppm (P世代: 雄: 942 mg/kg/day、雌: 967 mg/kg/day;F1世代: 雄: 1,420 mg/kg/day、雌: 1,580 mg/kg/day;F2世代: 雄: 1,400 mg/kg/day、雌: 977 mg/kg/day) 以上の全世代の雌雄親動物で削瘦、円背位、体重増加抑制等がみられ、これらの用量のF1及びF2児動物で斜視、円背位及び体重増加抑制、腎臓の病変等がみられた。1,500 ppm (雄: 110 mg/kg/day、雌: 130 mg/kg/day) 以上のF2雌雄親動物では腎皮質緑色化、盲腸拡張がみられ、この用量でのF3児動物では体重増加抑制、円背位、斜視 (離乳期)、食道及び前胃扁平上皮肥厚、腎尿細管上皮空胞化がみられた。また、親動物毒性がみられない1,500 ppmのF2児動物で体重増加抑制がみられた。児動物での体重増加抑制に着目して、F1及びF2世代の第1産児に対して、15,000 ppm投与群と対照群との間で交叉哺育が実施された。その結果、15,000 ppm投与群の児動物を対照群の雌が哺育した場合には、児動物に体重増加抑制は認められなかった (食安委 農薬評価書 (2018))。
【参考データ等】 (2) ラットを用いた混餌投与による2世代繁殖試験において、親動物では500 ppm以上の投与群の雌雄で前胃扁平上皮細胞過形成、雄で腎尿細管上皮過形成、尿細管肥大、明細胞過形成等、1,500 ppm以上の投与群の雌で腎尿細管上皮過形成、尿細管肥大等が認められ、児動物では3,000 ppm投与群で体重増加抑制が認められた。繁殖能に対する影響は認められなかった (食安委 農薬評価書 (2018))。 (3) 雌ラットの妊娠6~15日に強制経口投与した発生毒性試験において、母動物毒性 (死亡 (3/25例)、粘液便、軟便、赤色膣分泌物、体重増加抑制等) がみられる用量 (400 mg/kg/day) で早期吸収胚率上昇 (有意差なし) がみられたが催奇形性はみられていない (食安委 農薬評価書 (2018))。 (4) 雌ウサギの妊娠7~19日に強制経口投与した発生毒性試験において、母動物毒性 (死亡 (1/20例)、体重増加抑制、摂餌量減少) がみられる用量 (20 mg/kg/day) においても胎児に影響はみられていない (食安委 農薬評価書 (2018))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分3 (気道刺激性) とした。なお、新たな情報源の使用により、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) ヒトの急性症状として、眼の痛み、発赤、かすみ眼、皮膚の発赤、経口摂取により灼熱感、腹痛、吸入により灼熱感がみられる (MOE初期評価第4巻:暫定的有害性評価シート (2005))。 (2) ラットの単回吸入ばく露試験 (影響がみられた最小用量の記載なし、LD50値 (雄: 0.094 mg/L、雌: 0.0925 mg/L) 付近の区分1の範囲と想定) では、呼吸不全、努力呼吸、喘ぎ、眼、鼻及び口からの過剰分泌、部分的及び完全閉眼、活動低下、湿性ラッセル音並びに乾性ラッセル音がみられた (食安委 農薬評価書 (2018))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1)~(7) より、区分2 (腎臓) とした。なお、前胃を中心とする消化管への影響もみられているが、本物質の刺激作用による変化と考えられることから分類根拠としなかった。新たな情報を用いて検討した結果、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ等】 (1) ラットを用いた90日間の混餌投与試験において、40 mg/kg/day (区分2の範囲) 以上の雌雄で腎相対重量増加、急性巣状胃炎、近位尿細管上皮過形成、近位尿細管曲部上皮ニュートラルレッド陽性封入体、雄で近位尿細管上皮肥大、腎尿細管基底膜肥厚が報告されている (食安委 農薬評価書 (2018))。 (2) ラットを用いた90日間の混餌投与試験において、10.0 mg/kg/day (区分1の上限) の雌雄で前胃部粘膜の過形成及び角化亢進が、雄で腎絶対及び補正重量増加、近位尿細管上皮肥大及び過形成がみられた (食安委 農薬評価書 (2018))。 (3) マウスを用いた90日間の混餌投与試験において、50 ppm (雄/雌: 8.5/9.8 mg/kg/day、区分1の範囲) 以上の雌雄で前胃扁平上皮過形成及び角化亢進が、275 ppm (雄/雌: 47.7/21.4 mg/kg/day、区分2の範囲) 以上の雄で近位尿細管曲部上皮過形成、雌で前胃粘膜潰瘍が、750 ppm (雄/雌: 124/141 mg/kg/day、区分2超) の雌でALP増加、腎絶対及び比重量増加、近位尿細管曲部上皮過形成がみられた (食安委 農薬評価書 (2018))。 (4) イヌを用いた混餌投与による2年間慢性毒性試験において、1,500 ppm (雄/雌:45.0/44.1 mg/kg/day、区分2の範囲) 以上の雌雄で甲状腺重量増加、雄で甲状腺ろ胞上皮色素沈着、雌で腎近位尿細管曲部上皮細胞肥大、胃炎が報告されている (食安委 農薬評価書 (2018))。 (5) ラットを用いた2年間慢性毒性/発がん性併合試験の結果、60 ppm (雌/雄: 2.7/3.3 mg/kg/day、区分1の範囲) 以上の雌雄で前胃上皮過形成及び角化亢進、潰瘍形成、粘膜下線維化及び炎症性細胞が、240 ppm (雌/雄: 10.6/13.9 mg/kg/day、区分2の範囲) 以上の雌雄で腎好塩基性皮質尿細管拡張、進行性糸球体腎炎、雄でMCV、ヘモグロビン又は赤血球数の増加、腎比重量増加が、1,200 ppm (雌/雄: 54/70 mg/kg/day、区分2の範囲) の雌雄で被毛黄色汚れ、雄で尿タンパク濃度上昇、雌で腎重量増加がみられたと報告されている (食安委 農薬評価書 (2018))。 (6) ラットを用いた2年間発がん性試験の結果、40 mg/kg/day (区分2の範囲) 以上の雌雄で体重増加抑制及び摂餌量減少、食道粘膜過形成及び角化亢進、前胃粘膜上皮過形成及び角化亢進、前胃粘膜下組織炎症及び潰瘍、腺胃潰瘍、十二指腸粘膜肥厚、進行性慢性腎症の重篤化、限局性尿細管上皮過形成、尿細管上皮肥大、尿細管上皮過形成、雄で 腎絶重量増加が80 mg/kg/day (区分2の範囲) 以上の雄でBUN増加、雌で腎重量増加が、175 mg/kg/day (区分2超) の雌雄で尿の暗黄色化がみられたと報告されている (食安委 農薬評価書 (2018))。 (7) 雄マウスを用いた2年間発がん性試験の結果、40 ppm (5.35 mg/kg/day、区分1の範囲) 以上で前胃粘膜角化亢進及び扁平上皮過形成が、175 ppm (23.2 mg/kg/day、区分2の範囲) 以上で近位尿細管曲部上皮過形成が、750 ppm (99.7 mg/kg/day、区分2の範囲) で腎絶対及び比重量増加、近位尿細管上皮巨大核、腺胃粘膜嚢胞がみられたと報告されている (食安委 農薬評価書 (2018))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。本有害性クラスの内容に変更はない。