急性毒性
経口
【分類根拠】
(1)、(2) より、区分3とした。なお、新たな情報源の使用により、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】
(1) ラットのLD50: 268~660 mg/kg (SIAR (2005))
(2) ラットのLD50: 1,000 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2005))
経皮
【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
吸入: ガス
【分類根拠】
GHSの定義における固体であり、区分に該当しないとした。
吸入: 蒸気
【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】
本物質のデータはないが、本物質の構成成分となる各種ジニトロトルエン (DNT) 異性体の情報 (1)~(3) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】
(1) 本物質の構成成分となる各種DNT異性体のウサギを用いた皮膚刺激性試験 (ドレイズ法) において2,5-DNTで中等度、2,3-DNTと3,4-DNTで軽度の刺激性を示し、2,4-DNT、2,6-DNT、3,5-DNTでは刺激性はみられなかった (厚労省リスク評価書 (2009)、MAK (DFG) vol.6 (1994)、ACGIH (7th, 2001)、GESTIS (Access on April 2020))。
(2) ウサギに2,4- DNT及び2,6-DNT (用量不明) を適用した皮膚刺激性試験で、軽度の刺激性がみられた (NITE初期リスク評価書 (2005))。
(3) 2,4-DNT、2,6-DNTはウサギの皮膚に対し、軽度の刺激性を示す (ATSDR (2016))。
【参考データ等】
(4) 本物質をウサギの耳介の内側に閉塞適用した試験で刺激性を示さなかった (SIAR (2005)、AICIS IMAP (Access on April 2020))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】
(1) 及び本物質の構成成分となる各種ジニトロトルエン (DNT) 異性体の情報 (2) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】
(1) 本物質はウサギを用いた眼刺激性試験 (非TG試験) でごく軽度の刺激性を示し、7日以内に回復した (SIAR (2005)、AICIS IMAP (Access on April 2020))。
(2) 本物質の構成成分となる各種DNT異性体のウサギを用いた眼刺激性試験 (ドレイズ法) において、6 つの異性体は全て刺激性を示さなかった (厚労省リスク評価書 (2009)、MAK (DFG) vol.6 (1994)、ACGIH (7th, 2001)、AICIS IMAP (Access on April 2020)、GESTIS (Access on April 2020))。
呼吸器感作性
【分類根拠】
データ不足のため、分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】
本物質のデータはないが、本物質の構成成分となる各種ジニトロトルエン (DNT) 異性体の情報 (1)、(2) より、区分に該当しないとした。新たなデータが得られたことから分類結果を変更した。
【根拠データ】
(1) 本物質の構成成分となる各種DNT異性体のモルモット (10 匹、性別不明) を用いた皮膚感作性試験 (マキシマイゼーション法) において2,6-DNT では2/10 例が陽性であったが、他の異性体は全て陰性であった (厚労省リスク評価書 (2009)、NITE初期リスク評価書 (2005)、ATSDR (2016)、MAK (DFG) vol.6 (1994)、AICIS IMAP (Access on April 2020)、GESTIS (Access on April 2020))。
(2) 本物質の主要な構成物である2,4-DNTはモルモット を用いた皮膚感作性試験 (マキシマイゼーション法) では陰性であり、次に主要な2,6-DNTは軽度の感作性であることから、本物質がヒトに感作性を示す可能性は低い (AICIS IMAP (Access on April 2020))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】
(1)~(3) より、区分2とした。新たな情報を追加し、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】
(1) in vivoでは、マウスの優性致死試験において陰性の報告がある (SIAR (2005))。また、マウス骨髄細胞の小核試験及びマウススポット試験で陰性、ラットリンパ球の姉妹染色分体交換試験で弱陽性、ラットの肝臓を用いた不定期DNA合成試験で陽性の報告がある (SIAR (2005))
(2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陽性及び陰性、ほ乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験で陰性の報告がある (SIAR (2005))。
(3) 本物質の主要構成成分である2,4-DNT(CAS番号 121-14-2、約80%)及び2,6-DNT(CAS番号 606-20-2、約20%)の本項はいずれも区分2である (2020年度GHS分類結果)。
【参考データ等】
(4) EU CLP分類でMuta. 2に分類されている (EU CLP分類 (Access on April 2020))。
発がん性
【分類根拠】
ヒトではジニトロトルエンへのばく露と発がん性との関係が明確な情報はない。(1) のEU CLP分類結果、(2) 及び (3) の本物質の構成成分の2,6-DNTの分類結果より、区分1Bとした。
【根拠データ】
(1) 国内外の分類機関による既存分類では、ACGIHでA3 (ACGIH (7th, 2001))、EU CLPでCarc.1B (EU CLP分類 (Access on April 2020))、MAK (DFG) で2 (DFG List of MAK and BAT Values 2019) に分類されている。
(2) 本物質の主たる構成成分である2,4-DNT 及び2,6-DNTの本項分類結果はそれぞれ区分2及び区分1Bに分類された(2020年度GHS分類結果)。
(3) 雄ラットに、2,4-DNT (CAS番号 121-14-2)、2,6-DNT (CAS番号 606-20-2)、工業用ジニトロトルエン (2,4-DNT 76%、2,6-DNT 18%) を52週間混餌投与した試験で、2,4-DNTは1/20に肝腫瘍性結節がみられただけであったが、2,6-DNTでは肝細胞がん又は肝腫瘍性結節の用量依存的な発生率の増加に加え、肝腫瘍の肺への転移、胆管がんがみられた (IARC 65 (1996)、MOE初期評価第9巻 (2011))。一方、工業用ジニトロトルエンでは、肝腫瘍性結節、肝細胞がん、胆管がんがみられたが、2,6-DNTに比べて発生率は低く、肺への転移もなかった。この結果から、2,6-DNTには発がん性があり、工業用ジニトロトルエンの発がん作用のほとんどがそれに含まれる2,6-DNTで説明できることが示された (MOE初期評価第9巻 (2011)、ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (2016))。
【参考データ等】
(4) 肝臓のγ-GTP陽性細胞巣を指標とし、ラットにジニトロトルエンの各異性体 (2,3-DNT、2,4-DNT、2,5-DNT、2,6-DNT、3,4-DNT、3,5-DNT) 及び工業用ジニトロトルエンを投与して実施したイニシエーション-プロモーション試験の結果、2,6-DNT及び工業用ジニトロトルエンで弱いイニシエーション活性を認めたが、その他の異性体でイニシエーション活性はみられなかった (MOE初期評価第9巻 (2011)、NITE初期リスク評価書 (2005))。また、ジニトロトルエンのプロモーション活性の有無を検討するために、雄ラットにN-ニトロソジエチルアミンの単回腹腔内投与2週間後から2,4-DNT、2,6-DNT、工業用ジニトロトルエンを混餌投与し、肝臓のγ-GTP陽性細胞巣を指標とした試験系では、いずれの物質もプロモーション活性を認め、2,6-DNTの活性は2,4-DNTよりも約10倍高かった (MOE初期評価第9巻 (2011)、NITE初期リスク評価書 (2005))。
生殖毒性
【分類根拠】
(1) より、雄性生殖器毒性がみられていること、及び (2) 、(3) より、混合物である本物質においても区分2とした。
【根拠データ】
(1) ラットを用いた本物質 (ジニトロトルエン (DNT) 異性体混合物) (異性体組成:2,3-DNT 1.54%、2,4-DNT 76.49%、2,5-DNT 0.65%、2,6-DNT 18.83%、3,4-DNT 2.43%、3,5-DNT 0.040%) の104週間混餌投与試験において、血液や肝臓に対する影響のほか雄性生殖器に対する影響 (精巣の矮小、精巣重量減少、精巣の変性、精子形成減少) が認められている (2,4-DNTのMOE初期評価第5巻 (2006))。
(2) 2,4-DNTでは雄性生殖器毒性に関連すると考えられる生殖能に対する影響が親動物毒性用量でみられたため、本年度 (2020年度) 分類において区分2に分類している。
(3) 2,6-DNT及び3,5-DNTでは雄性生殖器毒性がみられ、異性体である2,4-DNTで雄性生殖器毒性に関連すると考えられる生殖能に対する影響がみられていることを根拠として本年度 (2020年度) 分類において区分2に分類している。
【参考データ等】
(4) 雌ラットの妊娠7~20日に強制経口投与した発生毒性試験において、母動物毒性用量 (死亡率46%) で吸収胚の増加傾向が認められた (2,4-DNTのMOE初期評価第5巻 (2006))。なお、この試験については、複数の評価書 (SIAR (2005)、2,4-DNTのMOE初期評価第5巻 (2006)、MAK (DFG) vol.6 (1994) 等) では、母動物毒性はみられるが胚、胎児に対する影響はないとしている。また、このデータは、旧分類の分類根拠であるが、母動物毒性が死亡率46%と高いことから分類根拠としなかった。
(5) 種々のDNT異性体 (2,3-DNT、2,4-DNT、2,5-DNT、2,6-DNT、3,4-DNT、3,5-DNT) について雄ラットを用いた14日間反復投与毒性試験が実施された。その結果、2,4-DNT、2,6-DNT及び3,5-DNTで雄性生殖器に影響 (精巣の矮小、精巣の重量減少、精細管の変性及び精巣における多核巨細胞形成) がみられた。一方、2,3-DNT 、2,5-DNT及び3,4-DNTでは、雄性生殖器に影響 (精巣及び精巣上体の重量及び病理組織学的影響) はみられていない (ATSDR (2016))。
(6) EU CLP分類ではRepr. 2に分類されている (EU CLP分類 (Access on April 2020))。