急性毒性
経口
【分類根拠】
(1)~(6) より、区分4とした。
【根拠データ】
(1) ラットのLD50: 300 mg/kg (ATSDR (2008)、IPCS PIM G001 (1998))
(2) ラットのLD50: 300~850 mg/kg (産衛学会許容濃度提案理由書 (1989))
(3) ラットのLD50: 300~> 2,150 mg/kg (JMPR (2016))
(4) ラットのLD50: 雌: 485~822 mg/kg、雄: 521~868 mg/kg (食安委 農薬・動物用医薬品評価書 (2017))
(5) ラットのLD50: 1,000 mg (MAK (DFG) (2017))
(6) ラットのLD50: 1,160~1,250 mg/kg (EPA Pesticides RED (2006))
【参考データ等】
(7) ラットのLD50: 雄: 250 mg/kg、雌: 285 mg/kg (産衛学会許容濃度提案理由書 (1989)、ATSDR (2008))
経皮
【分類根拠】
(1)~(5) より、区分3とした。
なお、情報の精査により、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】
(1) ラットのLD50: 雌: 876 mg/kg、雄: 1,670 mg/kg (食安委 農薬・動物用医薬品評価書 (2017))
(2) ラットのLD50: > 1,000 mg/kg (ACGIH (7th, 2003))
(3) ラットのLD50: 雄: 1,440 mg/kg (食安委 農薬・動物用医薬品評価書 (2017))
(4) ラットのLD50: > 2,000 mg/kg (MAK (DFG) (2017))
(5) ラットのLD50: > 2,150 mg/kg (産衛学会許容濃度提案理由書 (1989))
【参考データ等】
(6) ラットのLD50: 雌: 455 mg/kg、雄: 900 mg/kg (産衛学会許容濃度提案理由書 (1989)、ACGIH (7th, 2003)、ATSDR (2008))
吸入: ガス
【分類根拠】
GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】
(1)、(2) より、区分4とした。
なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 (0.00148 mg/L) よりも高いため、ミストとしてmg/Lを単位とする基準値を適用した。
【根拠データ】
(1) ラットのLC50 (4時間): 3.1 mg/L (食安委 農薬・動物用医薬品評価書 (2017))
(2) ラットのLC50 (4時間): 3.5 mg/L (MAK (DFG) (2017)、MOE初期評価第4巻:暫定的有害評価シート (2005)、ACGIH (7th, 2003))
(3) 本物質の蒸気圧: 9.01E-005 mmHg (25℃) (HSDB (Access on May 2020)) (飽和蒸気圧濃度換算値: 0.00148 mg/L)
【参考データ等】
(4) ラットのLC50 (4時間): > 2.33 mg/L (MAK (DFG) (2017)、EPA Pesticides RED (2006))
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】
(1)~(4) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】
(1) 本物質はウサギの皮膚に対してわずかな刺激性を有する (EHC 198 (1998)、HSDB (Access on May 2020))。
(2) 本物質はウサギの皮膚に対して軽度の刺激性を有する (JMPR Report (2016)、GESTIS (Access on May 2020)、Canada Pesticides (2007))。
(3) 本物質はウサギの皮膚に対して刺激性を示さない (MAK (DFG) (2017)、食安委 農薬・動物用医薬品評価書 (2017))。
(4) EPA OPPTS 870.2500に準拠したウサギを用いた皮膚刺激性試験で、最大刺激性スコアは2.8であり、軽度の刺激性と報告されている (EPA pesticides RED (2006))。
【参考データ等】
(5) 本物質は短期間のばく露によって眼、皮膚を刺激し、急性症状として眼や皮膚の発赤、痛み、縮瞳がみられる (MOE初期評価第4巻:暫定的有害評価シート (2005))。
(6) 本物質 (1/10希釈液) のウサギを用いた皮膚刺激性試験 (ドレイズ法) で、軽度の紅斑がみられたが、2日後までに回復した (農薬工業会「日本農薬学会誌」第14巻第1号 (1989))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】
(1)~(4) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】
(1) 本物質はウサギの眼に対しては刺激性を示さない (EHC 198 (1998)、HSDB (Access on May 2020))。
(2) 本物質はウサギの眼に対して軽度の刺激性を有する (JMPR Report (2016)、GESTIS (Access on May 2020)、MAK (DFG) (2017)、食安委 農薬・動物用医薬品評価書 (2017))。
(3) 本物質はウサギの眼に対してはごく軽度の刺激性を示す (Canada Pesticides (2007))。
(4) EPA OPPTS 870.2400に準拠したウサギを用いた眼刺激性試験でごく軽度の刺激性と報告されている (EPA Pesticides RED (2006))。
【参考データ等】
(5) 本物質は短期間のばく露によって眼、皮膚を刺激し、急性症状として眼や皮膚の発赤、痛み、縮瞳がみられる (MOE初期評価第4巻:暫定的有害評価シート (2005))。
(6) 本物質 (1/10希釈液) のウサギを用いた眼刺激性試験 (ドレイズ法) で、一過性の極めて軽度の結膜発赤がみられたが、2日後までに回復した (農薬工業会「日本農薬学会誌」第14巻第1号 (1989))。
呼吸器感作性
【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】
(1)、(2) より、区分1とした。なお、モルモット試験において陽性/陰性の結果が混在するが、試験法の感度の差を考慮し、区分1とした。
【根拠データ】
(1) 本物質はモルモットを用いた皮膚感作性試験 (マキシマイゼーション法) で陽性と報告されている (JMPR Report (2016)、食安委 農薬・動物用医薬品評価書 (2017)、農薬工業会「日本農薬学会誌」第14巻第1号 (1989))。
(2) 本物質は感作性を有する (Canada Pesticides (2007))。
【参考データ等】
(3) 本物質は皮膚感作性を有しない (EHC 198 (1998)、HSDB (Access on May 2020))。
(4) 本物質のモルモットを用いた皮膚感作性試験 (改変ビューラー法、適用濃度 10%) で陰性と報告されている (ACGIH (7th, 2003))。
(5) 本物質にばく露された農夫において、接触皮膚炎が報告されているが、他の報告では本物質 (1%) のパッチには刺激、感作性ともに陰性との報告もある (ATSDR (2008))。
(6) EPA OPPTS 870.2600に準拠したモルモットを用いた皮膚感作性試験 (ビューラー法) で、陰性と報告されている (EPA pesticides RED (2006))。
(7) 本物質が原因のアレルギー性皮膚反応は、ごく希であり、294人の皮膚患者と健常人を対象としたパッチテストやモルモットの試験で、刺激性や感作性は認められていない (GESTIS (Access on May 2020))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】
(1)~(3) より、区分に該当しないとした。新たな情報を追加し分類結果を変更した。
【根拠データ】
(1) in vivoでは、マウスの優性致死試験で陰性の報告がある。ラット末梢血やマウス骨髄細胞を用いた小核試験で陰性、ラット末梢血を用いた小核試験で陽性の報告がある。ウサギの肝臓、腎臓を用いたDNA損傷試験で陽性、マウスの精原細胞、精母細胞、骨髄細胞を用いた染色体異常試験及びマウスの骨髄細胞を用いた姉妹染色分体交換試験で陰性の報告がある(IARC 112 (2017)、EHC 198 (1998)、JMPR addendum (2016))。
(2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、姉妹染色分体交換試験で陰性、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験、小核試験、染色体異常試験で陽性及び陰性の報告がある(IARC 112 (2017)、EHC 198 (1998)、JMPR addendum (2016)、ACGIH (7th, 2003)、ATSDR (2008)、Patty (6th, 2012) 、JMPR (1993)、CEBS (Access on May 2020))。
(3) 本物質に生体において問題となる遺伝毒性はないものと考えられるとの記載がある (食安委 農薬・動物用医薬品評価書 (2017)、JMPR (2016))
【参考データ等】
(4) 本物質にばく露された労働者の末梢血において染色体異常がみられたとの報告がある (IARC 112 (2017))。
発がん性
【分類根拠】
(1) の最新の既存分類結果 (産衛学会で第2群B) 及び (2)、(3) より疫学研究及び動物実験ともに限定的な証拠とされていることから区分2とした。最新の既存分類結果に基づき分類結果を変更した。
【根拠データ】
(1) 国内外の分類機関による既存分類では、産衛学会で第2群B (産業衛生学雑誌許容濃度等の勧告 (2018年提案))、IARCでグループ2A (IARC 112 (2017))、ACGIHでA4 (ACGIH (7th, 2003))、EPAでNL (Not Likely to be Carcinogenic to Humans) (EPA Annual Cancer Report 2019 (Access on September 2020):1997年分類) に分類されている。
(2) ヒトでは本物質ばく露と非ホジキンリンパ腫、白血病及び肺がんとの間に正の相関がみられたが、利用可能な研究の数が比較的少なく、リスク増加要因として他の農薬による交絡を完全に排除することができないことから、IARCはヒトでの発がん性に関し限定的な証拠があると結論した (IARC 112 (2017))。
(3) 実験動物ではラットに混餌投与した2つの試験のうち1つで白血病とリンパ腫の合計発生頻度の増加 (雄のみ、用量相関なし) がみられ、マウスを用いた混餌投与試験では雄の低用量群で肝細胞がんの増加が雄にみられた (IARC 112 (2017))。IARC の作業グループはいずれの所見も雄のみで用量相関性を欠くことから、被験物質投与と明確に関連した影響とは言えず、実験動物での発がん性の証拠は限定的であると結論した (IARC 112 (2017))。
【参考データ等】
(4) IARCは、本物質は作用機序の面からヒト発がん物質として作用する強力な証拠 (ヒトで遺伝毒性物質である可能性、酸化ストレス誘発能) があるとしている (IARC 112 (2017))。
(5) JMPR及び食安委では、本物質は遺伝毒性も発がん性も認められないと評価している (JMPR, 2016、食安委 農薬・動物用医薬品評価書 (2017))。
生殖毒性
【分類根拠】
(1) より、親動物毒性がみられる用量であるが交尾率、妊娠率の低下がみられ、同腹児数の減少等がみられた。(2)、(3) より雄性生殖器毒性がみられ、それに起因したと考えられる受胎率の低下や生存胎児数/同腹児数減少、吸収胚数増加等がみられた。(4)、(5) より母動物毒性がみられる用量であるが奇形や児動物に学習と記憶力の低下等がみられた。以上より区分1Bとした。なお、新たな情報源 ((3)~(5)) の使用により、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】
(1) ラットを用いた混餌投与による2世代繁殖試験において、100 ppmで親動物に体重増加抑制、児動物に死亡、体重増加抑制、500 ppmで親動物に振戦、交尾率及び妊娠率の低下、妊娠期間延長、児動物で同腹児数、生存児数の減少がみられた (食安委 農薬・動物用医薬品評価書 (2017))。
(2) 雄ラットに65日間経口投与した結果、生殖器官重量の減少、形態異常精子の割合の増加、血漿テストステロン濃度の低下がみられ、未処置雌との交配で受胎率の低下が認められた (ATSDR (2008))。
(3) 雄マウスを用いた4週間経口投与毒性試験において、親動物には4.1 mg/kg/day以上の用量で精子の様々な発生段階への影響、精細管の病理組織学的変化、及び性腺刺激ホルモン濃度の低下が認められ、未処置の雌との交配で8.2 mg/kg/dayで生存胎児数/同腹児数減少、早期及び後期吸収胚数及び着床後胚損失増加がみられている (MAK (DFG) (2017))。
(4) 雌ラットの妊娠6~15日に強制経口投与した発生毒性試験において、3.8 mg/kg/day以上で母動物にコリン作動性症状 (下痢、振戦、衰弱、流涎、活動低下)、体重増加抑制、脳の重量減少、脳アセチルコリンエステラーゼ (AChE) 減少がみられ、胎児に内臓異常数の増加 (心浮腫、内臓肥大、肺水腫)、7.6 mg/kg/dayで母動物に肝臓と妊娠子宮の重量減少、胎児に着床後胚損失増加、1腹当たりの生存胎児数減少、早期吸収増加 、後期吸収増加、体重減少、頭臀長減少、外表、骨格奇形及び内臓異常数増加 (矮小児、内臓ヘルニア、眼の異常、口唇裂、四肢の異常、尾の異常、皮膚浮腫、短肋骨または肋骨欠損、頭蓋骨減少、四肢変形、椎骨減少、心臓浮腫、尿管拡張、内臓肥大、肺水腫) がみられている (MAK (DFG) (2017))。
(5) 雌ラットの妊娠6日から分娩後21日まで混餌投与した発達神経毒性試験 (OECD TG 426) において、2.36 mg/kg/day以上で母動物に:赤血球AChE低下 (12.7%)、脳AChE低下(75.2%) がみられ、児動物では赤血球AChE低下 (58.7%)、24.2 mg/kg/dayで児動物体重及び体重増加量減少 (生後4日)、雄で包皮分離遅延、水迷路試験における学習と記憶力低下、脳AChE活性低下 (71.4%)、雌で膣開口遅延がみられている (MAK (DFG) (2017))。