急性毒性
経口
GHS分類:区分4 ラットのLD50値として、500-1,000 mg/kg (雄)、250-1,000 mg/kg (雌) (産衛学会許容濃度の提案理由書 (2008)) との2件の報告がある。1件が区分4に該当し、もう1件からは区分を特定できないので、区分4とした。今回の調査で入手した産衛学会許容濃度の提案理由書 (2008) の情報を追加し、区分を見直した。
経皮
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、本物質のアンモニウム塩 (ペルフルオルオクタン酸アンモニウム塩 CAS No.:3825-26-1) のラットのLD50値として、7,000 mg/kg (雄)、> 7,500 mg/kg (雌) (環境省リスク評価第9巻 (2011)、SIDS (2009))、ウサギのLD50値として、> 2,000 mg/kg (SIDS (2009))、4,300 mg/kg (環境省リスク評価第9巻 (2011)、SIDS (2009)) との報告がある。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。本物質のアンモニウム塩 (ペルフルオルオクタン酸アンモニウム塩 CAS No.:3825-26-1) のラットのLC50値 (4時間) として980 mg/m3との報告 (環境省リスク評価第9巻 (2011)、SIDS (2009)) がある。なお、試験は粉塵で行われたとの記載、及び飽和蒸気圧濃度0.0014 mg/LよりもLC50値が大きいので粉じん/ミストとみなした。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分2 具体的な情報は無いが、本物質は皮膚を刺激するとの記載から (環境省リスク評価第9巻 (2011))、区分2とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分1 本物質の水溶液は強酸であり (pH2.6、SIDS (2009))、眼に対して強い刺激性を持つとの記載がある (GESTIS (2015)) ことから区分1とした。また、本物質は眼を刺激するとの記載がある (環境省リスク評価第9巻 (2011))。なお、本物質は、EU CLP分類において「Eye Dam. 1 H318」に分類されている (ECHA CL Inventory (2015))。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、モルモットを用いたビューラー試験において、本物質の塩 (詳細不明) を適用した結果感作性はみられなかったとの報告がある (GESTIS (2015))。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。すなわち、in vivoでは、マウスの骨髄細胞を用いる小核試験で陰性 (SIDS (2009)、環境省リスク評価第9巻 (2011))、ラットの末梢血赤血球を用いた小核試験では雌で陰性を示したが雄では陽性結果を示したとの報告があるが (NTP DB (2015))、このNTPデータについては評価文書で記載がない。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験、ヒトリンパ球の染色体異常試験で陰性であるが、哺乳類培養細胞の染色体異常試験、ヒトの培養系肝細胞である HepG2の小核試験及びコメットアッセイ (DNA損傷試験) で陽性の結果もある (SIDS (2009)、環境省リスク評価第9巻 (2011)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2008)、NTP DB (2015))。以上より、本物質のin vivoにおける変異原性について明確な知見がなく、分類できないとした。
発がん性
GHS分類: 区分2 米国の本物質製造工場に1947~1997年に1年以上勤務した作業者を対象としたコホート研究では、有意ながんの発生は示されなかった (環境省リスク評価第9巻 (2011))。一方、本物質を使用する米国のフッ素化学工場で 1959-2001年までの作業者の発がん状況を調べた結果、標準化罹患比 (SIR) は膀胱がんで 1.9 (95%CI: 1.15~3.07)、腎臓及び泌尿器がんでSIR 2.3 (95%CI: 1.36~3.65) と有意に高かった。また、SIR に有意差はなかったものの、骨髄性白血病 (SIR 2.02)、喉頭がん (SIR 1.77)、多発性骨髄腫と免疫細胞増殖性疾患 (SIR 1.72)、悪性黒色腫 (SIR 1.3)、精巣がん (SIR 1.46)、脳腫瘍 (SIR 1.2) でも SIR の上昇がみられたと報告されているが、作業者のばく露情報や他の化学物質の使用状況などの記述がなく、本物質との関連は不明であったとされている (環境省リスク評価第9巻 (2011))。 実験動物では本物質のアンモニウム塩 (APFO) を雌雄ラットに2年間混餌投与した発がん性試験で、高用量 (300 ppm: 14.2~16.1 mg/kg/day) 投与で雄に精巣ライデッヒ細胞の腺腫の頻度増加、雌に肝細胞がん、乳腺線維腺腫の頻度増加がみられたが、雌の乳腺腫瘍は同系統の自然発生頻度から本物質ばく露による影響ではないと判断された (SIDS (2009)、環境省リスク評価第9巻 (2011))。また、同系統 (SD) の雄ラットにAPFOを300 ppm (13.6 mg/kg/day) で2年間混餌投与した試験では、肝細胞の腺腫、精巣ライデッヒ細胞の腺腫、膵臓腺房細胞の腺腫、又はがんの発生頻度に有意な増加がみられたと報告された (SIDS (2009)、環境省リスク評価第9巻 (2011))。以上の2試験結果より、本物質ばく露により、ラットでは肝臓腫瘍が雌雄に、雄ではさらに精巣及び膵臓に腫瘍発生の増加を誘発したが、SIDSは作用機序の検討を行った結果、膵臓腫瘍以外の肝臓と精巣の腫瘍はペルオキシソームα受容体を介したペルオキシソーム増殖作用に関連した腫瘍発生によるものであり、膵臓腫瘍の発生機序は不明であると考察した (SIDS (2009))。げっ歯類でのペルオキシソーム増殖作用による腫瘍発生がヒトで生じるかの種間外挿の妥当性については、現時点では結論は出ていないが (ECHA RAC Opinion (2014))、IARCは本物質の発がん性をグループ2Bに分類し (IARC vol. 110, in prep)、EUのCLP分類でも Carc. 2に分類されており (ECHA CL Inventory (2015))、以上を踏まえ、本項は区分2とするのが妥当と判断された。
生殖毒性
GHS分類: 区分1A、追加区分 ヒトでは本物質ばく露と胎児毒性との関連性について、否定的な複数の報告と同時に、以下に記述するように関連性を示唆する報告も複数ある (産衛学会許容濃度の暫定値の提案理由 (2014))。米国ボルチモア市の産婦人科の多施設横断的研究において、臍帯血中本物質 (PFOA) 濃度が高い妊婦では低体重児を出産するリスクの増加傾向がみられたとの報告、デンマークの大規模コホート研究において、妊婦の血清中PFOA 濃度と新生児の出生児体重との間に有意な負の相関が認められたとの報告、英国の母子追跡研究でも、妊婦血清中PFOA濃度と出産児体重の低下に関連性があったとの報告など (産衛学会許容濃度の暫定値の提案理由 (2014)) があり、さらに、中国の報告では母乳中に排泄された本物質と乳児への健康影響との関連性が示唆されたとの記述がある (SIDS (2009))。 実験動物では本物質のアンモニウム塩 (APFO) を用いた試験結果があり、ラットに強制経口投与した2世代生殖毒性試験では、F0、及びF1親動物に影響 (肝臓重量増加、体重及び体重増加量の低下) のみられる用量 (1~10 mg/kg/day) で、F1児動物に体重の低値推移、離乳後早期の死亡率の増加、生成熟遅延がみられた (SIDS (2009)、環境省初期リスク評価第9巻 (2011))。一方、APFOを用いた発生毒性試験では、妊娠ラットを用いた経口、及び吸入経路での器官形成期 (妊娠6~15日) 投与では、顕著な母動物毒性 (死亡例 (3/25 (経口) ; 2/13 (吸入))、嗜眠、体重及び摂餌量低下など) が発現する用量 (経口: 50~150 mg/kg/day、吸入: 10~25 mg/m3) でも、胎児毒性はみられないか、わずかに胎児重量の低値のみで軽微であった (SIDS (2009)、環境省初期リスク評価第9巻 (2011))。 しかし、妊娠マウスの妊娠1~17日にAPFOを強制経口投与した発生毒性試験では、母動物に1 mg/kg/day以上で肝臓重量の増加、5 mg/kg/day以上で体重増加抑制、全胚吸収母動物の増加がみられ、40 mg/kg/dayでは全例で胚/胎児の完全損失を生じた。新生児/胎児における発生・発達毒性影響としては、1 mg/kg/day以上で包皮分離の早期化、3 mg/kg/day以上で離乳後の成長遅延、5 mg/kg/day以上で死産児、新生児死亡の増加、四肢及び尾の欠損胎児の増加、開眼日齢の遅延、20 mg/kg/dayで膣開口の遅延、発情周期の遅延、包皮分類の遅延が認められた。母動物毒性、胎児毒性ともにマウスではラットよりも強く発現し、発生毒性には種差が示唆された (SIDS (2009)、環境省初期リスク評価第9巻 (2011))。さらに、妊娠ラットにAFPOを妊娠4日以降強制経口投与 (3~30 mg/kg/day) し、分娩後も新生児の離乳時まで母動物に投与を継続した妊娠期・授乳期投与試験において、母動物には血清中PFOAだけでなく、乳汁中にPFOAが検出され、用量依存的な乳汁中PFOA濃度の増加が認められた (SIDS (2009))。 既存分類としては、日本産業衛生学会がヒトの疫学研究での胎児毒性、並びに実験動物での胎児毒性及び発達毒性が明らかであるとして、「生殖毒性第1群」に (産衛学会許容濃度の暫定値の提案理由 (2014))、EUのCLP分類で、「Repr1B & Lact.」に分類されている (ECHA CL Inventory (2015))。以上より、日本産業衛生学会の分類結果に基づき、本項の分類は区分1Aとし、授乳影響の区分を追加した。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分3 (気道刺激性、麻酔作用) 本物質は気道刺激性がある (環境省リスク評価第9巻 (2011))。ヒトの吸入ばく露で咳、咽頭痛、経口摂取で腹痛、吐き気、嘔吐の記載がある (環境省リスク評価第9巻 (2011))。実験動物では、18,600 mg/m3 (18.6 mg/L) (区分2超に相当) で鼻汁、乾性ラ音、380 mg/m3 (0.38 mg/L) (区分1相当) 以上の用量で胃の刺激性、ラットの100~2,150 mg/kg (区分1以上の用量に相当) で生存個体において眼瞼下垂、立毛、活動低下、四肢の緊張低下、協調運動失調がみられた (ATSDR (2009))。 以上より、本物質は気道刺激性に加え、麻酔作用があると判断し、区分3 (気道刺激性、麻酔作用) とした。 新たな情報を加え旧分類を見直した。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (中枢神経系、肝臓)、区分2 (骨髄) ヒトに関する情報はない。 実験動物では、本物質のアンモニア塩を用いた試験結果がある。 ラットを用いた13週間混餌投与毒性試験において、5.64~7.7 mg/kg/dayで肝臓の肝臓の重量増加、肝細胞肥大がみられた (環境省リスク評価第9巻 (2011)、SIDS (2009))。アカゲザルを用いた90日間強制経口投与毒性試験において、30 mg/kg/dayで死亡 (雄1例、雌2例)、活動性低下、運動失調、顔面の腫脹、体重減少、骨髄の細胞数減少、脾臓、リンパ節のリンパ濾胞の萎縮、死亡例で副腎のび漫性脂質枯渇がみられた (環境省リスク評価第9巻 (2011)、SIDS (2009))。また、カニクイザルを用いた26週間強制経口投与毒性試験において、3 mg/kg/dayで後肢麻痺、運動失調、痛覚刺激に対する反応性低下がみられた (環境省リスク評価第9巻 (2011)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2008)、SIDS (2009))。 ラットを用いた2週間吸入毒性試験において、7.6 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0008 mg/L) でALPの増加、肝臓の絶対・相対重量増加、肝臓の腫脹、肝細胞の肥大・壊死、限局性の多病巣性の肝細胞壊死がみられた (環境省リスク評価第9巻 (2011))。 以上のように肝臓、中枢神経系、骨髄が標的臓器と考えられ、肝臓への影響は区分1の範囲、中枢神経系への影響は区分1及び区分2の範囲、骨髄への影響は区分2の範囲でみられた。 したがって、区分1 (中枢神経系、肝臓)、区分2 (骨髄) とした。 なお、ヒトに関しては、複数の疫学調査において、本物質ばく露と肝機能、血清脂質への影響に明らかな関連性は認められていない (環境省リスク評価第9巻 (2011)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (2008)、SIDS (2009))。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。