急性毒性
経口
GHS分類: 区分外 ラットのLD50値として、2,590 mg/kg との報告 (PATTY (6th, 2012)、IRIS Tox. Review (2009)、ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (1992)) に基づき、区分外 (国連分類基準の区分5) とした。
経皮
GHS分類: 区分外 ウサギのLD50値として、5.99 mL/kg (4,944 mg/kg) との報告 (PATTY (6th, 2012)) に基づき、区分外 (国連分類基準の区分5) とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。ラットに対して、4,000 ppmを4時間吸入させた結果、死亡例がみられなかったとの報告 (PATTY (6th, 2012)) があるが、この値のみでは区分を特定できない。なお、試験濃度が飽和蒸気圧濃度 (5,000 ppm) の90%より低いため、ミストを含まないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 区分外 ラットのLC50値 (4時間) として、32.8 mg/Lとの報告 (GESTIS (Access on August 2015)、RTECS (Access on August 2015) 元文献:Raw Material Data Handbook, Vol.1: Organic Solvents, 1974.) に基づき、区分外とした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (20.5 mg/L) より高いため、ミストの基準値を適用した。新たな情報を追加し、区分を見直した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分外 ウサギを用いた皮膚刺激性試験において、本物質の原液を24時間適用した結果、軽度の刺激性がみられたとの報告がある (ATSDR (1992)、PATTY (6th,2012))。以上より区分外 (国連分類基準の区分3) とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2A ウサギを用いた眼刺激性試験において、中等度の刺激性がみられたとの報告がある (ATSDR (1992))。また、ボランティアに本物質1,000 ppmをばく露した結果、中等度の刺激性がみられたとの報告がある (ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2011))。以上、中等度の刺激性との報告から区分2Aとした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
発がん性
GHS分類: 分類できない ヒトの発がん性に関する情報はない。 実験動物ではラット、マウスに2年間吸入ばく露した発がん性試験において、ラットの1,800 ppm で腎尿細管の過形成、及び尿細管の腺腫又はがんの頻度増加がみられた (ATSDR Addendum (2014)) との記述があるが、原著不詳 (著者と表題のみ判明) で詳細な内容を確認できない。この他、利用可能なデータはない。 国際機関による既存分類としては、EPAによる2009年の評価で、「I (Inadequate to assess human carcinogenic potential)」 に分類されているだけである (IRIS Summary (Access on August 2015))。したがって、分類ガイダンスに則して、分類できないとした。
生殖毒性
GHS分類: 区分2 雄ラットに本物質を700 ppmで11週間吸入ばく露、又は660~1,400 mg/kg/dayで90日間経口投与した試験で、精巣毒性 (精巣の萎縮、胚上皮の変性など) がみられた (ATSDR (1992)、ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012)) との記述があるが、雌との交配による生殖能への影響について検討した試験報告はない。しかし、妊娠ラットに妊娠期間を通して、500~2,000 ppmの用量で吸入ばく露し、F1児動物を生後から成熟動物 (adults) になるまで維持・育成し、この間新生児期、離乳期、思春期、成熟期に行動観察をした結果、1, 000 ppm以上で母動物に体重増加抑制、同腹児数の減少、F1児動物では1,000 ppm 以上で行動検査において、思春期の雌動物に回避学習行動の低下、思春期、成熟期の動物に自発運動の増加 (オープンフイールド検査) がみられ、2,000 ppmで生存率及び体重の低値がみられた (ATSDR (1992)、ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012)) との記述がある。本物質が神経系作用物質であることを考慮し、胎生期ばく露による生後の神経行動学的検査による所見を被験物質投与による影響とみなすことが妥当と判断し、よって本項は区分2とした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分1 (末梢神経系)、区分3 (気道刺激性、麻酔作用) 本物質はヒトに気道刺激性、麻酔作用があるとの報告 (ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012)、ATSDR (1992))、吸入及び経皮ばく露事例で、3名の作業者が本物質のスプレーペイント中に末梢神経障害を引き起こしたとの報告がある(ACGIH (7th, 2001))。 以上より、区分1 (末梢神経系)、区分3 (気道刺激性、麻酔作用) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
実験動物では、雄ラット、又は雄カニクイザルに本物質を100、又は1,000 ppmで10ヶ月間吸入ばく露 (蒸気と推定) した試験において、ラット、サルのいずれも 区分2相当の 100 ppm (0.41 mg/L/6 hr) 以上で坐骨-頸骨神経に対する運動伝導速度 (MCV) の低下が用量及び時間依存的にみられ、ラットでは100 ppm以上、サルでは1,000 ppmで、坐骨神経刺激に対する誘発筋活動電位の振幅の減少がみられた (IRIS Tox Review (2009)) との記述、ネコに2年間吸入した試験では330 ppm (1.35 mg/L/6 hr) で、神経病理学的変化として、神経軸索の変性、ミエリン消失を伴う軸索腫脹が末梢神経、及び中枢神経の両方でみられた (IRIS Tox Review (2009)) との記述がある。一方、経口経路でもラットに本物質を13週間飲水投与した試験において、250 ppm (143 mg/kg/day) 以上の用量で、末梢神経軸索の腫張、骨格筋の筋線維萎縮がみられ、脳、脊髄、末梢の神経軸索の変化はいずれにも発現したが、脳では他部位に比べ低頻度であった (IRIS Tox Review (2009))。 以上、ヒトの疫学報告で本物質により末梢神経症が生じることは多くの報告から明らかであるが、実験動物の神経病理学的検査から、神経軸索の組織変化は中枢神経系にも低頻度ではあるが生じることが示されており、ヒトでも中枢神経系への影響は少なくとも形態学的には発生するものと考えた。よって、本項は区分1 (神経系) とした。 なお、旧分類では区分2 (精巣) を採用したが、「生殖毒性」の項に記述したように、本物質の吸入、又は経口経路での反復ばく露により精巣毒性が認められたが、用量的には区分2を超える用量での所見であるため、今回の分類からは除外した。
GHS分類: 区分1 (神経系) 溶剤の塗装作業などで本物質にばく露された作業者に左右対称性の末梢性神経症 (ニューロパシー) の発症例が多数報告されており、典型例では脱力感、足の違和感、下肢から下半身、上腕部へと進行する筋力低下の発症、下肢の反射機能の低下ないし消失の経過をたどるとされている (IRIS Tox Review (2009))。また、バイオプシーにより採取した腓腹神経標本の観察により、び慢性の線維症、神経線維の消失、神経線維のもつれを伴う軸索の腫脹がみられた (IRIS Tox Review (2009)) との記述がある。また、本物質への慢性職業ばく露により、程度は異なるが左右対称性の中枢-末梢神経遠位性軸索症の発症、進展と関連があるとされてきた (ACGIH (7th, 2001)) との記述もある。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない ヒトでの吸引性呼吸器有害性の事例はない。ただし、本物質は3以上13を超えない炭素原子で構成されたケトンに属し、HSDB (Access on August 2015) に収載された数値データ (粘性率: 0.62 mPa・s (20℃)、密度 (比重) : 0.830 (20℃)) より、動粘性率計算値が 0.747mm2/sec (20℃) である。以上、国連分類では区分2に該当するが、旧分類後に改訂された現行ガイダンスにしたがい、分類できないとした。