急性毒性
経口
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。なお、参考データ (1) の情報があるが、経口LD50値は確認できなかった。
【参考データ等】 (1) 本物質の経口及び非経口経路におけるラットのLD50値は 300~1,600 mg/kgの範囲内との記述がある (GESTIS (Access on June 2019))
経皮
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、ガイダンスにおける分類対象外に相当し、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1) より、本物質の遊離塩基であるo-フェニレンジアミン (CAS番号 95-54-5) が区分に該当しないと判断されていることから、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) OECD TG 404に準拠したo-フェニレンジアミンのウサギを用いた皮膚刺激性試験で刺激性なしと報告されている (DFGOT vol.13 (1999))。 (2) OECD TG 404に準拠し、3匹のウサギを用いたo-フェニレンジアミンの皮膚刺激性試験で48時間後にごく軽度の紅斑がみられたが72時間後には回復し、24/48/72 hの紅斑と浮腫の平均スコアは0.6及び0と報告されている (REACH登録情報 (Access on June 2019))。
【参考データ等】 (3) 安全のため、本物質の取り扱いは、特に眼や気道に対して強い刺激性を有する可能性があると想定されるべきである (GESTIS (Access on May 2019))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1) より、本物質の遊離塩基であるo-フェニレンジアミン (CAS番号 95-54-5) が区分2Aと判断されていることから、区分2Aとした。
【根拠データ】 (1) OECD TG 405に準拠したたo-フェニレンジアミンの眼刺激性試験で刺激性を示し、平均スコアは角膜:2.1、虹彩:1、結膜発赤:3、結膜浮腫:2.9であったが、14日以内に回復している (REACH登録情報 (Access on June 2019))。
【参考データ等】 (2) OECD TG 405に準拠したたo-フェニレンジアミンの眼刺激性試験で結膜の発赤・浮腫、角膜混濁、虹彩の炎症を引き起こすが14日以内に回復した (DFGOT vol.13 (1999))。 (3) o-フェニレンジアミンはEU-CLP分類でEye Irrit. 2 (H319) に分類されている (EU CLP分類 (Access on May 2019))。 (4) 安全のため、本物質の取り扱いは、特に眼や気道に対して強い刺激性を有する可能性があると想定されるべきである (GESTIS (Access on May 2019))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)、(2) より、本物質の遊離塩基であるo-フェニレンジアミン (CAS番号 95-54-5) が区分1と判断されていることから、区分1とした。
【根拠データ】 (1) o-フェニレンジアミンは産衛学会 感作性分類 皮膚3群に分類されている (産衛学会感作性分類基準 (暫定) の提案理由書 (2010))。 (2) モルモットを用いたo-フェニレンジアミンの皮膚感作性試験で10例中3~7例で軽度から中等度の感作性反応 (陽性率30~70%) が示されている (REACH登録情報 (Access on June 2019))。
【参考データ等】 (3) EU-CLP分類でo-フェニレンジアミンはSkin Sens. 1 (H317) に分類されている (EU CLP分類 (Access on May 2019))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 本物質のin vivo及びin vitroデータはないが、本物質の遊離塩基であるo-フェニレンジアミン (CAS番号 95-54-5) では、(1)~(3) の報告がある。以上より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) 本物質のin vivoデータはないが、o-フェニレンジアミンではラットの優性致死試験及びマウススポット試験で陰性、マウス等の骨髄を用いた小核試験/染色体異常試験で陽性の報告がある (DFGOT vol.6 (1994)、DFGOT vol.13 (1999)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1999)、ACGIH (7th, 2001)、環境省リスク評価第12巻 (2014))。 (2) 本物質のin vitroデータはないが、o-フェニレンジアミンではマウスリンフォーマ試験で陽性、哺乳類培養細胞の染色体異常試験及び細菌の復帰突然変異試験の多くで陽性の報告がある (DFGOT vol.6 (1994)、DFGOT vol.13 (1999)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1999)、ACGIH (7th, 2001)、環境省リスク評価第12巻 (2014))。 (3) o-フェニレンジアミンはEU CLP調和分類で区分2に分類されている。
発がん性
【分類根拠】 (1)~(3)より、動物種2種に悪性腫瘍を含む明らかな発がん性の証拠が認められたこと及び(4)より健康障害防止指針(がん原性指針)の対象物質であることを重視し、区分1Bとした。旧分類からIARC及び日本産業衛生学会の分類が変更されたため、発がん性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)本物質を被験物質としたラットの2年間飲水投与による発がん性試験(OECD TG451、GLP)において、雌雄の肝臓で肝細胞腺腫及び肝細胞がんの顕著な発生増加がみられ、さらに、雄の膀胱に移行上皮乳頭腫及び移行上皮乳頭腫と移行上皮がんを合わせた発生増加がみられた。これらの結果は本物質の雌雄ラットに対するがん原性を示す明らかな証拠であると結論された(厚生労働省委託がん原性試験結果 (2004)、IARC 123 (2020))。 (2)本物質を被験物質としたマウスの2年間飲水投与による発がん性試験(OECD TG451、GLP)において、雄では肝臓に肝細胞腺腫の発生増加が、雌では肝細胞腺腫及び肝細胞がんの顕著な発生増加が、さらに雌雄の胆嚢に乳頭状腺腫の発生増加がみられた。これらの結果は本物質の雄マウスに対するがん原性を示す証拠と雌マウスに対するがん原性を示す明らかな証拠と結論された(厚生労働省委託がん原性試験結果 (2004)、IARC 123 (2020))。 (3)体内では本物質と遊離塩基のo-フェニレンジアミン(CAS番号 95-54-5)との間でpH依存性の酸-塩基平衡関係が成立すると考えられることから、一方の発がん性試験結果を他方の発がん性評価に関する情報として利用できる(IARC 123 (2020))。 (4)本物質は厚生労働省化学物質による健康障害防止指針(がん原性指針)の対象物質である(令和2年2月7日付け健康障害を防止するための指針公示第27号)。 (5)国内外の評価機関による既存分類結果として、IARCではグループ2Bに(IARC 123 (2020))、日本産業衛生学会では第2群Bに(産衛誌62巻5号 (2020):2019年提案)、EUではCarc. 2に(CLP分類結果 (Accessed Sep. 2021))それぞれ分類されている。
【参考データ等】 (6)本物質を雄ラット及び雌雄マウスに18ヵ月間混餌投与(ラットは6ヵ月後に剖検)した発がん性試験においても、肝細胞がんの発生増加がみられている(IARC 123 (2020)、厚労省リスク評価書 (2014)、MOE初期評価 (2014)、AICIS (旧NICNAS) IMAP (2013)、ACGIH (7th, 2001)、Patty (6th, 2012))。 (7)本物質の発がん性の評価に関して、利用可能なヒトのデータはない(IARC 123 (2020))。
生殖毒性
【分類根拠】 本物質自体のデータはない。また、本物質の遊離塩基であるo-フェニレンジアミンについては、データ不足のため分類できないとされている (o-フェニレンジアミン (CAS番号 95-54-5) の分類結果を参照のこと)。
【参考データ等】 (1) ラットにo-フェニレンジアミン0.8 mg/kg/day を経口投与した結果、胎児への影響を認めたという報告があるが、詳細は不明である (厚労省初期リスク評価書 (2014))。 (2) 妊娠10日の雌マウスにo-フェニレンジアミンを腹腔内投与したマウススポット試験の結果、妊娠の維持率の低下、出生前/出生後死亡の増加がみられた (環境省リスク評価第12巻 (2014)、DFGOT vol.13 (1999))。 (3) 雄ラットにo-フェニレンジアミンを腹腔内投与後、未処置の雌と交配させた優性致死試験の結果、着床数や吸収胚数、生存胎児数に影響はなかった (同上)。 (4) o-フェニレンジアミンを含む毛染剤を妊娠1、4、7、10、13、16、19 日の雌ラットに塗布した結果、黄体数、着床数、生存胎児数、吸収胚数に有意な影響はなく、奇形の発生もなかった (産衛学会許容濃度の提案理由書 (1999)、PATTY (6th, 2012)、厚労省初期リスク評価書 (2014))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 本物質自体のヒト及び実験動物での単回ばく露に関する報告はない。本物質の遊離塩基であるo-フェニレンジアミン (CAS番号 95-54-5) では、(1)~(3) のように、実験動物で血液系及び中枢神経系への影響と気道刺激性がみられている。(4) の情報に基づき、o-フェニレンジアミンと同様に区分1 (血液系)、区分2 (中枢神経系)、区分3 (気道刺激性) とした。
【根拠データ】 (1) ネコの単回経口投与試験において、o-フェニレンジアミン25~50 mg/kg (本物質換算: 42~84 mg/kg、区分1相当) の用量で、血中メトヘモグロビン濃度増加がみられた (DFGOT vol.13 (1999)、ACGIH (7th, 2001)、BUA 97 (1992))。 (2) ラットの単回経口投与試験において、o-フェニレンジアミン500~2,000 mg/kg (本物質換算: 837~3,349 mg/kg、区分2~区分2超相当) の用量で、一般状態悪化、興奮、抑うつ、呼吸困難、振戦、痙攣、麻痺が認められた (DFGOT vol.13 (1999)、BUA 97 (1992))。 (3) ラット及びマウスにo-フェニレンジアミンの蒸気と粉じんの混合物0.0905 mg/L (本物質換算: 0.1515 mg/L) を4時間、吸入ばく露した試験で、鼻粘膜の軽度の刺激がみられた (DFGOT vol.13 (1999))。 (4) o-フェニレンジアミンと本物質の急性毒性は同等であるとの記載がある (DFGOT vol.13 (1999))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1)、(2) より、実験動物への経口投与で区分2の範囲で鼻腔、腎臓、膀胱、血液系への影響がみられていることから、区分2 (鼻腔、腎臓、膀胱、血液系) とした。ハーダー腺についてはヒトへの外挿性がないと考えられることから標的臓器としなかった。なお、新たな情報源の情報を加えて検討した結果、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) ラットに本物質250~3,000 ppm (概ね区分2の範囲) を13週間飲水投与した結果、ハーダー腺の炎症、血液系への影響 (赤血球数とヘマトクリット値の減少等)、腎臓への影響 (乳頭変性、尿素窒素増加等)、鼻腔への影響 (嗅腺の管拡張、嗅上皮の壊死)、膀胱への影響 (移行上皮細胞の単純過形成) がみられた (厚生労働省委託がん原性試験結果 (Access on May 2019))。 (2) マウスに本物質500~5,000 ppmを13週間飲水投与した結果、1,000 ppm (雄: 区分2~区分2超、雌: 区分2超) 以上で血液系への影響 (MCV及び血小板数増加)、腎臓への影響 (尿素窒素増加等) がみられた (厚生労働省委託がん原性試験結果 (Access on May 2019))。
【参考データ等】 (3) ラット、マウスに本物質を104週間飲水投与した結果、区分2の範囲以上で鼻腔と腎臓に本物質の投与による影響と考えられる非腫瘍性病変がみられた (厚生労働省委託がん原性試験結果 (Access on May 2019)) 。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。