急性毒性
経口
ラットのLD50値として、27-41 mg/kg (ACGIH (7th, 2001))、23 mg/kg (妊娠雌)、40 mg/kg (ATSDR (1989))、23-40 mg/kg (CEPA (2001)、CICAD 38 (2002))、26 mg/kg、37 mg/kg (環境省リスク評価第10巻 (2012)) との報告に基づき、区分2とした。
経皮
データ不足のため分類できない。
吸入:ガス
GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
ラットのLC50値 (4時間) として、78 ppm (240 mg/m3) との報告 (環境省リスク評価第10巻 (2012)、CICAD 38 (2002)、ACGIH (7th, 2001)、CEPA (2001)) に基づき、区分1とした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (3,554 ppm) の90%より低いため、ミストを含まないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
本物質は皮膚に対して刺激性を持つ (環境省リスク評価第10巻 (2012)、HSDB (Access on July 2014)) との記載から区分2とした。List 3の情報の削除及び新たな情報の追加により区分を変更した。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
本物質は眼に対して刺激性を持つ (環境省リスク評価第10巻 (2012)、HSDB (Access on July 2014)) との記載から区分2とした。細区分に足る情報が得られなかったことから、区分を変更した。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
In vivoでは、マウス生殖細胞の小核試験、マウスの骨髄細胞及び肝細胞の小核試験、ハムスター胎児線維芽細胞の染色体異常試験及び小核試験、マウスの姉妹染色分体交換試験、マウスの遺伝子突然変異試験、マウス、ラットの不定期DNA合成試験、DNA切断試験、DNAメチル化試験でいずれも陽性 (環境省リスク評価第10巻 (2012)、ATSDR (1989)、CICAD (2002))、マウス、ラットの優性致死試験では陰性である (環境省リスク評価第10巻 (2012))。また、ヒトの肝臓DNAでアルキル化が認められている (ATSDR (1989))。in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験、染色体異常試験、ヒトの培養細胞及び哺乳類培養細胞を用いる姉妹染色分体交換試験でいずれも陽性である。以上より、区分1Bとした。
発がん性
IARCで2A (IARC Evaluations (IARC, Access on September 2014))、ACGIHでA3 (ACGIH (7th, 2001))、EPAでB2 (IRIS (1991))、NTPでR (NTP (2011))、EUでCarc. Cat. 2 (EU (Access on September 2014)) に分類されている。この分類から、ACGIHは2、それ以外の分類はすべて1Bに相当する。以上より、ガイダンスに従いIARCの分類等を優先し区分1Bとした。
生殖毒性
マウスを用いた経口経路 (飲水) での生殖発生毒性試験において、0.02 mg/kg/dayの用量で受胎に要した平均日数の増加、死産の胎児と2 日以内に死亡した新生児を合わせた児の死亡率の増加、離乳時の性比で雄の割合の増加 (2倍) が報告されている。母動物に関する情報はない (環境省リスク評価第10巻 (2012)、CICAD 38 (2002)、ATSDR (1989))。妊娠ラットを用いた経口経路 (混餌) での発生毒性試験において5 mg/kg/dayの用量で胎児死亡、胎児の肝臓の病変 (門脈周囲、肝静脈周囲のプラズマ細胞や好酸球、マクロファージ、好中球、リンパ球が集積) が報告されている (環境省リスク評価第10巻 (2012)、CICAD 38 (2002))。なお、CICAD 38 (2002) では、「これらの試験で催奇形性は報告されていないが、実験計画や実験結果に関する情報が不十分で、対照群が不足しており、母体毒性データが足りないため、調査報告の解釈は困難である」としている。したがって、区分2とした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
ヒトにおいては、複数の報告があり、気道を刺激し、肝臓に影響を及ぼす。本物質の吸入ばく露で、咽頭痛、咳、吐き気、下痢、嘔吐、頭痛、脱力感、黄疸、腹水、肝機能障害、肝腫大、脾腫大、腹部膨隆、経口摂取では、悪心、嘔吐、急性肝疾患、出血、低血小板数、胃痙攣、胃腸管の出血、肝障害、脳出血が報告されている (環境省リスク評価第10巻 (2012)、ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (1989)、CEPA (2001)、CICAD 38 (2002)、PATTY (6th, 2012))。 実験動物では、肝毒性が最も重要な影響である。吸入ばく露では、ラット、マウスに肝臓の出血性壊死が報告されている (ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (1989)、CEPA (2001)、CICAD 38 (2002))。経口投与では、肝毒性があり、ラットの 20及び8 mg/kgで腹水や黄疸を伴い24時間以内に出血を伴う肝細胞中心性壊死、出血性腹水、マウス、モルモットでは20-40 mg/kgで重篤な肝臓壊死が報告されている (ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (1989)、CEPA (2001)、PATTY (6th, 2012))。また、経路は不明ながら、短時間ばく露で精巣精上皮壊死の報告がある (CICAD 38 (2002)、CEPA (2001))。実験動物の肝臓への影響は、区分1に相当するガイダンス値の範囲であった。精巣精上皮壊死については、詳細不明のため区分の対象とはしなかった。 以上より、区分1 (肝臓)、区分3 (気道刺激性) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
ヒトで本物質の過剰摂取により、複数の死亡例が生じ、2例は急性中毒死であったが、少なくとも1例は2年にわたって4回以上経口摂取後に死亡した症例であり、全例とも肝不全をきたし、肝硬変を生じた症例もみられた (ACGIH (7th, 2001)、CICAD 38 (2002)、環境省リスク評価第10巻 (2012)) との記述があり、肝臓がヒトの主要標的臓器であると考えられた。 実験動物でも、1 mg/kg/dayを30日間強制経口投与したラット、モルモット、サル、ネコで肝実質細胞の小葉中心性壊死が認められた。また、ラットに12週間混餌投与した試験で区分1の用量 (約3.8 mg/kg/day) で肝細胞の広範な壊死がみられ、ラットの長期投与試験 (96週間混餌、及び生涯飲水投与) では、1 mg/kg/day未満の極低用量で肝臓に結節性過形成を生じたと報告されている (CICAD 38 (2002)、環境省リスク評価第10巻 (2012))。 以上より、区分1 (肝臓) に分類した。
吸引性呼吸器有害性
データ不足のため分類できない。