急性毒性
経口
GHS分類: 区分4 ラットのLD50値として、837 mg/kg (食品安全委員会 (2008)、SIDS (2002)、IARC 52 (1991)、ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (1989)) の報告に基づき、区分4とした。 なお、ラットのLD50値として、100~200 mg/kg (PATTY (6th, 2012)) との報告もあるが、著者であるCarpenter、Smythらが後年新たに出したデータが837 mg/kgであること、国際的評価機関では100~200 mg/kgのデータは引用されていないことから、採用しなかった。
経皮
GHS分類: 区分外 ウサギのLD50値として、5,380 mg/kg (SIDS (2002)、ATSDR (1989)) の報告に基づき、区分外とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 区分3 ラットのLC50値 (4時間) として、2,000 ppm (NITE初期リスク評価書 (2005)、産衛学会 許容濃度の提案理由書 (1979)、BUA 152 (1994)、HSDB (Access on June 2016)) の件の報告に基づき、区分3とした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (30,355.45 ppm) の90%より低いため、ミストを含まないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分2 ウサギ等の動物試験で刺激性がみられた (NITE初期リスク評価書 (2005))。また、ヒトでも皮膚刺激性が認められることから (環境省リスク評価第2巻 有害性評価シート (2003))、区分2とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2B ウサギの眼刺激性試験でごく軽度~軽度の刺激性が認められた (NITE初期リスク評価 (2005)、SIDS (2001))。また、ヒトでも刺激性があることから (環境省リスク評価第2巻 有害性評価シート (2003)、区分2Bとした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない In vivoでは、マウスの骨髄細胞を用いた小核試験で陰性、マウスのDNA損傷試験で陰性、ラット、マウスの肝臓を用いた不定期DNA合成試験で陰性、ラット、マウスの肝臓付加体形成試験で陽性である (NITE有害性評価書 (2008)、IARC 71 (1999)、厚生労働省(Access on June 2016)、SIDS (2004)、ATSDR (1989))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で多くが陰性、哺乳類培養細胞の小核試験で陽性、染色体異常試験で陽性、姉妹染色分体交換試験で陽性である (NITE有害性評価書 (2008)、IARC 71 (1999)、ATSDR (1989)、ACGIH (7th, 2001)、EPA IRIS Summary (1988)、PATTY (6th, 12th)、NTP DB (Access on June 2016))。以上より、in vivoでマウスの肝臓付加体形成試験による陽性結果、in vitroで哺乳類培養細胞の小核試験で陽性、染色体異常試験で陽性、姉妹染色分体交換試験で陽性の結果はあるが、Weight of evidenceによりin vivoにおいて意味のある変異原性を示さないと判断し、分類できないとした。
発がん性
GHS分類: 区分2 ヒトでの発がん性に関する情報はない。実験動物ではラット及びマウスに経口経路で投与、又はラットに皮下投与した発がん性試験のうち、マウス経口投与試験で肝細胞腫瘍及び副腎褐色細胞腫が認められてが、他試験では腫瘍発生頻度の増加がみられなかったことから、IARCは実験動物での発がん性の証拠は限定的としてグループ3に分類した (IARC 71 (1999))。一方、EPAはマウスの試験における肝臓・副腎腫瘍頻度の増加と発がん物質の1,2-ジクロロエタンとの構造類似性を根拠にカテゴリーC (possible human carcinogen) に分類した (IRIS Summary (1987))。この他、ACGIHがA3に (ACGIH (7th, 2001))、EUがCarc. 2 に (ECHA C&L Inventory (Access on June 2016)) 分類している。したがって、既存分類結果を基に本項は区分2とした。
生殖毒性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、妊娠マウスの器官形成期に強制経口投与し自然分娩させた発生毒性試験において、母動物に死亡 (3/30例) がみられる用量でも出生児に影響はなかったとの報告がある (NITE有害性評価書 (2008)、環境省リスク評価第5巻 (2006))。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分1 (肝臓、腎臓)、区分3 (気道刺激性、麻酔作用) 本物質はヒトに対して結膜、呼吸器粘膜、皮膚に対する刺激作用、及び低濃度からの麻酔作用が報告されている (環境省リスク評価第2巻 有害性評価シート (2003))。実験動物では、マウスで本物質の単回経口投与により、運動失調が認められたとの報告がある (ATSDR (1989))。また、ラットにおいて区分1相当の250 ppm、4時間の単回吸入ばく露により、生存した動物に肝臓及び腎臓の壊死が認められたとの報告 (ACGIH (7th, 2001)、ATSDR (1989))、及びマウスで区分1相当の418 ppm、4時間の単回吸入ばく露により中枢神経系の抑制が認められたとの報告がある (SIDS (2002)、ATSDR (1989))。したがって区分1 (肝臓、腎臓)、区分3 (気道刺激性、麻酔作用) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (神経系、呼吸器、消化管、肝臓、腎臓) ヒトについては、タイプライター洗浄作業において本物質に週20 時間、2 年間ばく露された男性に、重度の中枢性睡眠時無呼吸症、疲労、眠気、易刺激性、前かがみ姿勢、脱力、動揺、進行性遺尿症などの症状を呈した例が報告されている (NITE初期リスク評価書 (2005))。また、本物質の蒸気に長期間ばく露されると慢性消化管障害、腎臓への脂肪沈着、肺障害を起こすことが知られているとの記載がある (NITE初期リスク評価書 (2005)、SIDS (2002))。 実験動物では、ラットを用いた16回吸入毒性試験 (7時間/日) において区分1相当の30 ppm (7時間/日、16回ばく露:ガイダンス値換算:0.034 mg/L) で肝臓への影響 (軽度脂肪変性、混濁腫脹)が報告されている (環境省リスク評価第5巻 (2006))。 したがって、区分1 (神経系、呼吸器、消化管、肝臓、腎臓) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、HSDB (Access on June 2016) に収載された数値データ (粘性率: 1.69 mPa・s (25℃)、密度 (比重): 1.44 (20/4℃)) より、動粘性率は1.17 mm2/sec (25/20℃) と算出される。