急性毒性
経口
GHS分類: 区分外 ラットのLD50値として、5,760 mg/kg (DFGOT vol. 17 (2002)) との報告に基づき、区分外とした。
経皮
GHS分類: 区分外 LD50値の情報はないが、ウサギのLDLo値として、5,010 mg/kgとの報告 (Chem ID (Access on November 2017)) があり、LD50値はこの値よりも大きいと考えられる。したがって、区分外とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 区分3 ラットの1時間吸入ばく露試験のLC50値として3,590 ppm (4時間換算値: 1,795 ppm) (ACGIH (7th, 2003))、4時間吸入ばく露試験のLC50値として13.7 mg/L (2,466 ppm) (DFGOT vol. 17 (2002))、6時間吸入ばく露試験のLC50値として2,150 ppm (4時間換算値: 2,633 ppm) (ACGIH (7th, 2003)) との3件の報告があり、2件が区分3、1件が区分4に該当する。件数の多い区分を採用して、区分3とした。なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 (4,950 ppm) の90%より低いため、ミストがほとんど混在しないものとしてppmを単位とする基準値を適用した。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分2 ヒトの皮膚に対して本物質は刺激性を示すとの記載 (DFGOT vol. 17 (2002)、ACGIH (7th, 2003)、PATTY (6th, 2012)) や、ウサギを用いた皮膚刺激性試験で本物質の適用で剃毛した皮膚に潰瘍を生じ刺激性がみられたとの記載 (DFGOT vol. 17 (2002))、マウスの皮膚において本物質濃度75%及び100%溶液の適用で10匹全てに皮膚表面に潰瘍を生じたとの報告 (DFGOT vol. 17 (2002)) から、区分2とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2 本物質はヒトの眼に対して強い刺激性を示し、また、腐食性を示す可能性があるとの記載 (PATTY (6th, 2012)) から、区分2とした。情報源の内容を見直して旧分類から区分を変更した。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 区分1 日本産業衛生学会・許容濃度勧告において、本物質は皮膚感作性物質第1群に分類されている (産衛学会許容濃度等の勧告 (2017年度)) ことから、区分1とした。職業ばく露における疫学調査で皮膚感作性があるとの記載 (ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 17 (2002)、PATTY (6th, 2012))、モルモットでのマキシマイゼーション法による試験で陽性であるとの記載 (DFGOT vol. 14 (2000)) がある。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。すなわち、in vivoデータはなく、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陰性である (NTP DB (Access on August 2017))。
発がん性
GHS分類: 分類できない 本物質と針葉樹の他の加熱成分に5年以上ばく露された作業者の間で肺がんリスクの有意な増加 (オッズ比: 9.71、95% CI: 1.59-56.7) がみられたが、著者らは針葉樹の揮発成分には本物質以外にも樹木のアビエチン酸、ピマール酸、その他樹脂酸の誘導体の混合物や複合体が含まれていることを指摘している (ACGIH (7th, 2003))。このように、本物質への単独ばく露による信頼性のある報告はない。実験動物では標準的な発がん性試験データはない。ただし、DMBA (7,12-dimethylbenz[a]-anthracene) でイニシエーション後に本物質原液をマウス皮膚に適用した場合、皮膚腫瘍のプロモーション作用がみられたが、本物質の20~50%希釈溶液ではプロモーター作用はみられなかった (DFGOT vol. 17 (2002)) との報告、並びに本物質を経皮適用した場合、腫瘍成長の促進がウサギでは示されたが、マウスでは示されなかった (PATTY (6th, 2012)、ACGIH (7th, 2003)) との報告がある。既存分類としては、ACGIHがヒト及び実験動物での発がん性データは不十分であるとして、A4に分類している (ACGIH (7th, 2003))。以上より、分類できないとした。
生殖毒性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、妊娠ラット (n= 5) に本物質飽和蒸気を妊娠17~21日に10分/回で2回/日吸入ばく露した結果、ばく露群では母動物に顕著な症状 (協調運動障害、運動失調、過呼吸、流涎) がみられ、出生児37例中22例 (59%) が中枢神経障害、呼吸困難をきたして死亡したとの報告がある (DFGOT vol. 17 (2002)、ACGIH (7th, 2003)、PATTY (6th, 2012))。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分1 (中枢神経系、腎臓)、区分3 (気道刺激性) ヒトでは本物質の蒸気750~1,000 ppm、数時間の吸入ばく露により、頭痛、めまい、吐き気、頻脈が認められたとの報告がある (ACGIH (7th, 2001))。また、本物質の経口摂取による急性毒性症状として、血尿、蛋白尿、乏尿を伴う腎障害が報告されている (ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 17 (2002)、PATTY (6th, 2012))。さらにボランティアに本物質を3~5分間、吸入ばく露した試験で、75 ppm以上で鼻と喉の刺激が認められたとの報告がある (産衛学会許容濃度の提案理由書 (1991)、ACGIH (7th, 2003)、DFGOT vol. 17 (2002))。実験動物では、ラットの単回吸入ばく露試験において、運動失調、振戦、痙攣、頻呼吸、一回換気量低下、突発性無呼吸による死亡がみられたとの報告がある (ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol. 17 (2002)、PATTY (6th, 2012))。これらの症状がみられた用量の詳細な記載はないが、影響はLC50値付近の区分1~2の範囲で認められたと考えられる。また、マウスを用いた感覚刺激性試験で、本物質の吸入ばく露により呼吸数の低下が認められ、RD50値は1,173 ppm (6.5 mg/L) と報告されている (ACGIH (7th, 2003)、DFGOT vol. 17 (2002))。以上より本物質は中枢神経系と腎臓に影響を示し、また気道刺激性を有すると考えられる。したがって、区分1 (中枢神経系、腎臓)、区分3 (気道刺激性) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (呼吸器、血液系、泌尿器系) ヒトについて、靴クリーム製造工場で本物質の主成分であるα-ピネンを取り扱う6名の作業者がめまい、酩酊感、顔面・頸部の紅斑と灼熱感、肛門部の搔痒感、排便痛、排尿痛を伴う尿意頻数を愁訴、メトヘモグロビン血症、脾臓の腫大、腎障害、膀胱潰瘍を伴う尿道膀胱炎、肛門湿疹、顔面・頸部の皮膚炎が認められたとの報告がある (産衛学会許容濃度の提案理由書 (1991))。また、スウェーデンの製材所で平均気中濃度は254 mg/m3 (45 ppm)、濃度範囲は100~550 mg/m3 (18~98 ppm) のテレピン油にばく露された労働者の問診と肺機能検査を行った結果、ばく露群では咽頭の刺激症状、胸部圧迫感、咳の割合が多く、肺機能検査ではばく露者で正常範囲からはずれる数値 (1秒量の減少など) を示すものが多かったとの報告がある (産衛学会許容濃度の提案理由書 (1991))。このほか、呼吸器系の炎症、腎臓の傷害の報告 (ACGIH (7th, 2003))、慢性の吸入により広範囲に及ぶ糸球体腎炎を引き起こすとの報告があった (PATTY (6th, 2012))。 以上から、区分1 (呼吸器、血液系、泌尿器系) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 区分1 本物質をヒトが誤嚥により気道に吸引した場合に特徴的な呼吸困難、急性肺浮腫及びチアノーゼを伴う化学性肺炎を生じる (ACGIH (7th, 2003)、DFGOT vol. 17 (2002)) との記述があり、区分1とした。なお、EU もAsp. Tox. 1に分類している (ECHA CL Inventory (Access on August 2017))。