急性毒性
経口
ラットのLD50値として、> 2,000 mg/kg (OECD TG 401) (SIDS (2009)、ECETOC JACC (1997))、> 3,200 mg/kg (ECETOC JACC (1997))、16,000 mg/kg (環境省リスク評価第11巻 (2013)、PATTY (6th, 2012)、ECETOC JACC (1997))、17,900 mg/kg (SIDS (2009)、ECETOC JACC (1997))、18, 020 mg/kg、18,561 mg/kg (ECETOC JACC (1997))、22,600 mg/kg (PATTY (6th, 2012))、16,000~22,600 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2008)) との報告に基づき、区分に該当しないとした。
経皮
ウサギのLD50値として、> 2,000 mg/kg (OECD TG 402) (SIDS (2009)、ECETOC JACC (1997))、10,181 mg/kg (ECETOC JACC (1997))、11.3 mL/kg (環境省リスク評価第11巻 (2013))、11,300 mg/kg (PATTY (6th, 2012))、10,181~11,300 mg/kg (NITE初期リスク評価書 (2008)) との報告に基づき、区分に該当しないとした。
吸入: ガス
GHSの定義における液体である。
吸入: 蒸気
データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
ラットの4時間吸入試験 (OECD TG 403) の結果、およその致死濃度 (ALC値) として、29 mg/Lとの報告 (SIDS (2009))、及びラットのLC50値 (4時間) として、19.7 mg/L (ECETOC JACC (1997))、28.6 mg/L (環境省リスク評価第11巻 (2013)、PATTY (6th, 2012)、SIDS (2009)) との報告に基づき、区分に該当しないとした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (17.2 mg/L) の90%より高いため、ミストが混在するものとして mg/L を単位とする基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギを用いた皮膚刺激性試験 (OECD TG404) において、本物質0.5mLを4時間、半閉塞適用した結果、刺激性はみられなかったとの報告 (NITE初期リスク評価書 (2008)) や、刺激性は軽度であったとの報告がある (SIDS (2009))。他にもウサギを用いた皮膚刺激性試験において、本物質を4時間、半閉塞適用した結果、認められた刺激性は軽度であったとの報告が複数ある (NITE初期リスク評価書 (2008)、SIDS (2009)、ECETOC JACC (1997))。以上より、区分に該当しない (国連分類基準の区分3) とした。テストガイドラインに従った試験の報告に基づき、区分を変更した。なお、本物質はEU CLP分類において「Skin. Irrit. 2 H315」に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on December 2015))。旧分類に記載のある、1981年以降のガイドライン準拠データは確認できなかっため分類に用いなかった。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギを用いた眼刺激性試験 (OECD TG405) において、本物質適用による刺激性はみられなかったとの報告が2報ある (NITE初期リスク評価書 (2008)、SIDS (2009))。その他、ウサギを用いた眼刺激性試験において軽度の刺激性及び強度の刺激性が報告されているが (NITE初期リスク評価書 (2008)、SIDS (2009)、ECETOC JACC (1997))、試験法等の詳細は不明である。以上、テストガイドラインに準拠した試験をもとに区分に該当しないとした。なお、本物質はEU CLP分類において「Eye. Irrit. 2 H319」に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on December 2015))。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)より、区分1Bとした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。REACH登録情報 (Accessed Jan. 2022)にて感作性知見が公表されたため、旧分類から皮膚感作性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)マウス(n=5/群)を用いた局所リンパ節試験(LLNA)(OECD TG 429、GLP)において、刺激指数(SI値)は2.19(25%)、3.28(50%)、5.41(100%)、EC3値は43.6%と算出されたとの報告がある(REACH登録情報 (Accessed Jan. 2022))。
【参考データ等】 (2)アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルのばく露歴のあった皮膚炎患者243名を対象として、2%の濃度でパッチテストが実施され、6名(2.5%)に陽性反応がみられたとの報告がある(MOE 初期評価(2013)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2022))。 (3)皮膚炎患者542名に1%濃度の本物質でパッチテストを実施した結果、1名に陽性反応がみられたが、この患者は過去にアクリル系ペイントを使用していた履歴があり、それとの関連が考えられた(MOE 初期評価(2013)、REACH登録情報 (Accessed Jan. 2022))。 (4)アクリレート類にばく露されたヒトに対して、本物質のパッチテストを実施したところ、極めて少数例で陽性反応がみられ、本物質の弱い皮膚感作性が確認された(AICIS IMAP (2014)、SIAP (2004), Canada CMP Screening Assessment (2018))。 (5)接触性皮膚炎の疑いのある患者347名を対象にパッチテストを実施した結果、本物質2%の濃度に対し1名(0.3%)で陽性反応がみられた(REACH登録情報 (Accessed Jan. 2022))。 (6)(メタ)アクリレート類へのばく露歴がある331名を対象として、2%の濃度でパッチテストが実施され、2名(0.6%)が陽性反応を示したとの報告がある(REACH登録情報 (Accessed Jan. 2022))。 (7)モルモット(n=5)を用いたMaximisation試験(OECD TG 406、GLP、皮内投与:5%溶液)において、惹起後24時間後及び48時間後の陽性率は、それぞれ80%(4/5例)、40%(2/5例)であったとの報告がある(REACH登録情報 (Accessed Jan. 2022))。 (8)DFGではShに分類されている(List of MAK and BAT values (2020))。 (9)ECHAではSkin Sens. 1に分類されている(CLP分類結果 (Accessed Jan. 2022))。
生殖細胞変異原性
ガイダンスの改訂により区分に該当しないが選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、マウス骨髄細胞の小核試験で陰性 (NITE初期リスク評価書 (2008)、厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on November 2015)、環境省リスク評価第11巻 (2013)、SIDS (2009))、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の染色体異常試験で陰性である (NITE初期リスク評価書 (2008)、厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on November 2015)、環境省リスク評価第11巻 (2013)、SIDS (2009))。
発がん性
データ不足のため分類できない。
生殖毒性
ラットを用いた経口経路による反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験 (OECD TG 422) において、親動物に一般毒性 (体重増加抑制、摂餌量減少、脾臓赤脾髄の萎縮等) が発現した1,000 mg/kg/dayで、雌親動物に黄体数及び着床数の減少 (着床率は不変) が認められたが、雄親動物の生殖能、及び児動物に影響はみられなかった (SIDS (2009)、厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on November 2015)、環境省リスク評価第11巻 (2013))。また、妊娠雌ラットに本物質を妊娠6~20日まで吸入ばく露した発生毒性試験では、母動物に300 ppm以上で体重増加抑制、1,200 ppmで摂餌量低下が、胎児には600 ppm以上の雌、1,200 ppmの雄にそれぞれ体重の低値がみられたが、催奇形性はみられなかったと報告されている (SIDS (2009)、環境省リスク評価第11巻 (2013))。 以上、実験動物での既存知見からは分類根拠とすべき明確な発生毒性の証拠はなく、経口投与による反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験では限度量投与で雌に黄体数・着床数の減少がみられた。この所見は病理組織学的検査結果より、卵巣の卵胞形成に異常はなく、排卵に関連した何らかの影響と推察されたものの、雌親動物の出産率、妊娠期間、哺育状態に影響はなかったとの記述 (厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on November 2015)) から、少なくとも生殖影響として分類の根拠とすべき所見ではないと判断した。この他、分類に利用可能なデータはなく、データ不足のため本項は分類できないとした。再分類では、ガイダンス又は情報源の見直しにより、区分を変更した。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
本物質は気道刺激性がある (ECETOC JACC (1997)、HSDB (Access on November 2015)、環境省リスク評価第11巻 (2013)、PATTY (6th, 2012))。ヒトの吸入ばく露で、咳、息切れ、咽頭痛、経口摂取で腹痛がみられる (環境省リスク評価第11巻 (2013))。実験動物では、区分を付けられる知見はない。以上より、区分3 (気道刺激性) とした。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
ヒトに関するデータはない。 実験動物では、ラットを用いた14日間反復経口投与毒性試験において区分2の範囲である500 mg/kg/day (90日換算値:77.8 mg/kg/day) の雄でヘマトクリット値の減少がみられ、ラットを用いた強制経口投与による反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験 (OECD TG 422) において区分2の範囲である100 mg/kg/day (90日換算値:48.9 mg/kg/day) の雄で脾臓の絶対及び相対重量減少、髄外造血の減少による赤脾髄の萎縮がみられた (環境省リスク評価第11巻 (2013)、厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on November 2015))。 ラットを用いた4週間の吸入毒性試験では区分2の範囲内で影響はみられていない (環境省リスク評価第11巻 (2013))。 以上のように、反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験において区分2の範囲で脾臓への影響がみられた。なお、14日間試験の結果は分類の基準を満たす程度の毒性ではないことから分類根拠としなかった。 したがって、区分2 (脾臓) とした。
誤えん有害性*
データ不足のため分類できない。なお、HSDB (Access on November 2015) に収載された数値データ (粘性率: 3.116 mPa・s (21 ℃)、密度: 0.8936 g/cm3 (20 ℃)) より、動粘性率は3.486 mm2/sec (21/20 ℃) と算出される。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。