急性毒性
経口
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50 (OECD TG 423、GLP試験): > 2,000 mg/kg (SIAR (2014)、既存点検結果 (Access on May 2020))
【参考データ等】 (2) ラットのLD50: 2,100 mg/kg (ACGIH (7th, 2019)) (3) ラットのLD50: 750 mg/kg (ACGIH (7th, 2019)) (4) ラットのLD50: 1,140 mg/kg (HSDB (Access on April 2020))
経皮
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: > 2,000 mg/kg (SIAR (2014)、AICIS IMAP (2014)) (2) ウサギのLD50: > 5,000 mg/kg (ACGIH (7th, 2019)) (3) ウサギのLD50: > 5,000 mg/kg (HSDB (Access on April 2020))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、区分に該当しないとした。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) 本物質はモルモットの皮膚を軽微に刺激する (ACGIH (7th, 2019)、CERI有害性評価書 (2005)、AICIS IMAP (2014)、GESTIS (Access on May 2020)、HSDB (Access on May 2020))。 (2) OECD Draft TGに準拠した人工皮膚モデルを用いたin vitro皮膚刺激性試験において、適用15分後の細胞生存率はそれぞれ135%であり、非刺激物と判定されている (SIDS Dossier (2014)、REACH登録情報 (Access on June 2020))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分に該当しないとした。新たなデータが得られたことにより、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 本物質はウサギの眼に対し、軽度の結膜刺激を示すが、角膜及び虹彩には影響を与えない (ACGIH (7th, 2019)、CERI有害性評価書 (2005)、AICIS IMAP (2014)、GESTIS (Access on May 2020)、HSDB (Access on May 2020))。 (2) OECD TG 437に準拠し、ウシ角膜を用いたin vitro眼損傷性試験 (BCOP) において、平均刺激性スコア (IVIS) は8.1であり、区分1は否定された (SIDS Dossier (2014)、REACH登録情報 (Access on June 2020))。 (3) Federal Register, August 16, 1961に準拠したウサギを用いた眼刺激性試験で、非刺激物と判定された (SIDS Dossier (2014))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため、分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分に該当しないとした。新しいデータ (1) が得られたことから分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) TG 429に準拠したマウス局所リンパ節試験 (LLNA) において、陰性と判定された (AICIS IMAP (2014)、REACH登録情報 (Access on June 2020))。 (2) 本物質はモルモットに対して感作性を示さない (ACGIH (7th, 2019)、CERI有害性評価書 (2005)、AICIS IMAP (2014)、GESTIS (Access on May 2020)、HSDB (Access on May 2020))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) in vivoでは、マウス (骨髄) の小核試験で陽性 (CERI有害性評価書 (2005)、ATSDR (2017))、マウス(赤血球) の小核試験で陰性、ラット (骨髄、末梢血リンパ球) の小核試験で陰性 (ATSDR (2017))、ラット(末梢血リンパ球) の姉妹染色分体交換試験で陽性 (CERI有害性評価書 (2005)、ATSDR (2017))。ラットのDNA付加体形成試験 (肝臓、腎臓、肺、膀胱、リンパ球) で陽性、ラットのDNA一本鎖切断試験 (コメットアッセイ) で、肺及び肝臓で陽性、腎臓で陰性の報告がある (ATSDR (2017))。 (2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験で陽性、(CERI有害性評価書 (2005)、ATSDR (2017))。哺乳類培養細胞の染色体異常試験で陰性、不定期DNA合成試験で陽性、形質転換試験で陽性、姉妹染色分体交換試験で陽性、陰性の報告がある (CERI有害性評価書 (2005)、ATSDR (2017))。哺乳類培養細胞のDNA損傷試験で陽性の報告がある (ATSDR (2017))。
発がん性
【分類根拠】 (1) の既存分類結果において、IARCはヒトでの疫学的証拠は不十分 (inadequate evidence) であるが、(2) の職業ばく露における遺伝毒性の強い証拠及び (3) の実験動物での結果からグループ1とした。しかし、IARCの2012年分類以降の他機関による分類結果からは、IARCのグループ1の評価は支持されない。ヒトでの発がん性について限定的な証拠すら得られていない現時点では、他機関の分類結果に基づき区分1Bとするのが妥当と考えられた。新たな分類結果等の情報 ((1) のACGIH、NTP、MAK (DFG)) の追加により、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) 国内外の分類機関による既存分類では、IARCでグループ1 (IARC 100F (2012))、産衛学会で第2群A (産衛学会発がん分類の提案理由書 (2012))、ACGIHでA2 (ACGIH (7th, 2019))、NTPでR (Reasonably anticipated to be human carcinogens) (NTP RoC (14th, 2016))、EU CLPでCarc.1B (EU CLP分類 (Access on April 2020))、MAK (DFG) で2 (DFG List of MAK and BAT Values 2019) に分類されている。 (2) 本物質は芳香族アミンの典型的な性質を多く有し、ヒトにおいてDNA反応中間体への代謝活性化、DNA付加体形成、変異原性及び染色体異常誘発影響を含む遺伝毒性を有する。本物質にばく露した作業者の尿路上皮では本物質がDNAとの相互作用による付加体形成が、また作業者の血中にはヘモグロビンとの相互作用により付加体形成が認められた。さらに、ばく露作業者の尿路上皮細胞とリンパ球における姉妹染色分体交換 (SCE) と小核の出現頻度の増加がみられた (IARC 100F (2012))。 (3) 雌雄のラットに本物質を2年間混餌投与した試験で、肺の腺腫症及び腺がんの発生率の有意な増加に加え、胸膜中皮腫、肝細胞腺腫や腺がんの発生がみられ、雄ラットに本物質の塩酸塩を18ヵ月間混餌投与した試験では、肺の腫瘍、乳腺の腺がん、ジンバル腺のがん及び肝細胞がんの発生率に有意な増加が認められた (IARC 100F (2012))。さらに、雌雄のマウスに本物質の塩酸塩を18ヵ月間混餌投与した試験では、雌で肝細胞がんの発生率に有意な増加が認められた (IARC 100F (2012))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1) より、生殖能に影響はみられていないが、催奇形性を含む児の発生に対する影響についてはデータが不十分であり、分類できないとした。
【根拠データ】 (1) ラットを用いた強制経口投与による反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験 (OECD TG 422) において、親動物毒性 (血液、肝臓への影響) 用量においても生殖能及び児の発生に影響はみられていない (既存点検結果 (Access on May 2020))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 (1)、(2) より、ガイダンス値区分1の用量範囲で血液系に対する影響が示唆される。したがって、区分1 (血液) とした。
【根拠データ】 (1) イヌを用いた反復経口投与試験で試験開始1日目に10 mg/kg/day 以上の群で血中のメトヘモグロビン濃度が上昇し、40及び80 mg/kg/day 以上の群で虚弱、嘔吐、蒼白、チアノーゼが現れ、少量を連日投与によりメトヘモグロビン血症と大球性貧血を起こしたとの記述がある (ACGIH (7th, 2019))。 (2) ラットを用いた強制経口投与による急性毒性試験 (OECD TG 423) において、300 mg/kg (区分1の範囲) の1例で耳介及び四肢の暗調化、2,000 mg/kg (区分2の範囲) で耳介及び四肢の暗調化、飲水行動の亢進、自発運動減少、呼吸数減少、異常歩行 (失調性歩行)、死亡例1例で呼吸深大、粗毛を伴い2日後に死亡がみられている。死亡例の剖検では、肝臓の白色巣、副腎の暗赤色、胃の暗赤色巣、空腸から回腸の暗赤色内容物がみられた (既存点検結果 (Access on May 2020)、SIAR (2014))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1) より、腎臓、血液系、肝臓に影響がみられた。腎臓の影響については軽微な影響と考えられた。したがって、区分2 (血液系、肝臓) とした。
【根拠データ】 (1) ラットを用いた強制経口投与による反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験 (OECD TG 422) (雄: 42日間投与、雌: 42~55日間投与) において、10 mg/kg/day (90日換算: 4.7 mg/kg/day、区分1の範囲) 以上の雄で腎臓の好塩基性尿細管、脾臓のヘモジデリン沈着の増加傾向、雌で血清総タンパク及びアルブミンの減少、腎臓相対重量増加、50 mg/kg/day (90日換算: 23.3 mg/kg/day、区分2の範囲) の雌雄で流涎、メトヘモグロビン濃度の増加、赤血球減少、肝臓の小葉中心性肝細胞腫大、小葉中間帯性脂肪変性、雄で血色素濃度、Htの減少、網状赤血球数及び血小板数の増加、総タンパク及びアルブミンの減少、総コレステロール、トリグリセライド及び無機リンの増加、肝臓の絶対及び相対重量増加、脾臓の相対重量増加、肝臓の小葉中心性単細胞壊死、雌で妊娠後期体重の低値、ハインツ小体保有赤血球の増加、LDH及びγ-GTPの増加、A/G比の減少、脾臓の絶対及び相対重量増加、肝臓及び甲状腺の相対重量増加、脾臓のヘモジデリン沈着の増加傾向、脾臓の髄外造血増加がみられた (既存点検結果 (Access on May 2020)、SIAR (2014))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。