急性毒性
経口
GHS分類: 区分外 ラットのLD50値として、31,600 mg/kg (CICAD 27 (2000)) に基づき、区分外とした。
経皮
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 区分2 ラットのLC50値 (4時間) として、0.369 mg/L (雄)、0.380 mg/L (雌) との報告 (ACGIH (7th, 2001)) に基づき、区分2とした。なお、被験物質が固体であるため、粉じんの基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分2 本物質はヒトの皮膚に対して刺激性を示したとの報告がある (EU-RAR (2005))。また、本物質はウサギの皮膚に対して刺激性を示すとの報告や (EU-RAR (2005)、IARC 71 (1999)) や、軽度の刺激性を示したとの報告がある (EU-RAR (2005))。以上より、区分2とした。なお、本物質はEU CLP分類において「Skin. Irrit. 2 H315」に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on September 2015))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2B ウサギを用いた眼刺激性試験において、軽度の刺激性がみられた (EU-RAR (2005)) との報告や、刺激性はみられなかった (EU-RAR (2005))との報告がある (EU-RAR (2005))。以上から区分2Bとした。なお、本物質はEU CLP分類において「Eye. Irrit. 2 H319」に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on September 2015))。
呼吸器感作性
GHS分類: 区分1 本物質はヒトに対して喘息を引き起こすという報告があり (IARC 71 (1999)) や本物質はヒトと動物に対して気道感作性を引き起こすとの記載がある (ECETOC TR 77 (1999))。また、日本産業衛生学会で気道:第1群(産業衛生学会許容濃度の勧告 (2015))、DFGでSah(DFGOT vol. 14 (2000)) に分類されている。以上から区分1とした。なお、本物質はEU CLP分類において「Resp. Sens. 1 H334」に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on September 2015))。
皮膚感作性
GHS分類: 区分1 モルモットを用いたマキシマイゼーション試験において、本物質 (95%) を適用した結果、感作性がみられたとの報告 (EU-RAR (2005)) がある。また、ヒトのパッチテストで本物質の適用により感作性を示したとの報告がある (EU-RAR (2005)) 。EU-RAR (2005) は本物質を皮膚感作性物質と結論している (EU-RAR (2005))。以上より区分1とした。なお、本物質はEU CLP分類において「Skin sens. 1 H317」に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on September 2015))。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない ガイダンスの改訂により区分外が選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、マウスの小核試験で陰性 (DFGOT vol. 8 (1997))、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陽性、陰性の結果、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験で陽性、ヒトの培養リンパ球を用いた染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験で陽性、陰性、ヒトの培養リンパ球を用いた小核試験で陰性である(CICAD 27 (2000)、ACGIH (7th, 2001)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1993)、DFGOT vol. 8 (1997)、IARC 71 (1999)、NTP DB (Access on October 2015))。
発がん性
GHS分類: 分類できない ヒトでは国際がん研究機関 (IARC) がイソシアネートへの職業ばく露に関連した発がん性リスクに関して、3件のコホート研究及び1件の症例対照研究を対象に評価した結果、調査した何れの部位の発がんリスクについても、強い相関性も一貫した傾向も示されず、本物質モノマー、及び本物質のポリマー (PMDI) のいずれに対しても、ヒトでの発がん性の証拠は不十分であると結論した (IARC 71 (1999))。 実験動物ではラットに本物質 (4,4'-MDI) を2年間吸入ばく露した結果、高用量 (2.05 mg/m3) で、細気管支/肺胞腺腫が1例にみられ (CICAD 27 (2000)、IRIS Summary (Access on August 2015))、さらに前がん病変と考えられる肺胞上皮の増殖がみられた (IRIS Summary (Access on August 2015)) との記述、並びに、ラットに本物質のポリマー (PMDI) を2年間吸入ばく露した結果、高用量 (6.03 mg/m3) で、肺の腺腫が雄6/60例、雌2/59例にみられた (CICAD 27 (2000)、IRIS Summary (Access on August 2015)) との記述があり、IARCは後者のポリマーのデータのみを評価に利用し、本物質と本物質ポリマーを含む混合物に対して、実験動物での発がん性に関して限定的な証拠があるとした (IARC 71 (1999))。
既存分類結果としては、IARCが上記の通り、ヒトの不十分な証拠と実験動物での限定的な証拠より、1999年に「グループ3」に (IARC 27 (1999))、米国EPAはMDIとMDIのポリマー (PMDI) に対して、1998年に「CBD (cannot be determined)」 に分類した。一方、EUは本物質の異性体混合物 (MDI) を対象としたリスク評価を行い、結論的にはIARCと同様にヒト発がん性の証拠は不十分、実験動物での発がん性の証拠は限定的としたにもかかわらず、評価書中の分類の項にはCMR作業グループがCarc. Cat. 3 を提唱していると記述しており (EU-RAR (2005))、現在ではCLP分類で「Carc. 2」 に該当するが、分類根拠は入手可能な資料からは不明であった。 以上、EUの分類根拠が不明である以上、区分2を採用するのは妥当でなく、従前のIARC、EPAの分類結果を基に、旧分類以降に改訂した分類ガイダンスにしたがい、本項は分類できないとした。
生殖毒性
GHS分類: 分類できない ヒトの生殖影響に関する情報はない。実験動物では、本物質 (4,4'-MDI) を妊娠ラットの器官形成期 (妊娠6~15日) に吸入ばく露した発生毒性試験において、高用量群 (9 mg/m3) では母動物に肺の絶対・相対重量の増加、胎児に胸骨分節非対称の軽度増加がみられた (CICAD 27 (2000)、IRIS Tox Review (1998)、EU-RAR (2005))。この試験結果からは、母動物に有害性影響のある用量で、胎児に骨格変異がみられただけで、軽微な発生影響のため分類区分を付すのは適切でない。この他には、本物質の性機能・生殖能への影響評価、発生影響評価のための試験結果はなく、本項はデータ不足のため分類できない。 なお、本物質の異性体混合物ポリマー (PMDI) に対しては、妊娠ラット (Wistar) を用いた器官形成期 (妊娠6~15日) 吸入ばく露による発生毒性試験報告が2件あり、1つは母動物毒性 (摂餌量減少、肺重量増加) がみられた12 mg/m3の用量で、胎児に異常なしとした報告 (CICAD 27 (2000)、EU-RAR (2005))、他方は母動物に死亡例 (2/25例)、胎盤重量の減少がみられた12 mg/m3で、胎児に体重の低値、骨格変異頻度増加、骨化遅延がみられたとの報告 (CICAD 27 (2000)、IRIS Tox Review (1998)、EU-RAR (2005)) がある。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分1 (呼吸器) 本物質は気道刺激性がある (DFGOT vol. 8 (1997)、IARC 71 (1999))。実験動物では、モルモットの吸入ばく露 (区分1相当の用量) で呼吸数の低下や呼吸量の増加、ラットの吸入ばく露 (区分1相当の用量) でばく露直後の剖検で、肺出血、肺水腫がみられている (CICAD 27 (2000))。 以上より、本物質は呼吸器への影響があり、区分1 (呼吸器) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (呼吸器) 加熱したMDIを使用する木材製品工場の作業者18人を対象とした調査で、下部気道症状がみられ、後に症状発現時期を交絡因子で補正した結果、職業性喘息であり、加熱した本物質の蒸気に2.5年間以上のばく露で発症したことが示されたとの記述があり、MDIによる感作の原因物質は蒸気とMDIポリマーとの反応生成物、MDI単独、又はMDIと反応性生物との混合物のいずれかと推定されている (CICAD 27 (2000))。また、死亡する5年前に本物質誘発性の喘息と診断され、その後も本物質に継続ばく露された鋳物工の剖検の結果、肺に上皮細胞の剥離、好酸球、好中球浸潤、浮腫、細気管支血管の拡張などの形態学的変化がみられたことが報告されている (CICAD 27 (2000))。
実験動物では雌ラットに本物質 (純度: 99.5%) を2年間吸入ばく露した試験において、区分1の用量範囲 (0.23~2.05 mg/m3: ガイダンス値換算 (0.00047~0.0041 mg/L/6 hr/day)) で、肺重量の増加、限局性又は多巣性の肺胞/細気管支上皮過形成、間質の線維症、粒子を取込んだマクロファージの集簇、及び肺機能の低下がみられたとの記述がある (CICAD 27 (2000))。また、MDIモノマーを52%、イソシアネートを30%含むPMDIをラットに13週間、又は2年間吸入ばく露した試験においても、13週間ばく露では区分1に該当する4.1~12.3 mg/m3で、鼻腔組織の萎縮、変性、肺、縦隔リンパ節にマクロファージの集簇がみられ、高濃度では重篤な呼吸器症状を呈し、25% (15/60例) の動物が死亡したとの記述 (CICAD 27 (2000)、DFGOT vol. 8 (1997))、2年間ばく露では、0.98 mg/m3以上の用量で、影響は呼吸器に限定的にみられ、鼻腔 (嗅上皮の変性、基底細胞の過形成)、肺 (線維症、間質性肺炎)、及び縦隔リンパ節に所見がみられたとの記述がある (CICAD 27 (2000)、DFGOT vol. 8 (1997))。 以上より、区分1 (呼吸器) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、EU-RAR (2005) に記載された数値データ (粘性率: 4.7 mPa・s (50℃)、密度 (比重) : 1/325 (20℃)) より、本物質の動粘性率は3.547 mm2/sec (50/20℃) と算出される。