急性毒性
経口
ラットの4件のLD50値(138 mg/kg、300 mg/kg (SIDS (access on May 2009)、155mg/kg(環境省リスク評価 第3巻 (2004))、500mg/kg (ACGIH (2001)のうち、3件が該当する区分3とした。
経皮
ウサギの2件のLD50値(800mg/kg (ACGIH (2001))、〉2000 mg/kg (SIDS (access on May 2009)))が該当する区分のうち、危険性の高い区分3とした。
吸入
吸入(ミスト): ラットのLC50値 1.71 mg/L /4h(SIDS (access on May 2009))、環境省リスク評価 第3巻 (2004))および3 mg/L/4h(ACGIH (2001))に基づき、区分4とした。(本試験は飽和蒸気圧濃度以上で実施)
吸入(蒸気): データなし
吸入(ガス): GHSの定義における液体である。
皮膚腐食性・刺激性
ウサギを用いた皮膚刺激性試験で刺激性なし(no irritation)の結果(ACGIH (2001))に基づき、区分外とした。なお、ヒトで皮膚ばく露による7症例が詳しく調べられ、6例がばく露後5-15分で皮膚の刺激や炎症を起こした。残る1例では試験物質に浸かった靴を履いた足の皮膚に広範な皮膚組織の破壊が生じ、117日間の休業を余儀なくされた(ACGIH (2001))と報告されている。
眼に対する重篤な損傷・刺激性
ウサギを用いた試験で、8日間の観察で軽度の刺激性(slightly irritating)の結果(SIDS (access on May. 2009)、IUCLID (2000)) に基づき、区分2Bとした。
呼吸器感作性又は皮膚感作性
皮膚感作性:モルモットを用いた皮膚感作性試験の陰性結果から、「感作性なし」((SIDS (access on May. 2009))、(ACGIH (2001))、IUCLID (2000))と記述されていることから区分外とした。
呼吸器感作性:データなし
生殖細胞変異原性
ラットの骨髄を用いた染色体異常試験(OECD TG 475; GLP)(体細胞を用いたin vivo 変異原性試験で陰性(SIDS (access on May 2009)、IUCLID (2000))に基づき、区分外とした。なお、in vitro試験としては、エームス試験では陰性(ACGIH (2001)、SIDS (access on May 2009))、マウスリンフォーマ試験で陰性(SIDS (access on May 2009))、ラット肝細胞を用いた不定期DNA合成試験で陰性(SIDS (access on May 2009))の情報がある。
発がん性
EPA (1991) でD (not classifiable as to human carcinogenicity) に分類されていることから、区分外とした。なお、ラットを用いた2年間の飲水投与の試験(ACGIH (2001))において腫瘍の発生は報告されていない。
生殖毒性
ラットを用いた飲水投与による三世代生殖試験で受胎、妊娠、生存率に関する指標に影響がなく(ACGIH (2001))、また、交配22日前から吸入ばく露した雌ラットに未ばく露の雄を交配し、交配74日前から吸入ばく露した雄ラットには未ばく露の雌を交配した試験で、いずれも親動物の性機能および生殖能に影響が認められなかった(環境省リスク評価 第3巻(2004))。一方、ラットの妊娠6-19日に経口投与した発生毒性試験では中・高用量の母動物各1~2匹が死亡したが、催奇形性を含め仔の発生に対する悪影響は認められなかった(環境省リスク評価 第3巻(2004))。以上の結果により、親動物の性機能、生殖能および仔の発生のいずれも悪影響を及ぼさないことから、区分外とした。
特定標的臓器・全身毒性(単回ばく露)
ヒトで数mLを誤飲の約20分後に嘔吐し、胸部逼迫、脱力、めまい、チアノ-ゼを起こし、さらに頻脈、頻呼吸、低血圧、散瞳、強直・間代性の四肢及び顔面筋肉の収縮、錯乱がみられた1症例が報告されている(環境省リスク評価 第3巻 (2004)、PATTY (5th, 2001))。さらに、大抵の中毒患者は急性的に死亡するか完全に回復するかのいずれかであるが、稀に人格変化、記憶欠損、錐体外路性脳性麻痺のような神経学的後遺症を起こすと記述されている(HSDS (2009))ことから区分1(神経系)とした。なお、動物の吸入ばく露試験の所見として、マウスで呼吸促進、運動低下、軽度チアノーゼ(ACGIH (2001))、ラットで痙攣、し眠などの症状(CERIハザードデータ集 2001-17 (2002))が記載されている。
特定標的臓器・全身毒性(反復ばく露)
ラットを用いた4週間吸入ばく露試験において、493 mg/m3群で半数以上が死亡し、114 mg/m3群((90日補正値:)0.035 mg/L)以上で平均赤血球ヘモグロビン濃度、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値の減少、脾臓のヘモジデリン色素及び髄外造血が認められている(環境省リスク評価第3巻 (2004))。さらに、13週間の吸入ばく露試験の結果として0.99 mg/Lで貧血(環境省リスク評価第3巻 (2004))、モルモットに3~16回の経皮投与試験の結果として高色素性貧血(ACGIH (2001))がそれぞれ報告されている。一方、ナイロン製造作業者がばく露により軽度の白血球減少と単球増加を伴う溶血型高色素性貧血を示しと報告されているが、混合ばく露であるため本物質との関連性を特定することはできないとしている(ACGIH (2001))。以上の報告によりヒトでの情報が不十分であるため動物試験結果から判断し区分2(血液)とした。なお、ラットの2年間の飲水投与の雄の副腎の変性(環境省リスク評価第3巻 (2004))が見られているが、2年間の試験結果であることと13週の試験では認められないことから、分類には採用しなかった。
吸引性呼吸器有害性
データなし