急性毒性
経口
GHS分類: 区分4 ラットのLD50値として、330 mg/kg (雄)、800 mg/kg (雌)、660 mg/kg (雄)、1,050 mg/kg (雌)、415 mg/kg (雄)、860 mg/kg (雌)、1,700 mg/kg (雄)、1,720 mg/kg (雌) (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))、740 mg/kg (雄)、570 mg/kg (雌) (JMPR (1970)) との報告に基づき、区分4とした。
経皮
GHS分類: 区分4 ラットのLD50値として、890 mg/kg (雄)、1,200 mg/kg (雌)、2,700 mg/kg (雄)、約5,000 mg/kg (雌)、1,260 mg/kg (雄)、1,910 mg/kg (雌) (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014)) の6件の報告があり、1件が区分3、3件が区分4、2件が区分外 (国連分類基準の区分5) に該当する。件数の多い区分を採用して区分4とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない ラットの4時間吸入試験のLC50値として、 > 0.186 mg/L (雌雄)、> 2.21 mg/L (雌雄) (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014)) との報告があるが、これらの値のみでは区分を特定できないため、分類できないとした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度0.002 mg/L (0.178 ppm) より高いため、ミストとしてmg/Lを単位とする基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分外 ウサギを用いた皮膚刺激性試験において皮膚刺激性は認められなかったとの報告 (EHC 133 (1992)、食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014)) から区分外とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分2B ウサギを用いた眼刺激性試験において、本物質を適用後に洗眼しない場合、適用後1時間で結膜における軽度の充血を生じたが48時間後には回復し本物質の刺激性は軽度であるとの報告 (EHC 133 (1992))、眼刺激性は軽度又は刺激性は認めなかったとの報告 (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014)) から、軽度の刺激性と判断し区分2Bとした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、モルモットを用いた吸入感作性試験において、本物質はアレルギー性喘息の惹起作用を有しないと考えられたとの記載 (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014)、PATTY (6th, 2012)) があるが、詳細が不明のため分類できないとした。
皮膚感作性
GHS分類: 区分1 モルモットを用いた皮膚感作性試験 (マキシマイゼーション法) で、本物質の5%溶液による惹起では陽性率70% (惹起後24、48時間後とも) で、0.5%溶液による惹起では陽性率30% (24時間後) 及び40% (48時間後) と高い陽性率を示したとの報告 (EHC 133 (1992)) がある。又、モルモットを用いたランドシュタイナー・ドレイズ法による試験で皮膚感作性は陰性との報告 (EHC 133 (1992)、食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014)) がある。より感度の高いマキシマイゼーション法の試験結果を優先し、区分1とした。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない ガイダンスの改訂により区分外が選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、ラット、マウスの優性致死試験、小核試験、染色体異常試験、ラットの肝細胞を用いた不定期DNA合成試験でいずれも陰性 (EHC 133 (1992)、食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験でネズミチフス菌TA100に陽性であるが、他の菌株では陰性、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験、染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験で陰性である (EHC 133 (1992)、食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))。ネズミチフス菌TA100の陽性結果については、TA100がもつニトロレダクターゼに起因するものと推定されている (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))。
発がん性
GHS分類: 区分外 ラット又はマウスに2年間混餌投与した慢性毒性/発がん性併合試験、及びマウスに18ヵ月間混餌投与した発がん性試験において、マウス2年間混餌投与試験では100 ppm の雄で肝細胞腺腫の頻度に有意な増加 (対照群16/50例に対して27/50例) がみられたが、用量相関性がなく、投与による影響と考えられなかった。その他、いずれの試験においても腫瘍性病変の頻度増加はみられず、発がん性はないと結論された (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))。EPAは本物質の発がん性をグループE (Evidence of non-carcinogenicity for humans) に分類した (EPA Pesticide (1995))。以上より、区分外とした。
生殖毒性
GHS分類: 区分2 ラットに最大 60 ppm を混餌投与した1世代試験では、F0親動物、F1児動物ともに影響はみられなかった (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))。しかし、ラットに最大 120 ppm を混餌投与した2世代試験において、親動物にはF1雌 (40 ppm で体重増加抑制、120 ppm で軟便、振戦) を除くF0、F1の雌雄 120 ppm で体重増加抑制がみられ、F1、F2児動物ともに 120 ppm で体重増加抑制、一般状態の悪化に加えて死亡児数の増加、4日生存率低下、離乳率の低下がみられた (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))。また、ラットに最大150/100 ppm (F1離乳後以降150 ppmから100 ppmに減量) を混餌投与した3世代試験では、高用量 (150/100 ppm) で F0、F1、F2親動物に体重増加抑制、F1、F2、F3児動物に離乳時生存率の低下がみられた (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))。一方、妊娠ラット、又は妊娠ウサギの器官形成期に強制経口投与した発生毒性試験では、母動物に明らかな一般毒性影響 (体重増加抑制、振戦など (ラット)、死亡、体重増加抑制、流産 (ウサギ)) がみられる用量においても、胎児に発生影響はみられなかった (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014)、PATTY (6th, 2012)、EPA Pesticide (1995))。 以上、ラットを用いた2世代及び3世代試験において、親動物に一般毒性影響がみられる用量で児動物に生存率の低下がみられたことから、本項は区分2とした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分1 (神経系) 本物質は有機リン系殺虫剤であり、コリンエステラーゼを阻害する (JMPR (1970)、食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))。ヒトでは、本物質の事故又は自殺企図による急性経口摂取の中毒症状として、初期に疲労感、頭痛、脱力感、錯乱、嘔吐、腹痛、大量の発汗、流涎、瞳孔収縮が起こる。肺のうっ血あるいは呼吸筋の脱力による呼吸困難を生じる場合もある。重症の場合には筋肉痙攣、意識喪失、痙攣を起こして呼吸不全により死に至る場合もあるとの報告がある (EHC 133 (1992))。実験動物では、ラットの単回経口、経皮又は吸入ばく露試験で、自発運動減少、不規則呼吸、呼吸困難、運動失調、流涎、振戦、攣縮、間代性痙攣、眼球突出、立毛及び流涙が認められたとの報告がある。動物試験での神経系への影響は区分1範囲の50 mg/kg以上で認められた (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))。以上より区分1 (神経系) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (神経系) ヒトに関する情報はない。 実験動物については、ラットを用いた90日間混餌投与毒性試験において、区分1のガイダンス値の範囲内である60 ppm (雄: 3.05~5.88 mg/kg/day、雌: 3.96~5.96 mg/kg/day) 以上で赤血球・脳コリンエステラーゼ活性阻害 (20%以上)、区分2のガイダンス値の範囲内である200 ppm (雄: 10.6~18.5 mg/kg/day、雌: 14.9~20.7 mg/kg/day) で前後肢握力低下、このほかラットを用いた6ヵ月間混餌投与毒性試験、ラット・イヌ・サルを用いた2年間混餌投与毒性試験においても区分1のガイダンス値の範囲内で赤血球・脳コリンエステラーゼ活性阻害 (20%以上) がみられている。また、ラットを用いた28日間吸入毒性試験 (2時間/日、5~6日/週) において、区分1のガイダンス値の範囲内である0.015 mg/L (90日換算: 0.0016 mg/L) 以上で赤血球・脳コリンエステラーゼ活性阻害 (20%以上)、卵巣の絶対及び相対重量減少、マウスを用いた28日間吸入毒性試験 (2時間/日、5~6日/週) において、区分1のガイダンス値の範囲内である0.062 mg/L (90日換算: 0.0064 mg/L) で脳コリンエステラーゼ活性阻害 (20%以上) がみられている (食品安全委員会農薬・動物用医薬品評価書 (2014))。 以上より区分1 (神経系) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。