急性毒性
経口
GHS分類: 区分4 ラットのLD50値として、370 mg/kg (雄)、760 mg/kg (雌) (環境省リスク評価第14巻 (2016))、1,186 mg/kg (雄)、848 mg/kg (雌) (ATSDR (2005)、環境省リスク評価第14巻 (2016)) との報告に基づき、区分4とした。
経皮
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない In vivoでは、マウスの骨髄細胞を用いた小核試験で陰性、ラット、マウスの骨髄細胞を用いた染色体異常試験で陽性、マウスの骨髄細胞を用いた姉妹染色分体交換試験で陽性、陰性の結果、ラットの肝臓、腎臓等を用いたDNA損傷試験、ラットの肝臓を用いた不定期DNA合成試験で陰性である (食品安全委員会清涼飲料水評価書 (2009)、ATSDR (2005)、IARC 71 (1999)、環境省リスク評価第14巻 (2016)、IRIS (1990)、NTP DB (Access on August 2017))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で弱陽性、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験、染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験で陽性である (食品安全委員会清涼飲料水評価書 (2009)、ATSDR (2005)、IARC 71 (1999)、IRIS (1990)、環境省リスク評価第14巻 (2016)、NTP DB (Access on August 2017))。In vivoラット骨髄染色体異常試験の陽性結果は20.8 mg/kgでの腹腔内投与の知見であり、同じ著者によるラット5日間経口投与による20.8 mg/kg/dayでは陰性であった。また、500 mg/kgまでの腹腔内投与による小核試験では、ラット、マウスともに陰性であった。本物質はトリハロメタンの1種であり、トリハロメタンの遺伝毒性はグルタチオン (GSH) との反応性 (GSTT1-1活性) に依存し、GST経路の活性はマウスが著しく高く、ラットやハムスターでは非常に低く、ヒトではさらに低い (食品安全委員会清涼飲料水評価書 (2009))。以上の知見から、ラットでの陽性結果の重みは極めて低く、明確な遺伝毒性は示されていないと判断した。以上より、ガイダンスに従い分類できないとした。
発がん性
GHS分類: 分類できない ヒトでは水道水中の本物質と特定のがんとの関連性を調査した疫学研究のうち、一部に有意な相関を認めたとの報告もあるが、多くは両者の間に有意な相関性はないとの結果を示した報告であった (環境省リスク評価第14巻 (2016))。 実験動物ではラット又はマウスに2年間強制経口投与した発がん性試験において、ラットでは腫瘍発生頻度の増加は示されなかったが、マウスの試験では高用量群の雄で肝細胞がんの頻度増加と肝細胞腺腫及びがんの合計頻度のわずかな増加、雌で肝細胞腺腫の頻度増加と肝細胞腺腫及びがんの合計頻度の増加がみられた (NTP TR282 (1985)、IARC 52 (1991))。NTPはラットでは雌雄ともに発がん性の証拠はないが、マウスでは雄で発がん性の不確実な証拠、雌である程度の証拠があると結論した (NTP TR282 (1985))。この他、マウスの2年間飲水投与試験では雌雄ともに腫瘍発生頻度の増加はみられなかった (IARC 52 (1991))。既存分類ではEPAが実験動物での証拠は限定的であるものの、実験動物でのトリハロメタン類の既知発がん物質と構造類似性を有することから、カテゴリーC (possible human carcinogen) に分類した (IRIS (1990))。一方、IARCは実験動物での発がん性の証拠は限定的として、1991年にグループ3に分類し (IARC 52 (1991))、1999年の再評価でも分類結果を変更していない (IARC 71 (1999))。また、環境省は本物質の発がん性については十分な知見が得られず、ヒトに対する発がん性の有無については判断できないとの見解を示している (環境省リスク評価第14巻 (2016))。 以上、既存分類結果において評価年度が新しいIARCの分類結果、及び環境省のヒト発がん性に対する見解を踏まえ、分類できないとした。
生殖毒性
GHS分類: 区分2 カリフォルニア州において、飲料水からのトリハロメタンばく露と自然流産、精液の質、先天性奇形との関連性を調べた複数の疫学研究ではいずれも関連性はないと報告されたが、北カリフォルニアに住む18~39歳の既婚女性を対象とし、水道水からのトリハロメタンへのばく露と月経周期との関連を調べた前向き研究では、本物質を含む3種類のトリハロメタン、臭化物の合計で月経周期及び卵胞期が有意に短くなったが、その程度は本物質又は臭化物の合計で最も大きかったとの報告がある (環境省リスク評価第14巻 (2016)、ATSDR (2005))。 実験動物では雌雄マウスに最大4 g/Lの濃度で飲水投与した多世代試験において、F0、F1b親動物に体重増加抑制 (雌のみ) がみられた1 g/L (171~200 mg/kg/day 相当) 以上で同腹児数の減少 (F1c)、哺育率の低下 (F1b、F2b)、4日生存率の低下 (F1b)、F0、F1b親動物に体重増加抑制 (雄)、肝腫張 (雌雄) がみられた4 g/L (685~800 mg/kg/day 相当) ではさらに受胎率低下 (F2b)、出産率の低下 (F1a、F1b、F1c)、同腹児数の減少 (F1a、F1b、F2a、F2b)、4日生存率の低下 (F1a、F1c、F2a) がみられた (環境省リスク評価第14巻 (2016)、食品安全委員会清涼飲料水評価書 (2009)、ATSDR (2005))。一方、妊娠ラットの器官形成期 (妊娠6~15日) に強制経口投与した発生毒性試験では、高用量で母動物に体重増加抑制がみられたものの、胎児に発生影響はみられなかった (環境省リスク評価第14巻 (2016))。 以上、ヒトでの月経周期への影響がみられたとの1件のみの報告は、トリハロメタンばく露による影響で本物質の影響とは特定できないが、マウスを用いた試験で親動物の一般毒性用量で生殖発生毒性がみられていることを踏まえ、本項は区分2が妥当と判断した。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分3 (麻酔作用) 本物質のヒトでの単回ばく露の情報はない。実験動物では、ラットの単回経口投与試験において、310 mg/kg以上で嗜眠が認められたとの報告 (NTP TR282 (1985))、マウスの単回経口投与試験で500 mg/kgで30分以内に鎮静及び麻痺が現れ、約4時間持続したとの報告 (環境省リスク評価第14巻 (2016)) がある。また、ラットにおける本物質の急性経口毒性として、立毛や鎮静、筋弛緩、運動失調、衰弱が認められるとの記載 (環境省リスク評価第14巻 (2016)、食品安全委員会清涼飲料水評価書 (2009)) がある。更にATSDR (2005) には、本物質は実験動物に嗜眠、運動失調、鎮静などの中心神経系抑制を起こすとの記述がある。以上より、区分3 (麻酔作用) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分2 (肝臓、腎臓) ヒトに関する情報はない。 実験動物については、ラットを用いた90日間反復経口投与毒性試験において、区分2のガイダンス値の範囲内である50 mg/kg/day以上で肝臓の相対重量増加、肝臓の小葉中心性脂肪変性、尿細管の変性、100 mg/kg/dayでALT増加、クレアチニンの増加、腎臓の相対重量増加、尿細管細胞の腫脹を伴った変性がみられている (環境省リスク評価第14巻 (2016))。ラットを用いた13週間反復経口投与毒性試験において、区分2のガイダンス値の範囲内である60 mg/kg/day (90日換算: 43 mg/kg/day) 以上で肝細胞の空胞変性や壊死、尿細管細胞の変性がみられている。ラットを用いた2年間反復経口投与毒性試験において、区分2のガイダンス値の範囲内である40 mg/kg/day以上で肝臓の脂肪変性及び細胞質のすり硝子様変性、腎症の発生率増加がみられている (環境省リスク評価第14巻 (2016)、NTP TR282(1985))。 以上より、区分2 (肝臓、腎臓) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。