急性毒性
経口
GHS分類: 区分外 ラットのLD50値として、> 8,000 mg/kg、> 10,000 mg/kg (2件) (SIDS (2007)) に基づき、区分外とした。
経皮
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、ウサギのLD50値として、> 3,000 mg/kg (RTECS (Access on August 2015)、GESTIS (Access on August 2015)) との報告があるが、List 3の情報であり、原著による確認ができなかったため、分類には採用しなかった。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における固体である。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分外 ウサギを用いた皮膚刺激性試験 (OECD TG404) において、本物質500 mgを4時間閉塞適用した結果、刺激性はみられなかったとの報告がある (SIDS (2007))。また、ウサギを用いた別の皮膚刺激性試験においても、本物質 (20~27%) を適用した結果刺激性はみられなかったとの報告がある (SIDS (2007))。以上より、区分外とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分外 ウサギを用いた眼刺激性試験 (OECD TG 405) が3報あり、いずれも本物質 (原液) 適用による刺激性はみられなかったとの報告がある (SIDS (2007))。以上より、区分外とした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない In vivoでは、吸入ばく露及び気道内注入によるラットの肺胞細胞を用いた遺伝子突然変異 (hprt) 試験で陽性、吸入ばく露によるラットの肺を用いたDNA付加体形成試験で陽性、陰性の結果があるが、その陽性結果は、本物質に含まれた芳香族多環水素類あるいは炎症にともなう活性酸素種の発生による可能性が指摘されており、カーボンブラック自体の変異原性を示唆するものとは考えられていない (IARC 93 (2010)、DFGOT vol. 18 (2002)、SIDS (2007))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験で陽性、陰性の結果、哺乳類培養細胞の小核試験で陽性、マウスリンフォーマ試験、姉妹染色分体交換試験で陰性である (IARC 93 (2010)、SIDS (2007)、DFGOT vol. 18 (2002))。以上より、本物質自体に変異原性はないものと考えられ、ガイダンスに従い分類できないとした。
発がん性
GHS分類: 区分2 ヒトでは主に英国、ドイツ、及び米国でのコホート研究、コホート内症例対照研究から、本物質への職業ばく露と肺がん死亡の過剰リスクとの関連性を示唆する報告もあったが、喫煙の影響の可能性を排除できない、或いはアスベスト、タルクへの共ばく露の影響を補正した結果では、肺がん死亡の過剰リスクの有意差が消失したなど、両者の相関を支持する結果は得られなかった (IARC 93 (2010)、ACGIH (7th, 2011))。その他、膀胱、腎臓、胃、及び食道の発がんに対して、過剰リスクを示唆する報告があるが、いずれも本物質がヒトで発がん性を支持する証拠としては不十分であると記述されている (IARC 93 (2010))。 一方、実験動物では Printex 90 (主粒子径: 14 nm、比表面積: 227±18.8 m2/g、空気力学的質量中央値 (MMAD) : 0.64μm) を雌マウスに13.5ヶ月間、及び雌ラットに43週間、又は86週間、又は雌ラットに24ヶ月間、吸入ばく露した各試験で、肺胞/細気管支腺腫、腺がん、扁平上皮がんなど肺の良性/悪性腫瘍の頻度増加が認められた (IARC 93 (2010)、SIDS (2007))。また、 Elftex 12 (総粒子の67%が大型粒子 (粒子径: 2.0~2.4 μm; MMAD: 2.0 μm)、33%が小型粒子 (粒子径: 0.02~0.1μm)) を雌雄ラットに2年間吸入ばく露した試験では、雄には肺腫瘍の頻度の増加は示されなかったが、雌に肺の腺腫及び腺がんの発生頻度の増加が用量依存的に認められた (IARC 93 (2010)、SIDS (2007))。この他、これら2種の本物質製品を雌ラットに気管内投与した試験でも、肺腫瘍の増加が確認されている (IARC 93 (2010)、SIDS (2007))。 以上のヒト疫学知見及び動物試験結果より、IARCはグループ2Bに (IARC 93 (2010))、ACGIHはA3に (ACGIH (7th, 2011)) 分類している。よって、本項は区分2とした。
生殖毒性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
実験動物では、本物質を雄ラットに13週間吸入ばく露 (6時間/日、5日/週) した試験では、7.1 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0051 mg/L/6 hr) 以上で、肺胞上皮の炎症、過形成、及び線維化がみられ、肺による粉塵クリアランス速度の低下も認められ、NOAELは1.0 mg/m3であった (SIDS (2007))。また、雌雄ラットに2年間吸入ばく露 (16時間/日、5日/週) した試験では、2.5 mg/m3 (ガイダンス値換算: 0.0046 mg/L/6 hr) 以上で、肺に同様に肺胞上皮の炎症、扁平上皮化生、過形成、慢性活動性炎症がみられている (SIDS (2007))。なお、雌のラット、マウス、及びハムスターに同一濃度で13週間吸入ばく露した結果、肺の炎症性組織変化はラットでは7 mg/m3以上で明瞭で、所見の強さはマウス、ハムスターよりも強く、一方、肺からのクリアランス速度はハムスターが最も速かったとの報告があり (ACGIH (7th, 2011))、呼吸器系への有害影響、肺からのクリアンスには種差が示唆された。この他、マウスの41週間経皮投与、及びラット、マウスを用いた2年間混餌投与試験では有害性影響は認められなかった (SIDS (2007))。 以上、本物質は吸入経路において、ヒトでは僅かな呼吸機能低下が示唆されているに過ぎないが、実験動物では区分1の用量範囲内で、肺に顕著な組織変化が示されたことから、区分1 (呼吸器) に分類した。
GHS分類: 区分1 (呼吸器) ヒトでは本物質製造工場で、本物質への反復吸入ばく露により、肺機能の低下、呼吸器症状の発生頻度増加、胸部X線写真での異常所見がみられるものと推定されたが、欧州7ヶ国、19施設を含む大規模疫学研究の結果では、1.0 mg/m3 (吸入性粉じん、8時間TWA) の濃度で40年間ばく露後の予測値として、肺機能パラメータの軽度の低下が示唆されただけであった (SIDS (2007)、ACGIH (7th, 2011))。すなわち、1、2、3.5 mg/m3 (8時間TWA値) で、40年間吸入ばく露後に、FEV1 (1秒量) の値が平均で各々49、91、及び169 mL減少すると推測されたが、成人男性が40年間に加齢により、FEV1が平均 1,200 mL低下することと比べ、ごく僅かな変化であるとされた (SIDS (2007))。また、北米の製造工場での研究結果でも、1 mg/m3に40年間のばく露により、FEV1が28 mL減少したという同様の呼吸機能低下が示された (SIDS (2007)) が、欧州、北米の結果ともに指標としてのFEV1値の低下は、FEV1値の正常値の95%信頼区間の範囲内での低下であるとされている (ACGIH (7th, 2011))。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない デ-タ不足のため分類できない。