急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分に該当しない。なお、新たな知見に基づき分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1)ラットのLD50(雄):4,665 mg/kg(AICIS IMAP (2013)) (2)ラットのLD50(雌):5,610 mg/kg(AICIS IMAP (2013))
経皮
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1)より、区分に該当しない。なお、旧分類の根拠となった知見の情報源はList 3のものであり、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1)酢酸鉛(II)・三水和物(CAS登録番号:6080-56-4)について、再構築ヒト表皮モデル(EpiDerm)を用いた in vitro皮膚刺激性試験(OECD TG 439、GLP)において、細胞生存率R=85.7%(区分に該当しない結果)であったとの報告がある(REACH登録情報 (Accessed Aug. 2022))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)より、区分1とした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1)酢酸鉛(II)・三水和物(CAS登録番号:6080-56-4)について、ウサギ(n=1)を用いた眼刺激性試験(OECD TG 405、GLP)において、適用1時間~72時間後の観察時に虹彩の光反射が消失したため回復の見込みなしと判断され、72時間で試験を終了した(角膜混濁スコア:1.33、虹彩炎スコア:2、結膜発赤スコア:2.67、結膜浮腫スコア:2.67)との報告がある(REACH登録情報 (Accessed Aug. 2022))。
【参考データ等】 (2)酢酸鉛(II)・三水和物(CAS登録番号:6080-56-4)について、in vitro眼刺激性試験(OECD TG 437、GLP)において、in vitro 刺激性スコア(IVIS)=32.54(予測不可に該当)との報告がある(REACH登録情報 (Accessed Aug. 2022))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 データ不足のため、分類できないとした。(1)、(2)より、in vivoのコメットアッセイでは哺乳類の生殖細胞で陽性の報告があるが、これらのデータのみでは区分をつけることができない。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1)In vivoでは、コメットアッセイによるDNA傷害(一本鎖切断)は本物質の飲水又は経口投与後のマウス及びラットの骨髄、白血球、精子細胞等でみられた。また、ラットを用いた本物質の経口投与によるコメットアッセイでは、腎臓細胞において姉妹染色分体交換のレベルの増加がみられ、単一の高用量がより効果的であるとする結果がある(IARC 87 (2006))。 (2)In vitroでは、異なる動物細胞を用いた遺伝子突然変異試験では陽性及び陰性の結果が得られた。また、細菌復帰突然変異試験、ヒト細胞を用いた遺伝子突然変異試験及び染色体異常試験でほぼ陰性の結果が得られている(食安委 評価書 (2021)、IARC 87 (2006))。
発がん性
【分類根拠】 (1)より、動物種1種(ラット)であるが複数の試験で腎臓腫瘍とそれ以外に様々な臓器に腫瘍を誘発することが示されるため、区分1Bとした。なお、新たな情報源を利用し分類結果を見直した。
【根拠データ】 (1)酢酸鉛をラットに慢性経口投与下7つの異なる試験で、ラットの雌雄の腎臓に腺腫と腺がんが認められ、これらのうち用量反応関係の評価が可能であった2試験で用量反応関係がみられた。妊娠期及び授乳期を通して酢酸鉛に経口投与した雌マウスの子孫において、鉛誘発性慢性腎症の非存在下で腎臓腫瘍の用量相関的な増加が示された。酢酸鉛をラットに経口投与した2つの試験で脳の神経膠腫(グリオーマ)がみられた。酢酸鉛を経口投与したラットの1試験では、雄で副腎、精巣及び前立腺の腫瘍、雌で陰核腺の腫瘍との関連性が示された。雌雄ラットの混合群として扱われた試験では、酢酸鉛への経口ばく露と肺、下垂体、前立腺、乳腺及び副腎の腫瘍と相関がみられた(IARC 87 (2006)、NTP RoC 15th (2021))。
【参考データ等】 (2)国内外の評価機関による発がん分類としては、無機鉛化合物についてIARCがグループ2A(IARC 87 (2006))に、鉛及び鉛化合物についてNTPがRに(NTP RoC 15th (2021))、ACGIHがA3に(ACGIH-TLV (2022))、日本産業衛生学会が第2群Bに(産衛学会許容濃度の勧告等 (2021))、DFGがカテゴリー2に(List of MAK and BAT values 2020)、それぞれ分類している。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)~(10)より、区分1Aとした。また(11)より、授乳に対する又は授乳を介した影響の追加区分とした。
【根拠データ】 (1)職業的鉛ばく露を受けた男性では、血中鉛濃度が40 μg/dL 以上で精液中の精子数等に変化がみられ、血中鉛最高濃度51 μg/dL以上で妊娠するまでの時間の長期化、血中鉛濃度31 μg/dL 以上で自然流産のリスクが高まり、平均血中鉛濃度46.3 μg/dL で出生率が低下したとの報告がある(食安委 評価書 (2021))。 (2)血中Pb濃度が10 μg/dL以下の集団において、精子障害の証拠が示されており、10 μg/dL以上では授精能低下、精巣への組織学的傷害を含めより重度の影響みられたとの報告がある(ATSDR (2020))。 (3)日本産業衛生学会は鉛及び鉛化合物を生殖毒性物質第1群に分類している(産衛学会許容濃度等の提案理由書 (2013))。 (4)ロシアの8~9 歳の男児489人を対象として、血中鉛濃度と発育並びに医師が評価した精巣容積及び思春期開始との関連性について調査された横断的研究において、血中鉛濃度の中央値は3 μg/dLであった。多変量解析では、血中鉛濃度が5 μg/dL 以上の男児は、それより低い濃度の男児と比較して生殖器の成熟度のオッズが43%減少した (オッズ比=0.57、p=0.03)。これらの結果から、比較的低い血中鉛濃度においても、青年期前後の男児の発育不良や思春期開始の遅れには関連性があると報告された(食安委 評価書 (2021))。 (5)米国人少女(血中鉛濃度0.7~21.7 μg/dL)の解析では、血中鉛濃度の高値は初潮遅延・恥毛発達遅延と関連していたが、乳房発達とは関連しなかったとの報告がある。しかし、同国のアフリカ系及びヒスパニック系の少女では、血中鉛濃度が3μg/dLの群では1 μg/dL群比べて乳房・恥毛の発達が遅れていたが、白人系少女では乳房・恥毛の発達の差はみられなかったとの報告がある(食安委 評価書 (2021))。 (6)生殖器官への影響については、ラットを用いた試験において、血中鉛濃度が30 μg/dL 以上で、雄の精子数への影響及び精巣萎縮がみられ、雌の性周期に影響がみられたとの報告がある(食安委 評価書 (2021))。 (7)ラットを用いた経口投与による発生毒性試験(30日間、0.013、0.26 mg Pb/kg/day)において、雄の発情周期の不規則化、雌の発情周期の不規則化及び卵巣黄体嚢胞数の減少を伴う卵胞嚢胞の発達等がみられたとの報告がある(食安委 評価書 (2021))。 (8)ラットを用いた経口投与による発生毒性試験(妊娠期間を通して、32~64 mg Pb/kg 体重/日)において、胎児の発育阻害がみられたとの報告がある(食安委 評価書 (2021))。 (9)ラットを用いた飲水経口投与による発生毒性試験(妊娠5~21日、0.6%)において、死産児発生率の増加等がみられたとの報告がある(食安委 評価書 (2021))。 (10)女性のばく露について、5 μg/dL以下の母体血中鉛(PbB)レベルにおいて、胎児の成長遅延や出生体重の低下との関連を示す十分な証拠があるとの報告がある(日本産業衛生学会 許容濃度等の提案理由書 (2013))。 (11)授乳期に鉛は母乳へ移行し、母乳中鉛濃度は母体血中鉛濃度の10~30%とされている(食安委 評価書 (2021))。
【参考データ等】 (12)EUではRepr. 1Aに分類されている(CLP分類結果 (Accessed Aug. 2022))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 本物質については、無機鉛化合物のデータを基に分類するものとする。(1)、(2)より、血液系、神経系、腎臓を標的臓器と判断し、区分1(神経系、血液系、腎臓)とした。
【根拠データ】 (1)鉛による急性影響は、通常、短期高濃度ばく露によって発症し、溶血、肝細胞障害を伴うことが多い。極めて強いばく露の場合には、腎尿細管障害と急性脳障害がみられるが、軽症では関節痛・頭痛にとどまるとの報告がある(食安委 食品健康評価書 (2021))。 (2)急性中毒の明らかな症状として、感情鈍麻、落ち着かない、怒りっぽい、注意力散漫、頭痛、筋肉の震え、腹部痙攣、腎障害、幻覚、記憶の喪失などがあり、脳障害は血中鉛濃度が成人で100~200μg/dL、小児で80~100 μg/dLで起こるとの報告がある(食安委 食品健康評価書 (2021))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 本物質については、無機鉛化合物のデータを基に分類するものとする。(1)、(2)より、神経系、血液系、腎臓を標的臓器と判断し、区分1(神経系、血液系、腎臓)とした。
【根拠データ】 (1)鉛による慢性影響は、通常、継続的な鉛ばく露を受けている人にみられ、神経系及び内分泌系障害が特徴的であるが、臨床所見は明らかでないことも多い。また筋骨格系やその他の非特異的な自覚症状が多い。高尿酸血症がみられるが、貧血、疝痛、腎糸球体障害は重くない。遅発症状(‘late’ syndrome)は、痛風、慢性腎障害、脳障害を特徴とし、高濃度ばく露のあと多くの年月を経てから発症する。急性中毒の発症が既往症としてみられることも多い(食安委 食品健康評価書 (2021))。 (2)小児は、一般的に手から口への動作を行い、これが成人よりも高いレベルの鉛ばく露につながる。また、小児の鉛の吸収と蓄積は成人よりも大きいことから、小児の体重当たりの体内負荷量は成人よりも高い傾向を示す。小児における相対的に大きなばく露と体内負荷は、成長期の敏感な時期に起こり、小児の様々なエンドポイント(鉛脳症、貧血、神経行動学発達障害、運動神経伝導速度低下など)における最小作用量(LOEL)は、成人よりも低い(食安委 食品健康評価書 (2021))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。