急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)~(3) より、区分2とした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50: 30 mg/kg (ACGIH (7th, 2019)) (2) ラットのLD50: 38.9 mg/kg (ACGIH (7th, 2019)、HSDB (Access on April 2020)) (3) ラットのLD50: 27 mg/kg (GESTIS (Access on April 2020))
経皮
【分類根拠】 (1)、(2) より、LD50は区分2 (50~200 mg/kg) の範囲内にあると考えられることから、区分2とした。 新たな情報源の使用により、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) ウサギの経皮適用試験において、致死量は100 mg/kgであった (ACGIH (7th, 2019))。 (2) ウサギのLDLo: 79.4 mg/kg (ACGIH (7th, 2019))
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、区分に該当しないとした。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 (2) のデータがあり、(1) より、LC50は区分2(0.05~0.5 mg/L)の範囲内にあると考えられることから、区分2とした。 なお、ばく露濃度が飽和蒸気圧濃度 (0.00843 mg/L) よりも高いため、粉じんとしてmg/Lを単位とする基準値を適用した。
【根拠データ】 (1) ラットの吸入ばく露試験 (2~3時間) で致死量は60 ppm (0.334 mg/L) (2時間からの4時間換算値: 0.167 mg/L、3時間からの4時間換算値: 0.25 mg/L) であった (ACGIH (7th, 2019))。 (2) ラットの吸入ばく露試験 (4時間) で最小致死濃度は235 mg/m3 (0.235 mg/L) であった (ACGIH (7th, 2019))。 (3) 本物質の蒸気圧: 0.00115 mmHg (25℃) (飽和蒸気圧濃度換算値: 0.00843 mg/L) (HSDB (Access on April 2020))
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) 本物質 (500 mg) をウサギに24時間適用した皮膚刺激性試験で7日間の観察期間中、刺激性反応は認められなかった (GESTIS (Access on April 2020))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しないとした。
【根拠データ】 (1) 本物質 (100 mg) をウサギに適用した眼刺激性試験で軽度の結膜発赤を生じ、48時間後まで認められた (GESTIS (Access on April 2020))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
【根拠データ等】 (1) in vivoでは、本物質の試験データはない。 (2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、マウスリンフォーマ試験で陰性の報告がある (ACGIH (7th, 2019)、CEBS (Access on April 2020))。
発がん性
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
生殖毒性
【分類根拠】 データ不足のため分類できないとした。
【参考データ等】 (1) ハムスターの器官形成期に非経口的に単回注射投与した試験において、母動物毒性 (死亡: 37%、体温低下)がみられる用量で、胎児に頭臀長の減少、外脳症の増加がみられた (ACGIH (7th, 2019)、HSDB (Access on April 2020))。 (2) 本物質又はコハク酸ニトリル (CAS番号 110-61-2) を用いたハムスターの催奇形性試験で、コハク酸ニトリル投与群では代謝的に遊離したシアン化物からの奇形影響を生じる明確なポテンシャルがみられた。一方、本物質投与群では奇形影響を誘発せず、血中にシアン化物も検出されなかった (GESTIS (Access on April 2020))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 ヒトについて (1)~(3) の情報があり、中枢神経系への影響が示唆される。これらはいずれもばく露に関する情報が不十分であるものの、(4) の実験動物の情報でも本物質の中枢神経作用が示されていることから、区分1 (中枢神経系) とした。
【根拠データ】 (1) ドイツのビニル・フォーム製品の製造工場で、16名 (男性9名、女性7名) のうち12名が頭痛を訴え、5名で痙攣がみられたとの報告があるが、本物質のばく露濃度は測定されておらず、塩化ビニルモノマーやアゾイソブチロニトリルなどの他の化合物へのばく露へのばく露の可能性もあることから、本物質のみの影響かどうかは不明である (ACGIH (7th, 2019))。 (2) 発泡プラスチックの製造作業者で意識喪失と痙攣を生じた5件の事故例が報告されており、この他に頭痛、唾液分泌、味覚障害、吐き気、嘔吐などの症状も報告されたが、ばく露に関する詳細なデータは報告されていない (HSDB (Access on April 2020)、GESTIS (Access on April 2020))。 (3) 本物質の蒸気 (濃度不明) へのばく露により症状がみられたとされる16名の作業者の研究において、頭痛、めまい、吐き気、嘔吐、味覚異常、泡状の唾液、呼吸困難、不眠症、意識喪失、痙攣がみられたと報告され、被験者のうち2名は急性ばく露後に意識を失った。この作業場に本物質が存在したかは証明されていないが、著者らは、PVC発泡剤として使用されたアゾイソブチロニトリルの熱分解生成物として本物質が放出されたと推測している (HSDB (Access on April 2020))。 (4) 本物質を経口投与された動物 (ラット及びモルモット) は激しい痙攣、窒息を起こし、痙攣が生じてから1分~5時間後に死亡した。影響がみられた最小用量の記載はないが、LD50値が27~38.9 mg/kgとされていることから、LD50値付近の区分1範囲での影響と考えられる (ACGIH (7th, 2019)、GESTIS (Access on April 2020))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【分類根拠】 (1) より、区分1 (中枢神経系) とした。
【根拠データ】 (1) スイスのポリ塩化ビニル加工工場の作業者44名を対象とした調査で、PVC板の切断・やすりがけ作業に従事する作業者4名で痙攣が報告された。この4名の血糖値は正常であったが、可逆的な脳波の異常がみられた。作業者で報告された他の症状として、頭痛 (13名)、めまい (8名)、味覚異常 (7名) があり、16名で低血糖症がみられた。循環排気中の本物質濃度は38 mg/m3、個人サンプラーによる検出濃度は11 mg/m3であった (ACGIH (7th, 2019))。
【参考データ等】 (2) ラットに90日間経口投与した試験で、10 mg/kg/dayで血糖値の低下、肝細胞肥大等が報告されている (ACGIH (7th, 2019)、HSDB (Access on April 2020))。 (3) ACGIHでは、頭痛、吐き気、痙攣及び低血糖症を引き起こす中枢神経毒性を最小化する目的でTLV-TWAを設定している (ACGIH (7th, 2019))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。本有害性項目の内容に変更はない。