急性毒性
経口
【分類根拠】
ラットのLD50値として、(1)、(2)のデータが報告されており、それぞれ区分4、区分外(国連分類基準区分5)に該当する。有害性の高い区分を採用し、区分4とした。
【根拠データ】
(1)ラットのLD50値:1,350 mg/kg(NTP GMM4(2005))
(2)ラットのLD50値:2,902 mg/kg(NTP GMM4(2005))
経皮
【分類根拠】
ラットのLD50値として、(1)、(2)の報告から、区分外(国連分類基準の区分5又は区分外に相当)とした。
【根拠データ】
(1)ウサギのLD50値:>2,000 mg/kg(NTP GMM4(2005))
(2)ウサギのLD50値:4,720 mg/kg(NTP GMM4(2005))
吸入:ガス
【分類根拠】
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
吸入:粉じん及びミスト
【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】
(2)、(3)は試験の詳細が不明であり分類判断に用いることはできないが、(1)、(4)を加味して、本物質は皮膚に対して刺激性を有するとして分類するのが妥当と考え、区分2とした。
【根拠データ】
(1)本物質は刺激性物質であるとの報告がある(GESTIS(Accessed Sept. 2018))。
【参考データ等】
(2)マウス及びラットに対して本物質アセトン溶液を適用した結果、皮膚刺激性を示す炎症、潰瘍、表皮変性等が見られたとの報告がある(GESTIS(Accessed Sept. 2018))。
(3)ウサギの皮膚に本物質原液を24時間適用した結果、弱い紅斑(10段階中2)が見られたとの報告がある(GESTIS(Accessed Sept. 2018))。
(4)EU CLPではSkin Irrit. 2に分類されている。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】
(1)~(4)は試験の詳細が不明ではあるが、本物質は眼に対して腐食性を有するとして分類するのが妥当と考え、区分1とした。
【根拠データ】
(1)ウサギに対する眼刺激性試験において、本物質1%溶液(水又はポリエチレングリコール中)を適用すると強い腐食性(10段階中10)が見られたとの報告がある(GESTIS(Accessed Sept. 2018))。
(2)ウサギを用いた試験において、重度の刺激性、腐食性、角膜混濁が見られたとの報告がある(NTP GMM4(2005))。
(3)ウサギを用いた試験において、重度の刺激性が見られたとの報告がある(NTP GMM4(2005))。
(4)本物質は眼に対して腐食性を示すと記載されている(GESTIS(Accessed Sept. 2018))。
【参考データ等】
(5)EU CLPではEye Irrit. 2に分類されている。
呼吸器感作性
【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
【分類根拠】
(1)、(2)より、区分1とし、また(3)、(4)から細区分可能と判断し、区分1Aとした。なお、新たな情報源の利用により、旧分類から区分を変更した。
【根拠データ】
(1)18~25歳のボランティアの腕に本物質10%溶液をパッチ適用し、1日ごとに交換して感作を誘導し、4週間後に0.1%ペトロラタム溶液を被験者の背中にパッチ適用した結果、1/8に黄斑、4/8に水疱又は浮腫、1/8に重度の潰瘍が見られたとの報告がある(NTP GMM4(2005))。
(2)本物質を取り扱う労働者のパッチテストで陽性を示す複数の報告がある(NTP GMM4(2005))。
(3)モルモットを用いたMaximization試験において、皮内投与量1%で10/15(ワセリン)、0/15(アセトン)に反応が見られたとの報告がある(MAK/BAT(1998))。
(4)モルモットを用いたMaximization試験において、皮内投与量0.001%で2/5に、0.01%で8/15に、0.05%で13/15及び4/5に、0.25%で8/15に、0.5%で10/10に反応が見られたとの報告がある(MAK/BAT(1998))。
【参考データ等】
(5)EU CLPではSkin Sens. 1に分類されている。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】
(2)の小核誘発性は本物質のin vivo体細胞変異原性を示唆する1つのデータと考えられるが、v-Ha-rasという発がん遺伝子を導入したTg.ACマウスでの知見のため、通常本分類に使用する動物ではなく、その他のin vivo試験結果は(1)の陰性結果のみであることから、ガイダンスに従い分類できないとした。
【根拠データ】
(1)In vivoでは、B6C3F1マウスに本物質を3ヵ月間経皮投与後の末梢血赤血球を用いた小核試験では雌雄とも陰性であった(NTP GMM4(2005))。
(2)In vivoでは、遺伝子改変マウス(Tg.AC Hemizygous)に6ヵ月間経皮投与後の末梢血赤血球を用いた小核試験では、雌は明らかに陽性、雄は陽性/陰性を判断できない結果であった(NTP GMM4(2005))。
(3)(1)では骨髄毒性の徴候はみられないが、(2)では雌雄とも高用量2群で骨髄毒性を示唆する指標の増加と未熟な多染性赤血球(PCE)比の増加がみられ、本物質の骨髄毒性に対する赤血球造血亢進が生じている可能性が指摘されている(NTP GMM4(2005))。
【参考データ等】
(4)In vitroでは、細菌を用いた復帰突然変異試験で陰性の結果が得られている(NTP GMM4(2005))。
(5)In vitroでは、マウスリンフォーマ試験で陽性の結果が得られている(NTP GMM4(2005))。
発がん性
【分類根拠】
発がんに関して、本物質の利用可能なヒトを対象とした報告はない。
動物実験データにおいて、(1)、(2)で経皮経路では適用局所に持続的な刺激作用により誘発される腫瘍発生を発生することが証明された。(1)の遺伝子改変マウスを用いた当該試験では腫瘍発生は適用部位に限定的であったが、(2)の通常マウスを用いた試験では脾臓のリンパ腫の報告例もあることから、本物質経皮ばく露による催腫瘍性影響は全身性に生じる可能性も考えられる。発がん性に関するヒトの知見や実験動物の他経路での情報がないが、動物試験での発がん性の限定的な証拠に基づき、本項は区分2が妥当とした。なお、旧分類と同じデータを用いているが再評価を行い区分を変更した。
【根拠データ】
(1)TG.ACマウスに0.75~12 mg/kg/dayを27週間(6ヵ月間)経皮適用した発がん性試験において、3 mg/kg/day以上の雌雄で適用部位皮膚に扁平上皮乳頭腫の発生増加が認められ、扁平上皮がんも3 mg/kg/dayの雄2例、12 mg/kg/dayの雄3例、雌2例に認められた。NTPは本物質はTg.ACマウスの適用部位皮膚に扁平上皮乳頭腫の発生頻度を増加させ、雄では扁平上皮がんも生じたと結論した(NTP GMM4(2005)、GESTIS(Accessed Sept. 2018))。
(2)C3H/HeJ雄マウスを用いた本物質又は本物質を含む混合物を塗布した3つの経皮投与試験報告(いずれも1用量のみ)があり、うち2試験では皮膚腫瘍の発生を認めなかったが、ホワイトミネラルオイルを媒体とした本物質5%溶液50 mgを80週間経皮適用した試験において、50例中1例に皮膚の扁平上皮がん、6例にリンパ腫の発生を認めたとの報告があった(NTP GMM4(2005))。
(3)国内外の分類機関による既存分類はない。
生殖毒性
【分類根拠】
(1)のデータの条件及び結果の詳細が不明であり、また所見には一貫性がないと考えられる。一方、受胎能への影響などに関する情報がないことから、データ不足のため分類できない。なお、旧分類が分類根拠としたRTECSは一次情報に辿れず分類に利用する情報源からは除外されている。RTECSに収載されていた発生毒性のデータは、調査範囲のList 1~3の情報源からは確認できなかった。
【根拠データ】
(1)妊娠ラットの器官形成期(妊娠6~15日)に100 mg/kg/dayを経皮投与した発生毒性試験では、母動物に軽微な影響(不明)がみられ、胎児には例数は少ないが希少な奇形が発生したとの報告がある。他方、母動物に最小限の毒性を生じる用量では催奇形性はみられなかったとの報告がある(NTP GMM4(2005)、GESTIS(Accessed Sept. 2018))。