急性毒性
経口
ラットのLD50値として、1,650 mg/kg (雌)、1,710 mg/kg (雄) (環境省リスク評価第1巻:環境リスク初期評価 (2002)、ACGIH (7th, 2001)、JMPR (1995)、NTP TR325 (1987)、EHC 41 (1984))、1,740 mg/kg (雄) (PATTY (6th, 2012))、2,140 mg/kg (雄、雌) (ACGIH (7th, 2001))、> 5,000 mg/kg (雄、雌) (JMPR (1995))、> 30,000 mg/kg (ACGIH (7th, 2001)、JMPR (1995)、EHC 41 (1984)) との6件の報告がある。区分4と区分外にそれぞれ3件が該当するため、安全サイドからLD50値の最小値が該当する区分4とした。
経皮
ウサギのLD50値として、> 4,000 mg/kg (PATTY (6th, 2012)、ACGIH (7th, 2001)、JMPR (1995)、EHC 41 (1984))、> 5,000 mg/kg (JMPR (1995)) との報告に基づき、区分外とした。
吸入:ガス
GHSの定義における固体である。
吸入:蒸気
データ不足のため分類できない。
吸入:粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。ラットのLC50値 (4時間) として、> 1.7 mg/L との報告 (JMPR (1995)) があるが、区分4が区分外かを特定できないため、分類できないとした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (0.0008 mg/L) より高いため、ミストの基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギを用いた皮膚刺激性試験において刺激性はみられなかったとの記述がある (EHC (1984)、JMPR (1995))。また、ヒト50人に本物質を適用した結果、一次刺激性はみられなかったとの報告がある (ACGIH (7th 2001)、JMPR (1969))。以上の結果から、区分外とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギを用いた眼刺激性試験において、眼脂や軟白化がみられ、ごく軽度の刺激性と記載されている。眼刺激性の平均スコアは1時間後に7/110、24時間後に1.7/110、48時間以降は0であった (JMPR (1995))。以上の結果から、刺激性スコアに基づき区分外とした。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
モルモットを用いた皮膚感作性試験 (修正ビューラー法) で全ての投与群 (0.5%、2.5%、5%) で陽性反応がみられたとの報告 (JMPR (1995)) や、ヒト50人での75%本物質水和物を適用した皮膚パッチテストで13人に陽性反応が認められたとの報告がある (ACGIH (7th, 2001)、JMPR (1995))。また、本物質は感作性を持つとの記載がある (PATTY (6th, 2012)、環境省リスク評価第1巻:環境リスク初期評価 (2002))。以上の結果から、区分1とした。なお、本物質はEU DSD分類で「Xi; R43」、EU CLP分類で「Skin Sens. 1 H317」に分類されている。
生殖細胞変異原性
ガイダンスの改訂により「区分外」が選択できなくなったため、「分類できない」とした。すなわち、in vivoでは、マウス、ラットの優性致死試験で陰性である (EHC 41 (1984)、PATTY (6th, 2012))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験、姉妹染色分体交換試験、不定期DNA合成試験で陰性、哺乳類培養細胞の染色体異常試験、姉妹染色分体交換試験で陽性である (NTP DB (Access on September 2014)、ACGIH (7th, 2001)、NTP TR325 (1987)、PATTY (6th, 2012)、HSDB (Access on August 2014)、EHC 41 (1984))。
発がん性
IARC Suppl. 7 (1987) でグループ3、ACGIH (7th, 2001) でA4に分類されていることから、「分類できない」とした。 ガイダンス改訂による区分の変更。
生殖毒性
ラットを用いた経口経路 (混餌) での2世代生殖毒性試において親動物毒性 (体重増加抑制) がみられた用量においても生殖能に影響がみられていない (JMPR (1995))。また、ラットを用いた経口経路 (混餌) での3世代生殖毒性試験において母動物毒性、生殖毒性ともにみられていない (PATTY (6th, 2012)、ACGIH (7th, 2001)、JMPR (1995)、EHC 41 (1984))。 ラット、マウス、ウサギを用いた経口経路での催奇形性試験において、母動物に一般毒性又は死亡が認められた用量でも催奇形性はなく、胎児への影響もみられていない (PATTY (6th, 2012)、環境省リスク評価第1巻:環境リスク初期評価 (2002)、ACGIH (7th, 2001)、JMPR (1995)、NTP TR 325 (1987)、EHC 41 (1984))。 以上より、区分外とした。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
本物質のヒト並びに実験動物のデータは少ない。ヒトでは、血液の酸素運搬能力低下と神経系の機能低下の報告がある (環境省リスク評価第1巻:環境リスク初期評価 (2002))。実験動物では、ネコの実験があるが、ネコはメトヘモグロビン還元酵素活性が弱く、感受性が著しく強く、1,600 mg/kgの高用量単回経口投与で、メトヘモグロビン血症、ハインツ小体を含む赤血球が増加したとの報告がある (環境省リスク評価第1巻:環境リスク初期評価 (2002)、ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012))。ネコの血液系への影響は区分2に相当する範囲の用量でみられた。以上より、区分2 (血液系) とした。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
ヒトでの反復ばく露による有害性知見はない。実験動物ではイヌに2年間混餌投与した試験において、区分1該当量の180 ppm (4.5 mg/kg/day 相当) で胆汁うっ滞性肝障害が、1,080 ppm (27 mg/kg/day相当) で肝臓相対重量の増加、血清ALP活性の上昇がみられた (IRIS (1987)、ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012)、環境省リスク評価第1巻 (2002))。米国EPAは本試験結果を経口RfD値算出のためのキースタディとして選定した (IRIS (1987))。また、ラットの反復経口投与では、13週間混餌投与試験において、雄で63.5 ppm (3.2 mg/kg/day 相当: 換算はppmの数値を20で除した)、雌で635 ppm (同 32 mg/kg/day相当) 以上で、肝臓相対重量の増加がみられたとの記述 (ACGIH (7th, 2001)、PATTY (6th, 2012)、EHC 41 (1984))、 並びに2年間混餌投与試験において、100 ppm (同5 mg/kg/day 相当) で小葉中心性肝細胞肥大、400 ppm (同 20 mg/kg/day 相当) で肝臓に相対重量の増加と共に単細胞壊死及び肝細胞の脂肪変性がみられたとの記述 (JMPR (1995)) がある。 以上、イヌ、ラットいずれも経口経路で区分1の用量から肝臓への影響がみられたため、区分1 (肝臓) に分類した。なお、旧分類も本分類も標的臓器はいずれも「肝臓」であるが、旧分類時とは異なるデータに基づき、ガイダンス値から区分「2」を「1」に引き上げた。
吸引性呼吸器有害性
データ不足のため分類できない。