急性毒性
経口
ラットを用いた経口投与試験において、投与量10,000 mg/kg(炭素数C10-13/塩素化率(41-50%、51-60%、又は61-70%))で死亡がなく、また、投与量13,600 mg/kg(炭素数C12/塩素化率60%)で死亡がないこと(EU-RAR(1999))から区分外とした。なお、EU-RAR(1999)に、症状およびその程度は、塩素化率には無関係であると記述されている。
経皮
ウサギを用いた経皮投与試験のLD50値13,500 mg/kg(炭素数C12/塩素化率59%)(EU-RAR (1999))から区分外とした。
吸入
吸入(ガス): GHS定義上の液体であるため、ガスでの吸入は想定されず、分類対象外とした。
吸入(蒸気): データがないので分類できない。
吸入(ミスト): ラットを用いた吸入ばく露試験において、「炭素数C12/塩素化率59%では1時間ばく露量3.3 mg/Lで死亡がなく、炭素数C10-C13/塩素化率50%では1時間ばく露量48 mg/Lで死亡がない」(EU-RAR (1999))と記述されている。25℃の飽和蒸気圧濃度は0.000037-0.00014 mg/L(炭素数C10-C13/塩素化率50%)であるので、ミスト基準を適用する。4時間換算LC50値はそれぞれ>0.83 mg/Lと>12 mg/Lとなると推定されるので、区分外とした。
皮膚腐食性・刺激性
ウサギについて、紅斑・僅かな浮腫が見られるが7日目までに症状は消失した(炭素数C10-13/塩素化率70%)との情報がある(EU-RAR (1999))。本データにおいて、3匹中2匹の紅斑のスコア値は1(最大4)、3匹中2匹の浮腫のスコア値は1(最大4、適用24時間後まで)である。この他、ヒトについては、軽微な紅斑・乾燥肌が認められたが対照群と同程度の影響(炭素数C10-13/塩素化率50%, 63%)、または症状なし(炭素数C12/塩素化率59%)との情報があり、また、ウサギについては、刺激性がない(炭素数C10-13/塩素化率59%)との情報がある(EU-RAR (1999))。以上から区分外とした。
眼に対する重篤な損傷・刺激性
ウサギにおいて軽微な発赤(炭素数C12/塩素化率59%)、発赤・結膜浮腫を生じ24時間継続(炭素数C10-13/塩素化率63%、添加物或は安定剤を含む)、軽微な充血・結膜の発赤(炭素数C10-13/塩素化率40%, 52%、添加物或は安定剤を含む)等のデータからEU-RAR (1999)は、“mild”な刺激性と纏めているので区分2Bとした。
呼吸器感作性又は皮膚感作性
呼吸器感作性:データがないので分類できない。EU-RAR (1999)に、「ヒトや動物での情報はないが、工業的に重要な物質で幅広く使用されているにもかかわらず、呼吸器感作性を示す報告はないことから呼吸器感作性はない」と結論付けられている。
皮膚感作性:ヒトの皮膚貼布でアレルギー反応なし(炭素数C12/塩素化率59%)、切削冷却剤製造労働者で陽性反応なし(炭素数、塩素化率不明)等の情報(EU-RAR (1999))からはヒトでの結論は出せない。一方、モルモットで皮膚反応なし(炭素数C10-13/塩素化率50%、安定剤を含む)、感作性なし(炭素数C10-13/塩素化率56%、安定剤を含む)等のデータからEU-RAR (1999)は、感作性の可能性はないと纏めているので区分外とした。
生殖細胞変異原性
生殖細胞in vivo経世代変異原性試験(ラットを用いた優性致死試験)で生存胚、死亡胚、初期吸収胚及び着床前胚損失数や位置に変化はなく(炭素数C10-12/塩素化率58%)、また、体細胞in vivo変異原性試験(ラット骨髄細胞を用いる染色体異常試験)で染色体異常の頻度増加はない(炭素数C10-12/塩素化率58%) (EU-RAR (1999))ことから区分外とした。in vitroでは、細菌を用いた復帰突然変異試験で陰性(炭素数C12/塩素化率57%, 60%、炭素数C10-13/塩素化率50%)、チャイニーズ・ハムスター培養細胞を用いる遺伝子突然変異試験で陰性(炭素数C10-13/塩素化率56%) (EU-RAR (1999))であった。
発がん性
IARC のグループ2B (IARC 48 (1990))、EU分類は Cat. 3; R40(EU-Annex I)に分類されていることから、区分2とした。なお、本物質のCAS番号(85535-84-8)には合致しないが、“Chlorinated Paraffins (C12, 60% Chlorine)”(CAS 108171-26-2)はNTPの分類はR(NTP RoC 11th, 2005)、塩素化パラフィン類は日本産業衛生学会では2B(産衛学会勧告(2007))に分類されており、いずれもGHS区分2相当である。
生殖毒性
EU-RAR (1999)によれば、ラットの14日間反復経口投与試験において投与量3,000 mg/kgで卵巣重量減少が見られる(炭素数C10-12/塩素化率58%)一方、ラットの13週間経口投与試験においては投与量5,000 mg/kgで雌雄動物の受胎能力への影響は見られていない(炭素数C12/塩素化率60%)。また、EU-RAR (1999)に記述されている1群25匹の妊娠ラットを用いた経口投与による発生毒性試験(炭素数C10-13/塩素化率58%)において、妊娠ラットの死亡(25匹中8匹)、衰弱、流涎、活動低下が見られる2,000 mg/kg/dayで、着床後胚損失数増加、母体あたり生存胎児数の減少が見られている。産総研詳細リスク評価書5(2005)に、「認められた生殖毒性は母体毒性による二次的影響と考えられ、また、投与量500 mg/kg/dayでは発生への影響は見られていない」旨記述されている。従って、区分外とした。