急性毒性
経口
GHS分類: 区分4 ラットのLD50値として、834~1,314 mg/kg、1,022 mg/kg、1,700 mg/kg、2,500 mg/kg (EU-RAR (2003)、NICNAS (2000)、DFGOT vol. 5 (1993)) 及び1,043 mg/kg (EU-RAR (2003)、NICNAS (2000)) の5件の報告がある。4件が区分4、1件が区分外 (国連分類基準の区分5) に該当するので、最も多くのデータが該当する区分4とした。
経皮
GHS分類: 区分3 ラットのLD50値として、1,043~4,127 mg/kg (NICNAS (2000)、DFGOT vol. 5 (1993))、ウサギのLD50値として、> 400 mg/kg (DFGOT vol. 5 (1993))、560 mg/kg (NICNAS (2000)、DFGOT vol. 5 (1993)) の3件の報告がある。1件が区分3に該当し、その他2件のデータでは区分を特定できないので、1件が該当する区分3とした。
吸入:ガス
GHS分類: 分類対象外 GHSの定義における液体である。
吸入:蒸気
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、ラットの飽和蒸気 (0.6 mg/L) を6~8時間吸入させた結果 (4時間換算値: 0.73~0.85 mg/L (161~187 ppm))、死亡例はみられなかったとの報告 (EU-RAR (2003)) がある。
吸入:粉じん及びミスト
GHS分類: 区分4 ラットのLC50値 として、3.07 mg/L (4時間) (EU-RAR (2003)、NICNAS (2000)、DFGOT vol. 5 (1993))、> 3.7 mg/L (6時間) (4時間換算値: > 5.55 mg/L) (DFGOT vol. 5 (1993)) の2件の報告 (DFGOT vol. 5 (1993)) がある。1件が区分4、1件が区分外に該当するので、LC50値の最小値が該当する区分4とした。なお、LC50値が飽和蒸気圧濃度 (0.6 mg/L) より高いため、ミストの基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
GHS分類: 区分外 ウサギを用いた皮膚刺激性試験4報において、本物質を20又は24時間適用した結果、軽度の紅斑、軽度の浮腫、軽度の落屑がみられたのみであり、刺激性なし又は軽度の刺激性と判断されている (EU-RAR (2003)、HSDB (2015))。また、ラットを用いた皮膚刺激性試験において、本物質1,043 mg/kgを、体表面積の約10%に24時間適用した結果刺激性はみられなかったとの報告がある (EU-RAR (2003)、DFGOT vol.5 (1993)、HSDB (2015))。一方、ウサギに本物質を適用した結果著しい刺激性がみられたとの報告が3報あるが (EU-RAR (2003))、いずれも古い報告であることからEU-RAR (2003) はより新しい報告を採用し、皮膚刺激性物質に区分していない (EU-RAR (2003))。また、ボランティア6人に本物質を8時間適用した結果、3人に軽度の紅斑がみられたが、他の3人に症状はみられなかったとの報告がある (EU-RAR (2003)、NICNAS (2000))。以上の結果から区分外 (国連分類基準の区分3) とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
GHS分類: 区分1 ウサギを用いた眼刺激性試験において、本物質0.1 mLを適用した結果、発赤 (スコア1.9)、結膜炎 (スコア2.2)、虹彩炎 (スコア1)、角膜混濁 (スコア1.8) がみられ、回復性はみられず症状がひどくなる傾向がみられたことから重度の刺激性と判断されている (EU-RAR (2003))。また、ウサギを用いた他の報告において、本物質の原液の適用により軽度から重度の結膜炎、浮腫、角膜混濁がみられ観察期間の8日中に回復性はみられなかったとの報告がある (EU-RAR (2003)、DFGOT vol.5 (1993))。また、本物質はEU CLP分類において「Eye Dam. 1 H318」に分類されている (ECHA CL Inventory (2015))。以上の結果から区分1とした。
呼吸器感作性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、EU-RAR (2003) では、本物質が皮膚感作性がみられないことや、蛋白と結合しないことから、少なくとも免疫システムによる呼吸器感作性は起こさないだろうと記載している (EU-RAR (2003))。
皮膚感作性
GHS分類: 区分外 モルモットを用いたビューラー試験において、本物質 (純度99.7%) による感作性はみられなかったとの報告がある (EU-RAR (2003)、HSDB (2015))。この試験について、EU-RARは、媒体対照群は設けていないが未処理対照群があること、陽性対照群についても試験の6ヶ月以内にα-hexylcinnamaldehydeを用いたビューラー試験で陽性結果が得られていることから試験の感度に問題はないとし感作性なしと判断している。以上より、区分外とした。
生殖細胞変異原性
GHS分類: 分類できない ガイダンスの改訂により区分外が選択できなくなったため、分類できないとした。すなわち、in vivoでは、マウス骨髄細胞の小核試験、ラット肝臓のDNA結合試験で陰性である (EU-RAR (2003)、NICNAS (2000)、ACGIH (7th, 2003)、DFGOT vol. 5 (1993))。In vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の遺伝子突然変異試験、染色体異常試験、不定期DNA合成試験で陰性である (EU-RAR (2003)、NICNAS (2000)、ACGIH (7th, 2003)、DFGOT vol. 5 (1993))。
発がん性
GHS分類: 区分2 本物質の蒸気をラット (雌10匹) に45 ppmの濃度で3ヶ月間吸入ばく露し、21ヶ月間無処置で放置後に剖検した結果、生存した6例中4例の肝臓に腫瘍が肉眼的に観察され、うち2例は肝細胞がんであった (EU-RAR (2003)、ACGIH (7th, 2003))。また、本物質 (安定化剤としてKerobit (抗酸化剤: 3 ppm) を含有) の蒸気を雌雄ラットに5、10、又は20 ppm で2年間吸入ばく露した試験では、5 ppm以上で肝細胞がん、及び鼻腔の腺腫、又は腺がんの発生頻度の増加、20 ppm ではさらに喉頭の扁平上皮細胞がんの頻度増加が認められた (EU-RAR (2003)、ACGIH (7th, 2003))。ヒトでの発がん性の情報はないが、上記の実験動物を用いた試験結果に基づき、ACGIHはA3に分類した (ACGIH (7th, 2003))。また、EUはラットの肝臓腫瘍誘発はヒトへの妥当性があるとし (EU RAR (2003))、CLP分類で Carc. 2に分類した (ECHA CL Inventory (2015))。よって、分類ガイダンスに従い、本項は区分2とした。なお、IARCは1999年にグループ3に分類後 (IARC vol. 71 (1999))、再評価を行っていないため、より新しい年度の分類結果に従った。
生殖毒性
GHS分類: 分類できない ヒトでの生殖影響に関する情報はない。実験動物では、妊娠ラットの器官形成期 (妊娠6~19日) に本物質蒸気を吸入ばく露した発生毒性試験報告があり、母動物毒性 (体重増加量が対照群より68%低下) が顕著な用量 (20 ppm: 92 mg/m3) で、胎児には重量の低値、骨化遅延及び波状肋骨の頻度増加がみられ、骨格への影響は母動物毒性による二次的影響と考えられている (EU RAR (2003))。すなわち、本物質は吸入経路では重大な発生影響を生じないと考えられるが、性機能、及び生殖能を評価した試験成績がなく、よってデータ不足のため分類できない。
特定標的臓器毒性(単回ばく露)
GHS分類: 区分2 (中枢神経系、呼吸器、肝臓) 本物質は、吸入及び経口経路で気道刺激性を有する (EU-RAR (2003)、NICNAS (2000)、IARC 71 (1999))。 実験動物では複数のデータがある。吸入ばく露では、ラット、マウスの3.07 mg/L (LC50) (区分2に相当) で、呼吸困難、流涎、鼻汁、立毛、呼吸数減少、円背位、よろめき歩行、運動失調、昏睡が認められ、ラットでは死亡例の剖検で、肝臓、肺が主要な標的器官である。肝臓では小葉中心性肝細胞壊死、単細胞壊死、細胞核変化を含む傷害、腎臓の変色、肺の鬱血、アルカリホスファターゼの増加と総タンパク量減少がみられている。経口投与では、ラットの834~1,314 mg/kg (区分2に相当) で、流涙、眼瞼下垂、利尿、正向反射消失 (NICNAS (2000)、EU-RAR (2003))、マウスの 420-1,400 mg/kg (区分2及びそれ以上に相当) で背弯姿勢を伴う筋痙攣収縮 (convulsive twitching with arching of the back)、振戦の報告がある (EU-RAR (2003))。 上述の所見において、肝臓及び肺の変化については死亡動物の所見であるが、反復投与でも肝臓及び肺に対する病理組織学的変化がみられているため、単回投与による毒性症状と判断した。腎臓については、変色と利尿のみであるため、分類対象臓器としなかった。 ヒトの情報はない。 以上より、本物質は、気道刺激性、中枢神経系、呼吸器、肝臓への影響が認められるため、区分2 (中枢神経系、呼吸器、肝臓) とした。 新しい情報を加え、旧分類の区分を見直した。
特定標的臓器毒性(反復ばく露)
GHS分類: 区分1 (呼吸器、肝臓、血液系) ヒトに関する情報はない。 実験動物では、マウスを用いた7週間吸入毒性試験において、5 ppm (ガイダンス値換算: 0.0088 mg/L) 以上でカタル性化膿性鼻炎、鼻の嗅上皮の萎縮、粘膜下腺細胞の過形成、鼻の呼吸上皮の過形成、ラットを用いた7週間吸入毒性試験において、15 ppm (ガイダンス値換算: 0.027 mg/L) 以上で貧血、γーGT増加、グルタチオン増加、血小板数の増加、タンパク異常血症、鼻の嗅上皮の萎縮、45 ppm (ガイダンス値換算: 0.08 mg/L) で肝臓の絶対重量増加、肝臓の小葉中心性肝細胞の壊死・脂肪蓄積がみられている (NICNAS (2000))。ラットを用いた3ヶ月間吸入毒性試験において、15 ppm (ガイダンス値換算: 0.045 mg/L) 以上、ラット、マウスを用いた6ヶ月間吸入毒性試験で10 ppm (ガイダンス値換算: 0.045 mg/L) でも血液、血液生化学、肝臓・鼻腔の病理組織学的変化は7週間吸入ばく露試験と同様の所見がみられている (NICNAS (2000)、EU-RAR (2003))。 ラットを用いた3ヶ月間強制経口投与毒性試験において、100 mg/kg/day (90日換算: 72.2 mg/kg/day) で肝臓への影響 (肝臓重量増加、γ-GT増加、肝細胞のわずかな変性) がみられ、ラットを用いた3ヶ月間飲水投与毒性試験において、75 ppm (8.3 mg/kg/day) でタンパク異常血症がみられている (NICNAS (2000)、EU-RAR (2003))。 以上のように気道、肝臓、血液に対する影響が区分1の範囲でみられた。 したがって、区分1 (呼吸器、肝臓、血液系) とした。
吸引性呼吸器有害性
GHS分類: 分類できない データ不足のため分類できない。なお、HSDB収載の数値データ (粘性率: 2.07 mPa・s; 密度 (比重) : 1.04 (HSDB (2015)) より、動粘性率は1.99 mm2/sec (25℃) と算出される。