急性毒性
経口
【分類根拠】 (1)、(2) より、区分3とした。
【根拠データ】 (1) ラットのLD50:80 mg/kg (DFGOT vol.6 (1994)、PATTY (6th, 2012)、環境省リスク評価第3巻 (2004)) (2) ラットのLD50:98 mg/kg (DFGOT vol.6 (1994))
経皮
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。分類JISの改訂及び情報源の見直しにより、分類結果を変更した。
【参考データ等】 (1) ウサギに5,000 mg/kgの本物質を24時間適用で死亡がみられたとの報告がある (ACGIH (7th, 2001))。
吸入: ガス
【分類根拠】 GHSの定義における固体であり、ガイダンスにおける分類対象外に相当し、区分に該当しない。
吸入: 蒸気
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト
【分類根拠】 (1) より、区分3とした。
【根拠データ】 (1) ラットのLC50 (4時間、エアロゾル):0.92 mg/L (環境省リスク評価第3巻(2004)、REACH登録情報 (Access on June 2019))
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
【分類根拠】 (1) より、区分に該当しないとした。旧分類では原体ではなく、溶液等の調製物の結果から分類していたため不適切と判断したことにより、分類結果が変更となった。
【根拠データ】 (1) ウサギに原体500 mgを投与した試験 (24時間適用) において非刺激性 (non irritant) と報告されている (BUA 97 (1992))。
【参考データ等】 (2) 本物質の50%親水軟膏を5人のボランティアに投与し、軽度の刺激を認めたと報告されている (DFGOT vol.6 (1994))。 (3) 皮膚の所見に関しては、接触の濃度と接触時間によって非刺激から中程度刺激まで変動する50%懸濁液を用いたウサギの皮膚の試験は明確な反応を明らかにしたが、ヒトの皮膚への刺激は軽度であった。これらの知見に基づいて、本物質は眼に対して中程度の刺激性、皮膚には軽度刺激性と評価された (GESTIS (Access on May 2019))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1) より、区分2Bとした。
【根拠データ】 (1) ウサギに原体を投与したドレイズ法で軽度刺激性 (slightly irritant) と報告されている (BUA 97 (1992))。
【参考データ等】 (2) ウサギに30 mgを投与した試験で結膜の発赤及び浮腫、角膜混濁を認めるが、7日以内に回復したと報告されている(BUA 97 (1992))。 (3) EU-CLP分類でEye Irrit. 2 (H319) に分類されている (EU CLP分類 (Access on July 2019))。 (4) ウサギの眼への固形物または飽和溶液の適用は明らかな刺激を引き起こしたが、希釈液 (2.5%) は刺激性を示さなかった (GESTIS (Access on May 2019))。
呼吸器感作性
【分類根拠】 (1) より、区分1とした。
【根拠データ】 (1) 本物質は皮膚及び呼吸器に対して強い感作性物質であり、喘息を誘発する恐れがあるとの記載がある (PATTY (6th. 2012))。
皮膚感作性
【分類根拠】 (1)~(4) より、区分1Aとした。
【根拠データ】 (1) ⽇本産業衛⽣学会により、感作性物質 (皮膚:1群) に分類されている (産衛誌52巻 (2010))。 (2) ヒトでの感作性試験 (repeated insult patch test) において陽性率100%と報告されている (DFGOT vol.14 (2000))。 (3) 複数のモルモット皮膚感作性試験において陽性率100%と報告されている (DFGOT vol.6 (1994))。 (4) マウス局所リンパ節試験 (LLNA) においてEC3が2以下 (0.06%及び 0.20%) と報告されている (SCCS (2012))。
【参考データ等】 (5) EU-CLP分類でSkin Sens. 1 (H317) に分類されている (EU CLP分類 (Access on July 2019))。
生殖細胞変異原性
【分類根拠】 (1) より、証拠の重み付けに基づき、ガイダンスにおける分類できないに相当し、区分に該当しない。
【根拠データ】 (1) In vivoではラット及びマウスの優性致死試験及びラットの相互転座試験、ラット及びマウスの小核試験、ならびにラットの肝不定期合成DNA試験で陰性の報告がある (DFGOT vol.6 (1994)、ACGIH (7th, 2001)、IARC 16 (1978)、SCCS (2012))。 (2) in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、マウスリンフォーマTK試験、染色体異常試験及びDNA損傷試験で陽性、哺乳類培養細胞のHPRT試験、ヒト末梢血リンパ球の小核試験で陰性の報告がある (IARC 16 (1978)、ACGIH (7th, 2001)、DFGOT vol.6 (1994)、SCCS (2012)、PATTY (6th, 2012)、産衛学会許容濃度の提案理由書 (1997))。
発がん性
【分類根拠】 (1) の既存分類結果から、 ガイダンスに従い分類できないとした。
【根拠データ】 (1) 国内外の分類機関による既存分類では、IARCがグループ3 (IARC Suppl.7 (1987))、ACGIHがA4 (ACGIH (7th, 2001)) に分類している。
【参考データ等】 (2) 本物質の二塩酸塩 (CAS番号 624-18-0) をラット及びマウスに2年間混餌投与した発がん性試験で、両動物種雌雄とも統計学的に有意な腫瘍の発生は認められなかった(NTP TR174 (1979))。 (3) ラットに本物質を8ヵ月間経口投与した試験で、腫瘍の発生は認められなかった (IARC 16 (1978))。 (4) マウスに本物質のアセトン溶液を120~130週間経皮投与した試験で、腫瘍の発生は認められなかった (DFGOT vol.6 (1994)、ACGIH (7th, 2001))。
生殖毒性
【分類根拠】 (1)、(2) より、発生毒性については、軽微な影響がみられるにすぎず区分に該当しないが、性機能及び生殖能に関する情報はなく、データ不足で分類できない。
【根拠データ】 (1) 雌ラットの妊娠6~19日に強制経口投与した発生毒性試験 (OECD TG 414) において、骨化遅延がみられた (SCCS (2012))。 (2) 雌ラットの妊娠6~15日に強制経口投与した発生毒性試験において、母動物毒性 (体重増加抑制、摂餌量減少、死亡) がみられたが、催奇形性、胚/胎児毒性はみられていない (SCCS (2012)、ACGIH (7th, 2001))。
【参考データ等】 (3) 雌マウスの妊娠5~7日、8~10日又は11~14日に皮下投与した試験において、催奇形性はみられていない (SCCS (2012))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
【分類根拠】 ヒトでは(1) 及び (2) を代表例として、本物質の単回経口摂取により横紋筋融解症と腎不全を生じた例が複数報告されている。また、(3) で本物質を主成分とする染毛剤を事故又は意図的に経口摂取したヒトに心筋炎がみられた症例がある。実験動物でも、(4) のマウスの試験では、区分1範囲の用量で筋肉への影響と、血中クレアチンホスホキナーゼ (CPK) 活性増加がみられている。以上より、区分1 (心臓、腎臓、筋肉) とした。
【根拠データ】 (1) 本物質5,000 mg (70 mg/kg) を経口摂取した40歳男性が、呼吸困難、顔面と舌の浮腫を示した後に、横紋筋融解症、血中のLDH、AST、ALT活性増加、急性腎不全、赤褐色尿を生じた(DFGOT vol.6 (1994))。 (2) 本物質の水溶液カップ1杯を誤飲した50歳男性が、腹痛、顔面浮腫、呼吸困難を示した後に、横紋筋融解症、血中のLDH、AST、CPK、アルドラーゼ活性増加、急性腎不全、濃褐色尿を生じた (DFGOT vol.6 (1994))。 (3) ヒトでは本物質を主成分とする染毛剤の事故又は意図的な経口摂取後に、血管神経浮腫、横紋筋融解症、腎不全がみられた症例や、心筋炎がみられた症例が報告されている (SCCS (2012))。 (4) マウスに本物質35、70 mg/kgを経鼻胃管投与した試験で、血中CPK活性の有意な増加および骨格筋微細線維の壊死がみられた (DFGOT vol.6 (1994))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
【参考データ等】 (4) 本物質及び本物質の誘導体は筋毒性を引き起こす可能性があることがよく知られている (SCCS (2012))。 (5) ヒトに関する情報として、本物質を含む市販の染毛剤を定期的に使用していた51歳の女性で肝腫大と脾臓の肥大が見られ、入院後死亡までの11週間に進行性神経障害を発症したとの報告 (IARC 16 (1978)、ACGIH (7th, 2001))、本物質を含む染毛剤を使用し消化器と神経症状が観察されたとの報告 (ACGIH (7th, 2001))、本物質を含む染毛剤の5年間に亘る職業ばく露を受けた作業者が黄疸と肝臓の亜急性萎縮により死亡したとの報告 (ACGIH (7th, 2001)) 等がある。
【分類根拠】 (1)~(3) より、実験動物において区分1の範囲で心臓、筋肉への影響がみられていることから、区分1 (心臓、筋肉) とした。なお、旧分類の分類根拠のうち原因物質が不明確 (混合物) であるものを除き、新たな情報源の情報を加えて検討した結果、旧分類から分類結果を変更した。
【根拠データ】 (1) ラットに本物質5~40 mg/kg/dayを14日間経口投与した結果、5 mg/kg/day (90日換算値: 0.8 mg/kg/day、区分1の範囲) 以上でLDH活性増加、10 mg/kg/day (90日換算値: 1.6 mg/kg/day、区分1の範囲) 以上でALT、AST、クレアチンホスホキナーゼ活性の増加、甲状腺重量増加、40 mg/kg/day (90日換算値: 6.2 mg/kg/day、区分1の範囲) で肝臓重量増加、骨格筋のわずかな筋肉変性がみられた (SCCS (2012))。 (2) ラットに本物質2~16 mg/kg/dayを13週間経口投与した結果、8 mg/kg/day (区分1の範囲) 以上で肝臓及び腎臓重量増加が、16 mg/kg/day (区分2の範囲) で骨格筋のわずかな筋肉変性がみられた (環境省リスク評価第3巻:暫定的有害性評価シート (2004)、SCCS (2012))。 (3) ウサギに本物質10 mg/kg/day (区分1の範囲) を90日間経口投与した結果、心筋実質の変化 (浮腫、筋線維の膨化、細胞質の均質化、横紋の消失) が認められた (ACGIH (7th, 2001))。
誤えん有害性*
【分類根拠】 データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。