急性毒性
経口
ラットLD50値;2236 mg/kg(雄), 2359 mg/kg(雌)および>2000 mg/kg bw(OECD TG 401, GLP)との報告(EU-RAR(2008))に基づき、JIS分類基準の区分に該当しない(国連分類基準の区分5)とした。
経皮
ラットLD50値;>2000 mg/kg bwであって、2000 mg/kg bwで死亡なし(OECD TG 402, GLP)との報告(EU-RAR(2008))に基づき区分に該当しないとした。
吸入: ガス
GHSの定義における液体である。
吸入: 蒸気
データなし。
吸入: 粉じん及びミスト
ラットLC50値;>5.22 mg/L/4h であって、5.22 mg/Lで死亡なし(OECD TG 403, GLP)との報告(EU-RAR(2008))に基づき、区分に該当しないとした。なお、暴露濃度の5.22 mg/Lは飽和蒸気圧濃度0.00000171 mg/Lより高いのでミストの基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ウサギ3匹に0.5 mLを4時間にわたり半閉塞適用した試験(OECD TG404, GLP)で、1時間後2匹にスコア2の紅斑が見られ1匹は24時間持続、3匹目の動物にはスコア1の紅斑が認められた。浮腫は見られず、全ての反応は48時間以内に消失したとの報告(EU-RAR(2008))に基づき、区分に該当しないとした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
ウサギ3匹に0.1 mLを適用した試験(OECD TG405, GLP)で、1時間後に全例で軽度の結膜発赤が見られたが24時間後に回復し、その他にばく露の影響はなかったとの報告(EU-RAR(2008))に基づき、区分に該当しないとした。
呼吸器感作性
データなし。
皮膚感作性
モルモットを用いたマキシマイゼーション試験(OECD TG406, GLP)の結果、皮膚感作性反応は見られなかった(EU-RAR(2008))との報告に基づき、区分に該当しないとした。なお、得られたデータのまとめとして、本物質は皮膚感作性と考えられないとの記載(EU-RAR(2008))もある。
生殖細胞変異原性
経口投与によるマウス骨髄細胞を用いた小核試験(OECD TG474, GLP)および経口投与によるマウス骨髄細胞を用いた染色体異常試験(in vivo体細胞変異原性試験)において、いずれも陰性の結果(EU-RAR(2008))に基づき、区分に該当しないとした。なお、in vitro試験では、エームステストは陽性(EHC 209(1998))、チャイニーズハムスターCHO細胞を用いた染色体異常試験は陰性(OECD TG473, GLP)(EU-RAR(2008))、マウスリンパ腫L5178Y細胞を用いた染色体異常試験は陽性または擬陽性(EHC 209(1998)、EU-RAR(2008))、ヒト線維芽細胞を用いた染色体異常試験は陰性(EHC 209(1998))、マウスリンパ腫L5178Y細胞を用いた遺伝子突然変異試験は陰性または陽性(EHC 209(1998)、EU-RAR(2008))の結果が報告されている。
発がん性
【分類根拠】 (1)~(3)より、EUの最新分類結果をふまえ、区分2とした。新たな情報源を利用し分類した。旧分類からECHA CLPの分類が追加されたため、発がん性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)国外の分類機関による既存分類では、(2)、(3)を踏まえ、ECHA CLP分類結果が閾値のある非遺伝毒性発がん物質としてCarc. 2 (Accessed Oct. 2021:2010年提案)に分類している。 (2)ラットを用いた混餌投与による2年間経口投与試験において、5 mg/kg/day以上で腎臓皮質尿細管の腺腫、肝臓腫瘍(肝細胞の腺腫、がん)、20 mg/kg/day以上で精巣間細胞腫瘍(良性腫瘍)(雄)、80 mg/kg/day以上で副腎皮質腺腫(雌)の発生増加がみられた(EU RAR (2008)、CLH Report (2009)、SIAP (2009)、AICIS IMAP (2018))。 (3)本物質はin vivoで遺伝毒性陽性の証拠がない(CLH Report (2009)、ECHA RAC Opinion (2010))。
【参考データ等】 (4)本物質製造工場に勤務し、本物質にばく露された作業者289人を対象とした後ろ向きコホート研究において、研究期間内の死亡例は10例で、集団全体の死亡率は米国人男性の人口統計から算出した期待値の75%であった。肺がんが期待値0.8に対し3例みられたものの、3例全例が喫煙者であり、喫煙が交絡因子となった可能性があり、本物質ばく露と肺がんとの関連性の証拠はないと結論された。また、実験動物では肝臓、腎臓、精巣に腫瘍発生が認められたが、作業者にはこれらの部位にがんはみられなかった。ただし、本研究結果は例数が少なく、信頼性が高いと言えない(AICIS IMAP (2018)、EU RAR (2008)、CLH Report (2009))。
生殖毒性
妊娠ラットの器官形成期に経口投与した発生毒性試験の結果、最高用量の400 mg/kgでは母体毒性として、体重増加量と摂餌量の有意な減少に加え死亡も見られ、吸収胚と骨化遅延が増加した。100 mg/kg以下の用量では胎仔死亡の増加はなく、胎仔の生育にも異常なく、奇形も見られなかった(SIAP(2009))。吸収胚の増加は死亡を含む顕著な母体毒性が見られた高用量のみでの影響のため分類根拠としなかった。さらに、ウサギに12週間経口投与により、交配、受胎、妊娠の指標に加え、黄体数、着床数、生存胎仔数、吸収胚数にも影響はなく、性機能・生殖能に悪影響が認められなかったとの報告(EU-RAR(2008))もあり、区分に該当しないとした。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
ラットの単回経口投与試験(OECD TG401, GLP)において、1710 mg/kg bw以上で死亡発生に加え、呼吸数減少、正向反射の消失、異常発声が見られ(EU-RAR(2008))、ラットの別の単回経口投与試験では、2000 mg/kgで死亡が発生し、流涎、運動低下、運動失調の症状を示した(EU-RAR(2008))が、いずれもLD50値は2000 mg/kg以上であり、中毒症状は非特異的であったとの記述(EU-RAR(2008))もあり、分類の根拠にはデータ不十分なため「分類できない」とした。なお、ラットに2000 mg/kgを経皮投与した試験(OECD TG402, GLP)では、死亡および中毒症状は見られず、剖検により臓器に異常は見出されず(EU-RAR(2008))、また、ラットに5.22 mg/Lを単回吸入投与した試験(OECD TG403, GLP)でも、死亡および中毒症状は見られず、剖検で臓器に異常はなかった(EU-RAR(2008))と報告されている。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
ラットの24ヶ月間混餌投与試験において、ガイダンス値区分1に相当する5 mg/kg/day以上で雄の腎臓曲尿細管上皮の過形成の発生率が増加し、胚上皮の萎縮、精子過少、精嚢萎縮など精巣への影響が認められたこと(EU-RAR(2008))に基づき、区分1(腎臓、精巣)とした。
誤えん有害性*
データなし。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。