急性毒性
経口
ラットのLD50値として、> 2,000 mg/kg (SIDS (2005)) との報告に基づき、区分に該当しないとした。なお、旧分類が使用した4,600 mg/kg (環境省リスク評価第2巻 (2003)) との情報は、元資料がList 3のRTECSであり、原典が入手不能で詳細が確認できないため不採用とした。
経皮
ウサギのLD50値として、1,880 mg/kg (SIDS (2005)) の報告に基づき、区分4とした。
吸入: ガス
GHSの定義における固体である。
吸入: 蒸気
GHSの定義における固体である。
吸入: 粉じん及びミスト
データ不足のため分類できない。なお、ラットに純度89%の本物質エアロゾルを1時間吸入ばく露した試験で、LC100値は116 mg/L (4時間換算値: 29 mg/L) 以下であったとの報告がある (SIDS (2005))。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性
ヒトにおいて軽度の皮膚刺激性との記載がある (SIDS (2005))。ウサギを用いた皮膚刺激性試験 (OECD TG 404準拠) では、軽度の皮膚刺激性との報告 (SIDS (2005)) がある。よって、区分に該当しない (国連分類基準の区分3) とした。なお、EU CLP分類において本物質はSkin Irrit. 2に分類されている (ECHA CL Inventory (Access on June 2017))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
【分類根拠】 (1)、(2)より、区分1とした。AICIS IMAP(2018)にて眼刺激性知見が公表されたため、旧分類から眼刺激性項目のみ見直した(2021年)。
【根拠データ】 (1)ウサギ(n = 1)を用いた眼刺激性試験(OECD TG 405、GLP、24時間観察)において、角膜混濁、虹彩炎及び重度の結膜刺激を生じたとの報告があるが、症状が不可逆的との情報はない(AICIS IMAP (2018)、SIAR (1995)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。 (2)異性体混合物を用いた、ウサギ(n = 6)による眼刺激性試験(OECD TG 405、21日観察)において、24時間後に全例で角膜混濁、虹彩炎、結膜発赤、結膜浮腫がみられ、結膜浮腫を除く刺激性影響は、21日以内に完全に回復しなかった(角膜混濁スコア:1.3/1.3/1.3/1.3/1.3/2、虹彩炎スコア:1/1/1/1/1/1、結膜発赤スコア:1.7/2/2.7/2.7/3/3、結膜浮腫スコア:1.7/1.7/2.7/2.3/2.3/2.3)との報告がある(AICIS IMAP (2018)、REACH登録情報 (Accessed Dec. 2021))。
呼吸器感作性
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性
モルモットを用いた感作性試験 (OECD TG 406準拠) において、本物質は陰性との報告 (SIDS (2005)) があるが、一試験の結果であり陽性対照の反応率等詳細が不明であることから、分類できないとした。
生殖細胞変異原性
データ不足のため分類できない。すなわち、in vivoデータはなく、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞の染色体異常試験で陰性である (厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on June 2017)、SIDS (2005))。
発がん性
データ不足のため分類できない。
生殖毒性
ラットを用いた強制経口投与による生殖発生毒性スクリーニング試験において、500 mg/kg/dayで受胎率及び着床率の低下、妊娠期間の延長、発育遅延がみられたが、この用量は母動物死亡率が54% (13/24例) と著しく高く、生殖発生影響は二次的影響と考えられる (SIDS (2005))。また、ラットを用いた混餌投与による2世代試験で、児動物に腟開口及び包皮分離発現日齢のわずかな遅延がみられたとの報告 (環境省リスク評価第2巻 (2003))、及び新生児ラットの生後1日~5日に強制経口投与した試験で、体重の低下に伴うと考えられる性成熟の遅延や雄性生殖器官重量の変化がみられたとの報告 (環境省リスク評価第2巻 (2003)) があるが、軽微な影響で分類根拠とし難い。一方、妊娠ラットの妊娠初期 (妊娠0~8日) に経口投与した発生毒性試験で、母動物毒性 (体重増加抑制、摂餌量減少) がみられる用量 (31.3 mg/kg/day以上) で着床後胚/胎児死亡の増加がみられたとの報告がある (Catalog of Teratogenic Agents, 11th ed.: (原著確認) Harazono, A. and Ema, M. (2001): Toxicol. Lett., 119, 79-84)。したがって、母動物毒性量での胚/胎児死亡の増加を基に区分2とした。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)
データ不足のため分類できない。旧分類はラットの急性経口毒性試験で軽度の鎮静作用、運動失調が認められたとのIUCLID (2000) の情報を根拠として、区分3 (麻酔作用) としていたが、IUCLIDは入手できず詳細不明であるため採用しなかった。他に根拠となる情報がないため、分類できないとした。なお、ECHA登録情報 (Access on July 2017) に、ラットの単回経口投与試験において、区分2超の3,160 mg/kg以上の用量で、投与30分後に立毛、うずくまり姿勢、軽度の鎮静と運動失調、下痢、利尿、腹臥位、体温低下、チアノーゼ、努力呼吸、よろめき歩行、振戦がみられ、生存例の剖検では小腸の充血、胃粘膜の腫脹、肝臓、胃、脾臓の腹膜への癒着が認められたとの記載がある。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)
ヒトに関する情報はない。実験動物については、ラットを用いた強制経口投与による28日間反復経口投与毒性試験において、区分2のガイダンス値の範囲内である70 mg/kg/day (90日換算値: 21.8 mg/kg/day) 以上で流涎、A/G比の低下、300 mg/kg/day (90日換算値: 93.3 mg/kg/day) で体重増加抑制、ナトリウム増加、尿素窒素・トリグリセライドの増加、尿量増加、尿比重低下、尿中電解質の変化、腎臓・肝臓重量増加、腎臓の尿細管上皮再生性変化等がみられている (厚労省既存化学物質毒性データベース (Access on June 2017)、環境省リスク評価第2巻 (2003)、SIDS (2005))。また、ラットを用いた強制経口投与による29日間反復経口投与毒性試験において、区分2のガイダンス値の範囲である150 mg/kg/day (90日換算値: 46.7 mg/kg/day) 以上で腎臓の近位尿細管における有糸分裂像を伴う好塩基性上皮、250 mg/kg/day (90日換算値:77.8 mg/kg/day) で腎臓・肝臓重量増加、小葉中心性肝細胞腫大 (被験物質代謝と関連した適応反応) の報告がある (SIDS (2005))。 以上、腎臓、肝臓に影響がみられているが肝臓については被験物質代謝と関連した適応反応と考えられていることから、標的臓器としなかった。したがって、区分2 (腎臓) とした。 肝臓の所見について適応反応としたことから分類が変更となった。
誤えん有害性*
データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。